時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!
さて6月になり、今年も半分が過ぎようとしています。この半年間で印象的だったけれど紹介できずにいたものを、今回は3冊まとめてご紹介。コミックエッセイ、レシピ集、そして料理論的なものの3つを選びました。
旅好きのあなたに『直売所、行ってきます』松本英子 著
人間はふと非日常を求める。
通常の生活進行から時折ちょっと逸脱して、いつもと違う場所に、いつもと違う時間の流れに自分を置いてみたくなるものだ。漫画家の松本英子さんによるコミックエッセイ『直売所、行ってきます』を読んで、ちょっとした非日常に自分をゆだねる快さを存分に思い出した。
昔から「ひそやかに在るもの」で「そこならではのもの、土地のエキスが感じられるもの」に心ときめかせてきたという松本さん。実家の近くにできた直売所では、「こんな野菜も作られていたのか」と、なじみのある土地の知らない一面を知る。別の直売所ではハチミツを見つけ、東京23区内に養蜂場があることを知り、実際に訪ねてもみる。直売所をめぐるごく小さな「旅」の中で、いろんな出会いを楽しむ松本さんの気持ちの増幅が豊かで深く、読んでいて引き込まれる。
西多摩の茶畑を訪ねたページなどは、こちらの心の中にもパノラマが広がり、深呼吸したくなるような爽快感があった。そして長野県・上田市を訪ねておやきの直売所をめぐるくだりは、旅先の自然と自分がリンクして溶け合うような一瞬までもが描かれて、まことすばらしい。なかなか旅に出られない今、旅好きのあなたに。
正直、火を使わずレンジだけで作る料理というのに私は抵抗があった。あまりおいしそうに思えなかったのである。しかしTwitterで流れてきた料理研究家・ジョーさん。の「お肉ゴロゴロボロネーゼ」には何か惹かれるものを感じ、やってみたらこれが……おいしい。ありきたりな表現だが、目からウロコが久々に落ちた。手間が格段に少なく、失敗もしにくい。
ちょっと種明かしすると、ミートソースは市販のミートボールやハンバーグを使うのだが、それでいてちゃんと料理した気持ちにもなれるし、失敗する可能性はかぎりなく低い。料理ビギナーが自信をつけるためにも、料理慣れしている人がラクに一食済ませるにも、実にすばらしいレシピだと感じ入ったのである。
本書は、その「お肉ゴロゴロボロネーゼ」が収録されているというので買ってみた。火を使わないほか、計量いらず、包丁いらず、食材があまらないように考えられたレシピなどが計103品ほど掲載されている。序章には基本調味料から常備しておくと便利な食材、持っておくとよい調理器具の説明などもあり、著者ならではの視点も入って、親切きわまりない構成と感じ入った次第。ビギナーはもちろん、日々の料理に疲れている家事担当者にも強くおすすめしたい。
こちらは料理することが大好きな人向け。自らの料理をブラッシュアップしたい、進歩させたいと願う人におすすめしたい一冊。
料理研究家、ウー・ウェン氏は中国・北京生まれで1990年に来日。料理雑誌の編集者や料理家といったプロからも長年支持を集めている。彼女がたどりついた料理論を分かりやすくまとめたものが本著だ。「料理の仕組みを知る」と題して、まず塩と油を使う意味から説かれていく。「たぶん、みなさんが思っているより、少ない塩分で料理の味は決まります」「油は料理の味を左右するもの」で「うま味を出すための大事な素材」だから「油を買うときはケチらないで」等々、興味深い教えが続く。
そして次に基本的な調理法の解説。「炒めるとは決して手軽な調理方法ではない」、だから忙しいときにしてはならない、炒めるとは「加熱したボウルで素材を和える」感覚――といった表現は、思わず蛍光ペンでアンダーラインを引きたくなった。また、ウーさんならではの中国と日本の比較調理論も随所に書かれ、それが実に面白い。
料理は手慣れれば手慣れるほど、その手順や調理法の意味するところを忘れがちなもの。自分をアップデートするのための発見が必ずやあると思う。
白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。




