今や、私たちの生活にすっかり定着したファストファッション。かつては「安かろう悪かろう」といった印象もあったが、近年は品質も向上し、アパレル業界の大部分を担っているといっても過言ではないだろう。
一方で、その多くを人件費の安い開発途上国の工場で生産しており、労働環境の問題が絶えないのも現状だ。2013年には、バングラデシュの首都ダッカ近郊の縫製工場が入った商業ビル「ラナプラザ」が崩落し、死者1,100人以上を出す大事故が発生。この縫製工場では、日本を含め世界展開しているファストファッションブランドの商品も生産していたという。
そして今、新たな議論が巻き起こっている。ユニクロを展開するファーストリテイリングが4月9日、フランスの人権擁護団体などから「強制労働の恩恵を受けている」として告発されたのだ。これは、中国・新疆(しんきょう)ウイグル自治区での強制労働問題を受けたもので、ユニクロのほかに、日本でもおなじみのZARAなど、4社の名前が挙がっている。
ネット上では、「アパレル業界は人権について真剣に考えるべき」「一刻も早く、強制労働の問題が解決してほしい」など、ファストファッションの在り方を問う声も。“消費者”である私たちの意識転換も求められるわけだが、まずはファストファッションの実態を知り、そこから洋服選びについて考える必要があるだろう。
サイゾーウーマンでは、アパレル業界に詳しい朝日新聞社・仲村和代記者に、消費者が知るべき「ファストファッションと労働環境」について話を聞いていた。決して他人事ではないこの問題に向き合うべく、同記事をあらためて掲載する。
(編集部)
(初出:2020年3月5日)
ファストファッションとアパレル業界の闇――消費者が考えるべき労働環境のこれから
短いサイクルでの大量生産・販売によって、流行の商品を低価格で販売するファストファッション。私たちの生活にすっかり定着し、誰しもクローゼットに1着はあるのではないだろうか。前編では、ファストファッションを製造する工場の実態について、『大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実』(光文社新書)を共同執筆した朝日新聞社の仲村和代記者にうかがったが、今回は消費者が購入時に意識すべき点について聞いてみた。
新品の服が10億点も焼却される現実
――私たちの「安く買いたい」というエゴが、こうした状況を生み出しているように感じました。ファストファッションの流行が、日本のアパレル業界にもたらした影響などはありますか。
仲村和代さん(以下、仲村) ファストファッションのおかげで、昔と比べるとはるかに安い値段で、おしゃれを楽しむことができるようになりました。質は多少落ちるかも知れませんが、それでも短い期間で買い替えるものであれば、消費者も特に問題には感じません。むしろ、流行の服を安く買って、どんどん買い替えるような風潮を、消費者自身も歓迎したところがあると思います。体形や好み、流行は変わりますからね。
服を「1~2年で買い替える」のが当たり前になり、安い価格に慣れた消費者にとって、ファストファッションの2~3倍の価格で販売される百貨店やセレクトショップに置かれているようなブランドは高額に感じるでしょう。一方、こうしたブランドのメーカーも、コストを抑えるためにたくさん発注し、大量の洋服を作る傾向が出てきました。30年前と比べると、消費・購入量はさほど変わっていませんが、生産量は倍くらいに増えています。その結果、服の大量廃棄の問題が発生。コスト削減のため、必要とされる以上の大量の服が作られるようになり余ってしまうからです。
――大量に余った洋服はどのように扱われるのでしょうか。
仲村 一部は在庫処分業者がタグなどを外し、海外に輸出したり、国内で販売したりすることもありますが、かなりの割合が捨てられています。日本国内では、燃えるゴミと同じように、自治体の焼却場などで燃やされているものが多いそうです。また、リサイクルといいつつ、固形燃料として結局燃やされているものも。国が統計を取っていないので、正確な数字は不明ですが、ざっくりいうと年に約40億点の衣料品が作られ、消費量は約20億点なので、その分を引いた20億点が余る計算になります。一度も売れず、場合によっては店頭にすら並んでいない新品の洋服が、年に10億点以上、捨てられているとみられ、つまり新品の服の4枚に1枚は、そのまま捨てられているんです。
――大量に服が廃棄される一方、最近はいろいろな女性誌で、「サステナブル」(持続可能な社会を目指す取り組み)や「SDGs(エスディージーズ)」(注)という言葉を目にします。
注 SDGs:「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年9月に国連で開かれたサミットの中で、全ての国連加盟国のリーダーによって決められた、国際社会の共通目標。アパレル業界でも、「SDGs」を目標に掲げ、「衣服のリサイクル」「環境に配慮した工場」「生産量の適正化」という取り組みを行っている企業が出てきている。
仲村 この1年くらいで、ものすごく目にするようになりましたね。「この服はどう作られているのか」「環境汚染はしていないか」を考えようという流れは、すごくいいことだと思います。いろんなファストファッションブランドが出てきて、「安かろう悪かろう」は通用しなくなり、分岐点を迎えているのでは。最近は、「エコ」や「サステナブル」を意識したファストファッションのブランドもあるので、消費者が、「安い」という理由だけで服を買う時代は終わり、“選ぶ”“吟味”する時代になりつつあるのだと思います。
ただ、SDGsを掲げている企業もいろいろ。理念についてあまり理解せずに、とりあえずアピール材料に使っている企業も少なくありません。消費者は企業の何を信用すればいいのか、ますます悩むと思いますが、「企業が発信することは真実なのか」と常に疑うクセをつけた方がいいと思います。
――生産者の労働環境やエコを意識したブランドなどを、教えていただけますか。
仲村 全ての現場を確かめたわけではないので、具体的なブランド名を私の口からお伝えすることは避けたいと思います。目安にするとしたら、例えば、「どこで作られているのか」「回収した古着をどのように使っているのか」といった情報を企業が開示しているかどうか。より具体的であれば、信頼度も高いと考えていいと思います。最近は、実際に作っている生産現場の人との交流の場などを設けているブランドもあるんですよ。「この人が勧めたから」「こう書いてあったから」という理由でどこかのブランドを買うことより、消費者一人ひとりが、自ら一つひとつ知ろうとする動きこそが、大切なのではないかと思っています。そうやって調べながら、「自分なりに納得のいくブランド」を探す、そして企業に対しても声を届けていく、ということを目指してみてはどうでしょうか。
――もし、企業側が出すデータがウソだったとしても、消費者はわからないですよね。
仲村 確かに、判断は難しいですね。私自身も、すごく悩みます。最近は、正しい情報を開示しているかどうかを判断するシステムを作ろうという動きもあります。また、消費者から「情報を知りたい」「そういった仕組みが必要」という声が大きくなれば、国や機関が動く可能性もあるはずです。企業に直接問い合わせるのも有効な手段ですが、ハードルが高いという人は、まずネットで検索するだけでもいいのでは。その検索ワードの数が集合知となって、企業側に「この世代は、服を買う時に環境問題も気にしているんだな」と伝わるかもしれません。「常に、100%正解」を目指すのは正直、難しいと思う。でも、そういう積み重ねが大事なんじゃないかと思います。
――不況と言われる昨今、収入が増えないなどの悩みを持つ消費者は多いため、今後もファストファッションに一定の需要は見込まれると思います。自分たちができることはなんでしょうか。
仲村 私自身は、ファストファッションブランドがいけないとか、購入してはいけないとか、そういうことは全然思っていません。中には、持続可能性に目を向け、とても力を入れているところもありますし、大事に着て、うまくおしゃれを楽しんでいる人はとても素敵だな、と思います。ただ、とりあえず安いから買って、着なくなったら捨てればいい、という風潮は、そろそろ変わってほしいですね。「エシカル」を打ち出しているようなブランドは高くて買えない、という声も聞きますが、無理をして買う必要はないと思います。消費者の側も、「無理なく続けられる」、つまり持続可能であることが大切だと思います。
考え方として、目の前の値段ではなく、最終的に何回くらい着られるのか、いわゆる「コスパ」を考えると、買い方は変わるのではないでしょうか。例えば、千円のものを5回着て捨てるよりは、1万円のものを100回着る方が、「安上がり」です。長く着る、という観点で、それに見合った品質かどうかを基準にすれば、意外と「高くない」と感じるかもしれません。そもそも、先ほど大量に服が処分されていると話しましたが、焼却するにも費用が掛かりますし、そのコストが販売価格に上乗せされていると考えると、安いように見えて、結構、消費者は損していると思うんです。アパレル業界は、「新商品を販売するサイクルが短すぎる」とよく言われていますが、みなさんが1着を大切に扱うようになれば、いずれ業界を変えることができるかもしれません。
――1着を大切にすることが当たり前になると、アパレル企業は成り立たなくなる気もしますが……。
仲村 確かにそういう声は多く聞こえてきますね。ただ、アパレル企業に限らず、長年日本企業が続けてきた薄利多売のビジネスモデルは、もう限界に来ているのではないでしょうか。まだ物がなく、人口も増えていく時代であれば、生産量を増やすことがそのまま利益にもつながった。ところが、長い不況が続いてデフレ傾向になり、生産コストや人件費を削り、長時間店を開けることで何とか利益を確保しようとして、企業も、働く人たちも疲弊しています。
目指す方向のヒントになりそうな話を先日、とあるアパレル関係の方からうかがいました。そこは「長く使える」ことを売りにしているメーカーなのですが、新しくお店を始める時に、「セールはしない」「廃棄を出さない」ことを目標にしたそうです。このため、カラーや柄など種類は絞る一方で、セールをしなくても買ってもらえるような商品づくりに力を入れました。品薄になっても補充はせず、なんとお店を休みにしてしまったそう。おかげで、従業員はしっかり休め、年間を通して考えると、利益も確保できたそうです。売り上げよりも利益(売り上げからコストを引いたもの)に着目すると、商売のあり方も少し変わるのでは。
大量生産、大量廃棄は、環境への負荷も大きい。目先の業績だけでなく、長い目で見て社会全体の利益を考える姿勢が、企業にも求められる時代になっていると思います。物や人を使い捨てることなく、従業員や環境・社会全体の“幸せ”を追求することが当たり前になるといいですね。
仲村和代(なかむら・かずよ)
朝日新聞社会部記者。1979年、広島県生まれ。沖縄ルーツの転勤族で、これまで暮らした都市は10以上。2002年、朝日新聞社入社。長崎総局、西部報道センターなどを経て10年から東京本社社会部。著書に『ルポ コールセンター 過剰サービス労働の現場から』、取材班の出版物に『孤族の国』(ともに朝日新聞出版)、共著に『大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実』(光文社新書)がある。
Twitter: @coccodesho