日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。10月12日は「禍の中でこの街は 前編 ~新宿二丁目 コンチママの苦悩~」というテーマで放送された。
あらすじ
LGBTの人たちが集う新宿二丁目。この地に1968年に創業し、半世紀以上の歴史を持つショーパブ『白い部屋』は、2020年3月末、都が新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための休業要請を出す3日前から休業をはじめた。72歳のコンチママは50年以上店を切り盛りし、バブル崩壊やリーマンショックも乗り越えてきたが、新型コロナウイルスに対しては「きついですよ」と話す。
白い部屋は客席20席ほどで、畳3帖程度のステージで10人以上のキャストが入れ替わり立ち代わり踊る、客席を巻き込むような「近さ」が持ち味だったが、密を避けるため振り付けも変更を余儀なくされる。コンチママも人気YouTuberのアディーを店に誘うなど、生き残りのための模索を続ける。
白い部屋は2カ月以上もの休業後、6月19日に営業を再開。再開日は多くの客で盛り上がった。しかしその後新宿歌舞伎町のホストクラブでクラスターが発生。連日連夜、歌舞伎町全体を責めるような論調の報道も続き、歌舞伎町の隣に位置する新宿二丁目も客足が遠のいてしまう。7月中旬にスタッフが白い部屋を訪れた際に店には客がいなかった。コンチママは週6だった店の営業を週3に減らす。
店を閉めたままでは家賃など固定費だけが発生し、一方、店を開けてもキャストの日給が発生し、肝心の客足も思わしくない。コンチママは銀行から2000万円を借り、「自分の中で辞めたいという気持ちと、あの子たち(キャスト)がいるからやらなきゃいけない気持ち裏表ある」と銀行関連のものや助成金など、さまざまな書類を前に複雑な心境を番組スタッフに話す。
一方、キャストにしてみれば店が開かなければ日給がもらえない。週6営業が週3へ減り、店のキャストの6人がこの夏で辞めるという。一方でベテランキャストのかんたは新宿二丁目のほかの店と連携して期間限定のバーを作ろうと奮闘を続ける。
開けても地獄、閉めても地獄の厳しい状況に置かれた白い部屋において、キャストのかんたが吐いた啖呵がかっこよかったので紹介したい。
「私は(感染者が)増えているからってビビってる都とか国が嫌いなの。想定内じゃないもともと。わかっていたことなのにさ。Withコロナって一切言わないでしょ今。Withコロナって言わないじゃん。言えっちゅうのよ」「うちらに死ねっていうの?」「ビビってんじゃねえ、もともと増えるに決まってんじゃん」
かんたの言う通り、感染症なのだから、ワクチンが開発されそれが普及しない限り、社会生活をしていれば感染者は増えるに決まっている。そして、終わりがわからない以上、社会生活をまったくせずに閉じこもっているわけにもいかないのだ。
現状における、新型コロナウイルスの「毒性」がさらに問題をややこしくしているようにも思う。新型コロナは高齢者、基礎疾患のある人にとっては命に関わる重篤な症状になりかねず、当人やそのような状況にある人と共に暮らす人には深刻な問題だが、一方で、該当しない人は、毒性をそれほどの脅威に捉えてない傾向があるように思う。
そうした人々にとっての最大の脅威は、「実際、インフルエンザくらいなんじゃ……」と思っていても、そんなことを言ったら何か言われるのではないかと“勝手に”思って萎縮してしまうことや、もし自分が感染したときに、その感染源が通勤電車ならばともかく、ライブハウスやパチンコ屋、ホストクラブやショーパブということがわかったら、会社や地域社会に居づらくなってしまうのでは……と“ビビって”しまうことだと思う。コロナそのものより、コロナで生じた得体の知れない忖度がまずい。感染者が増えることなどわかっているのに、ビビっていることが、問題なのだと思う。
そしてこういうときに、真っ先に槍玉に挙がるのが「遊興」の分野だ。コンチママと二人三脚でショーを作り上げてきた振り付け担当の女性は、自分たちのショーの仕事を「生きていくために必要なお米ではない」と話していた。2017年の映像で、白い部屋を訪ねた客が「ショーのある国は間違いなく平和です。おかまが生きている街は間違いなく安全です」とうれしそうに話していた。ショーを行えなくなってきて、それに伴い出演している人たちの生活が脅かされている状況とは、それまでより平和でも安全でもない社会、ということでもある。
コロナを防ごうとすることで、明らかに社会に別の問題が浮上している。そしてその答えは一人ひとりがその時々の状況に応じたものを自分で考えていくしかないのだろう。個人的には「Go toの観光地で感染するのはまだギリギリセーフだけど、パチンコ屋やホストクラブやショーパブで感染はアウトだよね」という、“雰囲気”のようなものが存在しているのが、なんだかとても嫌だなと思う。
本筋からはそれるが、コンチママが話していたことで気になることがあった。コンチママは、体の性が男性で心の性が女性の人が性別適合手術を受けることは反対のスタンスだが今の若い子は「止められない」と話していた。
コンチママいわく、おっぱいを入れるのはいいが下(男性器)を取るのはダメ、とのことで、これはコンチママの主義というより、生殖器を取ることでホルモンバランスが崩れ、精神的に苦しくなってしまった人たちを見てきたから、とのことだった。
医学的な根拠があるのかは番組を見る限りではわからなかったが、ホルモンが原因で精神的に苦しくなってしまうのは全員が全員ではないだろうと思う。「性適合手術さえ受ければ、万事解決すると思っていたのに」などの、理想と現実のギャップもあるだろう。
しかし、私自身が生理前の不調やイライラといったPMSの症状がひどかった身として、「ホルモン」の四文字を出されると説得力も感じてしまう。あらためて「ホルモン」という、わずかな量でありながら体や精神を左右する、厄介で、かつ、頭と体は別個のものだと教えてくれる存在のことを意識させられた。
次週の『ザ・ノンフィクション』は今回の後編。新型コロナウイルスで苦境に陥った新宿二丁目を、店の垣根を越えた期間限定バーイベントで乗り切ろう、と気を吐いていた白い部屋のベテランスタッフ・かんたが新型コロナウイルスに感染してしまう。
