羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今回の有名人>
「来年は絶対に紅白に出る」花田優一
(花田優一オフィシャルブログ、12月19日)
剣劇女優・浅香光代さんが亡くなったニュースを見ていたら、その昔、「熟女に怒られる番組」が多かったことを思い出した。デヴィ夫人、野村沙知代さん、淡路恵子さんなど波瀾万丈な人生を送ってきた女性陣が人生相談に乗り、相談者(ほとんどが女性)を怒るという内容だった。相談者は最初、ふてぶてしく振る舞うが、熟女に怒られるうちに「本当にそうだ」と改心し、謝罪する。そして「あんた、がんばんなさいよ」と熟女が励ましてめでたしめでたし。同じようなパターンの番組はいくつかあったから、それなりに視聴率を取っていたのではないだろうか。
しかし、今、こういう番組はできないのではないかと思う。前回、この連載のフワちゃんの回で触れたが、自分に非があっても怒られると逆ギレ的な反応を示す若手タレントも出てきている中、説教する側が視聴者からパワハラだと指摘され、エンタメにならないかもしれない。また、お説教をショーにするのなら、説教と反論のラリーがある程度続かないと面白くない。つまり、説教する側とされる側が同じくらい弁が立つことが条件となる。年寄りと対等にケンカショーをするのなら、よっぽど口がうまくないといけないだろう。怒られる側に知名度も必要である。
世間から「怒られて当然」と思われていて、知名度があり、ちょっと怒られたくらいでへこたれない人物(怒られたほうが泣いたりしたら、それこそいじめっぽい)……そんな人はもういないだろうと思ったが、見つけた、花田優一である。
平成の大横綱・貴乃花と女子アナブームの立役者・河野景子の間に生まれた優一。母譲りなのか弁が立ち、選んだ仕事が実直な靴職人であることも印象がよかった。2018年放送の『アナザースカイ』(日本テレビ系)で、靴の職人修行をしていたイタリア・フィレンツェを訪れた優一は、「日本に帰ったけど、今でも自分はアンジェロの弟子です」と師弟愛をアピール。貴乃花も実の父である師匠を尊敬していたことはよく知られているだけに、優一に貴乃花の姿を重ね合わせた人も多いだろう。
そんな優一は工房を構え、オーダーを受けて靴を作っていたが、19年1月、「女性自身」(光文社)に、靴の代金を受け取っておきながら、納期を守らないと報じられる。約束は守るのがビジネスの基本なので、批判が噴出する中、『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)に出演した優一は、火に油を注いでしまう。「報道されてる方とかは、世界中の有名なブランドのオーダーシューズを調べていただきたい」「手作りのものは時間がかかる。平面的なものを立体にするって時間がかかるんです」と反論したからだ。
手作りで時間がかかるなら、それを加味して納期を設定すればいいだけでは? と思うが、優一がケンカショー向きたるゆえんは、この“明らかな自分の落度を、浅い屁理屈で返すところ”ではないだろうか。なんせ優一側に落度があるので、説教する側は責めやすいし、屁理屈だから論破しやすい。そこですぐに謝らないのも優一の魅力で、説教する側もさらにイライラさせられるからこそ、「お父さんはあんなに偉大なのに」「親の七光りをいいことに」という、優一を煽るような禁断の一言を言いたくなるのではないか。
同じ二世タレントでも、元巨人軍・桑田真澄氏の子息、Matt Roseに、この芸当はできない。『伯山カレンの反省だ!!』(テレビ朝日系)に出演した際、Mattは神田伯山に「変わったメイクをしている」と言われて、黙りこんでしまっていた。どんな理由で黙ったのかは不明だが、番組は止まってしまうし、伯山がいじめたように見る人がいないとも限らず、これはよろしくないだろう。ここ最近のMattは美容界が主戦場だけに、テレビでの評判がよろしくなくてもそれでいいのだろうが、やはりどんなことでもいいから言い返す瞬発力が、バラエティー番組には必要で、優一はほかの二世タレントと比べて、この部分が突出しているように感じる。
靴の納期問題が解決したのか不明なまま、優一は画家としても活動を始め、個展を開く。さらに今年の秋に歌手デビューを果たした。『情報ライブ ミヤネ屋』(日本テレビ系)に出演し、「ボイストレーニングはしていない」としながらも、「一番はとりたいです。この人、歌手で成功したんだっていうのを、皆さんにわかってもらえるように」といい、『NHK紅白歌合戦』に出場したいと話していた。
ある演歌歌手が、『紅白歌合戦』に出場できれば、一流歌手の仲間入りができて、ギャラも上がると言っていた記憶があるが、その晴れ舞台のために、各事務所や歌手が、あらゆる意味でしのぎを削っていることは想像に難くない。そこへぽっと出の優一がそう簡単に参入できるわけはなく、今年、NHKからオファーはなかったようだ。
しかし、優一はオフィシャルブログに「来年は紅白に絶対に出る」と書いている。若いタレントで、このへこたれない感じを持っている人は今、ほとんどいないのではないか。
かつて、『バイキング』(フジテレビ系)に出演した優一は、「職人とはスポットライトが当たるべき職業。職人という精神論を伝えるために、靴というツールがあるだけ。僕がこの先、画家になったとしても、カバンを作り始めたとしても、靴を始めたときの思いと何も変わらないと、なるべく多くの人に知ってもらいたい」と、求められていない自分語りをしていた。これに、おぎやはぎ・矢作兼は「お父さんの気持ちがわかるもん。今みたいなことガンガン言われたら、『うるせぇから10年靴作れ!』と言いたくなる」と切り捨て、それを聞いた優一は爆笑していた。
こういうふうに、説教するオジサン・オバサン芸能人と優一を組み合わせてみたらどうだろうか。若者も年寄りも、説教する側される側、それぞれに対して「そうだそうだ」と肩入れできる応酬が期待できるかもしれない。
私は常々二世の子は、生きていくのが大変だと思っている。これまで味わってきた特権は、親の力であって、芸能界では、自分が結果を出せなければ、それを維持できないからだ。そんな中、知名度とハートの強さと底の浅さを持つ優一は「日本一、へこたれないオトコ」としてテレビ界で活躍できる気がしてならない。