大手物件情報サイトが毎年のように発表している「住みたい街ランキング」。最近は、「コロナ禍で『住みたい街』が激変した」といったニュースを多数の媒体が取り上げるほど、世間の注目度は高い。しかし、「住みたい」というのはあくまで“理想”の話で、「住みやすい街」と異なるのではないだろうか?
実際、同ランキングで度々上位に入っている「横浜」について、ネットユーザーの間では「治安が悪い」「駅周辺しか住む場所がない」といった不満も聞かれる。そこで今回は、「本当に住みやすい街大賞」の審査員長を務めている住宅評論家の櫻井幸雄氏に、「住みたい街」と「住みやすい街」の違いや、「本当に住みやすい街」の探し方を教えていただいた。
「住みたい街ランキング」は「実際には住めない街」ばかり!?
――「本当に住みやすい街大賞」関東版を見ると、2018年版は南阿佐ヶ谷(東京都杉並区)、19年版は赤羽(東京都北区)、そして20年、21年版は川口(埼玉県)が第1位という結果でした。第10位までを見ても、「住みたい街ランキング」の常連である吉祥寺や自由が丘の名前はなく、どちらかといえばマイナーな街が多い印象です。
櫻井幸雄氏(以下、櫻井) 「住みたい街ランキング」には、吉祥寺や自由が丘など知名度は高いものの、家賃などの関係で「実際には住めない街」が上位になる傾向があります。まさに「住みたいけど住めない理想の街」が選ばれやすいというわけです。
対する「本当に住みやすい街大賞」は、“実際に家を買って住んでいる人が多い街”が候補になります。というのも、長期固定金利住宅ローン「フラット35」の利用者が多かった場所を抽出し、住み心地や将来性を加味して、審査員がベスト10を決めているんです。そのため、住み心地のよさだけでなく、金銭面から見ても「住むことが可能な街」が選ばれやすく、よりリアルなランキングになります。
――住宅情報サイトが発表しているさまざまな「住みたい街ランキング」は、住居を決める際の参考になるのでしょうか?
櫻井 「住みたい街ランキング」は、いわば“人気投票”のような位置付けでしょう。「住みたい街ランキング」の多くは“住宅のプロ”ではなく、住宅情報サイトを利用する“一般の人”の投票で決まりますが、ほとんどの人は、自分が住んだことのない街について、詳しくありませんよね。情報が少ない中で「住みたい街ランキング」を実施すれば、どうしたって「あの街に住んだら楽しそう」という憧れで決めることになり、「遊びに行ったことのある街」や「買い物に行ったことのある街」に票が集まる仕組みになっているんです。
そういう意味で、「住みたい街ランキング」は、引っ越し先を探す時に参考にできるものではないでしょう。実際、吉祥寺駅の徒歩圏内で新築物件はめったに出ないし、自由が丘はマンション建設の際、地域住民の反対に遭いやすく、物件が少ない。また、横浜もよくランクインしますが、横浜駅周辺は業務優先地域なので、商業ビルやオフィスビルは建設できても、住宅用のマンションは建てられません。いくつもある「住みたい街ランキング」の中には、みなとみらいエリアなども含め、横浜駅から半径1.5~2km内という広範囲を「横浜」と見なしているケースもあるようですが、こうした事情はなかなか周知されないのが現状です。
――「本当に住みやすい街大賞」では、審査基準に“教育・文化環境”が含まれています。ファミリー世帯向けの「住みやすい街」を紹介しているということでしょうか?
櫻井 はい、そうです。というのも、住宅ローン「フラット35」は、ファミリー世帯向けの住宅が組みやすいタイプのローンで、ワンルームには適用されないという事情があります。また、新しく開発されるエリアではまず、ファミリー世帯が進んで購入したがる「土地が安く、ゆったりした広さのマンションや一戸建て」が最初に建設されていくことも、理由の一つです。
ファミリー世帯は、利便性よりも部屋の広さを重視する傾向があり、「たとえ駅周辺に店が少なくても、週末にまとめ買いをすればいい」と考えます。一方で、単身者や子どもを持たない世帯は、利便性重視の傾向が強い。利便性を高めるためには、まずファミリー世帯を街に定着させて、商業施設や飲食店を増やす必要があるわけです。
そうすると必然的に、“誰にとっても住みやすい街”ができていきますが、当然、住宅の値段は上がります。逆にいえば、価格が上がる前に家を買えるのが、ファミリー世帯なんですよね。そういった背景を考えたうえで、「本当に住みやすい街大賞」では、今後開発が進んでいくであろう地域を先取りするため、ファミリー世帯の需要を加味しています。
――「誰にとっても住みやすい街」は、具体的にどんなポイントを見て探せばよいのでしょうか?
櫻井 「誰にとっても」となると、やはり一番重要なのは「購入価格」ですね。「住んでいて心地よい」と感じる基準は人それぞれですが、価格は客観的で厳然たる事実なので、まずは自身の懐事情を考える必要があるでしょう。
次に大切なのは、「通勤・通学の利便性」。コロナ禍で普及が進んだといわれるテレワークも、実際には期間限定的な側面がありますし、いざという時のことを考えると、通勤や通学に便利な場所のほうが、やはり安心感があるものです。ちなみに、北海道のあるマンションでは今年4月から9月にかけて、首都圏から200組もの購入希望者が資料請求をしたそうですが、 実際に家を買ったのは2組だけだったとか。コロナ禍の影響を受けて地方に移住する人はかなり少なく、今後も「住みやすい街」の基準は大きく変わらないでしょう。
最後のポイントは「地縁」です。今住んでいる場所から近い、以前住んでいた街、親戚が住んでいるなど、その場所に対する“なじみ度”のようなものです。多くの人は、縁もゆかりもない場所よりも、自分にとってある程度慣れ親しんだ場所に住みたいと思いますし、それが「住みやすさ」にもつながっていきます。
――「購入価格」の話が出ましたが、単身者の場合「賃貸」に住んでいる人も多いと思われます。櫻井さんは17年に『買って得する都心の1LDK 借りるのは「負け組」』(毎日新聞出版)を出していますが、一人暮らしでも「購入」したほうがいいのでしょうか?
櫻井 私は単身者にも、分譲マンションの購入をおすすめしています。一人暮らしだと「1LDK」という選択肢が一般的だと思いますが、将来的に賃貸に出すことが容易な点が、購入する際の最大のメリットだといえます。というのも、1LDKは比較的高い家賃でも借り手が見つかりやすいため、購入後に結婚するなどして自分が住まなくなっても、賃貸に出せば家賃収入が得られる。また、高齢者施設に入ることになった場合でも、家賃を施設の利用料に充てられるでしょう。そう考えると、1LDKは購入後、“お荷物”になる心配がありません。
1LDKを買う時に理想的な場所は、駅から徒歩3分以内で、近所に午後11時ごろまで開いているスーパーがあるところ。もっとも、単身者向け1LDKの分譲マンションというのは、駅から近い場所に立地されていることが多いので、難しい条件ではないはずです。
――ちなみに、1LDKマンションは今、どこの街が狙い目ですか?
櫻井 「本当に住みやすい街大賞」にランクインしている街の周辺は、リーズナブルな価格帯の物件が多いです。たとえば、私が「ネクスト吉祥寺」と呼んでいる赤羽は、駅から近くて利便性が高い物件でも、価格が抑えられる傾向にあります。しかし、最近価格が上昇気味なので、購入を考えている人は、注視しておいたほうがいいかもしれません。また、東西線の南行徳駅(千葉県市川市)も、マンションがリーズナブルな価格で販売されている上に、カウンターの飲食店も多い街なので、単身者が過ごしやすくておすすめです。
とはいえ、「住みやすい街」を決められるのは、自分しかいません。かつては「治安が悪い」と言われていたような街も、最近は整備されて、雰囲気が変わったなんてこともあります。どんな街にも良いところと悪いところがあるものなので、最終的には「自分にとって住みやすい街かどうか」を見極めてほしいと思います。
櫻井幸雄(さくらい・ゆきお)
1954年生まれ。年間200件以上の物件取材を行い、首都圏だけでなく、近畿圏、中部圏、福岡、札幌など全国の住宅事情に精通する。現場取材に裏打ちされた正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞で連載コラムを持ち、Yahoo!個人でもコラムを連載。テレビ出演も多い。近著は『買って得する都心の1LDK 借りるのは「負け組」』(毎日新聞出版)。