日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。12月6日は「ボクのおうちに来ませんか ~モバイルハウスで見る夢~」というテーマで放送された。
あらすじ
神奈川県・相模原市の山深い集落の空き地に地元住民の許可を取り、「モバイルハウス」を止め暮している二人の若者がいる。一人は自称・生活冒険家の赤井成彰(31)。赤井のモバイルハウスは軽トラを改造した移動式コーヒーショップのようなこじゃれた外観、内装で、中腰にならずに立てるほどの高さもある。赤井のモバイルハウス生活は500日を超え、自分の暮らしをインスタで発信し、講演活動なども行っている。
もう一人は漫画家のおぐりちはや(28)。半年前からモバイルハウス生活を始めている。赤井の自動車を基にしたモバイルハウスと異なり、リアカーを基にしたモバイルハウスは「大きめの棺桶」のような形状で、赤井の「暮らすため」の形状というより寝るためだけの形状に見える。
赤井の実家は金沢にある。医師の父親と茶道家の母親がおり、実家は和室に茶釜のある豪邸だ。赤井自身は実家が金持ちだ、と言われることを嫌がっており、北海道大学からバンダイに就職した順調な人生から一転、モバイルハウス生活に切り替えるなど、人生の模索を続ける。
一方のおぐりには付き合って2年の恋人、29歳のゆりかがいる。ゆりかは自身で35年ローンを組み自由が丘の1LDKのマンションを購入した。川で行水をするといった生活を送るおぐりは、ゆりかの新居で風呂に入れる暮らしに癒やされ、赤井からモバイルハウスで暮らす人たちが集まれる場所を作ろう、と話があったものの自由が丘の快適な暮らしからなかなかモバイルハウスに戻れない。しかし結局、モバイルハウスの暮らしに戻る。
おぐりはゆりかをモバイルハウスに招待する。おぐりはゆりかとの結婚を望むが、一方のゆりかは「この離れた生活で結婚はちょっと……」「衣食住なら「住」は結構ちゃんと(したい)」番組スタッフに話し、2人の生活観、結婚観にはずれが見られていた。
30歳前後、アラサーといわれる年代は、10代とはまた違う特有の“万能感”や“自己肯定感”を抱きがちなように思う。私自身、その頃は自身に対して不思議な万能感を覚えていた。それはきっと、仕事に慣れてきて、自分で生計を立てられるようになり、気兼ねなく金も使え、社会との付き合い方がそれなりにわかってきたことによる自信なのだと思う。
赤井やおぐりの選択も、そうした自分への肯定感や万能感が背景にあるのかもしれない。赤井のようにモバイルハウスについて講演を行うなど、選択に対して成果があれば、なお「自分は間違えていない」「間違えるはずもない」という気持ちになりやすいような気もする。
一方、自分が「親」になっていると、そうした感覚は難しいのかもしれない。小さな子どもに振り回される生活では、自分の思うように生きることはできない。赤井が学生時代の友人・島田の家を訪ねた時、妻子と暮らす島田は親の大変さやありがたみが親になってはじめてわかった、と大人の発言をしていた。赤井はどんな思いで島田の発言を聞いていたのだろう。
赤井に限らず、「持たない/断捨離/働きすぎない/自分らしい暮らし」系を実践する人は増えている。その中には赤井のように、ストイックというか、もはや暮らしにくいのでは、と思えるくらい極端な例も見受けられる。自分のチョイスに自信のある人も多いだろう。
赤井の母親は息子に対し、たしなめるでも諭すでもなく優しく、「『これがよかったかな?』とか『自分が本当にこれで幸せだったか』なんて、今思っているのと10年後の本当のことは一緒じゃないかも」と話していた。これは至言だと思うが、赤井にはどう響いたのだろうか。
自身を振り返っても、アラサーの持つ万能感はこの世代の“はしか”のようなものであり、永遠ではないと思う。そして、それが終わったときに訪れる「中年の危機」はきついものがあった。しかし、自身の中にある万能感のようなパッションを否定すると、いつまでもくすぶりかねない。結局は、付き合っていくしかないのだろう。
「住まい」に関する信念
赤井は「ボクの暮らしを見て『自分はどんな暮らしをしたいのかな』って、みんなが考えるきっかけになったらいいなって」「ボクのやろうとしている暮らしは極端です。ボクもやったうえで、それを続けるかわからない。でも、やったことがないからやってみたい」と、自身の生き方について率直な思いを話していた。
おぐりの彼女、ゆりかも「軸を変えてみたら、そっち(モバイルハウス的な暮らし)も、もしかしたら不自由で、もしかしたら縛られている?」と言葉を選びつつ話していた。この二人の「住まい」に対するそれぞれの思い、信念は、番組を見ていてよく伝わった。
一方、おぐりはモバイルハウスに住むことについて「(山の)ちょっと過酷な環境で生きてるって思うことが、自分の中の安心になっているのかな」などと話していた。自由が丘での生活も満喫していたし、赤井、ゆりかの思いと比べて自身の「住まい」に関する思いがふんわりとしていて、どうもよくわからなかった。
しかし、この曖昧な感じは「穏やかさ」にもつながっている気がする。おぐりは見るからに穏やかだ。旧態的な男らしさをゆりかにふりかざす姿など想像もつかない。だから、ゆりかはおぐりと付き合っていて、赤井もおぐりを相棒のようにしているのだろうとも思う。
次週は「悪ガキと ひとつ屋根の下で ~夢の力を信じた10年の物語~」。家族に暴力をふるう、荒れた「小学生」男子。そんな少年たちを父親代わりとして育てる格闘技トレーナー、古川誠一の10年間。