近ごろ、「快眠できない人」が増えているという。ライオン株式会社は今年6月、20〜69歳の男女就業者2,671人を対象に、睡眠に関する調査を実施。新型コロナウイルスの流行前後を比べ、「眠りの深さ」が「深くなった」人は7.1%、「寝起きの熟眠感」が「良くなった」人は7.9%だったのに対し、「浅くなった」が16.0%、「悪くなった」が14.1%だったと発表。また、リモートワークを実施している人だけ見ると、「眠りの深さ」が「浅くなった」は20.6%、「寝起きの熟眠感」が「悪くなった」は17.0%となり、平均よりも多いことがわかった。
ストレスや不安、リモートワークによる環境の変化が睡眠に影響すると指摘される中、眠りの質を上げる“快眠グッズ”がSNS上で話題になることも多い。そこで今回は、「睡眠改善インストラクター」の資格を持つ、ライフスタイルプロデューサーの神原サリー氏が、ネットで話題の商品をジャッジ。さらに、快眠に必要な条件について教えてもらった。
無印良品「エッセンシャルオイル・おやすみブレンド」は“魔法の香り”ではない!?
――無印良品「エッセンシャルオイル・おやすみブレンド」は、「枕元に置くとよく眠れる」などとSNSで話題になっていましたが、プロの目から見ていかがですか?
神原サリー氏(以下、神原) 私自身が使って「こうでした」という話ではなく、あくまでも成分を見た感想を伝えますね。そもそも、“香り”というのは快眠において重要なポイントで、すごく体に影響します。なので、香りに注目するのは間違っていないです。
この商品で面白いと思ったのは、“誰でも心地よいと思う香り”を使っていること。一般的に、ラベンダーの香りは「リラックス効果がある」といわれていますけど、実は私自身、ラベンダーの香りを嗅ぐと眠れません(笑)。ラベンダー自体には眠りに導くようなリラックス作用があるのですが、ブレンドされていないラベンダー“だけ”の香りだとキツいというか、合わない人が結構いるみたいで。要は、「自分にとって心地よい香りかどうか」が大事なんですが、柑橘系やシトラス系のブレンドは、比較的、誰でも心地よいと感じる香りだといわれているんです。
しかし、柑橘系の香りが苦手な人にとっては、無印の「エッセンシャルオイル・おやすみブレンド」も、“眠れる魔法の香り”ではないということ。「これを使えば絶対眠れる」というわけではないので、自分に合った香りを選んでほしいです。ただし、ミントなど刺激が強く、爽快感のある香りが好きでも、寝る前に嗅ぐのはNG。ぐっすり眠るためにはリラックスすることが大切ですから、その効果を働かせる香りを選びましょう。
――香りが気に入ったら、普段使いしてもいいのでしょうか?
神原 快眠のために一番大事なのは、「眠りのスイッチを入れること」です。「そろそろ眠るんだ」ということを、自分の頭と体に意識させるというイメージですね。なので、日中も同じ香りを嗅ぎ続けていると、眠りのスイッチが入らなくなってしまいます。気に入った香りをいつでも使いたい気持ちはわかりますが、寝る前に嗅ぐからこそ効果があるので、快眠を求めるなら、普段使いはやめたほうがいいでしょう。
――この時期になると、毎年のように「靴下をはくかはかないか問題」が勃発します。寝る時に靴下をはくのは、アリですか、ナシですか?
神原 これについては、「足を締めつけるような靴下はNG、ゆるい靴下なら条件つきでOK」という感じです。まず、靴下をはいて寝る人は「足が冷えて眠れない」という理由がほとんどだと思います。しかし、足は寝ている間に絶対汗をかき、その汗で結果的に足が冷えますから、靴下をはいてもあまりいいことがないんです。ましてや、締めつけるとリラックス感を損なうので、深い眠りに落ちにくくなります。
一方で、どうしても足元が冷えて寝つきが悪いということであれば、5本指や綿100%で通気性に優れていたり、締めつけ感がなくゆるい靴下であれば、私的にはアリだと思います。決してはいたほうがいいわけではありませんが、「はいたほうが眠れる」という人もいるので、「条件つきでOK」としました。
――そもそも、足元が冷えていると、快眠は難しいのでしょうか?
神原 「頭寒足熱」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、これは「頭のほうを冷やして、足元を温めるとよく眠れる」ということ。深い眠りに入るためには、体温をいったん下げることがすごく大事なので、最初から足元が冷えていたら、なかなか眠れません。なので、靴下をはいたり、布団乾燥機を使って足元を温めるといいと思います。
――布団乾燥機は、どのように使うと効果的なのか教えてください。
神原 布団乾燥機を足元に差し込んで、寝る前に15分ほど温めておくんです。そうすると、布団もふかふかになるし、足先だけが温まって「頭寒足熱」の状態を作りやすくなります。反対に、電気毛布のような「一晩中温かい」ものは最悪。寝ている間に汗をかきすぎて脱水症状を起こしかねないし、体温も下がらないままになってしまうので、どんなに寒くてもおすすめできないですね。
あとは、湯たんぽはだんだんと温度が下がっていくので、直接足にくっつけなければ、悪くないアイテム。これと同じような商品でも、電気あんかは一晩中温度が下がらないのでよくないです。低温やけどの原因にもなるので、使用は避けたほうがいいでしょう。
ちなみに、何も使わず、今夜からすぐできる方法は、寝る1時間前にお風呂に入ること。温まった体にこもった熱がちょうどよく放出されるので、ベッドに入る頃には体温が下がって、ぐっすり眠れると思いますよ。
――「眠りのスイッチを入れるのが大事」とのことでしたが、香りや体温以外にも、スイッチになり得る要素はありますか?
神原 最近は新型コロナウイルスの影響もあって、家に帰ったら着ていた洋服をすぐに脱いで、部屋着に着替える人が多いのではないでしょうか。で、そのまま寝てしまう場合もあると思うんですが、眠りのスイッチを入れるためには、“パジャマ”に着替えたほうがいいです。
以前、ワコールやグンゼなど、パジャマを作っているメーカーさんを取材したとき、その機能性について知りました。肌触りはもちろんのこと、パンツ部分のゴムが、普通のものより10%ほどゆるく作られているそうなんです。締めつけないだけでなく、寝返りがしやすいゆとりを持たせる意味もあるそうで、パジャマって“寝ることに特化した服”なんだな、と。寝る時に着るものを見直すのも、快眠のためにはいいことだと思います。
――考えてみると、パジャマって大体同じ形をしているような……実はあれが“快眠デザイン”だったんですね。
神原 そういうことです。冬だったら、“ネル”という素材を使ったパジャマがおすすめ。起毛した木綿のことなんですけど、すごく肌触りのいいものが多く、吸湿性も高い。冬でも気がつかない間に、コップ1杯分の寝汗をかくといわれているので、吸湿性は1年中大事です。反対に、ナイロンや化繊の生地は汗を吸い取りにくく、冷えにつながってしまいます。ゆとりのあるデザイン、吸湿性・肌触りのいい素材ということが、パジャマを選ぶときにはすごく大事なんですよね。
そういえば、この前ひさしぶりにユニクロへ行ったら、パジャマのコーナーが充実していて、「あ、ちゃんと気づいているな」と思いました。「部屋着からパジャマに着替えろよ!」って、ユニクロがちゃんと言ってるわ~という(笑)。もしかしたら、今は在宅勤務されている方が多いから、1日中部屋着で過ごして、でもそのまま寝るわけにはいかないという理由で、パジャマの需要が高まっているのかもしれませんね。
――コロナ禍で起こった“いい変化”といえそうです。
神原 はい、すごくいいことだと思います。今までだったら、仕事から家に帰って、部屋着に着替えて、ご飯を食べて、お風呂に入って……といった感じで、だんだんとリラックスしていくと思うのですが、在宅勤務が続くと、なんとなくオンオフが切り替えにくい状態で、眠りにくい人が増えています。そういう環境だからこそ、パジャマに着替えるなどして、眠りのスイッチを意識してほしいですね。
――ほかに、快眠のために必要なことはありますか?
神原 昨年あたりから見かけるようになり、ニトリでも販売されている「重い毛布」を掛けないことですね。先ほど寝返りの話をしましたが、普通に眠っていても、人間は何回か寝返りをするのが自然。これがスムーズにできるかどうかで、快眠できるかどうかが変わってきます。重い毛布を掛けると、当然、寝返りがしづらくなってしまうので、よくないです。それと、柔らかすぎて体が沈んでしまう敷き布団やマットレスもダメ。寝返りしやすいパジャマを着ていても、こうした寝具を使っていると、せっかくの機能性をムダにしてしまいます。
あとは、部屋の湿度も重要な要素。湿度が40%より下がるようだったら、加湿器を使ってほしいです。部屋全体を加湿しなくても、枕元にコンパクトな加湿器を置くとか、清潔なタオルを1枚濡らして吊るしておくだけでもOK。空気が乾きすぎると、夜中にせき込んで眠れないこともありますし、コロナ禍の今であれば、ウイルス対策にもなりますよ。
――あと気になるのは、部屋の明かりです。「真っ暗だと眠れない」という人もいますが……。
神原 少し明かりがついてないと眠れない人、いますよね。そういう場合は、間接照明を試してみてほしいです。メインの電気を消して、自分の周りだけをぼんやりとともしておくようなものがいいのですが、例えばBALMUDA(バルミューダ)が出している「BALMUDA The Lantern」は、デザインもおしゃれでおすすめ。本を読むには暗いかもしれないけど、音楽を聞いたり、ちょっとしたリラックスタイムにも使えていいんじゃないかなと思います。
――思いのほか、「快眠のためにできること」は種類が多いですね。
神原 快眠に導く方法はいろいろあるのですが、誰かが「これいいよ!」と勧めたからといって、それが全員に当てはまるわけではありません。なので、これらの提案の中から、自分にとっての「眠りのスイッチ」を探したり、心地よい空間作りをすることが大事。自分に合った方法で、快眠を目指していきましょう。
■神原サリー(かみはら・さりー)
家電+ライフスタイルプロデューサー。睡眠改善インストラクター。家電を「感動ベース」で語れる担い手として、その独自の視点が評判。新聞・雑誌、業界誌をはじめ、多数の連載記事のほか、識者としての監修記事も多数手掛ける。子育て経験なども含め生活者視点で家電をとらえ、スペックなどの数字や難しい言葉を使わずに、暮らしの中でどのように役立つかなど、ライフスタイルをトータルで提案することを心がけている。五感に響き、使っている時もそうでない時にも心躍るデザイン性にも優れた家電を「うふふ家電」と命名、提唱している。