日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。11月22日は「私、生きてもいいですか ~心臓移植を待つ夫婦の1000日~ 後編」というテーマで放送された。
あらすじ
難病により心臓移植を待つ2人と、その家族に焦点を当てた回。
容子51歳(取材時、2018年時)は42歳の時に心臓が肥大化し、血液を送り出す心臓のポンプ機能が低下してしまう原因不明の難病、拡張型心筋症を発症する。悪化すると心臓移植しか手段がない。容子は補助人工心臓(VAD、通称バド)の入ったワンショルダーのリュックを常にしょいながら心臓移植を待つ日々を送る。
容子と同じ拡張型心筋症で、患者会で交流を続ける平澤弘章(当時41歳)は、VADをつけた生活が2年半になる。平澤の妻・友子は、平澤の病気を知ったうえで結婚した。平澤は、VADの刺入部(体にケーブルが刺さっている部分)からさまざまな菌に感染してしまい、入院生活が長引く。退院に望みをかけてVADの交換手術を受けるが、術後3日たっても意識が戻らない。
手術から3カ月後、スタッフが平澤を訪ねると、ベッドに寝たままで鼻には管が刺さった状態だったが、平澤は意識を取り戻し話せるまで回復していた。その後、自分の足で歩けるまでに回復し退院、友子との生活を再開する。
一方、容子は夫との関係がギクシャクすることもあったが、VADを入れて5年、心臓提供の一報が入る。手術当日、容子は「すごい葛藤の中で、この向こう側で(心臓の提供を)決断している家族の方たちがいらっしゃるんだなって」と思いを話す。そして、もしも、万が一手術が失敗に終わったときには、自分の使える体を全部ドナーとして提供すると言葉を残し、容子は手術に挑む。
移植は成功。容子はVADを入れてる間はできなかった車の運転や一人での買い物ができるようになり、自宅で家族と生活をしている。なお、ドナーの家族には定期的にお礼の手紙を送っているという。
病気を抱えると、闘病そのものの肉体的ダメージはもちろんだが、それに伴い家族、雇用先との関係が悪化することもあり、そうした精神的なダメージも深刻だ。
心臓移植は、日本では5年以上「待機」の状態が続くそうで、本人、家族、関係者の闘病も長期戦になる。支える側も、1週間で回復する見込みがあるなら優しくできるだろうが、それが年単位になれば、なかなかうまくいかない日だってあるはずだ。番組の前後編を見ても、平澤と平澤の元雇用先、平澤の妻・友子と義両親、容子と夫の関係が悪化していく様子が見えた。平澤、友子、容子それぞれが、相手から言われた言葉についてこぼしていた。
病気そのもの以外の、こういった二の矢が刺さってしまうのが、難病のつらさだと思う。その言葉だけを取り出してみると、確かに心無い一言に聞こえる。ただそれは、すでに関係がギクシャクとしている中での一言だ。相手にも言い分はあるだろう。こう冷静に思えるのも、他人だからであり、もし私が言われた側なら、確実に根に持ち、文句を言いまくるとは思う。
関係がギクシャクしたら、すでにときは遅いのであり、その前に事態を収められたらベストなのだが、病めるときにそれを求めるのも難しい。一方で、容子も平澤も患者会など、「同じ病を持つ人同士で気兼ねなく思いを話せる場」に積極的に参加しているのは、日々をよりよく生きていく知恵だと感じた。似た境遇でないと分かち合えないことがあるだろう。
番組内で「日本の臓器提供は進んでいない」との説明があったが、どのくらいの数なのか調べてみた。
日本臓器移植ネットワークホームページによると、死後の臓器提供は、米国が人口3億2800万人に対して年間約1万人なのに対し、日本は人口1億2000万人に対して年間100人前後とある。欧州諸国や韓国などと比べても、日本の数字は目立って低い。
しかし、ほかの諸政策のように「諸外国に比べ日本は遅れているから、積極的に進めていこう」とするのも、違うような気がする。臓器提供は死生観に直結する部分だ。「死生観」は「性の価値観」とともに、究極的にプライベートな領域の話だと私は思っている。
「(臓器を)あげる、あげたくない、もらいたい、もらいたくない」ということについて、どう考えるかは、当人の自由であるべきだと思うのだ。
しかし、それまでは自分には関係のない話だと思っていた心臓移植について、2週にわたって容子と平澤が闘病する様子や、また、提供された心臓が車で運ばれる様子、さらには容子が術後も免疫抑制剤への影響から夏みかんや生もの、カビ系のチーズなどが食べられないと話す様子など、一つひとつのエピソードが映像の力によってリアルに伝わり、対岸の話ではなく、生きている人間の話なのだ、と距離が近いものになった。
次週の『ザ・ノンフィクション』は「おかえり お母さん~その後の「ぼけますから、よろしくお願いします。」~」。認知症の母と老老介護する父の暮らしを、映像作家の「私」が撮った看取りまでの記録。なお、同作は映画公開もされており、全国で18万人以上を動員している。前回のレビュー『ザ・ノンフィクション』87歳認知症の母を介護する95歳の父「ぼけますから、よろしくお願いします。 ~特別編~」はこちら。