――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。9月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!
今月の1曲‖썸 (XUM) - DDALALA
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A100 Entertainmentから9月24日にデビューした3人組グループ・XUM(サム)のデビュー曲です。
実はついこの間までNeonpunchとして活動していた5人のうち3人がメンバーとして所属しています。事務所の経済的な状況悪化、メンバー2人の活動中断、新型コロナの影響などが重なりNeonpunchは解散することとなり、実質“再デビュー”的な立ち位置です。Neonpunch時代はYoutubeアカウントがハッキングに遭い、XUMデビュー前にはスタッフが新型コロナ感染者と間接的に接触があり検査をしたり、「DDALALA」のMV公開後も音質事故が発生しMVを再アップロードするなど不運が続いています。
A100エンタはXUMとソロの女性歌手1人だけを抱える小さい事務所ですが、Neonpunch時代は音楽的にもハイクオリティなものをリリースしていたので、事務所の手腕があるのかないのかよくわからず、XUMでのデビューは期待半分不安半分という状態でした。いざMVがリリースされたらクリーンなイメージの強いK-Pop界でよくリリースできたな……というたくさんの女性が横たわったシーンが印象的な始まりのMVで、楽曲はまさかのJersey clubでした。リリース時の公式の文章には「シカゴハウスベースのクラブミュージックジャンルである"Jersey club"を取り入れた」と直接的に記載があります。
作曲はシンサドンホレンイという韓国では有名な音楽プロデューサーが担当しています。ホーンの入ったファンク色の強いHiphop楽曲やEDMのBounceジャンルなどの楽曲が多く、ヒットメイカーとも呼ばれていますが、一方で盗作疑惑なども多く、韓国人のトラックメイカーの友人も、公式の説明文章に対し、どこまでJersey clubのことわかって作ってるんだか……と苦言を呈していました。
最近はK-Popアイドルの衣装やコンセプトなどビジュアルの面でよく「文化の盗用」について指摘されますが、(それが本当に文化の盗用かどうかはまた別として)楽曲は聞いてすぐわかるものではなく、ある程度の知識がないと指摘できないこともあり、まだあまり議論されることはない……というのは、また今後そのようなトピックについて話ができればいいなと思います。
EXOの「Tempo」によってJersey clubというジャンルを構成する要素の一つ「Bed squeak sound」(ベッドキシキシ音)が広まり、昨今たくさんのK-Pop楽曲に使用されていますが、ビート部分を引用した楽曲はK-Popではおそらく「DDALALA」が初めてだと思います。ということで、今月はアメリカはニュージャージー州のニューアークで生まれた「Jersey club(ジャージークラブ)」という音楽ジャンルについて解説します。
Jersey clubは2000年代前半ごろに形作られた音楽ジャンルの一つで、源流を辿ると90年代後半にニューアークのクラブシーンで人気だったChicago houseにたどり着きます。Chicago houseは以前Jukeという音楽ジャンルの紹介 をした時に説明しましたが、一緒に紹介したGhetto houseやMiami bassなどもJukeとあわせてJersey clubに影響を与えています。
直接的にJersey clubに影響を与えたのは「Baltimore club(ボルチモア・クラブ)」というジャンルで、メリーランド州ボルチモアで1980年代後半にChicago house、Hardcore UK rave、Miami bass、Hip-houseなどさまざまなジャンルが交ざり合いできたものです。Bmore club(ビーモア・クラブ)やBmore(ビーモア)とも言います。
ボルチモアのDJたちはイギリスのレイブシーンではやっていたBreakbeat hardcoreの楽曲からインスピレーションを受け、それらの楽曲をDJでプレイしたり、サンプリングして曲作りをしていました。Breakbeat hardcoreはJungle紹介時の記事 にも書いたように、後にJungleやDrum&Bassなどにも影響を与えており、記事ではAmen Breakに焦点を当てて話を進めましたが、BmoreへつながっていくのはThink BreakやSing Singのドラムブレイクになります。
Think BreakはLyn Collinsの「Think」という曲のドラムブレイク(動画内1:22~、1:34~などドラムがメインの部分)のことで、これを繰り返してトラックのビート部分に使用します。
■Lyn Collins - Think (about it) (1972)
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GAZの「SING SING」はHiphopなども含め数え切れないほどの楽曲にサンプリングされていますが、インスト部分が多くいろいろな場所がサンプリングされています(0:10~、3:52~など)。
■GAZ - SING SING (1979)
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ボルチモアのDJたちがプレイしたりサンプリングしたBreakbeat hardcoreには以下のようなものがあり、これらが後のBmoreを形作っていきます。
■The Blapps Posse - Don't Hold Back (91)
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■Epitome Of Hype - Too Much Energy (91)
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Bmoreの楽曲としては以下のようなものがあります。しかし、ブレイクビーツと卑猥な歌詞が共通するぐらいでJersey clubの片鱗を感じるのは難しいかもしれません。
■Frank Ski - Tony's Bitch Track (92)
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■DJ Equalizer & The Sounds Of Silence - We Bad (93)
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■DJ Booman - See The Ho's (Remix) (95)
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■Scottie B - Niggaz Fightin (98)
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Bmoreはラップのアカペラをベースに、ボーカルを刻んで繰り返したりするものが多く、歌詞の内容は卑猥なものが多いです。ジャンルが浸透し広まるにつれ、BPMは125前後から130前後へと速くなり、銃声や"What!"、"Hey!"などのフレーズが使われることが一般的になっていきます。
ちなみにBmoreに影響を受けた有名な曲として、LMFAO ft. Lil Jonの「Shots」があります。
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ボルチモアを中心にリリースされるたくさんのBmoreに魅了されたニュージャージーのDJ TameilやDJ Tim Dollaは3時間かけて車でボルチモアに通い、現地で手に入れたレコードをニューアークの自分たちのパーティでプレイしました。
99年、TAPPの「Shake Dat Ass」や「Dikkontrol」などのBmore楽曲が人気を博しており、この「Dikkontrol」の「ドンドン ドッドッドッ」というビートが後のJersey clubの基本のリズムトラックとなっていきます。
■TAPP - Dikkontrol (93) 1:30~2:30
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すごいタイトルの曲ですが、93年にリリースされたレコードはレア盤で非常に手に入りづらく、インターネットにフルで音源がアップされていないため、このようなDJミックスで一部を聞く方法しかない状態です。
DJ Tameilは、ニューアーク以外のアーティストが自分たちと同じスタイルのトラックをまだ作っていなかったため、2002年にニューアークの愛称である「Brick City」にちなんで、「Brick City club」というジャンル名を生み出します。自分たちの作ったトラックとBmoreのトラックを入れたミックステープを作り、前半はClub、後半はHouseというような構成でした。
ちなみに現在「Club music」というとクラブでかかるジャンルの音楽(≒ダンスミュージック)として捉えられがちですが、元々は90年代後半にニュージャージーで人気だったChicago HouseをClub musicと呼んでいました。その後、Baltimore clubとBrick City club(Jersey club)、またBaltimore clubから派生したPhilly clubの3つを指すようになります。ですので、このミックステープ前半の「Club」はBmoreやBrick City clubなどのことを指します。
■DJ Tameil - Grown Folks Shyt #1 (03)
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ちなみに、00年代後半に生まれたPhilly club(もしくは単にPhilly)は別名Party musicとも言われ、位置的にボルチモアとニューアークの間にあったペンシルベニア州のフィラデルフィアの愛称「Philly」から来ています。
BmoreやJersey clubがフィラデルフィアで広まると、BPMは130~150に上昇し、サイレン音などが入るようになり、これがPhilly Clubとして確立していきます。
■DJ Sega - New Jack Philly (09)
翌年の03年には、ボルチモアのレコード店員でたくさんのBmoreをニューアークへ紹介する橋渡し役になっていたBernie Rabinowitzが他界し、ボルチモアからニュージャージーへBmoreの供給が止まります。それでもニュージャージーのアーティストたちは自分たちのシーンを発展させていき、大学の進学などで音楽をやめるプロデューサーも出ますが、一方で大学に進学した人たちがカレッジ・パーティで自分たちの曲をかけ、パーティの終わりにその日にかけた曲が入ったミックスCDを客に渡し、徐々に大学のキャンパスなどでも人気が高まって行きます。
Bmoreが成功を収め、Myspaceという音楽やエンターテインメントを中心としたSNSを介してシーンの知名度が上がり、ジャンル名がニューアークを越えて広まったこともあり、05年にはジャンル名を「Brick City club」から「Jersey club」に変えます。楽曲はMyspaceやファイル共有ソフトのLimewireにアップロードされ、さらには無料のミックスCDとして配布され、さまざまな場所でJersey clubがプレイされどんどんと広まっていきます。
Jersey clubはもともとDJがマイクパフォーマンスすることが盛んなジャンルですが、この時期はダンスがシーンの中心になりつつあり、 パーティでかける曲に決まった振りで踊るよう、DJがオーディエンスにダンスを呼びかける文化ができました。DJ中に毎回ダンスムーブをコールすることが嫌になったTim Dollaは、手を振って膝に当てるように踊る「Swing dat」というダンスムーブから、「Swing dat sh*t」というフレーズが連呼される曲を作り、 大ヒットします。
以降、気に入ったトラックを聞いたダンサーが自分たちでダンスを発案し、曲にのせて踊る動画をネットに上げるようになり、トラックの知名度も高まりました。現在のTikTokで起こっているような現象ですが、これが08年頃すでに行われていました。
■DJ Sliink - Get Da Patty Cake Goin'
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■DJ TIM DOLLA - SWING DAT SHYT
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BPMが上がり歌モノサンプリングなど独創的に変化
その後Hot97やPower105などのHiphopやR&BをかけるNYのラジオ局や、NYのクラブなどでもJersey clubがプレイされるなど、ニュージャージー以外でもJersey clubが注目され始めます。Jersey clubのスタイルもBPMが135ぐらいまで上昇し、半分のテンポ(BPM68程度、R&BによくあるBPM)でのボーカルサンプリングが取り入れられ、使う音ネタも変わっていき、BmoreやPhillyとは全く違った独創的なものになっていきます。
先述したBed squeak soundは04年にリリースされたTrillvilleの「Some Cut」が主にサンプリングされ、昨今Jersey clubだけでなくたくさんの曲に使われています。
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2010年代に入るとニューアークでのリリースも活発ながらも、DJ SliinkがDJ兼プロデューサーのDiploが主催するMad Decentというレーベルと組んだり、ノルウェーのプロデューサーCashmere CatがJersey club楽曲をSoundcloudで発表したり、フランスのDJがミックステープでJersey clubを紹介したりと段々と世界中に広まっていきます。
■DJ Sliink - Mad Decent Block Party (2013)
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■CASHMERE CAT - Mirror Maru (2012)
恐らくこのぐらいの時期からハウスやR&Bが原曲の曲がRemixされるようになり、さらにJersey clubの幅が広がります。ドンドン ドッドッドッというリズムのビート、歌モノのボーカル、チョップされたボーカルサンプル、Bed squeak soundなど現在Jersey clubといわれて想像する楽曲はこの辺りから始まっているといえるでしょう。
以下は93年にアメリカでリリースされたHouseのアンセム曲といわれているRobin Sの「Show Me Love」という曲をサンプリングしています。
■DJ JayHood (ft DJ Mike Gip) - Show Me Love (Jersey Club Remix) (2012)
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13年3月頃、さまざまなトラックメイカーがR&BのJersey club Remixを音楽ファイル共有サービス「SoundCloud」に同時多発的にアップし、ニュージャージーのDJたちもそれに便乗する形でたくさん楽曲をリリースし、世界的に流行するきっかけとなります。
私も13年に東京のクラブシーンでJersey clubを聞いており、自分のiTunesには11月にHoodboiの音源を取り込んでいる履歴があります。やはりインターネットを介して広がるブームには世界中で時差がなく、ほぼ同じタイミングで日本のクラブシーンにも流行が来ていることがわかります。当時サンプリングされる元の楽曲は自分が10代の時に聞いていたR&B楽曲が多く、ボーカルには懐かしさがありつつもフォーマットとしては新しいという新鮮さに魅了されました。ボーカルがチョップされていて少しもどかしい感じもありますが慣れるとやみつきになり、はやり廃りの多いクラブシーンですがJersey clubは今でも大好きです。
当時はダンスミュージックを探すならばSoundcloud、という感じでSoundcloudでの音源公開が一般的でしたが現在は消えてしまっている曲も多く、Youtubeに転載されて残っているものもあります。
■Trippy Turtle - Get Up On It (2013/3)
Keith Sweat feat. Kut Klose - Get Up On ItのRemix
■Trippy Turtle - Senorita (2013/4)
Justin Timberlake - SenoritaのRemix
■Ciara - Body Party (DJ Sliink & Nadus Remix) (2013/6)
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■Janet Jackson - I Get Lonely (DJ Hoodboi Remix) (2013/11)
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■Blu-Ra¥'s K¥SS0F1if3 (Reprise) (2013/11)
ORIGINAL LOVE - 接吻のRemix
■Automatic YYIOY βootleg (Free DL) (2013/11)
宇多田ヒカル - AutomaticのRemix、YYIOYはマドリード在住の日本人トラックメイカーです。
ポップス的な側面から見ると、取り入れるのが一番速かったのは中国のアイドル、元EXOのルハンが歌った映画『カンフーパンダ』のプロモーション曲「Deep(海底)」ではないでしょうか。
■LuHan鹿晗 - Deep/海底 (2015/12)
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と言っても、Trippy Turtleがリリースしたこの曲そっくりなので、取り入れて昇華したというよりはそのままコピーした感が強く、あまり自分のものにできているという感じではありません。
■Trippy Turtle - Trippy's Theme (2014/6)
2017年には、韓国のトラックメイカーPure 100%と日本のトラックメイカーKOTONOHOUSEが共作した「Girlfriend」を、ニュージャージーで00年代初頭からBrick BanditsクルーでDJやプロデューサーとして活躍しているR3LLがRemixするという、データのやりとりが簡単にできる現代ならではのコラボレーションも起こります。
■Pure 100% & KOTONOHOUSE - Girlfriend (R3LL Remix)
この頃にはFuture bassなど他のEDMジャンルと融合し、ビートのリズム部分だけ・ボーカルのチョップ部分だけ・Bed squeak sound部分だけ、など部分的にJersey clubの要素を取り込んだ楽曲もたくさん生まれます。
近年ではニュージャージーを拠点にするCookiee Kawaiiというアーティストが19年4月にリリースした「Vibe」という曲がTikTokのダンス動画を通じて広がり、同時にSpotifyでも300万回再生を記録します。コロナ禍によるロックダウン期間中にさらなる広がりを見せ、現在は約6300万回の再生数となっています。恐らく世界で一番聞かれたJersey club楽曲ではないでしょうか。
元々はMV等映像メディアは存在しませんでしたが、人気を受け2020年5月にはアニメーションMVを、8月にはMVを公開し、ラッパーのTygaを迎え尺を伸ばしMVも改めて撮り直したRemixも公開されています。
■Cookiee Kawaii - Vibe (If I Back It Up)
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■Cookiee Kawaii &Tyga - Vibe (If I Back It Up)
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それではようやく韓国での話に移りますが、K-Popのシーンではトラックメイカーが非公式的にRemixを作ることはあっても、公式で楽曲にJersey clubのビートが取り入れられることはなく、先述のBed squeak soundだけが独り歩きし、さまざまな楽曲に取り入れられます。最近のものは挙げ出したら切りがないので初期のものだけ挙げます。
■GOT7 (갓세븐) - A (TOYO Remix) (2014/6) (1:39、1:53)
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■NU'EST (뉴이스트) - OVERCOME (여왕의 기사) (2016/2)
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■BTS (방탄소년단) - Boy Meets Evil (2016/9) (1:13に一瞬)
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■SHINee - Prism (2016/10) (0:57~1:08)
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■NCT127 - Baby Don't Like It (나쁜 짓) (2017/1)
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今までの説明を踏まえると、XUMの「DDALALA」は12年頃のBed squeak soundが入っていない、歌モノのボーカルが入るか入らないか頃のJersey clubを参考にしているのでしょうか? そこまで明確な引用元を設定しているとも思えませんが……。
今回はBed squeak soundだけでなく、ビートもJersey clubなK-Pop楽曲のRemixをSoundcloudでプレイリストにしました。原曲のリリース順ではなく、Remix音源のリリースが古い順に並べてあります。
4曲目に入れた2ИЕ1 - I Love You (тоуо яемıж)は全体的にFuture bassですが、上記GOT7の公式Remixを担当したTOYOが個人的にアップしており、Jersey clubのタグを付けているので入れてみました。
<落選したけど……紹介したい1曲>
■EVERGLOW (에버글로우) - LA DI DA
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Yuehua Entertainment所属6人組グループEverglowの新曲です。見事にシンセポップです。
80年代のYMOの「ライディーン」やa-haの「Take On Me」、最近ではThe Weekndの「Blinding Lights」などが思い出されます。今月はJersey clubとシンセポップのどちらを特集するか最後まで悩みましたが、関連楽曲がJersey clubのが面白いかなと思いXUMを選びました。「LA DI DA」は振り付けと衣装がとにかくすごいので、是非音楽番組のステージなども見てみて下さい。
<近況>
Stray Kidsがリパッケージアルバム『IN生』でカムバックしました! 今までの活動を含めて初めて、音楽番組で2度1位を獲りました。デビューから追っているので喜びもひとしおです。引き続き音楽番組等に出演して活動しますので、MVの再生やCDの購入などよろしくお願い申し上げます。
e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽 、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POP をかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。
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