刑務所に入れることで“罰”を与えても、更生につながっていない現状が見え隠れする、DVや性犯罪加害者たち。前回は、彼らの再犯を防ぐ更生プログラムのひとつ、「加害者臨床」の内容について話を聞いたが、この取り組みは、なかなか広がっていかないのが現実だ。その背景には、日本社会にはびこる男尊女卑の価値観や、裁判に漂うアップデートされない固定概念があるという。
被害者を増やさないために加害者臨床に携わる、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏と「NPO法人 女性・人権支援センター ステップ」の代表である栗原加代美氏に、引き続き話を聞いた。
■第1回:30年間、電車で痴漢を繰り返してきた――性犯罪“加害者”が語る「逮捕されてもやめられない」理由
■第2回:「女性は痴漢で気持ち良くなる」と信じていた――性犯罪加害者の言葉から、“治療”の在り方を問う
■第3回:性犯罪者・DV加害者は「排除すればいい」のか? 「孤立が再犯率を上げる」現場の専門家が訴えること
「変わらなければいけないのは妻」だと信じるDV夫
――お二人の話を聞いて、日本には“加害者の受け皿”がほとんどないと実感しました。なぜ「加害者更生プログラム」は広がっていかないのでしょうか?
斉藤章佳氏(以下、斉藤) 一言でいうと、物理的に難しいんです。たとえば、私がいるクリニックは女性スタッフも多いですが、そこに痴漢や盗撮の常習者が来るとなると、過去に被害に遭ったスタッフがいた場合、定着率に影響します。もちろん、彼らがクリニック内で痴漢や盗撮行為をすることはありませんが、人として心情的に受け入れ難いという場合もあります。
また、地域からクレームの電話が来ることもあります。「性犯罪者が集まっていたら、何か事件が起きるんじゃないか?」といった具合です。依存症には、ある特定の状況や条件下で衝動制御が困難になり、問題行動につながる“引き金”があります。例えば、「満員電車を見ると痴漢がしたくなる」「エスカレーターでスマホを出すと盗撮したくなる」といったことですが、逆にいえば、その引き金を引かない限り、条件反射のスイッチは作動せず、脳の誤作動も起こりにくいため、彼らが問題行動を起こす可能性は低いです。こうした正しい認識がないため、過剰な排除意識につながっているのだと思います。
栗原加代美氏(以下、栗原) 私も同じような経験をしたことがありますね。事務所を探しているとき、下階に学習塾がある物件を借りようと思っていたら、オーナーから「DV加害者が集まるんでしょう? 子どもたちが暴力を振るわれたら大変なので、貸すことはできません」と言われたんです。そういったことが続き、今の物件を見つけるのに1年もかかりました。DVは夫婦や恋人、親子の関係性の問題なので、見知らぬ人に暴力を振るう人はほとんどいませんが、世間にはそういう“イメージ”があるんですよね。
――支援者側ですらそうした目を向けられているとなると、加害者自ら自助グループに入ったり、プログラムを受けに行くこと自体、非常にハードルが高いように思えます。彼らは、どのようなきっかけでやって来るのでしょうか?
栗原 我々のもとに来るDV加害者の場合は、周囲から「どうにかしたほうがいい」と言われても、すぐには動きません。妻が家から出て行って、初めて「まずい」と感じ、プログラムを受けに来るパターンが多いですね。あとは、妻に「おまえが行くなら俺も一緒に行ってやる」というDV加害者もいます。「変わるのは俺じゃなくて、おまえのほうじゃないか? なぜ俺だけ行かなきゃいけないんだ」という思考なんです。
斉藤 性犯罪の場合、「問題行為を始めてから治療につながるまでの期間」について、当院のデータがあります。痴漢の場合は8年、盗撮は7.2年、ペドフィリア(小児性犯罪者)が14年です。痴漢や盗撮の加害者は1週間で平均2〜3回の痴漢行為をするケースが多いですが、単純に計算すると、1人の痴漢や盗撮の加害者が専門治療につながるまで、平均で1,000人近くの被害者を出すことになります。
私は初診時に必ず「逮捕されていなければ、ずっと問題行動を続けていましたか?」と質問するのですが、ほぼ100%が「はい」と答えます。加害者にとっては性欲だけではなく複合的な快楽を満たせる行為ですから、「バレない、逮捕されない限りは続ける」という思考パターンになってしまう。逮捕されてようやく自らの性嗜好に向き合わざるを得なくなり、「性依存症の専門治療」という選択が生まれるわけです。しかし、これも一つの選択肢にすぎないので、加害者本人が治療は必要ないと思えば、そのままになってしまいます。
栗原 私たちのプログラムを受けているDV加害者の場合、逮捕まではいかずとも、通報沙汰になった人は8割以上。それも、複数回です。DVの場合、被害者が通報したとしても、警察から「気をつけてくださいね。今夜はホテルに宿泊することをおすすめしますよ」なんて言われて終わってしまうことが大半です。警察の紹介を受けて加害者がうちに来ることもありますが、そうでなければ、自ら進んでプログラムを受けに来ることはほとんどありません。
児童虐待の場合、児童相談所と警察が連携していますが、DVについても同じように、警察との連携をするべきでしょう。年間7万人のDV被害者がいますが、うちに来るのは約100人。単純に考えて、残りの6万9,900人は野放しになっているかもしれないわけです。まずは、この現状を知ってほしいですね。
――なぜ児童虐待と違って、DVに関する物事はなかなか進まないのでしょうか?
栗原 「夫婦げんか」という言葉が「DV」にアップデートされ、「DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)」が施行されてからまだ20年です。妻や夫に暴力を振るうことが“犯罪”だと認識されるには、もっと時間がかかるのかもしれません。
DVには、身体的暴力以外に精神的暴力もありますが、「あなた、たたかれていないでしょ?」と、暴力を振るわれていないからと一蹴した弁護士を見たことがあります。通報を受けた警察官の中にも、妻に対して「あなたも悪いよね? じゃあ、お互いさまだ」などと言う人がいるようなんです。そうなると、DV加害者が、なかなか加害者意識を持ちにくい。自分が加害者だと気づき、「相手を傷つけてしまった」と反省することで、初めて「治そう」という意識が芽生えますが、周囲がこうした認識を持っているせいで、その段階にすら立てないわけです。
斉藤 日本で加害者更生プログラムが広がらない原因の一つとして、「マニフェストに掲げても票につながらない」という現実があると、政治家から聞いたことがあります。政治の世界に「加害者の更生は一般市民や地域社会の安全につながる」という理解が浸透すれば、もう少し状況はよくなるのではないでしょうか。今年2月、福岡県が全国に先駆けて「性犯罪加害者への治療費の公費助成」を始めると発表しました。これは、被害者の支援のほうが先ではないかなど賛否両論ありますが、画期的なことです。このような取り組みは、各都道府県に広がってほしいですね。
――お二人のお話を聞いていると、DVや性犯罪は「これをやればゼロになる」といった簡単な話ではないような気がします。もっと社会の根深いところに、問題があるというか。
斉藤 性犯罪はどうしても「性欲」の強さの問題に矮小化されがちですよね。だからSNSなどで「去勢しろ!」という意見が出るのでしょう。しかし、痴漢加害者200人に「痴漢行為時に勃起や射精を伴ったか」というヒアリングを行った当院の調査研究では、半数以上から「NO」という回答を得ています。
私自身も加害者臨床に携わる前は、「性犯罪は性欲の強い人がやるんだろう」と思っていました。でも、現場で加害者たちに話を聞くようになると、「僕は性欲が強いからやったんです」という話はほとんど聞かなかった。4年制大学を卒業して、企業に勤めて、妻子がいて……という、我々とあまり変わらない人たちばかりなんですよ。では、なぜ痴漢を繰り返すのか? そう彼らに聞くと、支配欲や達成感、弱いものいじめの優越感、釣りに似たレジャー感覚、男性性の確認などが浮かび上がってきたのです。性暴力は、こうした複合的な“快楽”が凝縮した行為だからこそ、なかなかやめられないのだと確信しました。
栗原 私のプログラムに来た男性も、同じようなことを話していましたね。彼は電車の中で男性器を露出させたことがあると言い、その背景には、幼少期にネグレクト状態に置かれたことがあったと告白したんです。「自分の存在に気づいてほしい」という承認欲求が下地にあって、性欲が理由ではないんです。
――それなのにどうして、「性犯罪は性欲の問題」という認識が広がってしまうのでしょうか?
斉藤 性犯罪加害者に警察での取り調べについて聞くと、大抵計画的で「性欲の強さの問題」だというストーリーに誘導されているといいます。裁判でもよく、被告人側の証人として登場する妻に、検察官が「夫婦生活はどうでしたか?」と聞くシーンがあります。この質問の意図は「セックスレスが原因で事件を起こした」「妻が夫の性欲のケアをきちんとしていなかったから事件が起きた」という性欲原因論のバイアスがかかったものであると考えられます。法廷ではいまだに「性欲が背景にあり、それが抑制できず性犯罪が起きている」という認識が根強くあるため、裁判長の最後の訓示でも、「被告人は抑えきれない性欲が暴走し……」といったフレーズが使われることが度々あります。
そういったことを含めて、世間には「男性は自分の性欲をコントロールできない」という価値観がありませんか? でも、友人の前でいきなりマスターベーションをしたり、交番の前で痴漢をする男性はいないですよね? なぜならば、「性欲をコントロールできている」からです。なのになぜ、男性は自分たちで「男は性欲をコントロールできない生き物だから」ということを否定しないのでしょうか? よく考えると、侮辱的な価値観ですよね。ということはつまり、この考え方で男性側が都合よく隠蔽できる事実があるからです。
それなら一層、「性欲をなくせばOK」「去勢すれば再犯しない」ではないんです。これでは何も解決にならないことを、まずは知ってほしい。目の前にいる加害者は、日本社会の縮図です。社会に根強くある男尊女卑的な価値観を変えていく必要があります。そのうえで、無数にいる被害者と、その加害者がどう向き合っていくかが、とても大事なんです。
――政治や司法に影響するほど、世の中全体にはびこる根深くかたくなな価値観は、変わっていくものでしょうか?
斉藤 誰も小さい頃から「将来の夢は痴漢です」なんて思っていないですよね。生きていく中で、家庭や学校、メディア、そして社会を通して学習してしまった行動なんです。今の日本社会に前提としてある価値観を変えていかないと、加害者はどんどん再生産されていきます。
栗原 その通りです。たとえば幼少期に見る戦隊モノは、物事を暴力で解決しますが、これは社会全体に暴力容認意識、つまり「悪いことをしたら殴ってもいい」といった考えがあるからだと感じます。
――テレビのフィクションと自分の思考が一体化してしまう人がいるんですね。
斉藤 ある性暴力加害者は、毎回のマスターベーションの際、女性の顔に精液をかけて終わるAVを見ていたんです。中学生からそれを続けていた彼は、初めてできた彼女に同じ行為をしてひどく怒られ、傷ついている彼女を見てびっくりしたといいます。彼はそれが“常識”だと思い込んでいたから、傷つけるとは思わなかったんです。
もちろん、新しい価値観を知り、インストールしてアップデートしていけるのが健全な大人なんでしょうけれど、そういった機会がなければ、刷り込まれたままの価値観で社会に出てしまいます。新しい価値観をインストールする力と、古い価値観をアンインストールする勇気を持ちたいですね。
栗原 「父親や教師も、怒ったときは暴力を振るった」と話すようなDV加害者も、ほかに怒りの表現の選択肢を持てない環境だった場合は多いですね。だから、健全な表現方法を伝えると、みるみる行動が改善していきます。
「虐待は連鎖する」とよく言いますが、被虐者の半数は連鎖しないんです。そういう選択をした人たちが、子どもに手を出すようになるというだけ。だから私は、DV加害者にも「全員が連鎖するわけではない。あなたが選択した結果だ。だから、やめることもできる」と伝えています。
斉藤 それと、まず一次予防としては、性行為や出産のことだけではなく、性を通して人との関わり方や相手の立場を考えることを含めた「包括的性教育」が、最も重要ではないでしょうか。大人になっていくための価値観が育まれる最も敏感な小中高校時代に、性的同意などの話を含め、大人が正しく教育していくことが重要だと思いますし、まず大人たちがこのような価値観を積極的に学ぶ姿勢を示していかなければいけないと考えています。
(有山千春)
■斉藤章佳(さいとう・あきよし)
大船榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士/社会福祉士)。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」にソーシャルワーカーとして、約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション問題に携わる。その後、2020年4月から現職。専門は加害者臨床で、現在まで2,000名以上の性犯罪者の治療に関わる。また、都内更生保護施設では長年「酒害・薬害教育プログラム」の講師をつとめている。
■栗原加代美(くりはら・かよみ)
NPO法人女性・人権支援センターステップ理事長。同団体にて、 DV・ストーカー・虐待・加害者更生プログラムの講師を務めながら、被害者の回復プログラム・家族面談・ カップルカウンセリング・テレビ出演、DVやスト ーカー防止のセミナー講師として活動する。