――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。6月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!
今月の1曲 ‖Stray Kids(스트레이 키즈) - GO生
VIDEO
6月17日に初フルアルバム『GO生』でカムバックしたStray Kidsのアルバム1曲目、「GO生」(ゴーナマ……ではなく고생(コセン)、苦労)です。
これはアルバムリリース前にティーザーとして出た動画でわずか1分21秒と短いのですが、実際の楽曲も1分51秒しかなく、アルバムの中で1曲目として置かれており、イントロのような扱いになっています。2曲目に今回のタイトル曲「神メニュー」がありますが、1曲目の「GO生」を聞いた流れでこの曲を聞くと、よりすんなりと入ってくるように作られていると思います。
曲が始まって聞こえるドラムがあまり聞き慣れず、リズムに乗りづらい方もいるかもしれませんが、このようなビートは「Breakbeats(ブレイクビーツ)」と言います。ブレイクビーツはビートの種類のことを言い、それ自体が音楽のジャンルではありません。
サンプリング解説の記事 でHiphopに絡めて少し説明しましたが、今回はブレイクビーツを使い、そこから発展した音楽ジャンルを中心に説明します。ブレイクビーツの発祥については以前の記事に書いたとおり、ソウルやファンクなどの曲のドラムブレイクを同じ曲の同じ部分につなぎ、ブレイクの部分だけを繰り返したもので、それを「ブレイクビーツ」と呼びます。もちろん、ドラムの部分が繰り返しやすければ楽曲はなんでもいいのですが、たくさんの楽曲にサンプリングされた有名な原曲も存在します。
■The Winstons - Amen Brother
VIDEO
アメリカのファンク/ソウルバンドが1969年にリリースした「Amen Brother」という楽曲です。1:26~の6秒ほどのドラムソロの部分(ドラムブレイクの部分)について、楽曲の名前から「Amen Break」と呼ぶようになります。
このドラムソロをループした楽曲として有名なものが、Dr.Dreの所属するN.W.A.のこの楽曲です。聞けば何となくわかると思いますが、Amen Breakの速度を落としてループしています。
■N.W.A. - Straight Outta Compton (1989)
VIDEO
このAmen Breakをサンプリングした曲は、2,000曲以上も存在するといわれており、この動画のようにAmen Breakの歴史やサンプリングした楽曲の説明をする動画もたくさん存在します。
■The History Of The Amen break | Mixmag Originals
VIDEO
1980年代後半から90年代初頭にかけて、イギリスではナイトクラブや一夜限りの野外イベント文化が発展し、Beakbeat Hardcore、Darkcore、Hardcore Jungleなどの新しいジャンルがレイヴシーンに誕生します。Amen Breakはアメリカからイギリスに渡り、そうしたジャンルの楽曲に使用されるようになります。ちなみに、今まではアメリカの音楽文化を紹介することが多かったですが、今回は全てイギリスがメインの舞台です。
■Double Trouble ft. Rebel Mc - Street Tuff (89)
VIDEO
■Carl Cox - Let The Bass Kick (90)
VIDEO
Carl Coxの「Let The Bass Kick」はAmen breakを使ったBreakbeat Hardcoreの走りの一つといわれています。
91年、Hardcore Jungleの先駆けとされるLenny Dee Iceの「We Are I.E」がリリースされますが、これはReggaeのベースラインを使い、Amen Breakの速度を上げたトラックです。単純にドラムの部分を繰り返してつなげループするパターンから、サンプラー(録音機材)を使いドラムの音を刻んだり、段々とベースラインやブレイクビーツが主体で、ダークなムードやメロディーのトラックがたくさん作られるようになります。
Hardcore Jungleは、後に単に「Jungle」と呼ばれるようになります。以下2曲はJungle初期の楽曲といわれています。
■Bodysnatch - Euphony (92)
VIDEO
■Noise Factory - Set Me Free (92)
VIDEO
Reggaetonの成り立ち で、プエルトリコではやっていたReggaeがHiphopから影響を受けてできたと説明しましたが、HardoreやJungleは、ロンドンのジャマイカやカリブ海地域など旧イギリス植民地の移民2世、アフリカ系イギリス人によって生み出されたとされています。
たくさん楽曲がリリースされ、シーンでの人気も出てくるとチャートにJungleの楽曲が入るようになり、94年にリリースされた下記2曲はUK ChartのTop40に入ります。
■Shy FX & UK Apachi - Original nuttah
VIDEO
■M Beat feat. General Levy - Incredible
VIDEO
M Beatの「Incredible」のブレイクビーツはBlowflyの「Sesame Street」という楽曲のドラム(0:25~)を、速度を上げてループしています。 VIDEO
どちらもラップがReggaeのスタイルを強く感じさせるもので、「ラーダマスィー」と聞こえる「Lord have mercy」、「Booyaka」などのパトワ語のスラングもReggaeの楽曲に頻出するものです。パトワ語とは、ジャマイカの歴史と関係しており、スペイン・イギリスの植民地だったジャマイカに奴隷としてアフリカ大陸から連れてこられた西アフリカ・中央アフリカ地域の人々が、英語やスペイン語、自国のルーツであるアフリカ地域の言語を混ぜてできたものといわれています。成り立ちとして、支配階級のイギリス人たちに自分たちのしゃべっている言葉がわからないようにするためにという説もあります。正式名称はジャマイカ・クレオール語と言い、「パトワ」自体はフランス語で「訛り」の意味です。
当時レイヴで主流だった他ジャンルに比べ、Jungleはより暗く、多幸感に乏しいスタイルが多く、イギリスの社会的な背景も影響しているとされています。90年代初頭のイギリスは社会構造が崩れかけており、幻滅した都市部の若者たちの感情がJungleに反映されていたといわれています。
JungleはTechnoなどの当時レイヴで主流だったスタイルよりも、アメリカなどでのレイヴスタイルの影響を強く受けていましたが、特にアフリカ系イギリス人の若者層に人気がありました。Jungleのファン(Junglistと呼ばれる)は、若者のサブカルチャーの一部として認識されるようになり、Jungleはロンドンの下層階級の若者のための文化的表現の形、「Hiphopに対するイギリスの答え」ともいわれました。
94~95年頃がJungleの人気のピークとされ、『Jungle Mania』や『Jungle Hits』というコンピレーションアルバムのCDがリリースされます。当時はラジオが新曲を聞くための主流なツールでしたが、ヨーロッパでは国営放送局にしか放送免許が認可されないことなどもあり、正式な放送免許を持たないラジオ放送(海賊放送)が横行します。このような海賊放送でJungleがたくさんプレイされていたのはもちろんですが、その人気も相まって95年には国営放送のBBC Radio1にて「One In The Jungle」というJungleを専門にした番組が週1で放送されます。こちらにアーカイブ があるので気になる方は是非聞いてみて下さい。
ジャンルの性質上、コンピレーションアルバムやDJミックスがたくさん作られているので、さらにいろいろな楽曲を聞いてみたい方はこのようなミックス を探してみると良いでしょう。
既存のジャンル(Raggamuffin sound, Dancehall, MC chants, Dub basslines)や複雑で重くエディットされたブレイクビートのドラムを取り入れ融合し、Jungleはさらに発展します。
Drum & Bassの注目曲
一方でRaggamuffinの影響を受けたスタイルからは離れ、洗練され落ち着いたサウンドに重いドラムを乗せた楽曲も作られ始めます。
これが後のDrum & Bass(ドラムンベースと発音)というジャンルにつながっていきます。93年にリリースされたThe Invisible Manの「The Beginning」という曲は、Jungle Drum & Bassジャンルの走りの楽曲の一つといわれており、さらに90年代中盤頃からは、より加工のされた、Amen Breakのソウルフルでジャジー(Jazzy)な面を反映した雰囲気を持ったものも出てきます。
■The Invisible Man - The Beginning (93)
VIDEO
■LTJ Bukem - Atlantis (93)
VIDEO
■Tom & Jerry - Airfreshner (94)
VIDEO
Tom & Jerryの「Airfreshner」はBlowflyの「Sesame Street」をベースに、イントロはAlicia Keysの「Unbreakable」と同ネタの「Intimate Friends」(これはPaul Johnsonのカバー)が使われています。
■Goldie - Inner City Life (95)
VIDEO
この年代は、Big beatの記事 で書いたThe Prodigyの説明がちょうど同じぐらいの時期で、どちらも既存のレイヴシーンから影響を受け発展し、Big beatやDrum & Bassが作られていきます。
Drum & Bassはたくさんのサブジャンルを内包する大きいジャンルのため、たくさん楽曲がありますが、私が好きなものをいくつか挙げたいと思います。
■Pendulum - Blood Sugar (07)
VIDEO
■High Contrast - Ghost Of Jungle Past (07)
VIDEO
■Nu:Tone - Jet Stream (07)
VIDEO
■4hero - Morning Child (L.A.O.S. D & B Mix) (07)
VIDEO
95年を過ぎた頃から、Drum & BassはHardstep、Jump-up、Ragga、Intelligentなどがサブジャンルとして分裂し始めます。AtmosphericやJazzstepと呼ばれる、よりメロディックでJazzの影響を受けたサブジャンルが主流になり、96年にはTechnoの影響を受けたTechstepというサブジャンルも登場します。
サブジャンルに関しては挙げたら切りがありませんが、Drum & Bassの主流なところではJump-up、Drumstep(Halftimeとも言う)、Drill 'n' Bass(Fungleとも言う)、ライトなDrum & BassにはIntelligentやAtmospheric、Jazzstep、Liquid funk、Sambassがカテゴライズされ、ヘビーなDrum & BassにはDarkstep、Techstep、Neurofunk、Hardstepがカテゴライズされます。
正直私もこれらを聞き分けられる自信はないですし、聞いてもあまり違いがわからないかもしれません……。
【Jump-up】
DJ Hazard - Bricks Don't Roll
【Drumstep】
Tristam & Braken - Flight
【Drill 'n' Bass】
Squarepusher - 6
【Intelligent】
LTJ Bukem - Atmospherical Jubilancy
【Jazzstep】
Utah Jazz - Take No More
【Techstep】
Bad Company UK - Four Days
【Hardstep】
Zomboy - Mind Control
このようなジャンルの細分化と並行して、 別のジャンルとの融合を図ったAsian Dub Foundationのようなバンドも出てきます。Dub、 Bangla Beats、Raggae、JungleやDrum & Bass、さらにはPunk Rockをミクスチャーした作品を中心にリリースし、 99年にリリースされたアルバムが全英チャート20位を記録します。
■Asian Dub Foundation - Real Great Britain
VIDEO
ここまでBPMの話をしていませんでした。90年初頭のHardcore Jungleの時期はBPM120程度から始まり、Jungle初期は140前後、Jungle最盛期は160とどんどんBPMが上がっていきます。Drum & BassではBPM170~180が一般的です。JungleとDrum & Bassの違いについては、さまざまな切り口からの議論があり、「Jungle Drum & Bass」と呼ばれることもあるためはっきりと違いを定義するのは難しいですが、個人的にJungleはReggaeの影響を受けたサウンドと密接に関係しており、Drum & Bassはその要素のないものとざっくり考えています。
ちなみにStray Kidsの「GO生」はBPM154なのでBPMで当てはめるとするならばJungle中期辺りに該当するでしょうか。楽曲自体はダークな上ネタがあったり、チチチチとTrapのようなハイハットがあったり、Dubstepのようにビートを半分で取るようなところもあり、Jungleがベースなのは間違いないですが、そこにさまざまなジャンルが合わさった楽曲になっています。
Stray Kidsが結成される前、メンバーの3人(バンチャン、 チャンビン、ハン)がやっている3RACHAというユニットで2017年にリリースした楽曲に「P.A.C.E」という楽曲がありますが、これはGrimeというジャンルのものです。Drum & Bassの流行よりもっと先の話ですが、Jungleのビートにラップを乗せたところが始まりと言われているジャンルで、ロンドンで02年頃から流行し始め、09年頃にスタイルが確立します。2step記事 で紹介した2stepやUK GarageをベースにHiphop、Raggae、 JungleやDrum & Bassなどの要素が混ざりあってできたジャンルです。P.A.C.Eの歌詞にはGrimeを代表するラッパーSkeptaの名前が 出てきて、このジャンルを知っている人にはおお! となる要素が盛り込まれています。
VIDEO
さて、いつも通り韓国での話に移ります。
もちろんブレイクビーツという点ではHiphopの楽曲でたくさん採用されていますが、ラップの事を書いた記事 で紹介した韓国のHiphopグループ、ソテジワアイドゥルがロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団との共演形式で2008年に行った単独公演でAmen Breakが登場するので取り上げたいと思います。
オーケストラでは誰もこのAmen breakを叩いている人はいないように見えるので、恐らく録音したものをわざわざ流しているのではないでしょうか。
■서태지 심포니(Seo Taiji Symphony) - 난 알아요 (08/9/27)0:10~0:45
VIDEO
それではK-Pop楽曲に利用されているJungleやDrum & Bassの紹介をしますが、1曲目のEpik highと最後のCHUNG HAのみのみがJungleの楽曲で、あとはほとんどがDrum & Bassです。
■에픽하이(Epik high) - 1분 1초 (Feat. 타루) (11/5/23)
VIDEO
■TWICE - CHEER UP (16/4/25) 1:07~
VIDEO
■빈지노 (Beenzino) - Life In Color (16/5/27)
VIDEO
■드림캐쳐 (Dreamcatcher) - Sleep-walking (17/9/1)
VIDEO
■비투비 (BTOB) - Guiter (Stroke of Love) (17/10/16) 0:55~
VIDEO
■TWICE - What is Love? (18/4/9)
VIDEO
■임팩트 (IMFACT) - 빛나 (The Light) (18/4/17)
VIDEO
■아이오아이 (I.O.I) - 너무너무너무 (Very Very Very) (18/6/26)
VIDEO
■이달의 소녀 (LOONA) - Hi High (18/08/20)
VIDEO
■방탄소년단 (BTS) - I'm Fine (18/8/24) 1:14~
VIDEO
■Stray Kids - 0325 (18/10/23)
VIDEO
■설리 (Sulli) - 도로시 (Dorothy) (19/6/30) 2:30~
VIDEO
■드림캐쳐 (Dreamcatcher) - 거미의 저주 (The curse of the Spider) (19/9/18)
VIDEO
■CHUNG HA (청하) - Pre-Release Single #2 'PLEASURES' Concept Clip (20/7/1)
VIDEO
<落選したけど……紹介したい1曲>
■SEVENTEEN (세븐틴) - My My
VIDEO
Seventeenの夏!です。頭で紹介したStray kidsのアルバム『GO生』に収録されている「청사진(チョンサジン、青写真)」と「비행기(ピヘンギ、飛行機)」とこの「My My」の3曲があればもう今年の夏は越せます。
<近況>
もうご存じのことかとは思いますが、Stray Kidsがカムバックしました。今回は現地に行けないため、夜中にデジタルメディアシティに行って7時間待機し、朝8時前からCJのスタジオで事前収録を見るということもないので、寂しさ半分安心半分という状態です。
今回のコンセプトのおかげか、虹プロのJ.Y.Park社長のおかげか、今まで全くStray Kidsに興味がなかった方も興味を持ってくれているようなのでとても嬉しいです。まだ活動は続くと思いますので、是非一度音楽番組の神メニューステージをご覧になって下さい。エプロンをしている回が当たりです。Youtubeで「Stray kids 神메뉴」で検索!
e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽 、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POP をかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。
Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak
mixcloud eelica