新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2月末から臨時休園となっている東京ディズニーリゾート。ネット上には「コロナが終息したら、いち早く足を運びたい」「その日が来るまで、自粛を頑張る」といった声が飛び交っており、ディズニーリゾートはコロナ禍に苦しむ人々の“心の支え”になっているようだ。
そんな多くの人々に愛されるディズニーリゾートだが、休園によって仕事がなくなった非正規雇用の従業員の中から、生活の困窮を訴える声が上がることに。運営のオリエンタルランドは、休業補償に関して「規定に基づいて補償する」としていたものの、その額は、残業時間を計算に含まない給与の「6割」とされていたそうで、「生活できない」という従業員が出てきたというのだ。
結果的に、先月中旬、オリエンタルランドは給与の6割を1~2割程度積み増す方針に切り替えたというが、実は以前からディズニーリゾートの労働環境は「ブラック」と言われ続けている。2018年には、ディズニーランドで着ぐるみアクターをしてきた女性社員2人が、過重労働やパワハラで体調を崩し、その原因はオリエンタルランドが安全配慮義務を怠ったためだとして、訴訟を起こしたこともある。
サイゾーウーマンでは、かつてディズニーリゾートのブラックな実態を探るべく、「労働組合なのはなユニオン」(オリエンタルランドユニオンの上部団体)の委員長・鴨桃代氏に取材を行っていた。オリエンタルランドの非正規雇用従業員から、労働問題に関する相談を受け、改善・解決を図ってきた鴨氏が悪しき問題の数々を語ってくれたインタビューを、いまあらためて掲載する。
(編集部)
(初出:2018年8月30日)
ディズニーランドで働く人の“ブラック”な実情――「パワハラ」「雇い止め」悪しき問題の数々
子どもから大人まで、訪れる全ての人が魔法にかかると言われる「ディズニーランド」。夢の国として愛されるテーマパークだが、従業員にかけられた魔法は、“ヴィランズ”によるものだったかもしれない――。
今年7月、ディズニーランドで着ぐるみアクターをしてきた女性社員2人が、過重労働やパワハラで体調を崩したのは、運営会社のオリエンタルランドが安全配慮義務を怠ったためだとして、損害賠償を求める訴訟を起こした。オリエンタルランドは、もともと従業員の約8割が非正規雇用で、彼らが労働環境の改善を会社に訴えることすらままならない状態が続き、一部で「ブラック企業」と呼ばれることもあった。一方、昨年4月には、そんな非正規雇用従業員が、オリエンタルランドの労働組合OFS(Orientalland Friendship Society)に加入するという動きがあり、世間の注目を集めたが、果たしてその後、何らかの改善は見られたのだろうか?
これまでオリエンタルランドの非正規雇用従業員から、労働問題に関する相談を受け、改善・解決を図ってきた「労働組合なのはなユニオン」(オリエンタルランドユニオンの上部団体)の委員長・鴨桃代氏に“夢の国のブラックな実態”を聞いた。
――昨年の春、オリエンタルランドが、非正規雇用従業員を労働組合の組合員にした動きは、ブラック企業体質脱却への第一歩と感じましたが、実際に目に見えた変化はあったのでしょうか?
鴨桃代氏(以下、鴨) 組合に入ると「組合費」を徴収されるのですが、「それを支払っても手取り額は維持されるから」として、組合加入を呼びかけたということで、時給がアップしました。そのほかに変化を感じる出来事はないですね。
もともとは約2,000人いる正社員のための組合だったOFSが会社と協定を結び、これまで対象外だった約2万人の非正規雇用従業員を組合に加入させたので、非正規雇用従業員の賃金や労働条件の改善を期待したのですが……。実際は、「ステンレスボトルの携帯が可能となった」ということはあったものの、OFSの主たる活動はバスツアー、ボーリング大会や貸切映画鑑賞などのレクリエーションのようです。
――改善が見られないのはなぜでしょうか?
鴨 昨年の春以前にも、非正規雇用従業員の労働問題は存在していましたが、OFSは取り合いませんでした。それで、私どものような労働組合ができたのですが、非正規雇用従業員が組合員になってからも姿勢は変わらず、問題を積極的に取り上げて対処していないようなので、大きな変化が見られないのだと思います。もし、OFSが働いている人の立場に立って、組合として問題解決のために動くというスタンスであれば、問題を改善する動きが集中していくと思うのですが、現段階ではカタチとして組合ができたとしか思えない状況なので、今でも私たちのところへ、非正規雇用従業員の方が相談に来られるのだと思います。
――非正規雇用従業員を組合員にした意味があまり感じられませんよね。
鴨 会社側と「36協定(残業や休日労働を行う場合に必要な手続き)」などの労使協定を結ぶには、全従業員の過半数を超える組合員数が必要なのですが、OFSの組合員は、全従業員の2割程度の正社員だけだったので、労使協定を結ぶ対象にはなりません。その場合「過半数代表者(労働者の過半数を代表する者)」による協定が締結されたとしても、民主的選出手続きを経ていなければ、もし対象とならない8割の非正規雇用従業員から協定内容を問題視する声が上がったりしたら、その協定は法的には無効です。そうしたこともあり、全従業員を組合員の対象にしたのではないかと思います。
――なのはなユニオンが、オリエンタルランドの労働問題に取り組み始めたきっかけを教えてください。
鴨 オリエンタルランド側から「ショーがなくなったので」と解雇されてしまった非正規雇用従業員のパフォーマーたちから相談を受けたのがきっかけです。非正規雇用とひとくくりに言われますが、オリエンタルランドとの直接雇用と、請負業者を間に挟む間接雇用があり、彼らはまさにその間接雇用でした。その場合、本来は請負業者がパフォーマーへの業務指示や労働時間の管理などをしなければならないものの、実質は、衣装の貸出や業務指導、遅刻の際の反省文提出など、オリエンタルランドのスーパーバイザーやステージマネージャーが行っていたため、「これは偽装請負にあたる」として、解雇を撤回し直接雇用してほしいと、オリエンタルランドに交渉申し入れしました。しかし、直接雇用ではないことを理由に交渉を拒否されてしまい、1年間近く舞浜駅周辺で宣伝行動を続け、その様子を見聞きしたほかの非正規雇用従業員が、相談に来るようになったんです。
――これまで寄せられた相談には、どのようなものがありましたか?
鴨 多いのは「契約上の収入額が保証されない」という相談です。天候が悪くなって来場者数が減るとシフト途中でも帰宅を命ぜられたり、そもそも悪天候が予想される日の前日に「明日は来なくていい」と言われたり、あとは、閑散期にシフトを減らされるなどしたそうです。ある男性は、時給200円アップの早朝の時間帯を含む労働時間で契約したのに、いざ働き始めると、早朝勤務にほとんどいれてもらえず、合計の勤務時間も事前に言われたものより短く、手取りが11万くらいで生活できないと言っていました。
結婚して家庭を持っている生計維持者や、単身で自活している人などは、シフトをやたら削られると、たちまち生活が立ち行かなくなってしまいます。そのため、オリエンタルランドに対して、「月最低120時間」の労働時間の保障を交渉で求めました。それでも、平均時給1,000円だと、月12万円にしかなりません。そこから保険や税金などが引かれるので、十分な額とは言えないんです。交渉を重ね、現在は月114時間まで保障されるようになりましたが、いまだ120時間には達していません。
――時給1,000円が平均的なのですね。ディズニーランドの盛況ぶりを見ると、オリエンタルランドはかなり儲かっている印象なので、意外に低いと思いました。
鴨 そうですよね。オリエンタルランド側が値上げを実施したのは、16年春の「普通に働けば10円、頑張って働けば20円アップ」と、昨年春の「組合費分アップ」で、それらを除けばもう何年も上がっていませんね。我々も毎年春先に賃金アップの交渉をしているのですが……。ディズニーランド周辺地域の時給平均は上がっていっているので、実際のところ、ほかで働いた方が生活は安定するのでは。でも、ディズニーランドが大好きで、「ここで働きたい!」という強い熱意を持って働いている人が多いため、正規雇用でなくても、時給が低くても、これでよいと思っているというのが現状だと感じます。
――ほかにはどのような問題がありましたか?
鴨 雇用契約の更新をしない、いわゆる雇い止めです。しかも、その理由が、雇い止めには値しないような内容です。例えば、非正規雇用従業員のAさんは、直属の上司であるスーパーバイザーに、「Bさんが『Aさんに睨まれた。顔が怖い』と言っている」と、注意を受けたそうです。Aさんとしては、Bさんがその日、急遽「仮のパートリーダー」に任命されたので、「大丈夫かな?」と様子を見ていただけだったと。Aさんは、「睨んだつもりはなかったが、怖がらせたのならごめんなさい」と、スーパーバイザーに素直に謝り、翌日Bさんにも直接謝罪をしたのですが、その日の昼に再びスーパーバイザーに呼ばれて、「なぜ直接Bさんに謝ったんだ。本人が怖がっているじゃないか。謝りたいなら僕を通せ」と言われ、事実確認書まで書かされました。
そういうことが積み重なってAさんは、「業務指示に対し、横柄な態度を取っている」として、次の更新はできないと言われてしまったのです。Aさんが契約終了の確認書への署名を拒否したところ、小部屋でスーパーバイザー2人とAさんが働く店の店長という3対1の状態で、4時間にわたって詰められ、「書いても書かなくても契約終了は決まっている」と言われて、署名してしまったものの、やはり納得がいかないと、なのはなユニオンへ相談がありました。団体交渉を申し入れ、会社が調査した結果、「事実確認書は始末書ではない。更新しない理由にはならない」として、すぐに復帰できたんです。
――にわかには信じられない雇い止め理由ですね……。
鴨 ほかにも、パワハラが原因で心の病気になり、1カ月以上休んだところ、「就業規則に反する」として雇い止めをされたという方もいました。そもそもの原因はパワハラなので、雇い止めはおかしいと訴えたところ、会社がパワハラを含めて調査を行い、その事実を認め、リハビリ復帰かつ部署も変更になり、無事、復職することができました。ほかにもいろいろな理由による雇い止めがありましたが、ほとんどが交渉で復帰できています。逆にいうと、その程度の理由で雇い止めをしているということなんです。
――7月に、パワハラで訴えを起こした女性のニュースが話題になりました。上司から「病気なのか。それなら死んじまえ」「俺の前に汚ねえ面見せるな」、先輩から「お前みたいにやる気のない奴は、全力で潰すから」など、従業員12名に暴言を吐かれた……という。あの夢の国で、そんなパワハラが行われていたとは、と戦慄しました。
鴨 パワハラの相談は結構あります。多くは暴言ですが、「無視」や「排除」など、カタチとして見えづらく、交渉するにも立証しづらいケースも多いですね。スーパーバイザーや店長といった上司からだけでなく、同僚間でもあるようです。ただ、セクハラそのものでの相談は、今のところ一度もありません。
なお、全てのスーパーバイザーが問題だということではありません。相談に来た方から「あのスーパーバイザーはすごくいい人だ」といった話も聞くので、どの上司の下に就くかで、環境が違ってくるということはあるようです。とはいえ、賃金や労働条件など、根本的に改善すべき問題があるのは間違いありません。1日も早く改善されて、働く人にとっても“夢の国”であってほしいと願います。
(後編につづく)