新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、テレビや雑誌、SNS等では「免疫力を高める食品」が多数紹介されている。全国のスーパーでは現在、納豆やヨーグルトが品薄になっているというが、これは「発酵食品は免疫力を高めるため、病気の予防になる」といったイメージが古くからあり、メディアでも取り上げられたことが関係しているよう。ネット上には「新型コロナに感染しないように、毎日納豆食べてます!」「『納豆食べると免疫力が上がる』ってテレビで言ってた。だからスーパーに売ってなかったのか……」といった声が散見される。
納豆のほかにも、「食べると免疫力が上がり、新型コロナウイルスを含む病気の予防に効果的」だとウワサされる食品はいくつもある。しかし、本当にその食品を“食べるだけ”で期待する効果が表れるのだろうか? ネット上でウワサされる3品についての解説も含め、管理栄養士の成田崇信氏に話を聞いた。
そもそも「免疫力」自体が曖昧なもの
――「免疫を上げる食品」がメディアで多数紹介されていますが、その食品を食べるだけで「免疫力が上がる」ということはあるのでしょうか?
成田崇信氏(以下、成田) まず大前提として、「免疫力」という言葉自体が曖昧なものです。血液検査をしたときに「免疫力の数値」が測れるようなイメージがあるかもしれませんが、そんな単純なものではありません。実は専門用語にも「免疫力」という言葉はなく、「免疫」という単語が使われています。
免疫については、病原体に感染した細胞を排除するNK細胞(ナチュラルキラー細胞)の活性を測り、免疫力を判定するという話がよく聞かれますが、NK細胞の活性率は高ければいいわけではありません。病原体が侵入し、排除する必要のあるときだけ活性が高まれば十分だからです。NK細胞は炎症性物質などを生み出し、病原体や腫瘍細胞を排除しますが、普段から体内でこのようなことが起こっていると、病気でもないのに体が疲弊してしまうでしょう。
NK細胞のほかにも免疫に関係する体の仕組みはいくつもあり、それらが協力し合って体の免疫は保たれています。よって、「免疫に関係する指標を上げる食品」はありますが、それが「体の免疫機能を向上させる食品」かどうかはまた別の問題、ということになります。
――「体の免疫機能を向上させる食品」というのは、具体的にどのようなものでしょうか?
成田 ビタミンAやビタミンCが不足すると、健康な皮膚をつくれなくなるため、感染症にかかりやすくなると考えられます。皮膚はウイルスなどの病原微生物の侵入を防ぐ壁としての役割を担っているため、広い意味で免疫に関わる細胞といえます。また、タンパク質や亜鉛は免疫細胞の機能を維持するために必要な栄養素ですので、不足すると免疫機能が低下することがわかっています。とはいえ、これらの栄養素が摂取できる特別な食べ物で免疫機能アップを期待するよりも、バランスのとれた食事で栄養素が不足しないように配慮することのほうが、はるかに大事です。
――ネット上で「免疫力が上がる」といわれている3つの食品について、ご意見をお聞かせください。
1)納豆……「新型コロナウイルスに感染しないのは納豆を食べているから」といった情報が出回り、品薄になるスーパーが続出。納豆やみそ、チーズなどの発酵食品は、もともと「免疫力を上げる食材」といわれている。
成田 まず「納豆が新型コロナウイルスに対して有効である」という説について、信頼性の高い報告はありません。一方で、納豆に限らず、発酵食品と免疫の関係性は研究分野でも注目され、さまざまな研究が行われています。発酵食品の中では、ヨーグルトや乳酸菌飲料などのプロバイオティクス食品の研究が一番盛んに行われているため、「風邪の予防に効果がある」と既成事実のように宣伝されていますが、実は質の高い研究は少なく、トクホや機能性表示食品の基準をクリアしている程度です。薬のように効果を期待できるレベルには達していない、というのが現時点の評価といえます。
2)はちみつ……「はちみつとバターをパンに塗って食べると免疫力アップ」なる情報がテレビで紹介され、一部スーパーで品薄状態に。新型コロナウイルスが流行する前から、「風邪の予防にも効果がある」との宣伝で商品が売られていることもある。
成田 風邪の予防や免疫機能の向上効果は認められていませんが、はちみつには風邪のせき症状を抑える効果が、質の高い研究(システマティックレビュー)で実証されています。なお、乳児ボツリヌス症のリスクがあるので、1歳未満の子どもには与えないようにしてください。
3) バナナ……栄養豊富で低カロリーとして知られる。新型コロナウイルスの流行後は、「温めてから食べると免疫力アップになる」とテレビで紹介されたこともある。
成田 内臓への負担を考えると、冷たいバナナシェイクよりは、温めたバナナを食べたほうがよいと思います。ただ、免疫機能を向上させるかといわれれば眉唾でしょう。バナナに限らず、「体を冷やす食べ物」「温める食べ物」という分類もあまり根拠がない話ですので、意識しすぎて偏食にならないよう気をつけてほしいです。
――「免疫力アップ」に限らず、「〇〇を食べると健康になる」といった情報について、管理栄養士の視点から見てどう思われますか?
成田 「しっかりとした骨をつくるために、ビタミンDやカルシウムが豊富に摂れる食事をしましょう」といったアドバイスであればよいと思います。しかし、薬のような治療効果を食品に期待させるような宣伝は、問題だと思っています。テレビの健康番組で特定の食品が「体に良い」と紹介されると、店頭の商品が売り切れてしまう現象もありますが、その健康効果に期待して同じ食品ばかり口にしていると、栄養バランスが崩れ、別の病気にかかるリスクが高くなってしまうかもしれません。
――食べ物で「病気の予防」をする際、最も大切なことはなんでしょうか?
成田 バランスの良い食生活を心がける、三食きちんと食べるというアドバイスが基本になりますが、「バランスの良い食事を毎日三食食べる」というのは、多くの人にとって結構ハードルが高いことだと思います。ビタミンCなどの水溶性ビタミンは、すぐに体外へ流れてしまうイメージがありますが、ある程度は体の中に蓄えることができます。なので、「毎食しっかりと食べなければならない」ということではないのです。1週間のトータルで見た場合、それなりに栄養バランスがとれていれば問題ないと思います。
なお、日本人の食生活では、乳製品、豆類、ナッツ類が不足する人が多いです。1週間を振り返ってみて不足が気になるようなら、次の1週間でこれらを食事に取り入れるとよいでしょう。また、食生活は就寝時間などの生活習慣とも大きく関係しますので、食事を整えるのが難しい場合には、ほかの習慣を見直す必要があるかもしれません。
■成田崇信(なりた・たかのぶ)
管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)