有名人のSNS炎上が後を絶たない中、最近では一般人からの批判に「反論」を行い、注目を集める人物も少なくない。中でも、最近特に話題を呼んだのが、エイベックス代表取締役会長CEO・松浦勝人氏、はあちゅう氏、MLBシカゴ・カブスのダルビッシュ有投手だ。この3人の炎上パターンは、SNSでの言動がネットユーザーから批判され、それに対して本人が反論し、それがまた再反論を呼んで炎上が拡大していくといったもの。有名人本人が、SNSで批判に真っ向から反論することは、炎上リスクを爆発的に高めているように思えるが、ネット中傷、ネット炎上対応に詳しい法律事務所アルシエンの弁護士・清水陽平氏はこうした行為をどのように感じるか、話をお聞きした。
本来なら炎上を回避できた、松浦勝人氏の「Snow Man・ラウール」制服写真騒動
――有名人が、一般ユーザーの批判に対して反論を行うのは、炎上リスクを高めているように思うのですが、こうした振る舞いをどのように思いますか。
清水陽平氏(以下、清水氏) おっしゃる通り、人は反論されると、再反論したくなるものなので、炎上リスクをさらに高めていると思います。昔からネットでは「スルースキルが重要」と言われますが、まさにそれを「試されている」と言っていいでしょう。ただ必ずしも黙っていればいいというわけではありません。
――例えば有名人が、炎上リスクを回避しながら、批判に対して自分の意見を主張したいときには、どうすればいいでしょうか。
清水 ネットユーザーは感情的になっていることが多いので、それに対して、また感情的に反論すると炎上する。ですから、冷静に客観的な証拠を出し、論理立てて説明すれば炎上リスクは回避できると思います。例えば、松浦氏の炎上ケース(※1)がそう言えるでしょう。
(※1)松浦氏が2月19日、1月にエイベックスからデビューしたジャニーズグループ「Snow Man」とのオフショットをTwitterで公開。未成年のメンバー・ラウールが制服を着用した姿で写っていたため、「学校特定」を危惧したファンが、松浦氏に写真削除を求めると、いったんは削除となったものの、数時間後に「#制服許可済み」のタグをつけて再アップ。それでも批判が止まらないと見るや、「間違いを認め、そして、学校にも許可を取り、していることに対してあなたは何者のつもりでこれをいうの? 分からん。あなたどれだけの人なの?」「なんか、一生懸命曲を作ろうと思ってんのに腰を折られるよね。なんだな自分が守ってあげてんだ的なひとたち。わずかだけど俺たちのやる気が失せて、いいことがあるのかね」など、ファンを挑発するようなツイートを連発した。
芸能人の場合は「オフショットを公開してほしい」という人もいるので、本人や事務所、学校への許可さえあれば、出すこと自体はいけないわけではありません。松浦氏は一度削除したものの、数時間後に「#制服許可済み」とハッシュタグを付けて公開している。ファンからは「一回世に出してしまったから、学校側も仕方なく許可を出したのではないか」という声がありましたが、松浦氏が「その点も含めて確認しました」「ここはあえて出そうということになった」など、なにかしら経緯の説明を行えば、ファンも納得できたはず。しかし、松浦氏は「あなたどれだけの人なの?」などと感情的に反論しています。結局、「感情 対 感情」になってしまい、炎上が拡大してしまいました。
――はあちゅう氏の「血液クレンジング」をめぐる炎上(※2)についてはいかがでしょう。
(※2)昨年、「血液クレンジング」に対し、「医学的に根拠がない」という批判が巻き起こった際、はあちゅう氏が、2012〜13年に、ブログで「血液クレンジング」の体験談を何度も紹介していたことが発覚。「医学的裏付けのないものをステマしていたのでは」と炎上に発展した。その後、はあちゅう氏は「BuzzFeedNews」のインタビュー(19年11月10日付「はあちゅう、血液クレンジング拡散を謝罪『ステマではない』『何も信じられない』」)で、ステマではないとしつつも、「裏どりのできていない健康法を安易に広めてしまったことに対して申し訳ない」と謝罪したが、今年2月10日にTwitterで「その後、いろいろな立場のお医者様に話を聞く機会があり、病気を『治療』できる標準医療ではないけれど、『予防』医療の観点では部分的効果が認められ、『ニセ医療』ではないと断言する方にも複数お会いしました」と、批判に対する反論と取れるツイートをして再炎上。加えて同日「BuzzFeedNews」の取材について「『取材を受けるのは炎上を利用した売名行為ではないですか?』と聞かれたのはびっくりした&悲しかった。依頼したのそっちなのに…と」と記者を批判し、当人から「そのような発言は一切していません」と反論された。
清水 はあちゅう氏の行った反論に関しては、申し訳ないのですが「論外」です。はあちゅう氏の反論には、「血液クレンジング」に関する客観的証拠が何も記載されていないので。また「BuzzFeedNews」の記者に対して批判ツイートをした件も、記者が「そのような発言は一切していません」「揶揄することなどあり得ません」と冷静に反論したことによって、結果的に、はあちゅう氏が解釈を間違えていたであろうことが、浮き彫りになってしまいました。
――SNSでは、専門知識を持つ医師からも批判の声が上がっています。そうした医師に対して、はあちゅう氏が「『はあちゅう嫌い』が先にあって、私が医学的根拠に乏しいことをうっかりつぶやくと『はあちゅうサンガー!!』って嬉しそうに騒ぎ出す医者クラスタも嫌い」(2月10日)というツイートをし、またもや非難の嵐になったのですが……。
清水 批判している医師側は、医学的根拠のない治療法を拡散することに対し、善意で警鐘を鳴らしているだけであって、個人的な「好き嫌い」の感情で言ってるわけではない……客観的に、そう見えると思います。ただ、医師たちの中には攻撃的な言い方をする人もいるので、はあちゅう氏が不快に思う気持ちもわからないではありません。しかし、そうした専門家の指摘よりも「自分のほうが実は詳しい」と受け取れる姿勢でツイートしているので炎上が収まらないのでしょう。
――ちなみに、この騒動の最中、はあちゅう氏が「去年ある会社に『旦那観察日記』グッズ化のご提案を頂いて、デザインをお願いしたら出てきたのがこれで、これはやばいと思いました」と、自著『旦那観察日記』(スクウェア・エニックス)のキャラグッズデザインの“ボツ案”をTwitterにアップ。その後、「気持ちをいろいろ言ったら、気が済んだのでツイートいくつか消しました」と削除しています。これもネット上で大きな批判を呼びました。
清水 それは、はあちゅう氏がデザイナーの著作権を侵害している可能性がありますね。著作権は、権利自体を譲渡していない限り、基本的にはデザインをした人が持っています。通常、サンプルとして上がってきてボツになったデザインに関しては、はあちゅう氏に権利が譲渡されていたり、また著作権者と「自由に使用可能」という契約を結んでいるケースはほとんどないと思うので、デザイナーがはあちゅう氏を訴えれば勝ちます。削除しても権利侵害があった事実は消せるわけではありません。
――ダルビッシュ氏(※3)はいかがでしょう。
(※3)ダルビッシュ氏は、Twitterにて一般人ユーザーと日常的に「レスバトル」をしていると注目を浴びている。19年11月7日、少年と撮影した写真をアップしたのだが、少年を「ダルビッシュ氏の息子」と勘違いした女性ユーザーからリプを受け取ると、「はい?」と返信。それを見た別のユーザーが「そんな強い口調で言わなくてもいいのにはい?とか」と批判すると、「はい?のどこが強いんでしょう笑」「訳の分からない価値観を押し付けるのはやめてください」「わざわざ俺のTwitterにまできてクソみたいなことをわざわざ言いに来る人に黙れって言ってなにが悪いんだよ笑」などと怒涛の反論を展開した。
清水 ダルビッシュ氏の「レスバトル」を見ていると、一般人と有名人の「互いの認識」のギャップが、炎上を発生しやすくしているように思います。というのも、一般人は有名人のことをよく知っているため、友達ではないのに「友達感覚」で話しかけてしまう面があるものの、有名人からすると、突然知らない相手から馴れ馴れしく話しかけられたと感じ、その認識のギャップが炎上の火種となる。ただ、この事例について言えば、ダルビッシュ氏の主張は客観的に見て「そこまで批判されなければいけないことなのかな」と感じますし、特に問題があるようには思いません。
ちなみに、有名人が炎上を避けたほうがいいのは、炎上によって仕事などに悪影響が及ぶからですが、彼はスポーツ選手であり、実力で勝負する世界の人なので、よほど倫理的に問題がある発言でない限りは、炎上による悪影響はないと思います。
――はあちゅう氏は、19年10月5日に「匿名で誹謗中傷をしてくる人に対しては、慰謝料もだけど、顔写真と名前を公開する刑でいいと個人的には思う」とツイートしています。SNSでは「反対意見」と「誹謗中傷」の境目があやふやになっている印象があるのですが、そもそも「誹謗中傷」とは法的にどのように定義されているのでしょうか。
清水 「誹謗中傷」は法的概念ではありません。誹謗中傷を法的に言うと、プライバシー権侵害、名誉権侵害、名誉感情の侵害のどれかに当たると思います。プライバシー権侵害は、個人の生活などを勝手に公開すること。本人が発信しているものは構いませんが、本人が発信してないものを勝手に公開すれば、プライバシー権の侵害になります。名誉権侵害は、簡単に言うと「社会的評価を下げる」情報を発信すること。社会的評価の低下をわかりやすく説明すると、他者に「この人と付き合いたくない」と思われるかどうか。例えば「この人は犯罪者です」「詐欺をしています」「不倫しています」などとネットに書かれたら、社会的評価が下がりますよね。名誉感情の侵害というのは、本人が不快に感じる言葉などを発信することです。
――プライバシー権侵害、名誉権侵害、名誉感情の侵害に当たらなければ、誹謗中傷ではないと考えられますが、例えば「バカ」「アホ」「ブス」「嫌い」などの中傷は違法なのでしょうか。
清水 「バカ」「アホ」「ブス」「嫌い」などと書かれた人は、不快な思いをするでしょう。これは、名誉感情の問題で、侵害か否かは、「本人が不快に思うかどうか」によります。しかしそうなると、なんでもかんでも名誉感情の侵害になり、他人が意見を言えなくなることも考えられる。なので、名誉感情は法的な概念としては存在しているものの、「誰が見ても言いすぎだ」というレベルにまで達していなければ、名誉感情の侵害は成立しません。なお、はあちゅう氏が「誹謗中傷」と捉えているのは、ほとんどが名誉感情の問題だと思います。
――となると、名誉感情を侵害されたとして訴えても、勝ち目はあまりないということですか。言われ損のような気もします。
清水 そうですね。「殺害予告」と同レベルくらいの中傷でないと厳しいと思います。「殺す」というのは脅迫罪。「死ね」「死んでほしい」は名誉感情侵害の可能性がありますが、単に「死ね」ではなく「めった刺しにしたい」などの表現ではないと、訴えるのは難しい。実際、こうしたネット上の攻撃に悩んで、ご相談に来られる方はとても多いのですが……。
また、専用のアンチアカウントに対処したいという相談も多いものの、そのアカウントのツイート内容をよく見てみると、アカウント本人が発信しているのではなく、アンチコメントをひたすらリツイートしているばかりのものも多い。そうすると、法的に対処するのは難しい状況です。
――ちなみに有名人の炎上騒動が起こると、テレビ局やスポンサー企業に電話をかけて「このタレントを降板させろ」などと要求する一般人もいるようですが……。
清水 その相談も多いのですが、法的に取り締まることは難しいです。
――結局、有名人は、ある程度の批判や中傷は、スルーするしかないかもしれませんね。
素水 有名人が不快になるようなことをあえて送りつけ「ストレス発散」している人、また、批判を言うことで、独りよがりな正義感を暴走させる人もいると思います。有名人は、そういった意見に対し、冷静に反対意見を発信するのは構いませんが、感情的に返すと、やはり炎上しやすい。全ての人に好意的に受け止められることはないと、ある程度割り切ってもいいのかもしれませんね。
(取材・文=安楽由紀子)
清水陽平(しみず・ようへい)
2010年法律事務所アルシエンを開設。ネット中傷の削除・発信者情報開示請求や、ネット炎上対応などを得意分野とする。著書に『サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル第3版』(弘文堂)、『企業を守る ネット炎上対応の実務』(学陽書房)などがある。
・法律事務所アルシエン