「いきなり!ステーキ」の客離れが始まったらしい――そんなウワサがささやかれ出したのは、一昨年のことだった。2013年、東京・銀座に第1号店がオープンして以来、低価格で上質なステーキを味わえること、また立ち食い形式という目新しさが話題となり、急速なチェーン展開で全国各地に約500店舗を構えるようになったが、徐々に集客力の弱まりが指摘され、売上高が右肩下がりに転じたのだ。
昨年11月には、「いきなり!ステーキ」の不振が響き、運営会社ペッパーフードサービスが、同年12月期の連結営業損益は7億3100万円の赤字になる予想だと発表。同年10月の既存店の売り上げは、前年の同月から約4割もダウンしたという。これを踏まえ、「いきなり!ステーキ」全店の1割弱にあたる44店を閉鎖することとなった。
こうした「大量閉店」という惨状を受け、同社代表取締役社長CEO・一瀬邦夫氏が動いた――12月初旬から、全国の店舗に順次「社長からのお願いでございます」という直筆メッセージのコピーが貼られ、ひっ迫する現状とともに「創業者一瀬邦夫からのお願いです ぜひ皆様のご来店を心よりお待ちしております」との懇願がつづられていたのだ。他に類を見ないなりふり構わぬこの集客方法はSNSで話題を呼び、1月初旬には、一瀬氏の直筆メッセージ第2弾が店頭に掲示されることに。ここでは、お客様からのクレーム内容を明かし、「一番の人気ステーキを柔らかくて美味しいと言って頂けます様努力してまいります」と一瀬氏は決意表明をつづった。
しかしこの一瀬社長の直筆メッセージは、SNS上で絶賛されているわけではなく、一部で「文面からどことなく上から目線を感じる」「何だか奇怪な文章」と言われ、反発を抱く者も少なくない様子。今回“言葉のプロ”である現役校正・校閲者A氏にこのメッセージを読んでもらい、その問題点を解説してもらった。
実際に店頭に掲示された張り紙を見てきたというA氏は、開口一番「社長直筆の文字が紙いっぱいに書かれているさまは、『耳なし芳一』を連想せずにはいられず、ゾッとしてしまいました(笑)」と率直な感想を述べる。そして、真っ先に “赤字”を入れたくなった箇所として、「店名」を挙げた。
「第1弾、第2弾ともに、社長自ら店名の誤表記をしています。『いきなり!ステーキ』が正式名称なのに、『いきなりステーキ』と表記しており、これはいただけません。たとえ手書きで書いたとしても、1店舗に貼り出しているものではなく、コピーしたものをプリントアウトして全店舗に掲示している、いわば公式文書だけに、店名は正しく記すべきでしょう」
続けてA氏は、「改行もでたらめで読みにくい。実は読んでほしくないのかなとさえ思えてきます」と校正者としての目を光らせる。また、第1弾の「お客様のご来店が減少しております このままではお近くの店を閉めることになります」という部分や、第2弾の「御新規のお客様が硬いステーキを食べられた時、もう二度と来られないばかりか、悪い口こみが店を台無しにします」という部分などに、「やはり社長の『上から目線』を感じた」そうだ。
「これを店頭に貼るということは、つまり、これから店に入ろうとするお客様に向けて、その目線を送っているわけです。そもそも、来店数が減少し、閉店が続いている、このままでは近くの店まで閉めることになるぞ……というのは、上から目線どころか、ご来店のお客様を“脅し”にかかっているようにも見えます。この文面では、せっかく店まで足を運んでくれたお客様を追い返しかねません」
総じて、一企業の社長が発信するメッセージとしては、あまりにも欠点だらけのように見えるが、A氏は「『今どきこういう拙さがSNSでウケるんだよ』または『自虐的でストレートなメッセージの方が、ネット上では面白がられ拡散するんだよ』といった発想かもしれない」と考察を繰り広げる。
「しかし、天然ではなく、狙って実行してしまうと裏目に出るのが今の世だけに、校正者としてはSNSウケを意識することはオススメできません。また、直筆というのも気になりますね。ラブレターじゃないですが、シンプルに『手書きこそ思いが伝わるんだよ』などとお考えかもしれません。ただ、その思いが情念のようなものであった場合、読み手にその念が伝播してしまうことの『はた迷惑』を考えられる経営者であってほしいと思いました」
A氏が足を運んだのは、新宿西口店とのことで、数ある店舗の中でも繁盛店なのか、当時行列ができていたそうだ。しかし、問題の直筆メッセージは、お客様から読みにくい場所に掲示してあり、そうなると、「もはやただの落書きで、よく言えばグラフィティ、社長のパフォーマンス作品……あるいはポエムと捉えると微笑ましくもあるかもしれません。メッセージの内容から掲示方法に至るまで、社長に社内の誰かが『いかがなものか』と忠告すべきだと思うのですが、ワンマン経営者はたいていイエスマンを従えますから、期待できない話でしょう」。
この一瀬氏直筆メッセージ作戦は、話題にはなったため、その点では狙い通りだったかもしれないが、「集客面へのプラス効果はまったくないと言えるのでは」と厳しく評価するA氏。では、どのような点をリライトすればよいのだろうか。
「すでに、マーケティングや経営コンサルティングの立場からリライトを試みた、その分野の専門の方がいらっしゃいます。ただ、どれも業績や情報を丁寧に補足する分、さらに長文になってしまっています。それも正しい在り方の一つではありますが、店頭で読ませるものとしては適していません。長文なら自社ホームページに『社長から今月のメッセージ』コーナーでも設けて発信するとよいかもしれません」
A氏は校正者として、具体的なリライト案のポイントを挙げる。
「第1弾が12月初旬、第2弾が年明けの1月第1週目に掲示されたということで、そのタイミングであれば、タイトルを『年末のご挨拶』『年始(新年)のご挨拶』にすべきだと思います。いくら“イケイケドンドン”のスタンスでも、季節の移ろいぐらいは感じる経営者でいてほしいところです。時節に合った挨拶は心がけるべきでしょう。それは紙にぎっしり書いてしまうことも同様で、余白で読ませるゆとりはほしいです」
また、メッセージには、自社が食文化を発明し、店舗の拡大を続けたこと、一転、業績が悪化し店舗が減少したこと、さらに「肉が硬い」というクレームと悪い口コミへの危惧や今後の抱負などが脈絡もなくつづられていたが、「これらはつまり『自慢』であったり、『腹が立つこと』であったり、『懇願』であったりなど、感情的なメッセージなんです。一企業の社長としては、当然そこはぐっと堪えるべき。特に、口コミ内容を過剰に意識しているようで、その点が気になりますね。そこをお客様に悟られると『ケツの穴の小さい奴』と思われてしまい、社長も不本意でしょう」という。
さらにA氏は「1.店頭に貼ること」「2.手書きふうであること」「3.最低限発信したい情報」「4.少々『らしさ』(拙さ、よく言えば実直さ)を残す」を条件にメッセージをリライトしてくれた。
まずA氏は、「社長の原文を極力生かす」という方針で、どんどんと赤字を入れていき、次のようなリライト文を仕上げた。
問題視されていた「上から目線」はだいぶ解消されたものの、A氏は「それでもやはり『耳なし芳一』問題が解消されませんね……」と赤ペンを離さない。再度、「文量を少なくすること」を念頭に文章を整えていく。
一瀬氏が、新たな「いきなり!ステーキ」の店頭に直筆メッセージを掲げる日もそう遠くない気もする。次回の、お願いメッセージという名の“作品”も楽しみにしたいところだ。

