くまモン、ふなっしー、しんじょう君、ひこにゃん……「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」などと呼ばれ、日本文化のひとつとして定着したマスコットキャラクター。2008年に「ゆるキャラ」が新語・流行語大賞にノミネートされるとブームに火が付き、日本各地で新しいキャラクターが多数誕生した。現在は、その存在が違和感なく日常に溶け込んでいる。
一方で、このところ「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」界隈では、不穏なトピックスがちらほら。キャラクターのデザインをめぐる著作権問題、『ゆるキャラグランプリ』の不正な組織票疑惑など、ブームは去ったかと思いきや、“ゆるくない”話題が絶えることはない。今年で10回目を迎える『ゆるキャラグランプリ2019』の投票受付が始まった8月の某日、『ゆるキャラ論 ~ゆるくない「ゆるキャラ」の実態~』(ボイジャー)の共著者であり、自身もキャラクター制作に携わるデザイナーの犬山秋彦氏に、「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」界の裏事情を聞いた。
『ゆるキャラグランプリ』は“人気投票”ではない!?
――10年から始まった『ゆるキャラグランプリ』が今年も開催されます。ズバリ、今回の優勝候補はどのキャラクターだと思われますか。
犬山秋彦氏(以下、犬山) 今年はだいぶ“地味な戦い”ではあると思いますが、注目しているのは、『ゆるキャラグランプリ2019』開催地・長野県のご当地キャラクター「アルクマ」です。開催地は現地投票のポイントが倍になるなど“ボーナス点”がつく上に、地元の人が投票するので、そもそも開催地は有利なんですよ。
アルクマの場合は、11年に「長野県観光PRキャラクター」となり、県内外のキャンペーンでモチーフとして使われてきましたから、もともと知名度が高くて人気もあるので、確実にいいところまで行くと思います。でも、開催地のキャラが必ず1位になるわけでもないので、そこが予想の難しいところではありますが。
――開催地はどのように決まるのですか。
犬山 14年の第5回大会から、公募で決まっています。参加する自治体は、『ゆるキャラグランプリ』を主催する株式会社ゆるキャラに働きかけるのですが、招致のためには1,000~1,500万円かかると言われています。結局、“金”と“場所”を提供できる自治体が有利になる可能性が高いのです。
ちなみに、静岡県浜松市の「出世大名家康くん」は、その点非常に“野心”が強かったですね。浜松市の関係者が「1位になるにはどうすればいいか」と、関係者に聞いて回っているほどでした。その結果、家康くんは12年の第3回に7位、13年の第4回に2位、そして15年に『ゆるキャラグランプリ』を浜松市に誘致して、1位を獲得しています。
――キャラクターの人気よりも、「資金があるかどうか」が重要なように思えます。
犬山 それが、単純な話でもないんです。家康くんは13年、1位を栃木県佐野市の「さのまる」に取られています。この年は、それぞれの市が“選挙資金”を公にしているのですが、家康くんが1,500万円を費やして2位だった一方、さのまるは700万円で1位だったんです。
さのまるには、キャラクターデザインの愛らしさもありましたが、自治体の連帯感が非常に強かった。『ゆるキャラグランプリ』って“人気投票”だと思いがちですが、世間一般からの人気よりも、地元愛の強さや、「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」に税金を使うことに対して、地元の人を納得させる説得力が重要なんです。デザインのかわいさ、資金力だけでなく、やる気や政治的な根回しも必要で、どれかひとつが突出しているだけでは1位になれない。グランプリになるキャラは、そのすべてを網羅しているといえます。
――ちなみに、先ほど「今年は地味な戦い」とおっしゃっていましたが、確かにエントリーされているキャラクターを見ても、ほとんどわかりません。
犬山 これまで1位になったキャラは「殿堂入り」するので、回を追うごとに一般的に知名度のあるキャラがいなくなっていくんですよ。それに、多額の資金や協力者がいないと上位にいけない戦いなので、「人気はあるのに、1位になれない」という現象も起こります。そうすると、上位以外のキャラは、それ自体人気がないように見えてしまうので、すでに知名度のあるキャラほど、リスクを負ってまで参加はしません。参加するメリットがありませんからね。そんな中、もうワンステップ上に行きたい新規参入のキャラだけが、金や政治力を使い1位を目指す。これが『ゆるキャラグランプリ』です。
――『ゆるキャラグランプリ2018』では、各自治体による“組織票”が問題視され、全国紙でも報じられました。ここに参加すると思うと、確かにリスクしかないような気がします。
犬山 もともと『ゆるキャラグランプリ』は、自動プログラムによる水増し投票の技術力争い、みたいな側面があったんです。ここ数年は運営側のチェックも厳しくなりましたが、昔は投票の季節になると、IT会社が自動プログラムを自治体に売り込んでくることもあったそうです。上位に入るには、自動プログラムを組み、さらに組織票を積む必要があったんです。運営が表立って「組織票OK」とは言いませんが、上位キャラたちは、できることすべてを駆使した状態で、一般票をどれだけ上乗せできるか、という次元で勝負していると思います。
――それって、思いっきり“不正”じゃないですか……。
犬山 一般的に見たらそうですよね。なので、大会が大きくなるにつれ、自動プログラムからの投票を運営側ではじくようになりました。だから昨年は、“人力”による組織票に移行したという経緯があります。それがパワハラに近い形で「無理やり投票させられた」という告発につながり、問題が大きくなったのではないでしょうか。
――そこまで行政が『ゆるキャラグランプリ』に加熱する理由は何でしょうか。
犬山 税金を使っていますから、成果を出さないと“税金泥棒扱い”されたり、翌年から予算が付かなくなったりするので、必死にならざるを得ないのでしょう。とはいえ、無理強いさえしなければ、熱心なファンによる投票と組織票も「清き一票」に変わりありません。『ゆるキャラグランプリ』は人気投票ではなく、「愛の深さ」や「やる気」を競い合うゲームだと思えば、このような仕組みにも納得できるのではないでしょうか。
(番田アミ)
(後編に続く)
■犬山秋彦(いぬやま・あきひこ)
1976年東京都生まれ。ライター、デザイナー、キャラクターコンサルタント。自衛隊勤務、テレビゲームのシナリオアシスタント、ディズニーキャストなどを経て現在に至る。戸越銀次郎・大崎一番太郎など「ゆるキャラ」のデザイン、プロデュースを行う傍ら、『週刊戦国武将データファイル』(デアゴスティーニ・ジャパン)、『信長とお江』(徳間書店)など歴史関連の記事・マンガ原作も執筆。著書『ワーキングプア死亡宣告』(共著)、絵本『しんかいくんとうみのおともだち』(イラストを担当)。