夏の風物詩、「an・an」(マガジンハウス)の「SEX特集」号が発売されました。今年のテーマは「触れあい、感じあう。ふたりの幸せな時間。 愛とSEX」。冒頭の解説記事によれば、この1~2年で現代人のセックス観は男女ともにますます草食化していて、「ひとりの人と深い愛を育む」方向へ著しく変化しているそう。同誌が行ったアンケートでは、20代女性では38%、30代でも25%がバージンとの結果が出たといい、一因には「SNSの普及で、恋愛のいざこざがすぐに友人間で拡散してしまうこと」があるとしています。
それによってセフレ文化も衰退しているとのことで、「an・an」では、今が「“愛あるセックス時代”の幕開け」とも表現しているのですが、そんな時代の「SEX特集」には一体何が書かれているのか……早速中身を見ていきましょう!
<トピックス>
◎田中圭 しあわせな体温。
◎心揺さぶる、甘美なひととき…。7人が語る幸福なセックス。
◎気になるトピックを大調査! SEXムーブメント最新事情。
田中圭の半裸が不気味
表紙は俳優の田中圭。この特集ではおなじみである「半裸のベッド写真」なのですが、彼の持ち味である“その辺にいる兄ちゃん感”が、隣に寄り添う下着姿の外国人女性モデルと妙にミスマッチ。じっと見ていると、「居酒屋の兄ちゃん×北欧の妖精さん」くらい世界観が違うものをむりやり継ぎ合わせた、合成写真に見えてくる不気味さがあります。
田中の“筋肉の上に薄く脂肪が乗っていて、猫背がち”という裸体には親しみを覚えるものの、インタビューでも”その辺にいるおちゃらけ兄ちゃん”感がすごいのです。「(相手役のモデルに)来日してどれくらいかと聞こうとして、ハウマッチ?って言っちゃいました(笑)」「(口説くのが苦手なので)相手に『お願いお願いお願い』って頭を下げる方が、完全に自分のキャラ」など、ムードは皆無。
さらに「昔はすごくピュアだったんで(笑)、お付き合いするところまでいかないとエッチしません、っていうタイプだった」と、思わず「今は!?」とツッコみたくなる発言をし、「体の相性ってあるし、エッチして気づくこともある。付き合ってから、相性が合わなかったって気づくほうがつらくないですか」と、やんわりと“やってみて相性が合わなかったら捨てるぜ”という意味のことを言っています。冒頭で「愛あるセックス時代の幕開け」「セフレ文化が衰退」と書かれていたので、今年は「セックスありきの愛」ではなくて、「愛ありきのセックス」に焦点を当てていくのかな? と思っていたところでのこの発言。田中圭、人選ミスでは……?
一方、表紙ではないものの、今号ではもうお一方、半裸を披露している俳優がいて、それが志尊淳。志尊は直木賞作家・井上荒野氏の官能小説が原作のドラマ『潤一』(関西テレビほか)に主演中。「an・an」では、そのスピンオフとなる書下ろし小説『「霧人」(二十六歳)』と併せて、志尊のイメージカットが掲載されています。
この「『霧人』(二十六歳)」の内容をざっくりまとめると、ホストである霧人が、常連客の女性、新人ホストの潤一(志尊)と新大久保のラブホテルに入り、3人で致すというもの。こちらも、「an・an」が提唱したいはずの「ひとりの人と深い愛を育む」とは逆を行くスタイル。
現実での冒険が難しくなっている現代だからこそ、創作物では刺激を! という趣旨なのだろうか? とも感じました。
続いては、7人の女性がインタビュー形式で忘れられない性体験を告白する「心揺さぶる、甘美なひととき…。7人が語る幸福なセックス。」。冒頭の記事で「セフレ文化が衰退」「30代女性の25%がバージン」と書かれていたはずが、この7人はかなり奔放です。
例えば、典子さん(32歳・派遣社員)の経験人数は、「思い出せる限りで」40人。サイパンでダイビングの指導をしてくれた男性との一夜を振り返り、「私は、たまらず『アーーーン』と歓喜の雄叫びをあげてしまったんです」とのこと。
また、みどりさん(30歳・販売員)は経験人数約30人。アプリで知り合った10歳上のセフレと大人の玩具を使った体験が忘れられないそうで、「私は悶えるように『アーーーン』とはしたない声を出して、史上最高のエクスタシーの中に落ちていきました」と話しています。
お気づきでしょうか。典子さんも、みどりさんも、「アーーーン」と言っています。7人中2人が、インタビューで「アーーーン」と言うでしょうか。どうも、創作の匂いがします。また、7人の体験談がどれも、芥川賞作家・宇能鴻一郎氏(「あたし〇〇しちゃったんです」などのフレーズによる、告白スタイルの官能小説を確立)の文体を意識した語りになっているあたり、その道のプロが手掛けたのでは、と感じさせました。これが創作物であるなら、多すぎる経験人数や一夜の過ちを武勇伝のようにしているのも納得できます。
しかし次の女性のインタビューでは”創作疑惑”が少し揺らぎました。経験人数70人以上で現在も更新中という、あおいさん(29歳・会社員)。
同棲中の彼氏がいながらセフレも2人いるという、体力オバケな彼女の最高の体験のお相手は、舘ひろし似の元上司(推定60歳)。ずっとその舘ひろし似と致してみたかったとのことで、「お店を出る前にトイレへ行き、デリケートゾーン用のシートで拭いて、気合いを入れ直しました」とも話しています。「え、それ要る?」と思わざるを得ない些細な情報で、これが創作であるなら、相当キャラ設定を練ってきたな……と感心すらしてしまいます。謎は深まるばかりです。
最後に注目したのは、男性のアンダーへア事情。「気になるトピックを大調査!SEXムーブメント最新事情。」のページで紹介されていた、「ハイジ男子」が気になりました。
アンダーへアをお手入れしている男性のことを表す言葉だそうで、社会学者の栗田宣義氏は「女性の発言力が強くなってきたことで(中略)とりわけ20~30代の男性は、“私も処理しているんだからあなたもやりなさいよ”という女性からの圧を受ける」と解説。誌面では、男性専門美容クリニックの「マタツルコース」(全5回14万円)が紹介されています。
「マタツルコース」というネーミングのセンスにも驚きですが、女性が男性に除毛の圧をかけるという事例、少なくとも筆者は見たことがないので、「そんなのある?」と信じられない気持ちになりました。
毛くらい、自分にとって快適がそうじゃないかでお手入れしてくれよ、と思ってしまいましたが、しかし、「女性が求めてるから……」と理由を”創作”せずには「マタツルコース」の申し込みに踏み切れないのも、男心なのかもしれません。
エロやシモな世界は、常に現実と妄想の背中合わせで、自分の思い通りにはいくことがまずない。だからこそ“創作”とは縁が切れないのかもしれません。それは草食化が進んだ結果の、「ひとりの人と深い愛を育む」「愛あるセックス時代」の今、さらに複雑に結びついていくのかも……と考えさせられた2019年の「SEX特集」でした。
(島本有紀子)