芸能界を代表するプロダクション・吉本興業のイメージが、いま地に落ちている。6月上旬、「フライデー」(講談社)のスクープによって、雨上がり決死隊・宮迫博之やロンドンブーツ1号2号・田村亮ら吉本芸人が、特殊詐欺グループに闇営業をしていたことが明らかとなった。吉本興業は宮迫、亮らに厳重注意処分を下したが、引き続きヒアリングを行う中で、当初「特殊詐欺グループから金銭を受け取っていない」としていた宮迫らの弁が嘘だったと発覚。当面は活動を停止する謹慎処分を科したものの、その後、闇営業報道が過熱する中、7月19日に宮迫との契約を解消するに至ったのだ。
しかし騒動はここから驚きの展開を見せる。宮迫と亮が翌20日に謝罪会見を開き、その中で、吉本興業の岡本昭彦社長から「パワハラ発言があった」と告白。宮迫らは以前から会見を行いたいと主張していたものの、岡本社長に「お前らテープ(録音)回してないやろな?」「やってもいいけど全員まとめて連帯責任でクビにするからな」などと脅され、また「在京5社、在阪5社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫や」と、同社とテレビ局の癒着を匂わせるような発言もされたという。一方、これを受け、岡本社長が5時間半にも及ぶ会見を行ったが、的を射ない回答が続き、特にパワハラ発言に関して「場を和ませる冗談のつもり」と弁明したことは、世間から大ヒンシュクを買ってしまった。吉本の大物芸人たちも次々と声を上げ出す中、もはやこの騒動は、いつ決着するのか定かではないような状況だ。
こうして、世間を失望させるに至った吉本興業だが、これから信頼回復に努めなければいけないだろう。今回、リスク管理、危機管理の専門家で、フジテレビ系ドラマ『リスクの神様』の監修も務めた社会情報大学院大学教授(リスクマネジメント)でゼウス・コンサルティング代表取締役社長の白井邦芳氏に、「吉本興業が世間の信頼回復のためにすべきこと」を聞いた。
吉本が設置した「経営アドバイザリー委員会」とは何か?
現在も混乱の中にあると思われる吉本興業だが、一連の騒動への対応は進めているようだ。6月27日には、闇営業問題について、コンプライアンスの徹底と反社会的勢力排除の方針を述べた「決意表明」を公式サイト上に掲載。また、岡本社長のパワハラ問題が発覚した後の7月25日、コンプライアンス徹底だけでなく、所属タレントとの契約の在り方、ギャラなどの諸課題に取り組んでいくための「経営アドバイザリー委員会の設置」を発表した。
「リスクマネジメントの観点から、『企業ブランドの回復』をどうするのかということを考えると、通常社外向けには、まず行動指針の発表を行います。『この件についてどのように改善していくか』を示すもので、吉本興業の『決意表明』がこれに当たります。次に管理組織の設置です。問題解決に対して自浄能力に懸念が持たれる場合、第三者の助言を得るために客観的な調査や今後の対策を管理する組織を作るのですが、これが今回の事例では『経営アドバイザリー委員会』に当たります」
一方、社内的には、「管理組織が問題解決のためのルールを決める」ことが一般的だという。
「吉本興業においては、社員に向けてはルールを書面で規定化、タレントに向けては契約を結ぶということになるかと思うのですが、後者に関してはすでに『取り組んでいく』と公表しています。その後、管理組織は作られたルールが適正に運用されているのかを確認し、その監査結果を対外的に公表できるかが国民目線での対応と言えます」
つまり、現状吉本興業は、「社外向け」に関しては、リスク管理の手順通りに対応を進めているということになるが、白井氏いわく今回の件では「もう一つ重要な点がある」とのこと。それは、問題になっている「コンプライアンス」と「パワハラ」が、「最もリスク管理が難しい」ことだという。
「反社会的組織の遮断という問題は非常に難しいです。例えば、反社と関わる闇営業を『するつもりはない』『過去にもやったことがない』というタレント・Aさんがいたとします。Aさんは、ある人物から闇営業の誘いを受けたものの、話を聞くうちに、相手が反社だと気づいた。そのタイミングで話をなかったことにできればいいのですが、相手から『あなたの事務所のBさんもCさんもやってるよ』『黙ってれば、事務所にはわからないよ』などと言われ、取り込まれてしまう――実はこういうケースは結構あります。このような『反社からの誘いを断りづらい』状況になったときに大事なのが、タレントと会社が“協力して”、拒否することなんです。『反社との関わりについてはタレント個人の責任であり、発覚した場合は懲罰を与える』といった現状のままのルールでは、根本的な問題解決にはならない。会社として本気で反社のつながりを排除していきたいのであれば、タレントと一緒に取り組んでいくべきでしょう」
また、パワハラに関しては、加害者側が気づかずにやっているケースがほとんどであるため、その改善は簡単なことではないという。
「岡本社長も、『場を和ませる冗談のつもり』と言っていましたが、その言動が相手にどれだけの精神的苦痛を与えたか、気づいていなかったのでは。社内でパワハラのリスクを低減させるためには、かなり細かく『こういうことを言う/すると、パワハラに認定される』と、具体的な事例を社員全体に知らしめ、研修などで現場に落としていくことが大切です。なお各職場の現状によって、パワハラの具体的な事例は変わってきますから、それに応じる内容でなければいけません。経営アドバイザリー委員会が、社内向けのルールを作る際、その点を研修やテストなどに落としていけるかはポイントですね」
なお、「声の大きな人が、気の弱い人に圧力的に大声出しただけでも、パワハラ。あるいは、『できない』とわかっている社員に重たい業務を振ったり、逆に優秀な社員に無駄な作業をさせるのもパワハラに当たる。その範囲は深くて広いのです」というだけに、「『パワハラはダメです』と言うだけは、まったく効果がないと考えられます」とのことだ。
白井氏は、2011年に島田紳助が、暴力団関係者との交際を明かし、芸能界を引退した件を振り返りながら、今回の騒動の背景にある吉本興業の“驕り”を指摘する。
「吉本興業は、島田さんをリスク管理で“切った”という過去があります。その際、どんなことをしてでも、反社のリスクをなくすといったスタンスだったにもかかわらず、今回、二度目の問題を起こしてしまった。テレビ局は、取引先の反社との関わりを最も嫌がるものですが、恐らく吉本興業は、『とは言っても、吉本芸人がいなければ、番組の出演者を揃えられないでしょう?』といった傲慢な部分があったのではないでしょうか。今回の騒動に関しても、はっきり言って、芸人を使って“笑い”に変えさせることで、幕引きしようとしていたというか、当初は軽い気持ちで対応していたのではないかと思ってしまいます」
この騒動では、明石家さんまやダウンタウン・松本人志、極楽とんぼ・加藤浩次、ナインティナイン・岡村隆史など、事務所の大御所がさまざまな意見を発したことで、収拾がつかなくなった面もあるが、これは吉本興業が初動でミスを犯したことの現れだという。
「危機管理の視点から言うと、企業はこういったことを『起こしてはいけない』のです。誰か一人でも口を開けば、次々に意見をする者が出てきます。吉本興業は当然、どのタレントがインフルエンサーなのかわかっているでしょうから、であれば、会社側が騒動勃発当初、インフルエンサーのタレントたちに対し、『ぜひご意見を頂戴したい』と、幹部陣との話し合いの場を提案すればよかったと思います」
吉本興業ではなく、宮迫と亮が先に会見を開いたのも、白井氏は「順番がおかしい」と感じたそうだ。
「特殊詐欺グループへの闇営業問題発覚後、宮迫さんが先に会見を行い、その中でパワハラ問題が浮上して、岡本社長が会見を開いたという流れですが、ゆえにこの会見は、非常に複雑な内容となってしまいました。本来であれば、まず会社として謝罪会見を行うべきでしたね。会長、社長、コンプライアンス部門の役員が出席したうえで、『これまで反社の遮断に対応してきたが、今回防ぎきれなかったこと』を経営管理視点で謝罪する。またその会見の中で、宮迫さんを含めたタレントに対し、岡本社長にパワハラと疑われる言動があったことがわかり、内部監査を行った結果、本人も認めたのでその点も謝罪を行う……という形が望ましかったのではないでしょうか」
しかし実際には、岡本社長は個人として会見に登場し、「パワハラ発言を『言ったの、言わないの』の話をして、最終的には『場を和ませる冗談のつもり』だったと。そもそも謝罪会見であるはずなのに、記者から事実確認をされて口ごもるシーンもあるなど、説明会見のような内容となっており、最初から軸がブレていた印象もありました。1,000人の社員、6,000人のタレントを抱えるような大きな会社の社長が、たくさんのマスコミから注目される会見でする対応とは思えませんでした」と、白井氏は厳しく指摘する。
そんな吉本興業だけに、白井氏は、「信頼回復に時間がかかるかもしれない」と感じているそうだ。
「マスコミ報道は1カ月ほどで鎮静化するでしょう。しかし、3度目の反社に関する問題を起こすことはあってはなりません。今後、経営アドバイザリーが、透明性を確保しながら、新ルールの運用プロセスを世間に公表していくと思われますが、それを人々は『やはり吉本はリーダーカンパニーだ』と受け取るか、はたまた『やっぱりダメな会社だ』と受け取るか。どちらに転ぶかが、今後の吉本興業の一つの試金石になると思います」
果たして、吉本はこの苦境にどう立ち向かうのか――。今後も注視していきたい。
白井邦芳(しらい・くによし)
社会情報大学院大学教授。米国外資系保険会社で危機管理担当役員などを歴任。一般財団法人リスクマネジメント協会顧問、経営戦略研究所外部講師。ゼウス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長。フジテレビドラマ『リスクの神様』、テレビ東京『ハラスメントゲーム』の監修も務めた。