人情味あふれる町・阿佐ヶ谷の6畳一間のアパートで、本物の姉妹でない2人の40代女性が、6年間に及ぶ共同生活……その実態は、とにかく「のほほん」だった――。
人気お笑いコンビ・阿佐ヶ谷姉妹のリレーエッセイ『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(幻冬舎)が発売された。ひょんなことから始まった新しい住まい探しを経て、現在は別々の部屋(隣同士)に暮らす2人が、あの長くて短かった蜜月の日を思い返す。そこには「自分以外の誰かと一緒に暮らすこと」のヒントがたっぷりと詰め込まれていた。
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――この本は夫婦が読んでも、すごく共感できる部分とかがあると思うんですよね。誰かと上手に暮らしていく秘訣みたいなのが詰まっている。
美穂(妹) 上手に暮らせてるんですかね。
――普通に暮らしてたら見過ごしてしまうことも、言葉にして初めて気づく……みたいな。
江里子(姉) それこそ6年ぐらい、空気のように当たり前だと思って、6畳一間に住んでしまっていました。周りから「そんな狭いところに、よく一緒に住めますね」と言われつつ。「どこがおかしいのかな」って思ってたんですけど、書かせていただいてるうちに、美穂さんにもいろいろと折り合いをつけてもらっていたんだなあって。そういう意味では、確かに少し冷静になれたというか。直接ぶつけられないことを、お互いにね、文章でぶつけ合って、分析して。時には、「あいつめ……」みたいな感じで書いて、少し溜飲を下げて、日常に戻るみたいなことができた気がしますね。
美穂 私のほうが、不満が多かったのかしら(笑)。でも書くことで、ストレス発散になりましたね。世間のみなさんに「お姉さんこういう人なんです」ってわかってもらえたら、うれしいです。ただ2人の間のことなんで……みなさんがそれをどう思うのか心配です……。
――もともと、幻冬舎のウェブで連載されていたものをまとめた本ですが、随時アップされるお互いのエッセイを読むときは、やはり緊張するものですか?
江里子 でも美穂さん、言葉に出して(キーボードを)打つんですよ(笑)。しかも、書いてる最中に「これでどうですかね」って、チェックを強要するみたいなところがあるので。
美穂 どう思う? どう思う? みたいな。
江里子 それで何カ所か、もみ消した部分もあるんですけど(笑)。でもそうですね……輪ゴムのこととかね、布巾のこととか、なかなか直せないんですよ。気をつけてても、ついボロが出ちゃう。それでも、読んでからは少し意識するようにはなりました。
美穂 確かに「布巾が嫌い」なんてこと、一緒に住んでないと気づかない(笑)。隣同士とかだったら、たぶんわからなかったと思います。
江里子 いやいや、美穂さんの観察眼ですよ。琴線に触れるところの独特さはすごいなと思ったけれどもね。
美穂 私だって「そうか私の服ダサいんだ」ってなりましたよ! 自分でもちょっと考えたくなかったことです。
江里子 「ダサい」って言ってない。まあ、「小学生みたいな靴下」とは言ったけど。
美穂 それなのに、差し色をしたがる。
江里子 昨夜も仕事から帰って、美穂さんの部屋に行かせてもらったんですよ。そこでおしゃれについて話し合って。美穂さん、「お姉さんのファッションは、普通だ」って言うんです。「私のは機能的だ」って。「普通よりも機能のほうが勝ってる」みたいな、そういうことを言われまして。
美穂 おしゃれが、またわからなくなってきてます……(ため息)。
江里子 おしゃれを機能で語っている美穂さんが、ちょっと不思議でしたけど。
■姉が隣の部屋に引っ越して……
――現在はお2人で住んでいたお部屋に美穂さんが残り、隣のお部屋に江里子さんがお引っ越しされて……でも、今でも同じお部屋に集まって、お話ししたりお茶飲んだりは日常的にされてらっしゃるんですね。部屋を別にして、何が一番変わりましたか?
美穂 お姉さんが一番不満だった、お風呂の順番を私が守ってくれないっていうのが解消されたのかしらね。
江里子 ああ、それはあるかしらね……。
――朝のお風呂の順番ですね(笑)。
江里子「頼むから1カ月ごとに、交互にしてもらえないか」と。
美穂 何回も言われたんですけれどもね。
江里子 時には若干、目に涙を浮かべつつ訴えたこともあったんですけど……守って2日。
美穂 2日ぐらいはね。
江里子 あとはお手洗いね。やっぱり同じ生活リズムだと、だいたいお手洗いに行きたくなるのが同じサイクルなんですよね。
美穂 お姉さんはすぐトイレに引きこもるし。30分ぐらい出てこない。
江里子 お手洗いだけが、私の唯一のプライベートルームみたいになって。個室みたいな気分で。
美穂 そこで1人の時間を楽しんでたから。
江里子 楽しんでた(笑)。
美穂 仕方なくLINEで「トイレに入りたいです」って。
江里子 そのストレスは、なくなったね。
美穂 でも別々になったら、お姉さんのほうが、ちょっと寂しそうなんですよ。
江里子 いや、まあでもそうですね。共同生活が私、結構好きだったので。たとえ自分のスペースが1畳未満であっても、やっぱり一緒にいてもらって、好きなときに好き勝手しゃべることができる相手がいるのは、すごく居心地がよかった。
美穂 でも隣だから。
江里子 お互いの部屋の鍵を持ってるので、「行っていいですか」ってLINEで言って、鍵開けて入らせてもらったり。美穂さんは必ず「ちょっと来てもらえますか」って私を呼びつけるんですけど。
美穂 呼びつけるわけじゃない。
江里子 あ、呼びつけてるわけじゃないの?
美穂 そっちの部屋に行くと、よくないみたいだから。
江里子 まだね、ちょっと部屋が片付いてなくて。
美穂 なかなか入れてくれないんですよ。
江里子 1人になってスペースが広くなったら、そのまま物を置きっぱなしにしちゃう。片付けるのヘタだから、そのまま……美穂さんにも見られたくないんですけど。「見られたくない」って言ってるときこそ、ニヤニヤしながら入ってこようとするんで。
美穂 殺し屋みたいににらまれて。怖かったわ。だから私の部屋で、お茶も打ち合わせもすることになって。
江里子 居心地がいいのよ、あそこに散々住んでたし。
――実家に帰るみたいな気持ち……。
江里子 そうです、そうです。
美穂 お姉さんの部屋でもだんらんしたいですよ。
江里子 まだ整ってない。まだ座布団買ってないのよ、ごめんなさい。
美穂 そういうとこの愛情が、ちょっと足りないんだわ。
江里子 だって、あっちのお部屋のほうがいいでしょう。
美穂 うちにご招待する、っていう気持ちが。
江里子 いや、でも美穂さんのためにラグマットとこたつは買ってきたのよ、ほんとに。でも座布団は買ってない。ごめんなさい。だから、敷いてある布団の上に上がっていいって言ってるじゃない。あら、私たちどうでもいい話を……
■「お姉さんのいびきが……」
――いや、永遠に聞いていたくなります(笑)。小さい頃、自分の部屋を持つことに憧れたけど、いざひとり部屋になると妙に寂しくなる感じを思い出しました。
江里子 わかります! でもやっぱり、隣の部屋でそれぞれに暮らしてるっていうのは、すごくいい選択肢を、奇跡的に得ることができたなあと思って。壁1枚向こうで、なんとなく寝起きしてる感じはわかりますし。時々くしゃみの音とか聞こえますし。ああ、生きてるんだなあ、みたいな。
美穂 お姉さんの電話してる声も聞こえますし、テレビ見て笑ってるバカみたいな声も。
江里子 バカみたいは余計じゃない?
美穂 そういう声も聞こえますけど。
江里子 バカみたいがちょっと余計だけど。
美穂 違うアパートだったら、ちょっと寂しいかもしれないけど。今はちょうどいい安心感がありますね。
――先ほどお風呂の話が出ましたが、2人で暮らしていたときは、ほかにもルールを作っていましたか?
江里子 逆に、ルールをあまり作らなかったことで、私たちはなんとか折り合いつけてこられたのかなっていうのはありましたね。
美穂 まったく守られない。
江里子 こういうルール決めたのに!! ってなると、逆にフラストレーションがたまるじゃないですか。ルールでがんじがらめにするよりも、妥協案を探ってくっていうことが、ここまでこられた理由のひとつかなあとも思ってますね。
美穂 得意なことを各自やったり。
江里子 そうねえ。
美穂 お姉さんがお洗濯したりとか。
江里子 お料理は私で、でも汁ものは美穂さんにやってもらうとか。
美穂 得意分野を各自やったりしてたっていうのが、よかったんですかね。
――どうにも我慢できなくなることはなかったですか?
江里子 どうでした? 私よりも美穂さんのほうがあったんじゃない?
美穂 そうですね。いびき。
江里子 いびきね。
美穂 私が結構宵っ張りなんで、起きてるんですけど、お姉さんは10時ぐらいに眠くなっちゃって。
江里子 私、朝型なんで。
美穂 早めに寝ちゃって。寝た途端いびきをかき始める。寝つきがいい。起きないので。そういうときはYouTubeを大きい音量で見て邪魔したり。
江里子 あとビニール袋ね。
美穂 お姉さんはビニール袋のガサガサした音が嫌いで、ちょっと反応するんですよ、寝てても。それをガサガサガサガサやって。何回もやって、うなされるようにしたりとか。
――うなされる(笑)。
美穂 「うーん」ってうなって、ちょっと止まったりする。それが楽しくて。
■姉妹を悩ませる「出ますよ問題」
――本でも美穂さんのパートは、どこか動物の観察日記みたいな雰囲気を感じました。
江里子 姉の観察日記みたいな感じ。
美穂 そう。書くことで楽しく。
――それまですごい仲よかったのに、一緒に住んだら仲悪くなっちゃうっていうこと、結構あると思うんですよ。
美穂 そっか。嫌いにはなってないですね。
江里子 あら、うれしい。美穂さんに、いっつも言われるんです。「嫌いではないんです」と。「普通です」と。まあ、嫌われてない分、いいですね。
美穂 真ん中ぐらい。
江里子 それはありがたいわね。
美穂 好きでも嫌いでもない。普通。
江里子 ほんとね。普通はありがたいわね。普通って大事よね。
――やっぱり、仲いいと思います(笑)。
美穂 仲いいんですかね。どうなんですかね。
江里子 いや、まあね。
美穂 だいたい2人だもんで。
江里子 そうね。一駅、高円寺から歩いたりもしてるしね、一緒にね。
美穂 薬局も一緒に行きますし。
江里子 そうね。ご飯も食べるしねえ。
――最近はそうでもないですけど、芸人コンビは仲悪いっていうイメージあるじゃないですか。それは照れからくるものかもしれませんが。
江里子 照れ……確かに。照れくさいからあんまり一緒にいないとか、よく言われてますね。ただ私たちは……照れも何もあったもんじゃない。全部バレちゃってるから。今さらもう。私はもともとカッコつけだから、こういうインタビューのときも、ちょっといいこと言おうとしたりしますけど、、それもバレてる。美穂さんに「またカッコつけ」って言われて、反省したりするんですけど。
――それを素直に聞けるのが、すごいと思います。
江里子 機嫌が悪い朝なんかはね。時々イラッとするときありますけどね。言葉尻で腹立たしいこととかいっぱい。まあでも美穂さんも……。
美穂 「出ますよ問題」ね(笑)。
江里子 どっちかが扉を先に出るっていうときに。
美穂 「出ますよ」って言ってほしいっていうのがね。
江里子 なんにも言わずに、先にそーって出てくときがあるんですよ。私、それは嫌だと。「出まーす」って一言言ってもらえるとうれしいなって。そしたら、「出ます」って言ってくれるようにはなったんですけど、なぜか「出ますよ」になった。「よ」がつくと、なんかちょっとカンに触って。「よ」のそのニュアンスが、すごく気になる……。それで返事の「はい」をちょっと語気強めに言ったのが、美穂さんに伝わって「なんかすごい機嫌が悪かったけど、あれはなんだったんだ」と。だから私「『出ますよ』の『よ』が気になったの」って言ったら、それから「よ」をやめてくれたのね。
美穂 だって、そのときの「はい」すごかったんですよ。
――気になるところがちょっとずつ違うのも、いいのかもしれないですね。
江里子 たとえ一緒に暮らしていても、感覚は別ですもんね。そこはわかってもらえないんだろうなとは思ってます。
――基本わかってもらえないってところから始まると、わかってもらえたらすごいうれしいですし。
江里子 あと、すぐに嫌いになられちゃうと困るっていうのがあって。そこはわりと心がけてるところ。危機感を持ってるつもりはあります。
――千鳥ノブさんをして「いま一番ヤバい女芸人」と言わしめる美穂さん(笑)。
美穂 あら、喜んでいいのかしら。
江里子 いいのつけていただいたわね。この本読んでいただいたら、ヤバいってわかると思う。
美穂 私、バレちゃうかしら。
江里子 バレちゃうかしら、じゃないわよ。
■テレビは思い出作り
――本に収録されている書き下ろしの恋愛小説でもやっぱり、片鱗が。
美穂 好きなものをいろいろ入れて書いただけなんですけど。
江里子 いやもう私は、この美穂さんの『3月のハシビロコウ』ができたときに、傑作だなと思って。人間の目じゃない、むしろ動物の目から見た世界……そういう感じの不思議さがあって。美穂さんの実話じゃないんですけど、美穂さんというフィルターを通して生まれた作品なんですよ。書きながら、その都度その都度、私にまたチェックを強要するんです。それがどんどんいい感じになってくる。それで私、ちょっと一回筆を折ろうかって思ったぐらい。こんな面白いもの書けないからどうしよう……ってなったぐらい。
美穂 私の小説のほうは、お姉さんの生態をいっぱい入れられたんで。それでなんか、楽しく書けたんですよ。お姉さんはすごい肩に力が入ってて。すごいかっこつけで書いてたので、そこは「かっこつけだな」って指摘しました。
――厳しい編集者ですね……。
美穂 すごいいいのを書こうとしてるっていう感じは出てたので。「お姉さん、リラックスして」って。
江里子 本当に、なかなか書けなくてね……。私、向田邦子さんが好きで。向田さんのエッセイや小説に、すごく憧れてて。
美穂 理想が。
江里子 そうね。理想が高かったのよ。書いている途中で、山崎ナオコーラさんの本を読ませていただく機会があって。「ああ、ほんとにプロの方ってすごいな」って。「どうしたら、ああなれるんだろう」って、やっぱり、そっちに行こうとしてた。
美穂 その傾向は、すごい強い。何回言い聞かせても、そう思っちゃう。
江里子 美穂さんはちゃんと自分の身の丈を知った感じで、無理はしない。今回は本当に勉強になったわ。
――たくさんテレビにも出て、いわゆる「ブレーク」というのを果たしてもなおスタンスを変えないのは、すごいことだと思います。お2人のお話を聞いていて、だからこの本には希望と癒やしがあるんだなと。夫婦や親子やきょうだいでなくても、こういう関係性を築けるんだ……っていう。
江里子 そんないいように言っていただいてるんですけど、自分たちで選択してこうなったわけじゃなくて。成り行きでなっちゃったみたいなところはすごくあって。だから恥ずかしいんですけど。
美穂 こんなにのほほんと、なんにも考えないで暮らしてる人がいるんだと思って、安心してもらえたらうれしいですね。
江里子 これがずっと続けばいいわね。50代になっても、60代になっても。私は夢があって……。
――なんですか?
江里子 ゆくゆくはここに親とかもね、呼び寄せたりして。
美穂 阿佐ヶ谷にね。
江里子 阿佐ヶ谷ハイムをね。
美穂 みんな住める。
江里子 共同体じゃないですけど。親やお友達とか、何人か寄り集まって住んでるような。阿佐ヶ谷ハイムができたら、って。
――冠番組を持つとか、そういうことではなかった(笑)。
美穂 だいたい今も、「テレビに出させてもらえるのは思い出作り」って言ってますし。
江里子 そうね。タモリさんに会えたわね。
美穂 これからも思い出が増えたら、ぐらいですかね。
(取材・文=西澤千央)