「便秘を解消したい」「少しでも痩せたい」――こう願って“下剤”を服用する女性は、少なくないのかもしれない。中には毎日大量の下剤を服用する“下剤依存”の女性もいるというが、医療関係者などからは、危険性を指摘する声が上がり、依存状態の当事者からも「できればやめたい」といった悲痛な声が漏れているようだ。下剤依存の女性の実態、また下剤に頼らず生きることはできるのか? 『自律神経を整える最高の食事術』(宝島社)の著者で、大学病院として日本で初めて便秘外来を開設した、順天堂大学医学部付属 順天堂医院の教授・小林弘幸先生に話を伺った。
「下剤1日400錠」という依存者も
――世間には、下剤依存の女性がいるようなのですが、なぜそのような状態に陥ってしまうのでしょうか?
小林弘幸先生(以下、小林) 確かに下剤依存の女性はザラにいます。ベースにあるのは、やはり排便できなくなること、また排便できずに太ることへの“恐怖心”ですね。下剤を飲み始めるきっかけは、痩せたいとか便秘を解消したいといったことなのですが、飲み続けていくうちに、「下剤を飲まないと排便しない」「下剤を飲んでいないと太ってしまうのではないか」といったような強迫観念に駆られて、手放せなくなっていくようです。
ただ実際には、下剤ですでに排出されて、腸内に出るものが残っていないから排便がないだけ。にもかかわらず、「出ないのは下剤の量が足りていないからだ」との思考に至って、服用量が増えていく傾向があります。私のところへ訪れる患者の方でも、たくさんいますよ。ダイエット目的で下剤を服用するようになった20~30代の女性では、1日100錠なんてザラ。中には1日400錠服用しているという人もいました。
――ちなみに、どの程度下剤に頼っていると“下剤依存”と言えるのでしょうか?
小林 たとえ2~3錠でも、毎日飲んでいる時点で依存しているといえるでしょうね。下剤は市販品で簡単に手に入りますが、本来は便秘の症状があるときだけ服用するものです。使用量も、説明書などに書かれた量で留めなければなりません。もしそれでも改善しないときは、飲み続けたり量を増やしたりするのではなく、医療機関を受診するようにしてください。
――下剤を毎日飲むことで起こるリスクを教えてください。
小林 下剤にも種類があり、“大腸を刺激して排便を促すタイプ”のものがあるのですが、これを大量に服用すると、大腸が炎症を起こし、水膨れを経て、やがて真っ黒に変色します。やけどのあとの“かさぶた”と似た状態ですね。腸の働きも悪くなるので、太りやすくなったり便秘になったりして、逆効果になってしまいます。肌荒れや疲労感など、さまざまな症状も出てきますし、依存しているメンタル面も見逃せません。また、下剤の刺激は大腸がんの引き金にもなります。大腸がんは女性の死因第1位で、30~40代の患者さんも多いです。
――間違った方法で薬を飲むことで、体により深刻な悪影響を与えるのは恐ろしい話です。
小林 この“大腸を刺激して排便を促すタイプ”の下剤は、ドラッグストアなどで簡単に購入することができるだけに、依存を深めてしまうという面もあります。病院では、下剤を大量に処方することはありませんから。下剤に依存しているようなら1日も早く受診してください。一度真っ黒に変色した大腸でも、下剤をやめれば元に戻ります。依存期間が短いほど、また、年齢が若いほど、より早いですよ。
――下剤に頼らずに、便秘解消やダイエットにつながるには、どうしたらいいのでしょうか?
小林 自律神経を整えること、そのために重要な役割を果たす腸内の環境をよくすることです。となると、やはり食事が大切です。中でも朝食は大事。朝しっかり食べると、副交感神経優位から交感神経優位に変わり、ホルモンバランスや腸内環境が整うので、カラダもちゃんと目覚めるし、リズムも整って、下剤に頼らなくても排便できるようになります。旅館で食べる朝ごはんくらいの量や内容がベスト。あと、牛丼チェーンの朝定食もいいですね。私もよく朝に食べています。
――朝はそこまで食欲がわかないという人も多いと思うんのですが……。
小林 それは、夜遅くに夕食を食べているから、おなかが空かないんです。理想的な夕食の時間は、午後6~7時くらい。それで12時くらいまでに就寝すると、朝起きたときに、ものすごくおなかが空いているので、無理なく量を食べられると思います。
夕食は、やはり早い時間にとってほしいですね。遅くとも8時くらいまでに済ませれば、たくさん食べても太る心配はありません。逆に午後9時以降はNG。例えば、5時に焼肉10人前食べても太らないですが、午後9時以降だったら、焼肉1人前でも太る……くらいのことが言えるかもしれません。
――ちなみに、夕食は量を減らした方がいいのでしょうか?
小林 そんなことはありません。私は、朝昼夜の食事量を「4:2:4」くらいの比率にすることをおすすめしています。昼食を食べ過ぎると、胃腸に負担がかかり、副交感神経が優位になって、眠くなってしまうんです。この比率を実践するためにも、やはり朝食が肝心になってきます。
朝食をしっかり食べていれば、昼時はそんなにおなかが空かないので、昼食を控えめに済ませられます。すると、夕方にはおなかが空いてきて、おのずと夕食を食べる時間も早くなり、翌朝もおなかが空いてしっかり朝食を食べられるようになります。私はこの食事時間とバランスで高校時代から体形をキープしていますよ!
――ちなみに、「便秘にはヨーグルトがいい」というイメージがあるんですが、やはりいいのでしょうか?
小林 はい。ただ、ヨーグルトには、その人自身の腸内環境によって合う/合わないがあるので注意が必要です。ヨーグルトは、メーカーによって含まれる菌が異なるんですよ。ヨーグルトに含まれる菌自体の作用云々ではなく、既存の腸内細菌が刺激されて、活性化するかどうかがポイントになります。たとえるなら、ヨーグルトに含まれる菌って“転校生”みたいなもの。その転校生が、クラス(腸内細菌)をざわつかせるようなイケメンなのか、そうではないのかといったイメージですね。自身の腸にとってイケメンの転校生となる菌の入ったヨーグルトが、合っている種類というわけです。合うヨーグルトであれば、便がバナナ状になったり、肌が明るくなったりします。2~3種ほどのメーカーを食べ比べれば、すぐに合うヨーグルトが見つかると思いますよ。
――低炭水化物ダイエットがはやっていますが、そのような食事法はいかがですか?
小林 炭水化物にも食物繊維が入っているし、抜くと肝臓に大きな負担もかかってしまうので、適度に摂取するべきだと思います。朝食は普通に摂って昼夜は減らすなど、全体的なバランスで調整すれば食べても太りませんよ。そもそも、何かを抜くような食事法は、自律神経を乱れさせて、かえって太ったり健康を害したりするので、健康的に痩せるには、毎日3食バランスよく、「楽しく」食べることが大切です。
『自律神経を整える最高の食事術』(宝島社)著:小林弘幸先生
自律神経研究の第一人者である順天堂大学医学部の小林弘幸教授が解説する、肥満や疲労、体の不調で悩む人に向けた食事メソッド集。「休日の夕食は2時間かけてゆっくりと」「間食は必ずしも絶対悪ではない」「好きなものを食べるのはOK」など、今日からすぐに実行にできる食事術が目白押し。レシピ集ではなく“食事のとり方”がテーマの1冊なので、「料理は苦手」という人にも最適な1冊となっている。