4月12日、フィラデルフィアのスターバックスで「何も注文しなかった」黒人男性2人が逮捕された。5月10日、ホワイトハウス特別アシスタントが、脳腫瘍を患う高齢の議員について「どうせ死にかかってるんだし」と発言した。5月14日、トランプは在イスラエル米国大使館をエルサレムに強行移転し、予想通り、抗議するパレスチナ人50人以上が死亡、負傷者2,700人の大惨事となった。これらと同時期に、コロラド州立大学の見学ツアーでは参加していたネイティブ・アメリカンの生徒が「妙なTシャツを着ている」と通報され、カリフォルニア州のコーヒーショップでは白人男性客が居合わせたムスリム女性客に「おまえに殺されたくないんだよ」とハラスメントする事件が起きている。
上記はおたがいに無関連の事件だが、背後には今のアメリカに蔓延する「強者」が「弱者」を徹底差別し、「弱者を人とも思わず」、「その差別心を隠さなくてよい」とする空気が色濃く漂っている。ある識者はホワイトハウス職員による議員へのコメントについて、「トランプがこうした空気を作ってしまった」と語った。トランプは就任以来、人種的マイノリティ、宗教的マイノリティへの共感が完全に欠落した言動を続けており、差別事件の増加を招いたと言われている。その余波が、政権政党である共和党の「病身=弱者」の政治家にまで及んだのだ 。
以下、過去1カ月間に起こった主な事件を上げてみる。映像があるものは添付してある。近年は監視カメラに加え、目撃者や被害者自身がスマートフォンで現場を撮影することが多く、さらに警察暴力抑止のために警官がボディカメラ、パトカーがダッシュボード・カメラを装着することも増えている。ただし多くの場合、録画が始まるのは問題が起こってからであるため、事件の原因となったシーンの映像はない。
なお、アメリカではこうした事件ではほとんどの場合、被害者も実名報道となる。メディアは事実報道の一環として実名を使い、被害者側の多くも「私は被害者統計の数値ではなく、一個人である」という主張から実名報道を厭わない。
4月12日 ペンシルバニア州フィラデルフィア
不動産業者の黒人男性2人(ラション・ネルソン、ドンテ・ロビンソン)が商談のためにスターバックスで友人を待っていた際、飲み物の注文はせず、店員にトイレの使用を申し出る。トイレ使用は客のみと決められているため、店長(白人女性)は拒否し、警察に通報。駆け付けた4人の警官によって2人は手錠をかけられる。その瞬間にやってきた待ち合わせの相手(白人男性)が驚いた表情で警官に抗議するも、黒人男性2人は逮捕。
●フィラデルフィア警察長官が2人と会い、謝罪。
●スターバックスCEOが2人と会い、謝罪。
●スターバックスは5月29日に米国内の全8,000店舗を閉めて「人種偏見訓練」を実施することを発表、2人も参加。
●スターバックスはトイレを客以外にも解放すると発表。
●2人は市を提訴せず、謝罪の象徴としての1ドルのみを受け取り、高校生のための基金20万ドルを求める。
●2人はオバマ政権時の司法長官で人種問題に取り組むエリック・ホールダーのプログラムにも参加予定。
4月22日 アラバマ州サラランド
ワッフル・ハウスというチェーン・レストランにて、客の黒人女性(チキーシャ・クレモンズ)が店員と口論となり、店舗側が警察に通報。警官はクレモンズを床に押し倒し、首を絞め、腕を背後にねじり上げるなどした後に逮捕。その際、クレモンズのドレス前部がはだけ、乳房が露出。クレモンズが「何をするの!」と抗議した際、警官は「お前の腕をへし折ろうとしてるんだよ」と応答。クレモンズはプラスチック製のフォークとナイフについて、前回は請求されなかった50セントを請求されたことが口論の原因と語る。
●店舗側と警察はクレモンズが酔っており、態度不良であったとコメント。
●“Women’s March” がレストランに抗議の公開書簡、抗議デモ。
4月29日 カリフォルニア州オークランド
公園のバーベキュー・エリアで黒人一家がバーベキューをしていたところ、白人女性が「ここでは炭を使ったバーベキューは禁止」と言い、警察に通報。バーベキューをしていた黒人女性が白人女性と話すも埒があかず、黒人女性は白人女性をからかい始める。警官が到着すると白人女性は「ハラスメントされた」と泣き出す。公園には「炭BBQエリア」と「炭以外のBBQエリア」があり、黒人一家は「炭以外のBBQエリア」で炭を使用。ただし近隣住人の多くはそのルールを知らないか、習慣的にどちらのエリアでも炭を使用しているとのこと。
●女性の通報で駆け付けた警官も困惑顔。どちらにも法的措置はなかった模様。
4月30日 カリフォルニア州リアルト
黒人女性3人と白人女性1人のグループが週末に借りていたAirbnbを引き払い、車にスーツケースを積み込んでいたところ、近隣住人(白人女性)が「泥棒」と通報。複数の警官が駆け付け、警察のヘリコプターも上空を旋回。警官は無線で「黒人女性3人が強盗中」と、白人女性の存在抜きの情報を伝えられていた。グループは20分に渡って身分証明書を求められるなどしたのちに解放。女性たちは映像作家のグループで、その中の1人、著名レゲエ・ミュージシャンであるボブ・マーリィの孫娘のドニーシャ・プレンダーガストは「皆、私の祖父の音楽は大好きなのに、実際の戦いになると立ち上がって(stand up)くれない」と、祖父の代表曲『Get up, Stand up』を引き合いに出してコメント。
●Airbnbのオーナー(白人女性)は「女性グループは無礼だった」「人種偏見ではない」と、通報者擁護の発言。
●プレンダーガストは警察を訴えると発表。
4月30日 コロラド州立大学
ニューメキシコ州の自宅から7時間かけてコロラド州立大学の見学ツアーに参加していたネイティブ・アメリカンの兄弟(トーマス・カネワケロン・グレイ、ロイド・スカナーワティ・グレイ、19歳・17歳)を、他の参加者の母親が「物静かで他の参加者と会話しない」「おかしな柄のTシャツを着ている」と大学の警察に通報。2人は警官に職務質問されたのちに解放されるもツアー・グループはすでに出発しており、ツアーを諦めて帰宅。警官は2人に質問する間、「手を上げていろ」と指示。2人が着ていたのはメタル・バンドのTシャツだった。
●大学側は兄弟と母親、高校に連絡を取り、見学ツアー費用を払い戻し。学長が全学生と教職員に「学内でのヘイトとの闘い」についての長文声明をメールにて送付。
5月3日 ミズーリ州ブレントウッド(セント・ルイス近郊)
3人の黒人ティーンエイジャー(ディロン・テイラー、メキ・リー、エリック・ロジャース二世)がノードストローム・ラック(ノードストローム・デパートの廉価版店舗)でプロムのための買い物をしたところ、店員が「万引き」と警察に通報。警官は少年がレシートを持っていたために解放。なお、3人は10代であるにもかかわらず、多くのメディアが「3人の黒人男性」と報道。
●社長がミズーリ州に出向き、少年たちと家族に謝罪。
5月4日 ジョージア州アルファレッタ(アトランタ近郊)
65歳の黒人女性(ローズ・キャンベル)が交通違反を犯したとして、パトカーが停止指示。女性は違反を認めて書類にサインしたが、車のドアを閉める際に警官の肩にぶつけてしまう。そのため、警官が女性を逮捕しようと車から出るよう指示するが、女性は拒否し、「上官に会いたい」と希望。後から駆け付けた警官が女性に「ファック、黙りやがれ! 車から出ろ!」と叫ぶ。怯えた女性が車から出ると、警官は乱暴に腕をねじり上げるなどし、女性は叫び続ける。全容はパトカーのダッシュボードに備え付けのカメラにて録画。
●「ファック」と叫んだ警官は解雇の前に辞職するも、「カースワードは適当ではなかったかもしれないが効果はあり、女性はすぐに車を出た」と発言。
●地域リーダーが記者会見。キャンベルは「警官の謝罪」を要求。
5月8日 コネチカット州 イェール大学院
イェール大学院の寮の共用スペースで論文を書いていた黒人女性の学生(ロレイダ・シヨンボラ)は、真夜中過ぎにカウチで居眠りをしてしまう。白人女性の学生(サラ・ブラッシュ)が、「ここで寝てはいけない」「私には警察を呼ぶ権利がある」と携帯電話でシヨンボラの写真を撮り、大学の警察に通報。3人の警官がシヨンボラにIDの提示を求めるが、シヨンボラは「なぜ見せる必要があるのか」「私はこの部屋にいる権利がある。他の学生と同様、学費を払っている。私はここにおける私の存在の正当性を証明などしない」とIDの提示をあえて拒否するが、しばらくのちにIDを提示。
●イェール大学院は全学生に「人種偏見、差別、ハラスメント」についての声明をメメールにて送付。
●ブラッシュは以前に黒人の男子学生にも同様のことをした経歴があり、警察はブラッシュに訓告。
●シヨンボラはブラッシュへのなんらかの懲罰、または放校を希望。
5月10日 ノースカロライナ州ウォーソー
ワッフル・ハウスにて、22歳の黒人男性(アンソニー・ウォール)が店員と口論となり、店員は警察に通報。駆け付けた警官はウォールの首を絞め、地面に投げ倒したのちも首を絞め、腕をひねり上げて逮捕。ウォールによると、口論の原因は店員の無礼な態度。ウォールの弁護士は、店員がウォールに対してゲイの蔑称を使ったと語る。ウォールは高校生の妹のプロムに付き添ったのち、妹や友人とともに食事のためにレストランを訪れていた。
●ウォーソー市長(黒人男性)とレストラン側はウォールにも非があると主張。
5月10日 ホワイトハウス
ホワイトハウスでの会議にて、共和党の大物議員で大統領選への出馬歴もあるジョン・マケインが、トランプが指名したCIA長官の任命に反対票を投じたことが話し合われていた。マケインは81歳の高齢で脳腫瘍を患っており、病床からの投票。この件について、トランプの特別アシスタントのケリー・サンドラーが「どうでもいいわよ、どうせ死にかけてるんだから」と発言。会議は非公開のものだったが、参加者がリーク。
●発言に対してマケインの妻と娘が抗議し、政界での批判も高まったことからサンドラーは謝罪。しかし、ホワイトハウスはマケインへの公式謝罪を拒否し、サンドラーの解雇も行わず。
●ホワイトハウスは職員によるリークを防ぐために、個人携帯の使用禁止を検討。
5月11日 ウィスコンシン州 メイフェア
ショッピング・モールの警備員から警察に「5人の男性が騒いでおり、応援が必要」と連絡。警官が到着した時点で男性たちはモールの駐車場におり、警官はなかの1人(氏名不詳、17歳)の顔を殴る。地面に倒れた少年を組み伏せたのちも警官は殴り、首を絞める。
●警察は、ビデオには少年が警官の質問を無視し、歩き去ろうとするシーンが収められていないとコメント。少年は警察署に連行されたのちに釈放。
5月11日 NRPラジオ
トランプ政権の大統領首席補佐官のジョン・ケリーは、NPRラジオ(米公共ラジオ局)に出演し、不法移民についてのインタビューを受け、以下のように語った。
「不法入国者として合衆国にやってくる多くの人々は悪人ではない。犯罪者ではない。ギャングでもない。しかし、合衆国の近代的な社会に容易に同化できる人々でもない。多くは田舎の人々だ。4~6年生程度の教育が一般的である国々からだ。彼らは英語を話さず、これは明らかに大きな問題だ。彼らはうまく同化しない。彼らは(仕事に必要な)スキルを持たない」
ケリーは大統領のトランプを含め、ホワイトハウス中枢メンバーの多くが政治経歴を持たず、かつ非常に不安定な言動を繰り返す中、冷静な言動が「ホワイトハウスの中の大人」と呼ばれる人物。加えて、前任者の唐突な辞任によって大統領首席補佐官となる前は、移民問題を扱う国土安全保障省の長官であった。そのケリーが、言葉遣いはマイルドながら移民(中南米出身者)への強い偏見を露わにし、強く批判されている。
●NPRラジオは2日後に移民を専門とする大学教授を番組に招き、ケリー発言「同化しない」「低い教育レベル」などへの具体的な反証をおこなった。
5月11日 カリフォルニア州
コーヒーショップにて、注文の列に並んでいた若いイスラム教徒の女性(全身を覆い、目だけをだすニカブを着用)に対し、白人男性が口頭でハラスメント。以下は会話の要約。
女性「なぜ、そんなことを言うのですか?」「私がイスラム教徒だと知っていますか?」
男性「(顔をしかめて)嫌いなんだよ。これでどうだ?」「おまえに殺されたくないんだよ」
女性「キリスト教徒ですか?ならば聖書について話しましょう」
男性はキリスト教を持ち出された時点で会話を終わらせようとする。
●店の奥にいた他の男性客が「出て行け、ファック・ユー!レイシストめ!」と叫ぶ。
●店長が、男性は「公共の場を乱し、とてもレイシスト」として、注文を拒否。
5月14日 エルサレム
米国大統領のトランプは、エルサレムをイスラエルの首都であるとし、在イスラエル米国大使館をイスラエル最大の都市テルアビブからエルサレムに移転した。14日の新大使館開館記念式典には大統領上級顧問で、娘イヴァンカの夫であるジャレッド・クシュナーと、イヴァンカが出席。クシュナーはユダヤ系アメリカ人であり、結婚に伴いイヴァンカもユダヤ教に改宗している。2人がスピーチをおこなっている間、ガザでは大規模な抗議運動と、それに対するイスラエル側の攻撃があり、パレスチナ人の死者50人(5/15現在)、負傷者2,700人以上となっている。
●2月に移転が発表された時点で米国主導の中東平和が遠のくこと、および移転に反対するパレスチナとイスラエルの間で衝突が起こることは予測されていたが、トランプ政権は移転を強行。
「弱者」を切り捨てる「強者」
14件もの事件の羅列。読んでいて疲れ、呆れたことと思うが、これらはSNSかメディアが報じ、筆者の目に止まった事件のみである。全米で同様の事件がどれほど起こっているのか、想像もできない。
トランプ政権の外交政策とショッピング・モールでの10代の少年や運転中のシニアの問題には一見、なんの繋がりもないが、根は同じだ。「弱者は品行方正に、静かに、腰を低くしていろ」、さもなくば「強者はなにをしても許される」である。
スターバックスで注文をしない、交通違反を犯した、バーベキューの場所を間違えた、モールで騒いだ、高圧的な店員と口論した、大学見学にメタル・バンドのシャツを着た、無愛想……被害者側のこうした行動を「間違っている」と判断する人もいるかもしれない。しかし、こうした行動は誰もが日常生活で取り得る範囲だ。
その程度の行動によって警察を呼ばれ、一歩間違えれば命にもかかわる暴力を受けてしまう。警官と一般市民が対峙する際、警官は「強者」であり、市民は「弱者」だ。アメリカではとくに黒人市民が無実の罪で警官に暴行を加えられ、射殺される事件が多発している。そのため、黒人は警官を非常に警戒する。65歳の黒人女性が「上官を呼んでほしい」と懇願したのはそれが理由だ。女性は「パトカーの青いライトが信用できない」「パニックに陥った」とも語っている。また、過去にこうした事件が相次いでいるからこそ、「もう黙っていられない」と、記者会見、テレビ出演、訴訟によって事態を是正しようとする被害者も出る。
コーヒーショップでの件は一般市民同士だが、白人男性は自分が「アメリカ人」「白人」「男性」「キリスト教徒」、かつ被害者のムスリム女性よりもかなりの長身であることなどから、自分が「強者」であると考えている。女性の英語に訛りがなく、おそらくアメリカ生まれであろうことはまったく気にかけていない。ゆえに白昼のコーヒーショップで堂々と「弱者」への差別行動に出たのである。ただし、クリスチャンといっても教義には疎く、ムスリム女性からの宗教議論に尻尾を巻き、加えて思いもよらなかった他の客や店長からの攻撃にすごすごと退散している。
マケイン議員はベトナム戦争時に敵兵に捕らえられ、5年間もの捕虜生活を生き延び、「アメリカの英雄」と呼ばれる人物だ。議員が健康で議会に出ている時であれば、同じ共和党の若いホワイトハウス職員が揶揄できる相手では到底ない。ところがトランプに反意を唱え、かつ重篤な病床にあるとなるや「弱者」と捉え、トランプに属する自分を怖い者なしの「強者」と思い、「どうせ死にかかっている」となる。
トランプの大使館移転が大量の死者を招くことは分かり切っていた。まともな知識のある人間であれば政治家でなくとも予測したことだった。それでもトランプは実行した。自分自身とアメリカ、アメリカが支援するイスラエルを「強者」、相対するパレスチナを「弱者」と捉え、弱者の命にはなんの価値も認めていないのである。式典に出席したクシュナーとイヴァンカも同様である。
アメリカの自浄努力
本来、警官は強者ではなく、市民の生活を助ける者だ。アメリカ人が米国内では自国民として優位な立場にあるのは当然だが、「アメリカ人」の定義を考えてみる必要がある。移民も米国籍を取ればアメリカ人となり、そもそも移民はアメリカの活力源だ。米国は大国だが、他国を弱者として扱うべきではなく、まして他国民の命を軽んじていいわけでは決してない。
アメリカ人は「勝者 winner」「敗者 loser」という言葉を多用する。「強者」「弱者」と同義語だ。この言葉を使う者はものごとを2つに分け、誰もがどちらか一方に属すると考える。中間や、場合によっては同一人物がどちらにも属するとは考えない。つまりものごとの多様性をみることができない単純思考だ。この単純さが、実は非常に危険なのである。アメリカに限らず、現在の日本でもよくみられる傾向ではあるが。
アメリカには希望もある。上記の各事件の解説の巻末を見てほしい。なんらかの解決策、改善策が取られている、もしくは取ろうとする努力がみられる。まったくないものもあれば、解決策は建前だけ、逆に行き過ぎていると思われるものもある。それでも、人々は試みる。残念なことに、改善策を検討する気がまるでないのは、ホワイトハウスなのである。
(堂本かおる)
追記:こうした事件が相次いで報道されたためか、公正な判断を下す警官も出現。ミズーリ州にて空家のチェックに訪れた不動産投資家の黒人男性(マイケル・ヘイズ)に対し、近隣住人の白人女性が「ファック、何してるんだ!」と叫んで通報。駆け付けた警官は文句を言い続ける女性に「留置所に入れるぞ」と告げ、黒人男性と笑顔で記念撮影。