神々のたそがれならぬ、日本企業のたそがれなのか。人気女優・宮崎あおいが2007年からCMキャラクターを務めている「オリンパス社」。国内ではカメラの老舗ブランドとして有名だが、内視鏡分野では世界シェアの75%を占める世界的な光学機器メーカーである。ギリシア神話の舞台となったオリンポス山を社名の由来とするオリンパス社が、国際ニュースを騒がしたのは11年に発覚した「オリンパス損失隠蔽事件」だった。オリンパス社が大量のCMを出稿するクラアントであることから、国内の大手メディアはオリンパス社が1,200億円もの損失を隠してきたこの事件を報じることに躊躇した。ドキュメンタリー映画『サムライと愚か者 オリンパス事件の全貌』は、15年に英国の国営放送BBCをはじめ、欧州各国でテレビ放映されて大きな反響を呼び、ようやく国内でも劇場公開されることになった。日本企業特有の隠蔽体質、組織のトップに対する忖度、外国人社長とのコミュニケーション不全……。海外生活の長い山本兵衛監督に、本作の製作事情とオリンパス事件が抱える特異性について語ってもらった。
山本兵衛監督はニューヨーク大学映画製作科を卒業後、米国の映画配給会社で働くなどしながら、短編映画を各国の映画祭に出品してきた。今回の『サムライと愚か者』が長編デビュー作となる。かつて松竹を解任された苦い経験を持つ奥山和由プロデューサーはオリンパス社から解任されたマイケル・ウッドフォード元社長の告発本『解任』(早川書房)に感銘を受け、オリンパス事件をベースにした映画はできないかと山本監督に打診したのが12年。17年間に及ぶ海外生活の中で文化的価値観の相違を痛感してきた自分なら、日本人側の視点、国際的な視点の両面からこの事件を捉えることができると快諾したという。
山本「オリンパス社で初の外国人社長に抜擢された英国人のマイケル・ウッドフォード氏ですが、不可解な会計処理に気づき、真相を究明しようとしたところ、解任されてしまいました。事件の発覚後、再来日したウッドフォード氏がオリンパス社の内情を語る形で、事件を検証していく構成にしています。奥山プロデューサーから企画を打診され、より多くの出資を募るため、アムステルダムのドキュメンタリー映画祭の企画マーケットに出品したところ、BBCが興味を示し、欧州各国のテレビ局も出資してくれることになったんです。それもあって、まず英国、その後ドイツ、フランス、デンマーク、スウェーデンでも放映されました。欧州ではかなりの反響があり、日本でも公開することになったのですが、中には『世界的に知られる日本の優良企業の恥部を、どうしてさらすようなことをするんだ』と思う方もいるかもしれません。でも今回のオリンパス事件は、時代の変換期を迎えた日本社会が抱える様々な問題の縮図であるように、僕には思えるんです」
11年7月、オリンパス事件を最初にスクープしたのは月刊誌「FACTA」(ファクタ出版)だった。出版取次を通さない会員向けの総合情報誌「FACTA」誌上で、記者クラブには所属しないフリージャーナリストである山口義正記者が怪しい企業買収を重ねるオリンパス社の不正を訴えた。同年4月にオリンパス社の社長に就任したばかりだったウッドフォード氏はこの記事に驚き、前社長である菊川剛会長(当時)に疑惑の解明を要求したところ、菊川会長を中心とする役員会(ウッドフォード氏以外は全員日本人)で一方的に解任されてしまう。この解任劇とウッドフォード氏によるオリンパス社の不正告発を海外のメディアは大々的に報道したが、日本の大手メディアがこの事件を取り上げるまでには相当の時間差を生じた。
山本「日本の企業文化の独自性を題材にしたドキュメンタリーになっていますが、オリンパス事件を追求しなかった日本のメディアもおかしな状況ではないでしょうか。世界で起きた重大ニュースを、日本のメディアは海の向こうで起きたローカルニュースのように扱う。例えば、米国パークランドの高校で起きた銃乱射事件の後、高校生たちが銃規制を訴えてワシントンでデモ行進したニュースを、日本のニュース番組では『歌手のレディ・ガガさんも参加しました』と芸能ニュース扱いで報じていました。海外の常識では考えらえないことが、今の日本のメディアでは当たり前になっています。日本のテレビ局はNHKニュースをまずチェックし、特オチしていないかを確認することが基本になっている。オリンパス事件の本筋からは離れてしまうので編集段階でカットしたんですが、国内メディアの姿勢にも大きな疑問を感じます。情報源の機嫌をそこねるようなニュースは出さない日本の既成メディアからは、本当の意味でのスクープは生まれません。今、世界では何が重大なニュースとなっているのか、報道されているニュースは正しいのか、そして報道されていないニュースは何かを知ることは、とても重要なことだと思います」
■オリンパス社の粉飾決算は氷山の一角に過ぎない!?
本作のタイトルとなっている『サムライと愚か者』は、オリンパス社を解任されたウッドフォード氏の発言であり、山口記者の著書『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)からとったものだ。バブル時代に財政難に陥ったオリンパス社は長年にわたって粉飾決算を続け、ウッドフォード氏は本社の裏事情を知らないまま菊川会長によって新社長に抜擢された。菊川会長はCEOとして実権を握り続け、お飾りとしてウッドフォード氏は社長に祭り上げられた格好だった。疑惑を知り、説明を要求したウッドフォード氏は菊川会長と財務担当の森久志副社長(当時)とのランチミーティングの場を与えられるが、菊川会長と森副社長の前には豪華な寿司が用意され、ウッドフォード氏の前にはキオスクで売っているようなツナサンドが置かれたという屈辱を味わっている。日本社会ならではの“空気を読む”“忖度する”といった見えない壁に阻まれ、ウッドフォード氏は社内改革を実行できないまま、英国に帰国した。会社を守ろうとしたサムライは、一体どちらだったのか?
山本「今回のオリンパス事件で海外の人たちが驚いているのは、不正を働き、そのことをずっと隠してきたオリンパス社の役員たちが私腹は肥やしてなかったということなんです。ウッドフォード氏は会社の過ちを正そうとした自身やサポートしてくれた一部の社員たちをサムライ、今回の解任劇を黙って見ていた役員たちを愚か者だと称しているわけですが、役員側の立場に回れば、ウッドフォード氏のほうが空気を読まずに勝手に暴走した愚か者だということになるんです。もちろん不正を明らかにしようとしたウッドフォード氏の行動は企業ガバナンス的に正しいのですが、現体制を守ろうとした役員たちの心情は日本人として理解することはできる。ウッドフォード氏はサムライという言葉を使っていますが、侍/武士は言ってみれば封建時代の既得権者でもあるんです。侍が正しい存在という考えは、幻想にすぎません。また、菊川会長は私腹を肥やしてはいないものの、10年間にわたって大企業のトップにいた。権力の座に長くいると、判断力が鈍り、組織は腐敗していくものです。どちらがサムライで、どちらが愚か者なのかは、本作をご覧になった方に判断してもらえればと思います」
創業から99年という長い歴史を持つオリンパス社で起きた大不祥事。オリンパス社だけの問題ではなく、不正の事実を見逃してきた監査法人、オリンパス社の怪しい財務状況に気づかずにいたメインバンクの在り方など、掘り下げれば下げるほど、日本特有の企業社会の暗部が広がっていく。
「戦後の復興期は、みんな一丸となって働くという日本的なやり方がよかったわけです。そのお陰で日本は復興し、高度経済成長を遂げることができた。でも、国際化の時代は日本だけで通じるやり方ではやっていくことはできません。組織のトップを守ろうという意識だけでは、企業は成り立たないんです。じゃあ、どうすれば組織を変えることができるのかと問われても、僕には具体策を提示することはできません。でも問題があることを認識し、その部分を改善し、組織を変えていく努力をしていかないことには船は沈んでしまいます。大相撲やレスリング界でもパワハラ問題が起きているように、旧来の組織論では通じない時代になっています。オリンパス事件はどの企業にもどの組織にも共通する、普遍的な問題ではないでしょうか」
映画は最後にウッドフォード氏がオリンパス社から和解金を受け取ったことを伝えてエンディングを迎えるが、事件はまだ終結していない。ウッドフォード氏はかつて勤めたオリンパスの子会社である英国メーキッド社から半ば嫌がらせのように横領罪で訴えられ、ウッドフォード氏はオリンパス社の報復だと法廷で争っているところだ。日本での劇場公開は5月19日(土)から。オリンパス社は本作の公開について沈黙を守っている。
(取材・文=長野辰次)

『サムライと愚か者 オリンパス事件の全貌』
監督・編集/山本兵衛 エグゼクティブ・プロデューサー/奥山和由
配給/太秦 5月19日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
(c)チームオクヤマ/太秦
※5月19日、イメージフォーラムにて先着100名に関西土産として話題の「黒忖度まんじゅう」を初日プレゼント。2017年の流行語にもなった“忖度”の味を映画を観ながら噛み締めたい。
https://samurai2018.com/
●山本兵衛(やまもと・ひょうえ)
1973年生まれ。米国マサチューセッツ州の高校を卒業、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。卒業作品『A Glance Apart』はニュヨークエキスポ短編映画祭にて、最優秀フィクション賞を受賞。短編4作目『わたしが沈黙するとき』は15以上の世界の映画祭で上映された。日本に帰国後、2011年に制作会社ヴェスヴィアスを設立。初めてのドキュメンタリー映画『サムライと愚か者』で長編デビューを果たした。現在は2作目となるドキュメンタリーを準備中。


「テレビで見ない日はない」と言われるマツコ・デラックス。毒舌キャラのオネエとしてブレークしたマツコは、今やご意見番として定着し、民放からNHKまでさまざまな番組やCMにも出演。順風満帆のように見えるが、多忙のあまり、昨年体調不良で入院。また最近は、行きすぎともいえる発言が物議を醸したり、「業界ズレしてきた」という指摘も聞こえてきている。さらに、NHKを退職した有働由美子アナを自分の事務所に引っ張ってきたなど、その言動が何かと話題になる一方で、テレビ番組では、たびたび孤独や将来への不安を口にしたり、弱気な発言も聞かれる。
――マツコさんのブレークと文字の形は関係ありますか?