「あいこ」は、ちょっと天然な中学1年生の女の子。ある日、彼女の性器に突然顔が現れ、「げぼっ!」と吐血。あいこはしゃべりだした自分の性器に「まーちゃん」と名付け、楽しく会話をしながら学校生活を送っていく……。
大胆な設定で、思春期女子の成長&性徴を描いたコミック『あいこのまーちゃん』。この作品は、もともとコアミックスが運営するWEB漫画サイト「ぜにょん」で連載され、その後に徳間書店から単行本として発売される予定だった。しかし、連載開始2日前に、徳間書店の担当者から「有害図書指定に当たる可能性があり、出版できない」との連絡があり、連載が中止となってしまう。
作者のやまもとありさ氏は、掲載予定だった作品を別のWEB漫画サイトで発表。さらにクラウドファンディングにて制作資金を募って、単行本化にまでこぎ着けた。現在は、続編『あいこのまーちゃん2年生』をWEBコミック誌「comicエスタス」で連載している。読者の間でも、女性器の表現や出版業界の自主規制について議論されることとなった『あいこのまーちゃん』の変遷とWEB漫画の現状について、やまもと氏に伺った。
■萌え漫画に出てくる女性キャラは、あまり生きてる感じがしない
『あいこのまーちゃん2年生』より
――そもそも「女性器を擬人化してしゃべらせる」というアイデアは、ふと降りてきたような感覚ということですが……。
やまもとありさ氏(以下、やまもと) そうなんですよ。でもやっぱり「降ってきた」というからには、頭の上に何かしらモヤモヤがたまっていて、それが満タンになってバサッと落ちてきたんじゃないかなって思います。もっと単純に、女性器について、楽しく読んで学べるみたいな漫画もいいんじゃないかなっていうことも考えていました。
――過激な表現と見なされて、規制を受けてしまうというような反響は予想してましたか?
やまもと 若干の危惧はありました。でも、なにか行きすぎた表現があれば、編集者さんが止めてくれるって思っていたんです。実際に「どうですかね? 大丈夫ですかね?」って見せたら、すごくウケてくださったんで、じゃあイケるんじゃないかなって思ってたんですけど、結局、ダメでしたね(笑)。
――性器の表現だけでなく、女子中学生という設定が引っかかったのかもしれないですね。でも、「初潮」というテーマを描くなら、思春期の女の子じゃないと成立しないですよね。
やまもと やっぱり年齢も低いところから描いていかないと面白くないな、とは思っていました。男性の読者に対しては、女の子は生き物というかナマモノっていうことを感じてもらえたらっていう……なんかちょっと偉そうなことも考えていたんですよ。いわゆる萌え漫画に出てくる女性キャラは、あまり生きてる感じがしないなと感じていて。女はもっと生々しいし、血が出るぞっていう部分を出したかったという思いがありました。
――男性は、そういう部分から目をそらしがちですね。
やまもと 毎月出てるものだし、本当に細かい悩みはめちゃくちゃあるんです。そういう女性の思春期の機微みたいなものを描きたかったっていうのが大きかったですね。でも、表現が過激っていうのもわかっていたので、賛否はあるだろうなとは思っていました。ただやっぱりインパクトが欲しかったというか、毒にも薬にもならない作品にはしたくなかったので……。
――否定の意見も届きましたか?
やまもと 一番多いのが「気持ち悪い」。今でもグーグル検索で「あいこのまーちゃん」で検索すると「気持ち悪い」って出るんですよ(笑)。あと、「実際に血はこんなに出ない」とか、現実的なところで責めてくる人とかもいました。
――それを言ったら、エロ漫画だって、実際はあんなに液体は出ないぞっていう話ですよね(笑)。
やまもと そうですよね。ただ「まーちゃん」は、絵柄と内容のギャップに違和感を抱いた方が多かったと思うんですよ。私も意図的にやったんですけど、こんな可愛くてファンシーで無垢な女の子から血が出るっていうことを感じてもらいたかった。そのギャップ感で引っ張りつつ、心の機微のほうに入っていくみたいな構想だったんです。
――最後まで読むと、思春期特有の感覚というか、今振り返ると、あまり穏やかでない、ちょっと心がザラッとするようなことまで踏み込んでいるのを感じました。
やまもと 思春期に感じた、もう自分でも思い出したくないようなことを描くっていうのは、やりたかったことなんで。それが一巻で収まらなかったので、エスタスさんに「2年生」という形で続きを載せていただくことになって。これが終わっても、手が空いた時に、3年生、高校生って書いていこうかなって考えています。多分どこにも載せてもらえないかもしれないですけど、もう今は個人で電子書籍も出せますから。
■「あ、これ面白い、知らなかった」っていう出会いが雑誌にはある
『あいこのまーちゃん2年生』より
――連載中止騒動について、いまはどう思われてますか?
やまもと 連載中止になったことで、インタビューはかなり受けましたね。私としては、ありのままの経緯をお話しさせていただくだけだったんですけど、表現規制についてどう思うかみたいなことを問われる機会が多くて。そういう問題に自分が直面するとは思わなかったので、考える良いきっかけになりましたね。おかげさまで注目されましたし、こんな無名で新人の漫画家なのに、クラウドファンディングでもお金が集まって単行本も出せたし、今までやったことない経験がたくさんできたので、今となっては「連載中止にしてくれてありがとう」って感じです(笑)。
――出版社から単行本が発売中止になっても、ネットを使えば自分らしい表現ができるというのは実感として得られましたか?
やまもと 騒動になる前は、やっぱり漫画は紙の雑誌に連載して単行本化――みたいな考えに縛られていたので、価値観が変わったというか、転機にはなりました。でも、ネットはネットで問題があるんですよね。最初は、だったらネットで発表しまくってやる! という気持ちになったんですけど、なんか手応えがなかった。お金もネットで稼ぐのってめちゃくちゃ大変で、ちゃんと収入になるかなんてイチかバチかなんですよ。
――ネットという発表の場があっても、お金にするには紙にして書店に並べるというのが、現状では一番わかりやすいシステムなんですね。
やまもと なんだかんだで、それには勝てないですよね。うまく宣伝すれば、ネット発でも導線が作れると思うんですけど、そのマーケティングを考えるのは難しく感じています。私もいろいろな経験から、いま『つればり』っていうWEB雑誌を自分で作ってるんですけど、それもひとつの挑戦ですね。
――雑誌という形式にこだわってらっしゃるんですか?
やまもと やっぱりネットで作品名で検索してると、読みたいものしか目に入らなくなっちゃうと思うんです。パラッと読んでて、「あ、これ面白い、知らなかった」っていう出会いが雑誌にはあると思うし、私の作品もそれに便乗したい。でも、紙の雑誌を作って即売会に出したりしてたんですけど、やっぱりぜんぜんもうからないんです。会場に払うお金とか、交通費とか飲み代とか、いろいろ考えたら、WEBで雑誌を作った方がいいと思ったんですよ。
■薄毛について突き詰めたら、他者との付き合い方に行き着いた
――やまもとさんが「wezzy」で連載されている『おんな薄毛道~生やしてみせます』も好評です。
やまもと 『あいこのまーちゃん』騒動が落ち着いて、仕事がないって時に、なにか自分のことで漫画にできないかなってたどり着いたのが「薄毛」でした(笑)。エッセイ漫画は全然書いたことがなかったので、売れてる作品を研究して、頑張って描いてます。
――実は『まーちゃん』とテーマが似てるといいますか、最終的に自身のコンプレックスを掘り下げる作業ですよね。
やまもと 漫画にするまで、薄毛について、ここまで考えたこともなかったんですけど、なんで気になるのかと突き詰めたら、やっぱり他者との付き合い方というか、この世界を生きるには、みたいなことになるんですよね。もともと私は共感することが苦手で、学生時代に女の子同士で「これ可愛いよね」「ねー」というようことを言えないタイプだったんです。まぁ、ひねくれてるだけなんですけど、でも、その群れにいた人たちの中にも、疎外感を抱いていた人が絶対にいるはず。共感を求めてるとか、すり寄って描いてるつもりはないんですけど、私と同じような生きづらさを感じたことがある人に届いてほしいという思いはありますね。矛盾してるような気がしますし、まだまだ技術的にも拙いですけど、これから磨いて、ちゃんと自分の表現として伝わればいいなと思っています。
(賀俵雄志/清談社)
やまもとありさ
2013年に「コミックゼノン」に読み切り作『路上の唄』が掲載されデビュー。現在は『あいこのまーちゃん 2年生』のほか、WEBサイト「wezzy」で『おんな薄毛道』などを連載中。電子雑誌「つればり」の編集も手がける。『あいこのまーちゃん2年生』は、WEBコミックレーベル「comicエスタス」にて連載中(月1回更新)。12月下旬より、分冊版第1巻がAmazon Kindlrストアほか、各電子書店にて発売予定。
・「comicエスタス」ニコニコ静画版