大学生にとって、性暴力、性犯罪とは身近なものである。「まさか」と思う人もいるかもしれない。でも筆者が自身の大学時代をふり返ると心当たりがゴロゴロ出てくる。サークルの飲み会で1年生男子は酔い潰され、上級生の男子は1年生女子にベタベタしていた。もしかしたら知らないところで性暴力が行われていたのかもしれない。いまとなってはわかりようもないが、少なくともそのようなことが起きてもおかしくない状況だったし、“お持ち帰り”を目撃したこともある。
お持ち帰りが性暴力だなんて、そんな大げさな。2016年に報道された東京大学や千葉大学の学生による集団レイプ、強制わいせつはさすがにマズいけど、酔った女子生徒を連れ帰ってセックスするなんてよくあることじゃないかーーと感じたなら、その感覚のほうがよほどマズい。性暴力とは、「同意のない性的言動」すべてを指す。性的同意(セクシュアル・コンセント)とは、性的な行為への参加に対する積極的な意思表示のことで、酔って前後不覚になりその同意を示していない女性に性的な接触をすれば、それは性暴力であり、「よくあること」では済まされない。
キャンパスレイプのみならずすべての性暴力全般をなくすためにアクションを起こしているのが、「一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション」の大澤祥子さん。具体的には、性において自分自身と相手の意思を大切にし、傷つけない・傷つかない性関係を築くための教材「セクシュアル・コンセント・ハンドブック」を作成し、来年の4月に複数の大学で配布することを目標としている。
現在、そのための資金をクラウドファンディングで募っている大澤さんに、活動の詳細をうかがった。
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性的同意について知ることはすべての年代において大事だと思われるが、そのなかでも特に大学生に向けてハンドブックを作成しようと思われたのはなぜなのか。やはり昨年相次いで明るみに出た、大学生による性犯罪が影響しているのだろうか。
大澤祥子さん(以下、大澤)「本来なら、中高生の段階で同意について学んでほしいと思います。たとえばアメリカでは、高校の性教育の一環で同意について教えるところもあるようですし、親は子どもが幼いうちから同意について教えるべきだという意見をメディアでよく見かけます。
そんななかで今回、大学生をターゲットとしたのは、大学がそもそも性暴力が起こりやすい環境になっていると考えられるからです。中学、高校で十分な性教育を受けることがないまま、親元を離れたり行動範囲や交友関係が一気に広がったりして性関係を持ちやすくなります。初交年齢の平均は20歳前後という調査もあるように、大学に入ってから初めての性行為を経験する人は多いということです」
上下がある関係性を利用し、性暴力が起きる
大澤「さらに、私たちは“性暴力をめぐる制度的・社会的変化”を目指していて、具体的には“性被害予防として大学で同意教育が義務化され、また若い人のあいだで同意の大切さが広く理解されている状態”をゴールとしています。そのためには、大人が子どもに一方的に教えるのではなく、当事者である学生たちがその変化の担い手になることが重要であると考え、まずは大学生に呼びかけることにしました」
性暴力が起こりやすい環境ーーこれを作り出しているものには大きくわけてふたつあるという。ひとつめから、お話してもらおう。
大澤「大学というコミュニティでは、独特の関係性が築かれます。体育会や研究室といった狭いコミュニティでは、“従属”が前提となっている先輩-後輩、指導教員-学生など上下が明らかな関係が多く、地位関係性を利用した性的加害につながりやすいのです。また、こうした関係性においては被害に遭っても、被害者が声を上げにくくなります。特に周りが加害者とも面識がある場合、被害を打ち明けても「あの人がそんなことをするはずがない」「被害妄想ではないか?」と信じてもらえないということも起こりえます。そのようななかサークルや研究室などで一緒に行動することが多いと、被害者はさらなる精神的苦痛に見舞われるといった状態になるのです」
もうひとつは、飲酒の席での“文化”だ。
大澤「性暴力のすべてにお酒が絡むわけではないですが、お酒が入ると性暴力が起きやすい状況に陥りやすいとはいえます。打ち上げやコンパなど大人数で集まる飲み会が多く、そこでハメを外すことが武勇伝として語られたり、飲みの席ではなんでもアリとされたり、大学には飲酒を取り巻くカルチャーが古くから存在します。とはいえ、飲酒すること自体が問題なのではなく、あくまで性や性的同意についての正しい知識を得たり考えたりする機会がないことが問題なのです。
『酔って意識が晴明でない人は同意ができる状態ではない』というのは当たり前のことのようでいて、まだまだ知られていないと感じます。学生ならずとも、ですが。ろれつが回っていなかったり足元がふらついたりしているのなら、安全の確保を優先して性行為は控えるべきでしょう。『泥酔している=同意ができない=同意がないと性暴力になる』という考えがないと、性行為の強要につながりかねません」
ゆえに「セクシュアル・コンセント・ハンドブック」は4月、新歓コンパなどが多い時期の配布を予定している。先に挙げた東大、千葉大の学生による事件でも被害女性はそのとき酩酊していたとされている。それなのに同意を確認しなかった加害者側ではなく、女性側が「酔ってようがいまいが、ついていった方が悪い」といわれることすらある。
大澤「性暴力にまつわることで、根拠がなく実態ともかけ離れているのに多くの人が信じている事柄を”強姦神話”といいます。『ついていった方が悪い』や『派手で目立ったり、思わせぶりなことをするから被害に遭う』というのはその典型ですね。この神話、残念ながら大学生にも根強いと感じます。昨年の大学生の事件については、『被害者にも落ち度があった』という意見が多かったそうです」
性的同意についての知識が抜け落ちていることが、強姦神話を助長しているともいえる。「部屋でふたりきりになったら、セックスしてもOK」「ふたりで飲みにいけば、それは性行為にOKしていることになる」「NOといっても本当は喜んでいる」のように、性的同意が「ある」と勝手に思い込んでいたり「NO」を聞き入れなかったりしたことで起きた性暴力も、「被害者も悪い」「落ち度があった」とされてしまう。
「性的同意」って堅苦しい?
大澤「性に関する価値観や偏見は小さいころから刷り込まれているものも多くて根深いので、それを解体するむずかしさは感じます。特に、性被害は被害者が防ぐものある、という考えがいまだに根強いなかで、『同意を得る責任は、アクションを起こす側にある』と知ってもらうのは簡単なことではありません。これは『性被害の原因は、被害者ではなく加害者にある』という意味でもあり、これをいかにして伝えるか……。私たちは東京大学や創価大学を始めとする複数の大学で、性的同意についてのワークショップを開いてきました」
各大学で開催したワークショップ
これまでのべ620人以上の大学生に対して、計19回以上のワークショップを実施してきたという大澤さん。以前、wezzyで紹介した「第三者として目の前で起ころうとしている性暴力を止める」ための方法論を学ぶプログラムもその一環だ。
▼目の前で起きようとしている性暴力を、私たちは第三者として食い止められるか。大学生と学ぶ「第三者介入トレーニングプログラム
性的接触をする前には必ずお互いの同意を確認しあう。そのことがまず大学生から、そしてもっと幅広い世代に広がれば性暴力は確実に減ると考えられる。ただ、性的同意を「無粋」「そんな堅苦しいことをしたら冷める」「そのときには同意しているといったのに、あとで『実はイヤだった』といわれることもあるのではないか」という声も聞かれる。大澤さんたちはそこにどうアプローチしていくのか。
大澤「『同意を追求しすぎたら逆に楽しめなくなる』『いっそ同意書を持ち歩くのが一番だろう』という意見はたしかに耳にしますね。同意という語に堅苦しい響きを感じられるのかもしれませんが、結局はお互いがハッピーになれるよう、相手がOKしていると勝手に思い込まず、コミュニケーションを取り合って確認するということで、思いやりに基づいたものなのです。ワークショップでは、あえて性がからむシーン以外で、自分が同意していないことをされたときの不快感を想像してもらう、というアプローチを取っています。また同意にはマニュアルがあるわけではないということも知ってもらいたいですね。自分自身そして相手との関係性のなかで、互いに確認し合うものです。だから、ワークショップの最後には自分の言葉で同意を定義し、書き出してもらいます」
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性暴力の加害、被害を未然に防ぐことを「一次予防」という。そのための知識は義務教育のなかで平等に行われるべきだが、いまのところそうした動きは見られない。であれば、大学時代が社会に出る前に「加害者にも被害者にもならないために必要な知識」を身につけられる最後のチャンスなのかもしれない。性暴力をなくす第一歩として、性を取り巻くカルチャーを変える。大澤さんたちの活動に、これからも注目したい。
Infomation
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大学生の性被害をなくしたい!
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詳細は、https://camp-fire.jp/projects/view/46642
2017年12月21日、23:59まで受付中!