ベネッセ教育総合研究所が、今年3月に実施した調査『第2回 乳幼児の親子のメディア活用調査』の結果について発表した。
本調査は、2013年に実施した『第1回 乳幼児の親子のメディア活用調査』に続く第2回。調査時期は、2017年3月。調査対象は、東京・神奈川・千葉・埼玉に在住の0歳6カ月~6歳までの乳幼児をもつ母親3400名だ。調査項目は、家庭でのメディア所有状況や子供の1週間のメディアの使用頻度や時間、保護者自身のメディアの使用状況、地域との付き合い、子育て意識など。調査方法は、インターネット。「2013年の調査から4年が経過している本調査では、この4年間で生じた母親と乳幼児を取り巻くメディア環境の変化を捉えた」とのことである。
同研究所の発表によると、次のような調査結果が出ている。
(1)スマートフォンは、乳幼児の母親の9割超が使用している(0歳後半~6歳児の子どもをもつ母親のスマートフォン使用率は、2013年:5%→ 2017年:92.4%)。
(2)乳幼児の約2割が、スマートフォンに「ほとんど毎日」接しており、1日あたりの使用時間は約7割が15分未満(0歳後半~6歳児がスマートフォンに接する頻度と時間・「ほとんど毎日」使う(見る)割合は、2013年:6%→ 2017年:21.2%。平日1日あたりの使用時間が15分未満の割合70.2%)。
(3)乳幼児の生活時間をみると、メディアに接する時間と、外遊びやおもちゃ遊びなどメディア以外の活動時間とのバランスは崩れていない(0歳後半~6歳児の外遊びや散歩の時間は、約7割が1日1時間以上。おもちゃで遊ぶ時間は約8割が1日1時間以上。一方、メディアごとの視聴時間は、テレビを除き約5~9割が1日15分未満。全体的なバランスは4年前と比較して大きく変化していない)。
(4)第1回調査(2013年)と比較して、スマートフォンが子育ての多くの場面で使用され 親子のコミュニケーション手段として一定の役割を担うようになった。(携帯電話やスマートフォンなどでさせること(「よくある」「ときどきある」の合計)は、「写真を見せる」4%、「母親や子どもが撮った動画を見せる」76.2%で、「ゲームをさせる」は22.6%。また、「親が家事で手をはなせないとき」にスマートフォンを使わせる割合は、2013年:7.7%→ 2017年:15.2%)。
(5)母親は、子どもの過度なメディア利用については懸念を示しており、一定の配慮や工夫をしながら使わせている(子どもがスマートフォンを使う場合の主な工夫としては、「長時間見せない」「使用させない環境をつくる」「親と一緒に使う」「使う機能を制限する」が挙がっていた)。
これらの結果について同研究所は、少子化が進行し、また乳幼児が幼稚園や保育所以外の場で友だちと過ごす割合が減少し、母親とのかかわりが密になっていること、一方で地域や祖父母世代からの育児協力や知識の伝達は減少傾向にあること、実際乳幼児は言葉の発達が十分ではなくコミュニケーションの取り方に悩む母親が多数いることを挙げ、スマートフォンが子育ての場面において広く利用され親子の時間をつなぐ身近なツールとなっていることを指摘。また、家事の最中など、これまでテレビやビデオ視聴に使われていた時間がスマートフォンの利用時間に代わる傾向もあるという。そして、子供がスマートフォンなどの各種メディアに接する際、使用時間や環境などに母親が配慮している傾向があるとも見ている。
つまり、この調査結果からは、「スマホ育児=危険」というメッセージは出てこない。乳幼児の母親の大多数はスマホを使うし、それに伴い乳幼児とスマホの接触もあり得ているが大抵は短時間に過ぎず、他の活動時間(遊びや散歩)に影響するほどのことではない。母親のほとんどは乳幼児のスマホ利用に配慮しており、乳幼児にスマホを与えて長時間放置しているわけでもなく、過度に心配しなくとも大丈夫そうだ。一方で、この手の調査はやはり「母親」が対象なんだな……とも思ったが、現状、ほとんどの乳幼児が父親より母親とより多くの時間を過ごしている以上、致し方ないのかもしれない。
だがしかし、10月25日の朝日新聞では、本調査の結果が「スマホ育児=危険」のメッセージに刷りかえられてしまっているように受け取った。
▼0歳児の2割、ほぼ毎日スマホ
調査結果概要の(2)の一部だけを切り取ったような見出しに疑問を覚える。この見出しだけで、「0歳児に毎日スマホを与えている親がいるなんてありえない……」と誤解や偏見を助長しかねないし、乳幼児を育てている家庭は「スマホは子供に悪影響なのかな」と不安を覚えてしまうだろう。記事本文は、<0歳児の20%がほぼ毎日スマートフォンで動画や写真を見ている――>という冒頭から<スマホを持っていた92・4%の中で、「子どもは家庭で1週間あたりどれぐらい見たり使ったりしているか」を尋ねたところ、「ほとんど毎日」と答えた0歳児の親は20・0%(前回調査3・5%)いた>として、以下、他の対象年齢児童の「ほとんど毎日」スマホ使用している割合を羅列、<すべての年齢で前回調査を上回った>としている。
しかし前回調査から4年が経過し、社会全体でのスマホ保有率そのものが上がっているであろうこと、乳幼児を持つ家庭でのスマホ保有率も前回調査では60.2%だったのに対して今回は92.4%とおよそ1.5倍に上がっていることについては考慮がなく、<1日あたりの使用時間は15分未満が最も多く、70・2%(同87・6%)>であることは伝えつつも、「乳幼児の生活時間をみると、メディアに接する時間と、外遊びやおもちゃ遊びなどメディア以外の活動時間とのバランスは崩れていない」ことや、「親は、子どもの過度なメディア利用については懸念を示しており、一定の配慮や工夫をしながら使わせている」ことについては一切触れられていない。これでは、調査結果の内容が正しく伝わらないのではないかと残念に思う。いや、残念を通り越して、怖い。こうやって誤解が生まれ、テレビのワイドショーやバラエティ番組で拡散され、“イマドキの母親”がバッシングされる流れができていくのではないか。
本調査の企画・分析に携わった、白梅学園大学学長で東京大学名誉教授の汐見稔幸氏は、「今回の調査結果から、乳幼児のいる家庭に、予想以上に短期間でスマートフォン(スマホ)が普及したことがわかりました。乳幼児のいる家庭だけでなく、日本人の生活の必需品となっている様子が表れているのだと思います」「乳幼児のメディア利用に対して社会の方が過度な心配をしなければならない、という結果ではありませんでした」とはっきり述べている。世間には乳幼児のスマホ依存を懸念する声があるため、そのことを念頭に置いて慎重に調べたが、「結果はそうではなく、乳幼児が長時間利用している家庭はごくわずかであり、外遊びや絵本を読むなどの時間が減少しているわけでもなく、1日の生活の中にバランスよくメディアを取り入れようと保護者が配慮している様子がうかがえるものでした」とのことだ。
お茶の水女子大学名誉教授でチャイルド・リサーチ・ネット所長の榊原洋一氏も、スマートフォンの使用用途の多くは「写真見せる」「動画を見せる」など親子一緒の場面であり、「ゲームをさせる」など乳幼児単独で使用させている回答者は少数であることを挙げ、子育て家庭のスマートフォン所有率の高まりを脅威に感じるのは杞憂であると見解を示している。
榊原氏によると、既にアメリカ小児科学会ではデジタルメディア使用のメリットが認められているという。今回の調査結果で榊原氏が「唯一の気がかり」と見ているのは「スマートフォンに比べて、タブレットの所有と使用が比較的少ないこと」である。なぜなら「画面の大きさや操作性の上で、例えばデジタル絵本を見たりするには、スマートフォンよりタブレットのほうが有望だから」だという。むしろ報じるべきなのは、調査に携わった研究者たちのこういった意見ではないのか。
また、お茶の水女子大学基幹研究院人間科学系教授で同大学人間発達教育科学研究所所長の菅原ますみ氏は「乳幼児の生活からスマートフォンを完全に切り離すことはもはや現実的とは言えません。今後は、デジタルメディアを含む様々なメディアを、子どもの遊びや学び、親子のコミュニケーションのツールとして上手に活用するリテラシーが重要になってきます」、愛知淑徳大学准教授の佐藤朝美氏は「今後は、スマートフォン全体の善悪を問うのではなく、どの部分にリスクがあり、どのような使用法に可能性があるか、詳細に見ていく必要があると思います」とコメントを寄せている。
つまり実際に本調査に携わった研究者たちは、乳幼児を持つ家庭でのスマホ使用そのものを問題視してはおらず、日本人の生活必需品として定着していることを認識した上で、使用ツールの選択、使用に際してのリテラシーに目を向けているのである。
一方で先述の朝日新聞の記事は、当事者である子育て家庭の不安を煽ったり、第三者(非子育て家庭)が持つスマホを使う親への嫌悪を焚きつけているような内容で、私としては「乳幼児のスマホ使用」よりもこういった記事が拡散されることのほうがよほど脅威に感じられる。こうした新聞記事をテレビや雑誌が悪気なくネタにし、その内容を鵜呑みにしてしまう視聴者や読者がいるのが実状だ。無闇に不安や対立を煽らないでいただきたい。