大学時代から「小悪魔ageha」(インフォレスト~ネコ・パブリッシング)編集部のアルバイトを経て、2012年に「LARME」(徳間書店)を立ち上げ、弱冠26歳で編集長になった中郡暖菜氏。アイドルの起用や世界観重視の誌面など、それまでの女性ファッション誌にあまり見られなかった大胆な手法で、同誌を創刊1年で発行部数20万部のヒットに導いた。昨年秋に「LARME」編集長を退任し、今年より雑誌「JJ」(光文社)の妹誌である「bis(JJ bis)」の11年ぶりの復刊を手掛け、編集長を務めている。5月25日に発売されたプレ創刊号「bis」の表紙は女優の志田未来が飾り、夢野久作の小説をモチーフにしたフォトストーリーが巻頭特集となっている。明らかに現在の女性誌とは一線を画する作り方だ。
今後の女性誌カルチャーを担うキーパーソンである彼女は現在の女性誌、女性向けウェブサイトをどう見ているのだろうか?
◎「小悪魔ageha」から脈々と続くギャルマインド
――まず「LARME」を離れ、「bis」復刊に携わるようになった経緯を教えてください。
中郡暖菜氏(以下、中郡) 「LARME」を昨年の秋に辞めてから、いくつかお話をいただいたのですが、以前光文社で本を作ったことがあった経緯があったことと「bis」(当時は「JJ bis」)のことが読者として大好きだったということがあり、「bis」の復刊をやらせていただきたいという話をしまして、今回編集者として新たな挑戦ができることとなりました。また、今まで(出版社に)女性ファッション誌がほかにあるという環境を経験したことがなかったので、女性ファッション誌が強い出版社で、ほかの世代の女性誌の作り方も学びたかったという気持ちもあります。そうじゃないと編集者として続けていけないと感じたからです。
――雑誌ではなくウェブの編集者という選択肢もあったと思います。「bis」はウェブ展開もされていますが、あえて雑誌を作る理由とは?
中郡 まず自分自身が紙の本が好きなんです。あと、私が「LARME」を作ってから5年がたちますが、その間に出てきた若い世代の女性誌がほとんどないんですよね。「LARME」くらいのボリューム感になった雑誌は私が知る限りないと思いますし、むしろどんどん休刊していっている。新しい媒体を作ることのできる編集者、出版社がないということに危機感があり、今作らないと新しい雑誌やカルチャーなんて、この先ずっと生まれないんじゃないかと。
――「LARME」創刊の時も同じような危機感は感じていましたか?
中郡 いいえ。「LARME」立ち上げのきっかけは、本当に個人的なことなんです。母が病気になってしまって、当時は「小悪魔ageha」編集部にいたんですけど、自分の作った本というものを母に見てほしかった。
――つまり「今後ド派手なギャルよりも、ガーリー系がはやる兆しがあった」と流行を察知して作ったわけではない。
中郡 全然違いますね(笑)。
――偶然の産物だったと! それもすごい話ですね。以前在籍していた「小悪魔ageha」は社会現象を起こすほどの「盛り髪」「つけま」「カラコン」なギャル雑誌でした。そこからパステルカラーなガーリー路線の「LARME」になるのは、ギャップがすごいですよね。
中郡 あまりそう見られないのですが、「LARME」も一種のギャルでしたし、私自身もマインドはすごくギャルなんですよ。今でもユーロビート聞いていますし(笑)。「小悪魔ageha」は最先端のギャル雑誌でしたが、正確には「ギャル」と「ヤンキー」のミックスですよね。中條寿子さん(初代編集長)がヤンキー要素のあるギャルだったのですが、私はヤンキー要素が一切なくて特攻服とかバイクに興味がないタイプ。「ホットロード」(集英社)や「チャンプロード」(笠倉出版社)などヤンキーカルチャーの作品をいろいろ貸してくださったのですがいつも「はて?」という感じでした。逆に自分はジーザスディアマンテを着てパラパラを踊っているタイプの姫ギャルだったので、中條さん的には謎に感じていた部分もあったと思うのですが、「小悪魔ageha」ではその両方が受け入れられていました。「ギャル」と「ヤンキー」は似ているようで、きっとまったく別の文化なんですよね。
――「LARME」の特徴としては乃木坂46ら、アイドルの起用も大きかった。女性誌のゲスト的にグラビアというわけでもなく、アイドルから雑誌専属モデルに転向するでもないやり方が、当時は新鮮だったと思います。
中郡 5年前に当時の女の子の「なりたい」と思う人物像を考えた時に、「アイドル」と「ハーフ」と「ギャル」だと思って。その3つの要素を全部入れようと決めたんです。元「Popteen」(角川春樹事務所)モデルの菅野結以ちゃんみたいなギャルの子もいれば、今は「ViVi」(講談社)専属ですがハーフの瑛茉ジャスミンちゃんもいて、乃木坂46の白石麻衣ちゃんもいる。アイドルも含めて全部同じバランスにしたかったんです。
――「ギャル」と「アイドル」は一見相反する要素ですが、誌面は統一感がある。雑誌に登場する女の子に共通点はありますか?
中郡 やっぱり「媚びない」ということでしょうか。
――アイドルの中でも、女子ウケする子を選んでいるように思えます。女の子を選ぶにあたって基準はありますか?
中郡 うーん、どういうふうに見分けているんだろう……? 自分では結構無意識なんですけど。リサーチもしないですし、自分の感覚で「かわいい」というそれだけですね。実は私、アイドルにまったく詳しくなかったんですよ。だから「LARME」創刊の時も、アイドル雑誌についているアイドル一覧表を初めて見て、「“かわいい”」からお願いしたいですと事務所にお伝えしたのが、乃木坂46の白石麻衣ちゃんと元NMB48の渡辺美優紀ちゃんで、お二人にレギュラーモデルになっていただけて。当初は彼女たちがどのくらい人気があるのかも知らずに「かわいい」というただそのインスピレーションだけだったんです。
――「LARME」の創刊号は渡辺麻友(AKB48)さんと白石麻衣さんの表紙ですが、固定ファン、いわゆるオタ層が買うという当て込みも考えてましたか?
中郡 全然考えてなかったです。その頃ちょうど乃木坂がデビューしてすぐのタイミングだったんですが、麻衣ちゃんはまだそんなに前面に出ていたわけではなかったんですよ。とはいえ、その頃から神がかったヴィジュアルだったので、絶対! と思っていました。
渡辺麻友さんにもご出演していただけたので、かわいらしい雰囲気は残しつつもアイドルの要素が強くなりすぎないように、全体的にどこかギャルっぽさと、ハーフっぽさの要素も入ったものにしたいとは思っていました。いろんな女の子が出ていることを強調する表紙にしたかったので。事務所の方に「(表紙のモデル写真が)小さいですね」と言われたので、そういう点でも珍しかったのかなと思います(笑)。
――雑誌の表紙って、売り上げのために場合によっては読者層やコンセプトとズレたタレントを起用せざるを得ないケースも少なからずあります。コンセプトがズレても売るためには仕方ない、みたいなことも……?
中郡 それはないですね。そこは譲らないです。
――「bis」プレ創刊号の表紙は女優の志田未来さんです。こちらはどういう理由での起用だったのでしょう。
中郡 「bis」のコンセプトとして表紙にも入れてある文言「Lady with the girl’s heart」は、少女の心を持ちながらも大人の女性になっていくという意味で、以前は少女と大人の間で「大人になりたくない」と揺れている感じだったのですが、「bis」は「もう大人だけど、少女の心は忘れていない」という大きな違いがあるんです。その中で志田未来さんがイメージにピッタリで、とてもかわいくて少女的なイメージがあるけれど24歳の大人の女性というところが素敵だなと思って。意外性も考えましたね。ほかと同じようなことをやっても意味がないので。
――「LARME」や「bis」に共通する特徴として笑顔が少ないですよね。
中郡 笑顔は特に好きじゃないんです。今、とあるオーディションの審査員をさせていただいているのですが、応募者5,000人中の2,000人くらいが「チャームポイントは笑顔」って言うんです。笑顔にそんなに力ないよ! と私は思っています(笑)。倍率が高すぎるので、オーディションに出る予定のある方は「笑顔」ってPRするのはやめた方がいいのではないかと!
――確かに、笑顔じゃない表情も魅力的ですよね。中郡さんの中にある美意識を体現できるモデルさんが大事というわけですね。
――雑誌を作る上で一番大事にしていることはなんですか?
中郡 2つでもいいですか(笑)。1つは一冊を通してのバランスというか緩急です。例えば、一冊の雑誌を作る時に一個一個の特集にテーマ曲をつけて、ライブのセットリストみたいに本の流れを考えています。台割表にも曲名を入れて。そうじゃないと1人で考えているからか企画の雰囲気が似ちゃったり、気持ち悪い流れになっちゃったりするんですよ。今回のライブは華やかなアップテンポの曲から始めたい時と、マニアックでダークな曲から始めたい時と、ライブ全体の仕上がりイメージによって構成は変わってくるじゃないですか。それと同じですね。自分が音大出身なのもあるかもしれないですけど、音楽と関連付けていることは多いです。
もう1つの雑誌を作る上で大事にしていることは「圧倒感」です。人によっては「bis」と「LARME」が近いと感じるかもしれませんが、私的には結構違う要素を入れています。「LARME」も独自の世界観があるので、そういった「LARME」の時に成功したパターンみたいなものはあえて「bis」には入れていないというか。甘さは抜いたつもりです。前と同じようなことをして普通にそれでやればなんとなく数字も読める部分もあるんですけど、平和な本を作る気はないというか。
独特の個性がない本をいまさら作っても意味がないし、どこかで見たことのある感じの本になったらつまらないですし、そうじゃないと本を作るモチベーションにならない。この時代に本を出すのであれば「圧倒感」みたいなものは大事にしたいです。
――お話を伺っていると、物作りに対するこだわりを感じますね。少し嫌な質問になりますが、商業媒体でやっている限り、雑誌の売り上げは切り離せないじゃないですか。そことの兼ね合いはどうお考えですか?
中郡 もちろんバランスをとりたいと思うけど、数字のことはすごく苦手で、ほとんどわからない。だからとにかく精いっぱいやるしかないんですよね。計算してここまで頑張ろうじゃなくて、計算したくないしできないから限界まで頑張るしかない。限界まで頑張ってダメだったらその時は骨を拾ってください、という感じで。売り上げに関しても、売るためにどうするかみたいなことはあまり考えていないです。発売直前だけはめちゃくちゃ不安になりますが、基本楽観的ですね。
――頭で考えるより、とにかく全力を出すというスタンスにギャルマインドを感じますね。
中郡 あとは、私自身があんまりサブカル人間ではないというか、L’Arc~en~Cielや村上春樹さんが好きな人間なので、ニッチな嗜好ではないと思っていて。そこを突き詰めれば、届く人たちというか、コンサバほどじゃないけどサブカルでもない層は多数派ではないかもしれないけれど、割と大きな分母で存在しているんじゃないかなと思っています。
(後編につづく)
中郡暖菜(なかごおり はるな)
1986年2月10日生まれ、千葉県出身。国立音楽大学卒業。26歳の時に徳間書店史上最年少での編集長就任で「LARME」を創刊し、ヒットへ導いた。2017年より「bis」(光文社)の編集長を務める。
・「bis」オフィシャルサイト