
「ピンピンコロリ」を願っても、なかなかうまくいかないのが人の常。厚生労働省が発表した死因別死亡数でトップ3を占めるのは、悪性新物質(がん)、心疾患、脳血管疾患で、年間10万人もの人が亡くなる突然死も含まれ、これらは全て「血管障害」によって引き起こされるそう。このような症状で寿命を縮めないためには、血液を正常に循環する血管の機能である“血管力”を高めることが大事だといいます。
ただ、正直「血管の衰えに悩むのは、50~60代からでしょ?」「私には、まだまだ早い話」と思っている人も少なくないのではないでしょうか。しかしこの血管力、実は健康面だけでなく、「女性の“見た目”の老化スピードにも、大きく関わっています」と、池谷医院の医院長・池谷敏郎先生は言うのだから、聞き捨てなりません。今回は、池谷先生が登壇した「女性の老化速度は血管力の差」の講義をレポートします。
■若見えのポイントは毛細血管にアリ
全身に血液を運ぶ血管は、大動脈から枝分かれしてどんどん細くなり、最終的に毛細血管へつながっているのは、誰もが知る話ですが、毛細血管自体は収縮や拡張をせず、毛細血管につながる“細小動脈”の収縮・拡張によって血流や血圧が調節されているとのこと。そのため、毛細血管へより多くの血液を送り込むには、血管がしなやかで、内壁は滑らかな“血管力の高い動脈”であることが重要になります。
「血管力が高いか低いかで毛細血管へ送られる血液量が変わるので、細胞に届く栄養量も変わってきます。なので、血管力は生死に関わる病気だけでなく、肌質や見た目にも影響してくるんですよ。どんなに美容にいいものを食べても、肌の細胞まで届かなければ効果は得られませんからね」と、池谷先生。
実際に24~59歳までの20名の女性を対象に“見た目年齢”を評価したところ、血管力が低下して動脈硬化を起こしている女性ほど、実年齢以上に歳を取って見えたとのこと。また、動脈硬化の度合いが強い人ほど、顔にできたシミの面積が広いという結果もあるそうです(※愛媛大学抗加齢・予防医療センターデータ)。
「血管力が高い人ほど肌細胞へ十分な栄養が届くので、見た目は若く、シミも少なくなるということです。検証はしていませんが、恐らくしわやたるみにも関係していると思います」(池谷先生)
なお、自身の血管力を知るには、病院で“血管年齢”や“頸動脈エコー法”などの検査を受けて測定することもできますが、生活習慣からある程度の血管力をチェックすることもできるそう。次の表で、リスク度の合計が0~2であれば正常な血管力、3~5なら血管力低下の恐れ、6以上だと血管力が低下している可能性が高いとのことです。

では、見た目年齢を老けさせてしまう動脈硬化は、どのように起こるのでしょうか?
血管は“内膜”“中膜”“外膜”の3層でなっており、血液の流れる“血管内腔”と内膜の境目には“血管内皮細胞”があり、この血管内皮細胞は、血管のコンディションを整備するバリアやフィルターのような働きをしています。ところが、血液中の善玉コレステロールと悪玉コレステロールの比率が悪いと、マクロファージ(酸化されて異物化した悪玉コレステロールを取り込んで処理する白血球の1つ)が、コレステロールを大量に取り込んで脂ぎった“泡沫細胞”へと姿を変え、内膜内に蓄積。さらに中膜からは“平滑筋細胞”が増殖し、血管内壁はコブ状に内腔に向かって飛び出し、“プラーク”を作ります。
プラークに傷がついて血栓ができたりすると、血管の一部がはがれてその先の細い血管に詰まるなどして、血流が滞り、脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こすことも。そのため、池谷先生は「プラークを作らないためにも、酸化ストレスや悪玉コレステロールを増やさないようにしなければなりません。すでにプラークができている場合は、今以上大きくせず、傷つかないようにすることも大切。そのためには、脂質異常やストレス、喫煙など、悪しき生活習慣を改善することです」と警鐘を鳴らします。
■動脈硬化を抑える働きを持つ女性ホルモン
血管力の低下に伴う動脈硬化。女性の場合、閉経を迎えたあたりから一気に進行する傾向が見られるとのこと。その理由を、池谷先生は次のように語ります。
「女性ホルモンの1つであるエストロゲンには、血管を掃除してくれる血管内皮の一酸化窒素を増やす働きや、平滑筋細胞の増殖を抑える作用などがあります。ほかにも、内臓肥満を抑えたり、悪玉コレステロールを減らして善玉コレステロールを増やしたりする作用もあるため、エストロゲンが一気に減少する閉経後に、動脈硬化を起こす人が増えるのです」
なお、エストロゲンは30代頃から徐々に減り始めるので、閉経を迎える前でも、エストロゲンを補う要素を積極的に取り入れることが、血管力を高めて動脈硬化の進行を抑えるとともに、見た目の若さを保つ秘訣なのだそうです。
エストロゲンに似た作用を持つとして有名なのは、大豆に含まれる「イソフラボン」。しかしただ無作為に大豆食品を食べればいいかというと話は別。なんでも大豆食品は、糖がくっついている“配糖体”という構造をしているのですが、糖の外れた「アグリコン」に変わらなければ、エストロゲン作用を発揮することができないといいます。
「私たちの体内では、腸内細菌の“発酵”によってイソフラボンがアグリコンへと変えられます。そこで、すでに発酵された状態のイソフラボンを摂取することにより、効率良くアグリコンを取り込むことが期待できるわけです。そのため、みそや納豆、乳酸発酵豆乳などの“発酵された大豆食品”がおすすめです」(池谷先生)
なお、大豆に含まれるたんぱく質には、脂質の吸収に関わる胆汁酸を排泄してコレステロールの吸収を抑える作用もあるため、エストロゲンが多く分泌されている20代でも、発酵大豆食品を摂取することにはメリットがあるとのことでした。
「血管力を維持することは、健康を増進して健康寿命を延ばせるだけでなく、美肌や見た目の若さにもつながります。ライフスタイルを見直すとともに、発酵された大豆食品を積極的に摂取して、血管年齢を若返らせましょう」との池谷先生の言葉で、講義は終了しました。
(取材・文/千葉こころ)