(前編はこちら)
■チャイルドポルノ的な表現の問題
炎上CMのなかには、ポルノ的な性表現が含まれるものもある。鹿児島県志布志市がふるさと納税を返礼品の養殖ウナギを用いてPRするために制作した「うなぎのうな子」動画は大いに物議をかもした。
「あれはそもそも炎上狙いだったと見ています。20歳を超えた女優さんを起用しているのも、チャイルドポルノ的という批判がくるのを見越していたからでしょう。そうやってインパクトを与えて注目を集めたかったけど、ここまで燃え上がることは予想していなかった。まして世界がこの“HENTAI NIPPON”的な動画をどう見るかは考えもしなかったのでしょう。自治体がこれを製作するのは、完全にアウトです。男性だけじゃなく、女性や子どもといったいろんな人の目に触れることへの配慮が欠如しています」
ネット上では、未成年の監禁事件や家庭内での性暴力を連想させるといった指摘も多くあったが、一方で、これをポルノ的と見ることへの批判も巻き起こった。「いやらしいと見るほうが、いやらしい」ということらしい。
「着エロといわれるジャンルでは、スクール水着やリコーダーといった一見して性と縁遠そうなものが、定番の小道具としてポルノ表現に使われています。ときには未成年どころかローティーンの女の子がスクール水着を着用し、きわどいポーズをとるものも多く見られます。そういう世界が現実にあると知らない人にとっては、スクール水着=ポルノアイコンというのは奇異に思えるのでしょう。女性にはそういう人が少なくないのかもしれません」
しかし一部の男性にとっては違います、と千田さんは続ける。
「チャイルドポルノ的な表現で興奮する嗜好をもった男性たちにとっては、この映像が批判されると、『俺たちのエロが奪われる!』と危機を覚えるのでしょう。性的嗜好はとてもパーソナルなものなので、これを否定されると傷つくし、自分の実存が揺らぎます。だから、過剰に反応するのです」
■ポルノ表現に怒りを表明するのは女性だけではない
広告ではないが、東京メトロのイメージキャラクター「駅乃みちか」が萌えキャラ化し、スカートが透けているように見えた一件も大きな論争を巻き起こした。
「エクスタシーを感じているような表情も問題視されましたね。普段からこうした表現に親しんでいる人は“萌え慣れ”してしまっていて、それがいかに性的な表現かわからなくなっているのではないでしょうか。が、実は男性のなかにも、うな子や駅乃みちかに嫌悪感を示す人が少なくないんです。当たり前のことですが、すべての男性が萌え表現を好きということはありません。ポルノ表現に怒りを表明するのが女性だけではない、というのも新しい動きです」
女性が電車内で化粧をすると男性が傷つき、ポルノ表現を指摘すると男性が傷つく。そして、彼らが作った差別的な広告で女性たちが傷ついている。
「広告に文句をいっているのはババアたちだ、という声も聞かれますが、実際、必死になって声をあげているのは、もっと当事者性を感じている層だと思います。現実にセクハラでいやな思いをしたり、性的な対象として見られることで傷ついたりした女性が広告と自分の体験と重ね合わせ、憤っている。怒りの矛先は、広告そのものというより、広告に象徴される社会構造です。くり返し放送されることで、その構造がますます強化されることを危惧してもいます」
では憤りを感じたとき、私たちはどうすればいいのだろう。
「声をあげましょう。そのCMが放送中止になったところでモグラ叩きでしかないと思われるかもしれませんが、声を出さないと何も動きません。製作側も放送中止になった教訓を踏まえ、次の製作で『前回のあれは、女性にウケが悪かったから……』と思えば、十分ストッパーになります。女性が何を怒っているのか本質的に理解してやめるわけではないにしても、まずは女性差別的CMを作らせないようにすることが重要です」
(三浦ゆえ)
千田有紀(せんだ・ゆき)
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』(勁草書房)、『女性学/男性学』(岩波書店)、共著に『ジェンダー論をつかむ』(有斐閣)など多数。