アルコール、ギャンブル、ドラッグ依存よりも明らかに数は多いであろう、ネット依存。自分はネット依存だと認めない人もいるだろうが、食事中もスマホが手放せない、SNSの自分の投稿への反響が気になり何度もチェックしてしまう、休日がネットを見ているうちに終わる、嫌いな人のSNSや荒れている発言小町をあえて見に行ってしまうなどの経験に、身に覚えがあるのではないだろうか。
ネット依存治療の先駆的存在である久里浜医療センターでは、2012年から世界各国の医師、研究者を招いたインターネット依存国際ワークショップを開催しており、第5回が11月20日に開催された。そこで感じたのは「ネット」の問題だけでなく、意外に「家族」の問題だった。
■アルコール依存やドラッグ依存と比べ、歴史の浅い「ネット依存」とその対策
インターネットは普及して20年程度の新しいツールであり、スマートフォンに至ってはわずかここ10年間に、爆発的に普及した。よってネット依存対策についても、アルコールなど他の依存対策に比べ、後手に回っているという。これは日本に限らず世界各国でも同じで、そもそも、世界的に統一された診断基準や対応法がないのも課題だ。
また、アルコールなど他の依存とネット依存の大きな違いは、未成年者の依存が深刻ということだ。私自身も、自分でもまずいと思うくらいネットにはまっていたのはフリーランスになりたての、ほぼ仕事がない時期だった。「金はないが時間だけはある」状態は危険だと身にしみている。しかし、「金はないが時間だけはある、だがやりたいことは特にない」という学生は、とても多いだろう。そんな大勢にとってネットは、通信費以外は金もかからず、家から一歩も出ずにできる、とても手ごろなレジャーだ。
そう思うとネットは罪深いが、「ネット=悪いもの」ととらえすぎないことも大切だという意見は、複数の医師から出ていた。ネットがなければメールすらできないし、通信環境がなければ仕事にならない人も、今はとても多い。よって、アルコール依存の治療でとられる「断酒(酒を一切断つ)」のネット版「断ネット」を実現するのは現代社会に暮らす人にとってはほぼ不可能であり、「断ネット」でなく「節ネット」なのだが、「節制」は「一切禁止」よりも、ある意味難しい。
■「こうすれば絶対このキャラが出る」なら、ガチャの魅力はなくなる
シンポジウム前半ではハンガリー、韓国、インドネシアから来日した医師らによる、自国のネット依存の状況や、ネット依存の最新研究についての報告があった。
ハンガリーで依存症治療に取り組む、Zsolt Demetrovics医師は、オンラインゲーム依存について講演を行った。ユーザーにゲームを続けさせるポイント(逆に言えば、依存させるためのポイント)として「予想外の報酬」があるとZsolt医師。出るか出ないかわからない「ガチャ」など、まさにこの例だろう。現に、ソーシャルゲーム『グランブルーファンタジー』で、きわめて低確率で出現するキャラクターを出すために68万円課金した様子を動画サイトに流したユーザーがいて物議を醸した。しかし、このレアキャラクターがもし「これだけのことをすれば絶対出る」といったものであるならば、68万円課金した人は魅力を感じなかったかもしれない。「ものすごくがんばったら絶対出る」ではだめで「ものすごくがんばったところで、出ないかもしれない」から燃えるのだろう。パチンコと同じだ。
さらにZsolt医師は、「どれだけ(の時間)ゲームをするか」を決めることだけでなく、「なぜゲームをするか」を突き止めることも大切だと話す。一般的に依存の問題は「1日に○時間もゲームをしてしまった!」といったように時間で語られがちだが、依存の背景にあるのは、子どもの場合は親のネグレクトや、抑うつやストレス、孤独感などが起因になっているケースもある。
■依存対策の先進国である韓国も、ゲーム会社の圧力に屈する?
ネット依存対策の先進国である韓国からは、Jung Seok Choi医師、Keun-Ho Joe医師が講演を行った。韓国ではネット依存傾向のある子どもを対象にした宿泊型プログラムがあり、すでに500人以上が参加しているという。低所得家庭の子も加われるよう参加費用も抑えているという。さらに小学校4年、中学1年、高校1年の生徒に対し、各学校でネット依存に対するスクリーニングテストを受けさせるなど、国を挙げた取り組みが行われている。
しかし、子どもの夜間のネット利用を禁止する法律はあったものの抵抗が強く、13年には「保護者が子どものネット利用時間を設定する」と大幅に緩和されてしまっている。さらに政府の通知も徹底していなかったため、この対策はほぼ行われていない状態だという。国会にネット依存管理法案も提出された
ネット依存対策を阻むのはゲーム会社 世界の専門医が治療の難しさを指摘
が、ゲーム会社からの反対が強く否決されている。ネットやゲームが国家的に見過ごせない経済規模になっていることが依存対策への取り組みをさらに難しくさせており、これは日本も同様だろう。
インドネシアからはKristiana Siste医師が来日。日本と違い、若年層が多く、年齢別の人口構成比がきれいなピラミッド形になる若者の国インドネシアは、それゆえに若年層のネット依存が深刻な社会問題になっている。オンラインゲームを長時間やり続けていた若者が、直後に自殺するという事件も起きている。その若者がなぜ自殺したかはわからないが、ゲームに限らず、休日をネットばかりしていてあっという間に一日が過ぎ、たまらなく自分が嫌になる感覚は、私にも身に覚えがある。「こんなことをしているのは嫌だ」と“わかっていてもやめられない”のが依存の怖さだ。
■本人にネット依存の意識がないケースも
この「インターネット依存国際ワークショップ」の初回が行われた12年は、日本にはネット依存対策を行う医療機関がなかったという。しかし、現在は約30まで増加した。
シンポジウム後半では、国内で治療を行う希望ヶ丘病院(熊本)杉本啓介医師、岡山県精神科医療センター牧野和紀医師、大阪市立大学片上素久医師、久里浜医療センター中山秀紀医師による治療実態の報告があった。どの医療機関でも、10代の患者が一番多いという。
子どものネット依存の場合、思春期は本人への成長が目覚ましい時期でもあり、また進学など環境ががらりと変わることもあるため、自然に治ってしまうケースもあるという。しかし「(思春期は)待つには、あまりに貴重な時期」と牧野医師。ただ、そのような治療現場の真摯な姿勢が患者である子どもに伝わりにくいのが、ネット依存治療の難しさだろう。
依存外来に来院する子どもは本人の意思ではなく、親に「なんとかしてほしい」と連れてこられるケースが多い。反抗期でもある当人にしてみれば、面白くない状況だろう。インフルエンザやけがなら本人も治さねばと思うが、ネット依存は本人に「これはやばい」という意識が、そもそもないケースすらある。また、他人からネット依存だと言われたら、逆ギレし、受け入れられないケースもあるだろう(逆ギレするということは、思い当たるところがあるからだろうが)。これは依存治療ならではの難しさだ。
「治療者としては、(子どもが)ネットに居場所を求める気持ちを理解してやらないといけない。治療者は中立であるべき。親の意向を子どもに伝えてはいけない。本人と家族の間の、ゆがみの調整役である」と片上医師も話す。
■「父親は家庭に無関心、母親は過干渉」が子どもの依存を加速させる?
以前、ネット依存に取り組む団体「angels-eyes」の遠藤美季氏に取材をした際に、子どものネット依存は、日常的な親の過干渉も原因のひとつになることがあると話があった。シンポジウム当日の会場でも、子ども(大学生)のネット依存をなんとかしたいという保護者からの声があったが、大学生ならもう放っておくか、突き放せばいいのに……と、思わず子ども側に同情してしまった。
シンポジウム内でも、父親が子どものネット依存問題に対し非協力的で、母親だけがあれこれ心配しているケースは、(対策が)うまくいきにくいと話があった。父親が生活費を稼ぐ以外の家庭人としての役割を果たさず、母親が心配しすぎて空回りしている家庭は、とても多そうだ。母親の子どもに対する「あなたのことを心配している」という思いは問題をかえってややこしくする場合があり、それを肝心の母親自身はまったく気づいていないのが「母の愛」の罪深いところだ。
もちろんゲーム会社の過剰な射幸心をあおるような仕組みは問題だが、コンテンツやネットだけが悪いのではない。何を考えたくなくて、ネットに逃げているのか? 自分のネット利用は自分の人生を食いつぶしていないか? 自分のネット利用は自分を幸せにするために使われておらず、むしろ自分を苦しめていないか? 子どもも大人も、ネットを使う人は一度、パソコンやスマホから離れて、じっくりと考えてみてほしい。
石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
・いとしろ堂