「おひとりさま」という言葉が流行語になってから10年あまり。いまや、ひとり旅、ひとり焼肉、ひとりカラオケ……などなど、ひとりでも楽しめるレジャーが充実し、ひとり行動をポジティブに捉える「ソロ活」という言葉も生まれ、ひとりが必ずしもさびしいことではなくなってきた。一方で、未婚化・晩婚化は進み、孤独死が問題になっている現代社会。女性が独身で生きていく上で、孤立しない暮らし方を考えてみたい。
中でも最近注目されているシェアハウスやコレクティブハウス(私生活の領域とは別に共用空間を設け、食事・育児などを共にすることを可能にした集合住宅)は、新しいライフスタイルというよりは、むしろ昔ながらの町内会やご近所との関係に近いが、プライバシーも適度に保たれることで、より快適な住まい方といえるのかもしれない。今回はコレクティブハウスの現状を追ってみた。
■干渉も孤立もない「居場所」
コレクティブハウス運営のコーディネートなどを行う団体である特定非営利活動法人コレクティブハウジング社(東京都豊島区、2000年設立)では、現在、国内4カ所でコレクティブハウスの運営を支援している。
そのうちの1つである多摩市の「コレクティブハウス聖蹟」は、新宿駅から特急で約30分の京王線・聖蹟桜ヶ丘駅より徒歩5分ほどの場所に位置するモダンな2階建ての建物である。現在、1~80歳代の25人(大人18人と子ども7人)が入居し、独り暮らしから子どものいる家庭まで、属性も職業も幅広い。
「コレクティブハウスでは、準備の段階から居住希望者がプロジェクトに関わりますが、ここでは、竣工(09年4月)より前の07年6月に居住希望者の募集を開始しました。私たち夫婦もその段階から参加し、のちに居住を決めたのです。大家さんに地域を案内してもらったり、設計者と話し合いながら、建物から内装まで決めていくプロセスに参加してきました」
現在も家族で居住しながら、NPOの理事も務める矢田浩明さんは、こう説明する。矢田さんがコレクティブハウスに興味を持ったのは、子育てがきっかけ。
「子育ての環境を考えた時に、隣の人の顔も知らないようなマンションよりも、人と人が関わり合うような環境があるほうがいいと思ったのです。とはいえ、実は最初は『人と関わって住む』ということに抵抗はありました。妻は、あまり抵抗がないようでしたが」と振り返る。
「でも、建物の間取りを話し合っている時に『みんなのいるリビングの前を通らず、直接自分の部屋に行けることは大事』という意見が多くの人から出て、これなら大丈夫かなと思いました。プライバシーに配慮した関係を望んでいるとわかったからです」(矢田さん)
誰にも会いたくない時には自室へ直行できる一方で、コモンスペースでみんなで食事をしたり、残業の時などは子どもを見てもらったりすることもできる。孤立も、干渉したりされたりということもない、ほどよい距離感。コレクティブハウスの魅力は、そこにあるようだ。
■各人が少しずつ役割を担う
コレクティブハウス聖蹟の居住スペースは、ワンルームから1LDK、2K、2LDKとさまざまで、各住戸にキッチンや浴室があるが、水回りを共有するシェアタイプもある。 共用スペースは、リビングとキッチンと食堂、ミーティングルームなどを兼ねた「コモンスペース」のほか、屋上に菜園と物干しスペース、テラス、電動のこぎりなどを備えた工作室、ランドリー室、外部の友人も泊まれるゲストルームもある。また、廊下には住人が持ち寄った本を置く図書スペースがあり、ソファ、電子ピアノなども置かれている。
「共有できるスペースやモノが多いので、多様でありながらエコロジカルでもあります」と矢田さん。大きな家電や家具は、個人で持つよりも共有したほうが便利な場合も多い。コレクティブハウスには、人間関係だけでなく、エコロジカルな面でもメリットがあるのだ。
気になる賃料は、各住戸の家賃のほかにコモンスペースなど共用部分の賃料、水道光熱費を含む組合費(運営費用)大人1人あたり9,900円で、入居時には前家賃と敷金も支払う。ワンルームで家賃7.9万円からと安くはないが、高額でもない。
そして、コレクティブハウスの最も大きな特徴は、住人が「何らかの役割」を担っていることだ。
「自分たちの暮らしは、自分たちで運営していくのが基本ですから、料理や掃除、庭や屋上菜園の手入れ、バーベキューなどのイベント開催を、それぞれが担当します。夫婦で住んでいても、役割は一人ひとりが担います」(同)
交代で夕食を作る「コモンミール」も大切な活動のひとつだ。居住者が交代で、食材の買い出し、調理、後片付けまでを担当する。
「今は、順番が回ってくるのは。月に1~2回程度。買い物のレシートはキッチンに置いてあるので、材料もすぐにわかるようになっています。食べるのはコモンスペースでも自室でもいいし、食べなくてもいいんです」(同)
月に1回の定例会では、さまざまな話し合いを行っている。
「定例会では、いろいろな話が出ますし、単純に多数決で決めず、話し合うので時間はかかりますが、大事な時間ですね。ただ、結論が出るまでに時間がかかることを苦痛に思う人もいるでしょう。こうしたことは、人によってはデメリットと感じるかもしれません」(同)
居住者同士は暮らしを通して信頼関係を作っているが、それだけでなく、地域との交流も考えている。地域の雑貨市に出店したり、流しそうめんや餅つき、地元の酒店とのコラボによる試飲会などを開催したりと、多彩な内容だ。これらは、居住者組合として取り組むものもあれば、有志が実施するものもあり、全てが一律というわけではない。
■「終の棲家(ついのすみか)」となり得るか
コレクティブハウジング社がコーディネートするコレクティブハウスは、年齢や家族構成、性別などに制限はなく、70代以上の住人も珍しくない。 どこに住んでいても人は老い、人間関係は煩わしいものだが、コレクティブハウスではそれを踏まえた上で「ゆるい関係」を構築していることがうかがえる。では、コレクティブハウスは高齢者の「終の棲家」にもなるのだろうか?
「居住者の中には『コレクティブハウスでの役割を果たせなくなった時が、退去の時』とおっしゃる方もいます。福祉施設ではないので、基本的に介護はできないのですが、在宅ケアを受けながら、隣人から少しの手助けがあればやれることを担って、できるだけ長く住み続けることは可能だと考えていますし、本人の代わりにヘルパーさんが掃除などの当番を果たすなどは、話し合いで決めることもできます」(同)
コレクティブハウスとは、1970年代、女性の社会進出が早かった北欧で、ワーキングマザーたちが家事や子育てをシェアできる住宅として広まったといわれる。ようやく日本でも認知度が高まり、興味を持つ人も増えてきている。
「一部のハウスは『退去者待ち』の状態です。聖蹟は少し空きがあるので、ぜひ見学会にいらしてください」(同)
暮らし方の選択肢のひとつとして、コレクティブハウスは期待できそうだ。
(蒼山しのぶ)
・特定非営利活動法人コレクティブハウジング社