
「少子高齢化」といわれて久しい現在、かつてカップルが愛を育む場所であったラブホテルの需要は減りつつあるという。業界内では、「ラブホテル」を「レジャーホテル」と呼称し、その数自体も年々減少傾向にあることを、前回ご紹介した。
ラブホテル運営側は生き残るための活路を見いだしつつある。いわゆる「カップルのためのホテル」という位置付けを見直し、女子会やおひとりさま向けのプランはもちろん、外国人観光客のステイ先としてのPRも活発化しているようだ。
そんな中、女性デザイナーが手がけるホテルが活気付いているという。男性が多いという業界において注目を集める“女性目線のラブホテル”とは、一体どういった空間なのだろうか?
■男性の考える“女性の好むもの”はズレている
今回お話を聞かせていただいたのは、Re Design代表のデザイナー・オザワリエ氏。「HOTEL AROMA」シリーズの5店舗を始めラブホテル以外にリゾートホテル・温泉施設などをプロデュース。女性の“五感”に訴える空間作りをコンセプトに、数々の好成績を実現している。
いわゆるラブホテルがはやり始めた1970年代と現在とでは、目に見える変化として、城や遊園地などを模した外装や内装といったテーマパーク性が薄くなっていることが挙げられるだろう。この点についてオザワ氏は、客にとってのラブホテルの位置付けが大きく変化しているのでは、と語る。
「当時はあまり娯楽がなかったんですよね。シティホテルに限らず、ラブホテルに泊まりに行くことで、非日常感を味わいたかったのではないかと思います。そのために、ラブホテルの中にテーマパーク性を盛り込んだのではないでしょうか。しかし時代は移り変わり、あらゆる娯楽が存在するようになったことで、ラブホテルに、いわゆる“テーマパーク的な楽しみ”を求める人が減っていったと感じます」
オザワ氏は、ラブホテルの派手な造形だけでなく、定番である“豊富なアメニティグッズ”や“カラオケやゲーム、マッサージチェア、ジェットバスなどの充実した設備”についても疑問を抱き、「時代が進んだ今でも、業界内では『ラブホテルとはこうでなければならない』という既成概念を引きずっているような気がしたんです」と語る。そこでオザワ氏は、「ラブホテルの改革」に打って出たそうだ。
「“私が行きたくなる空間”を作っています。それまでのゲームやカラオケなど“ラブホテルになくてはならないもの”を全部排除したんです。煌びやかなネオンや娯楽設備に頼らず、音や香り、質感などの、女性の五感に訴える空間を作りたいと考えました。私はラブホテルやレジャーホテルとは呼ばずに『プライベートホテル』と呼んでいて、カップルはもちろん、女性同士も使いたくなる空間を提案したいんです」
しかしその改革は、簡単には進まない。ラブホテルオーナーの多くは団塊世代の男性。女性の好むホテルに改装しようとしても、彼らの視点で考えるそれと、女性が望んでいるものとでは明らかに趣向が異なっていたという。
「ラブホテルにありがちな赤やピンクの照明、真っ白なレースの天蓋、パッと見てゴージャス感を出せる大理石などが、男性の考える“女性の好むもの”なんですが、女性はピンと来ないのではないでしょうか。また、そもそもラブホテルの部屋は、お客様目線で作られていないんです。例えば、よくあるビニールレザーのソファやプラスチックのティッシュケースなんかは、ホテル側が“掃除がしやすい”から選ばれている。どんなに『最新のマッサージチェアを入れました!』と宣伝したところで、お客さんが触れる床材、壁の素材、ティッシュケースなどの小物一つひとつにまでこだわらないと、女性のお客さんの中で、そのホテルのポイントは下がってしまいます。私はそんな男性やオーナー目線の事柄を一つずつ潰していきたくて、自然素材のものを使って空間を作りたいと考えました」
■色っぽい自分を感じられる仕掛け
では実際に、オザワ氏はどのような空間を作っているのだろう。彼女の最新作である新潟県新潟市「月とうさぎ」は、ぼんやりと柔らかな外観ライトの照明をくぐると、その先には和紙や木に囲まれた和空間が広がる作りになっている。室内で特徴的なのは、墨色に染められた透け感のある素材で作られた天蓋。白×レースが一般的なところを墨色にした分、派手さはないが、女性の肌を少し綺麗に映すのではないかと期待させる。
「『ラブホテルに行く』というだけで、女性にとっては後ろめたいことだと思うんです。私はその後ろめたさや嫌悪感を一切排除したくて。女性が綺麗に見えて、心地よいと感じるような、清潔感ある空間作りをしました。ここの空間にいる自分は、自宅にいるときよりも綺麗で、ちょっと色っぽいなと思えたら、気分も盛り上がるし、カップルの関係もよくなるんじゃないかなと思うんです」
また、オザワ氏が初めて手掛け、現在も池袋にある「池袋ホテルアロマ」では、外装や内装だけでなく、“匂い”に着目。もともとオザワ氏は、人と人が交わり続けることで発せられるラブホテルの“独特な匂い”が嫌いだったといい、そのため天然のアロマを焚くようにしたそうだ。こういった仕掛けは、女性を心身ともにリラックスさせるだろう。
「もともとホテルアロマは、池袋駅から離れた場所にあった古くてボロボロのラブホテルをリノベーションしたものです。リノベーション前は、一室につき月10万の売上だったのが、リノベーション後には月130万にアップ。立地も悪いので、最初はあまり売り上げは伸びなかったのですが、口コミから少しずつお客さんが増えていき、リノベーションした年のクリスマスには行列ができたんです。その時に、業界の常識をひっくり返した“女性が好む空間”というホテル作りは間違いではなかったんだなと感じました」
■ラブホテルからプライベートホテルへ
女性目線を取り入れることで、業界にも光が見えてきた。しかしやはり、全体的に見るとラブホテルの利用者は減少傾向にある。現在、ラブホテルの平日日中の主要ユーザーはシニア層だというが、現在の30~40代が10~20年後にシニアになったとき、同じように利用してくれるのかというと疑問が残るようだ。
「今のシニア層って元気なんです。でも、今の30~40代は元気がないから、シニアになったとき、ホテルを利用する人は少なくなるのではないでしょうか。これからは業界全体で、そのあり方を変えていかないといけないなと思います。地方のホテルでは、ラブホテルを一般の旅館業法にシフトして、中国人の観光客をバスで連れて来るような営業手法に転換されているところも多いですし……本当に居心地のいいホテルでないと生き残れないのではないでしょうか」
オザワ氏は、アロマホテルを作った際、ラグジュアリーホテルに近い内装にしたいと構想していたという。一泊5~10万円支払うことが当たり前、私たちにとっては高嶺の花だが、そういった空間を楽しむのと同じような感覚を、リーズナブルな価格で提供してくれるのが、オザワ氏のいう「プライベートホテル」なのだ。ハイクラスな癒やしを、手軽に与えてくれるサプリメント的な存在とも位置付けられるだろう。
ラブホテルはセックスをするための場所、という時代は終わったのかもしれない。確かに、今の若者は性に消極的だといわれるだけに、セックスだけが目的の空間を与えても寄り付かないだろう。しかし、“カップルだけの空間がほしい”という声も、決してなくならないはずだ。だからこそ、これからは「プライベートホテル」という名のように、カップルや夫婦、友人などが“関係性を深めるため”の居心地よい空間と定義される場所が、さらに必要とされるのではないかと考えられる。セックスをしたいのではなく、セックスによって関係性を深めたい――ラブホテルからプライベートホテルへの変遷に、そんな人々の心の奥底にある願望を感じた。
(取材・文=いしいのりえ)






