
(C)TOHOKU PENET K.K.
2009年、“女性向けゲーム『学園ハンサム』のOP”という設定で作成された動画が、ニコニコ動画へ彗星のごとく登場。個性的という言葉では生ぬるい、狂気さえ感じる際立った特徴的な絵柄と動画で人気を博した後、その後本当に制作、販売・配信されたADVも一部で大好評。
昨年にはとうとうアニメ化され、OVA(『学園ハンサム The Animation』)として発売。そして16年夏にはTVアニメ化に向けて、クラウドファンディングによる資金集めをスタート。いくら何でもTVアニメは……という予想すら軽々とクリアし、プロジェクト開始からわずか5日ほどで目標金額を達成してしまう。
放送開始後も、プロジェクト当初から変わらぬとがったアゴ、独特すぎるストーリー、セリフと口の動きがあっていない作画、そしてファンですらも「狂気を感じる」と驚くEDで衝撃を与え続けるTVアニメ『学園ハンサム』(TOKYO MXほか)。
数ある秋の新作アニメの中でもその存在感は際立つが、どうしてこんな面白いことになってしまったのか。13年に配信されたゲーム(iOS/Andloid版)から『学園ハンサム』の各プロジェクトに携わり、TVアニメでもプロデューサー、制作進行、広報・宣伝、美剣咲夜役、その他諸々を担当する東北ぺネットの馬場園祐樹氏に話を聞いた。
■『学園ハンサム』が就職活動でやってきた!
―― ゲーム配信、OVA、そしてとうとうTVアニメ化となりました。『学園ハンサム』も息の長いコンテンツですね。
馬場園祐樹(以下、「馬場園」) 順を追って説明しますと、まずはこの原作者さんたち「チーム欲求腐満」は、当時東北で映像制作を学ぶ学生さんだったんですが、「もし自分たちがBLゲームを作ったら」という設定で、架空のゲームのOP映像だけを作り、当時開催されていた「ニコニコ動画」の動画コンテストに応募したんです。コンテストには引っかからなかったんですが、動画をニコニコへ一応アップするだけしたら、すごい反響がきたと。反響に応えて実際にゲームを作ることになり、サークル「チーム欲求腐満」による同人ADVとして、同人誌即売会やサイトで販売したんです。1本500円と商売っ気は全然なくて。
―― 完全に趣味の範疇での同人サークル活動ですね。
馬場園 そうですね、ゲーム販売後は「そんなゲームもあったよね」と伝説になれればいいやというような感じだったようです。だから追加コンテンツを作るわけでも、キャラクターグッズを作るわけでもなく。人気キャラクター投票企画をやったこともあったんですけど、1位になったキャラのキャラソンを作って、ニコニコ動画にアップして終わりでしたからね(笑)。
―― 『学園ハンサム』は学生時代の思い出だったと。
馬場園 ゲームは話題になりましたけど、卒業後も『学園ハンサム』を制作していくつもりはなく、普通に就職活動を始めたようです。彼らはメディア系の学科で映像制作を学んでいて、そういった事業を行う企業を探し始めたものの、東北だと東京や大阪に比べて企業数が少なくて苦戦していたようで。そうこうしているうちに、弊社・東北ペネットは名前のとおり、東北・仙台に本社があるゲーム会社ですが、そこへメールで求人についての問い合わせがあったんですよ、『学園ハンサム』の制作者であることは隠したまま。

主要キャラ設定画。それにしてもポートフォリオが気になる……
―― なるほど、本当に学生限りのつもりだったんですね。
馬場園 メールでポートフォリオ(学生時代に作成した絵画・イラスト集)が送られてきたんです。当時から一ユーザー、視聴者として『学園ハンサム』を知っていましたから、ポートフォリオを見て「あ、『学園ハンサム』の人だ」とすぐ気づいたんです。
―― ちなみにアゴは普通だったんですか?
馬場園 アゴは普通でした(笑)。全然絵柄も違うんですが、やっぱり抜けきらないクセみたいなのがあったんですよ。「『学園ハンサム』を作った人ですよね?」と聞いてみたら「なんでわかったんですか!?」と。『学園ハンサム』を続ける気はなかったので、本人的には複雑だったかもしれませんが、こちらから「『学園ハンサム』をうちで作ってみませんか」と提案し、お話を進めていったんです。
―― では、今は東北ペネットさんの社員クリエーターなんですか?
馬場園 就職活動をしていたわけですから、会社員になろうと思われていたようです。ただ、作品の権利なども生じます。長い目で見れば入社されるよりも、対等なパートナーとして一緒に作っていただく形がいいかなと、ゲーム制作時は業務委託といった形でした。ただ、昨年のOVA制作ぐらいからかなり規模が大きくなってきたので、今は社員として制作に集中してもらいつつ、作画であったり声優さんのキャスティングであったり、費用や手間がかかる部分は会社が請け負うという形になっています。特に地上波TVアニメとなると大変ですし、本人は東北にいるわけですから。
―― 他スタッフとの打ち合わせや収録は、やはり東京で行われるんですね。
馬場園 そうなんですよ。ただ、そもそも弊社はゲーム会社であって、アニメ制作には疎いんです。たとえば放送局であるTOKYO MXさんにも最初は公式サイトの視聴者用の問い合わせ窓口から問い合わせしましたからね、「アニメを放送させてください」って(笑)。
―― それはTOKYO MXさんも驚いたでしょうね(笑)。
馬場園 そこから何箇所か部署を経由して、「アニメを放送させてもらうにはどうしたらいいんでしょうか」と相談させていただいて……だから原作者も弊社も、TVアニメとは何の繋がりもコネも知識もないところから始めて、TOKYO MXさんをはじめとした業界関係者の皆さんによくしていただいて、何とかここまでたどり着いたという感じですね。
■クラウドファンディングは正直コケるだろうと(笑)
―― TVアニメ化に至るまでの経緯について、もう少し詳しく聞かせてください。まず昨年OVAを発売されて、そこで手応えを感じられたからこそ、TVアニメ放送に向けたクラウドファンディングを企画された、という流れであっていますか?
馬場園 そういう流れです。ただ、原作者も映像学科卒で、映像を作りたい人だったので、ADVを作りながらも、もともと「将来的にはアニメとか作りたいよね」という話はしていたんです。そこへリバプール株式会社さんからOVA化のご提案いただき、昨年のOVA制作・販売になったと。それがまた、大掛かりなプロモーションを行ったわけでもないのに、おかげさまでかなりの反響をいただいたので、「もしかしたらADVよりもアニメって、可能性があるのでは」と思うようになったんです。

EDより。正直、こわい
―― 市場的にもっと間口が広いのではないか、やれるんじゃないかと。
馬場園 そうです。僕らは申し訳ないぐらい行き当たりばったりで、ここに至るまでも全く計画的に考えていたわけではないんです。やってみたら売れたので、じゃまたやってみよう、ぐらい。ただそこで、『学園ハンサム』がゲームからOVAになるとき、話題になったじゃないですか。
―― どんなアニメにするつもりなんだ!? みたいな大きな反響がありました。
馬場園 ただOVAの2本目を出すとなっても、1本目ほどは驚いてくれないだろうと思ったんです。毎回何か新しいことをやらないと売れない、『学園ハンサム』は毎回“驚き”とセットで売り出さなくてはいけないと――そこで“TVアニメ”であれば皆驚くだろうと考えたんです。そこからTV局さんにお問い合わせしたり、12話分作ることを考えて、そこでようやく、大変だ、TVアニメってすごくお金がかかるぞとわかりまして(笑)。
―― 視聴者窓口からTOKYO MXさんに聞いてみて驚かれた(笑)。
馬場園 そうそう(笑)。制作して、放送まで持っていくのは大変であると。ではクラウドファンディングしかないとなったわけです。そこでお金が集まらなかったらOVA第2弾にしようと――クラウドファンディングを企画してみて、目標金額に届かなかったというのは本来厳しい状況ですが、『学園ハンサム』ならそれはそれで笑い話になりますから(笑)。
―― いっそ盛大にコケたほうがおいしかったかもしれませんね(笑)。
馬場園 僕らとしても「1,000円しか集まらなかったとか、そのほうが面白いよね」という感覚でした。どっちに転んでもプラスに、ギャグに昇華できるだろうと。クラウドファンディングって、最近よく聞く単語ですけど、意外と実施に踏み切るプロジェクトが少ないのは、目標金額に届かなかった場合、ダメージが大きいからだと思うんです。作る前からお金を払ってくれるファンの数やその金額がわかってしまう。これでは製作委員会にだって、入ろうという企業さんも悩んでしまいますよね。その点、うちの場合は幸か不幸か、製作委員会はなく、うちだけでやっていますから、好きなようにやれるわけです。ところがクラウドファンディングに踏み切ったところ、予想外にファンの方が喜んでくれて。
―― 目標金額の346%。すごい数字ですよね。
馬場園 ……正直コケるだろう、と思っていたのであまりTV放送に向けた用意を進めていなかったんです。「もしかしたら、やるかも」というレベルでしかお話ししてなかったので、放送局さんもあまり本腰入れられてなかったというか。そもそも成功したら10月からTVアニメ放送するというクラウドファンディングを、放送3カ月前から始めたわけですからね。

OPより。
■TV局にも音響スタジオにも怒られて……
―― そうは言っても、放送枠などは事前に決まっていたんだろ? と思っていました。
馬場園 普通はそう思われますよね。ユーザーさんからも「出来レースだろ?」と言われたりもしたんですが、本当にコケてOVA第2弾発売という準備ばかりしていたんです。事前に状況を読んでいれば格好いいですけど、全然そんなことはなくて(笑)。クラウドファンディングを始めてから一週間ぐらいで目標金額を達成してしまって、そこから慌てて準備に入ったんですが、放送局さんからは「言うのが遅すぎる!」と怒られました(笑)。
―― そりゃ怒られるでしょうね(笑)。
馬場園 「何で3カ月前に言うんだ、普通の会社さん、他の作品は1年以上前から準備するのに」と(笑)。また「アニメ版」のキャストさんは有名な、人気がある声優さんばかりじゃないですか。
※『学園ハンサム』はゲーム時に起用されている声優(制作スタッフなどの素人)を「ゲーム版」「原作声優」、OVA以降キャスティングされたプロの声優たちを「アニメ版」と称し、区別している。
―― 花江夏樹さん、木村良平さんとたしかに人気声優さんばかりですが、東北ペネットさんは元々ゲーム会社なんですし、ブッキングの伝手はあったのでは?
馬場園 それがないんです。うちは弱小ですから、ゲームのときは新人声優さんにお願いするケースが多いし、そもそもOVAを制作した際も、リバプールさんがブッキングしてくれたんです。今回はリバプールさんがいらっしゃいませんから、「さてどうしよう」となりまして。幸いなことにOVAのときと音響スタジオさんが同じでしたから、スタジオさんにブッキングをご依頼したんです。そこでスタジオさんにも「遅すぎる!」といわれましたけど(笑)。10月から放送だったら最低○月には収録を始めないと、みたいなところから教えていただいて、「あ、そうなんですね」と(笑)。
―― ククク(笑)、音響スタジオさんにスケジュールを教わって。
馬場園 そうそう、でももう資金を集まっているわけですから、もう我々だけのものではない。何とかならないか、ということで無理を聞いていただきました。お忙しい皆さんのスケジュールの合間を縫って、どうにか進めているところです。
―― ちなみに実力も人気もあるキャストさんがOVAから続投ですけど、元々このキャラはこの声優さんに、みたいなイメージをあったんですか?
馬場園 いえ、全然なかったです。でもやっぱり出来がいいですよね。実はOVAのとき、もうプロの声優さんだけで、原作声優の音声はなくてもいいんじゃないかという議論もあったんです。最終的には原作声優も作品の重要な要素なので収録することにしました。
―― 逆に原作声優だけ、という発想はなかったんですか?
馬場園 ゲームと違ってTVアニメだと文字でセリフを追えませんから、原作声優だと何をいっているか分からなくなっちゃうんですよ(笑)。アニメでセリフが聞き取れないと本当に状況が分からなくなってしまう。我々はOVAのときもアニメ版声優は新人声優さんでいいんじゃないかと思っていたんですが、そこはリバプールさんがブッキングを頑張ってくださって。
というのも、原作声優との違い、ギャップが大きければ大きいほど、そこもまた面白いのではないかという提案だったんです。たしかにそうだな、と頷ける部分も大きかったので、本当に上手な方々、トップの皆さんにお願いすることになったんです。

これはハンサム。
■絵コンテがない!?
―― なんと言うか、放送局にしてもブッキングにしても、ふわふわとした雰囲気で物事が進んでいるんですね(笑)。とはいえ、OVAになるかTVアニメになるかわからないとのことでしたが、アフレコも進んで、実際放送も始まったわけですから、絵コンテや脚本、それに作画といった制作自体はかなり進められていたということですか?
馬場園 お、お詳しいですね。僕が“絵コンテ”という単語を知ったのは最近ですよ。
―― え? 去年の8月にリリースされたOVAがヒットして、アニメ第2弾の制作に入られたんですよね。そこからオリジナルの脚本を起こして、絵コンテを作って、作画に入るというスケジュールは割とタイトなほうだと思うのですが。
馬場園 いやそれがですね、『学園ハンサム』には絵コンテというものはないんですよ。
衝撃の事実が判明、やはり只者ではなかった『学園ハンサム』。でたらめに面白い内容となったので、これはカットするのがもったいない! ということで、【前編】【後編】合計1万字超えのロングインタビューで、ほぼ余すところなくその内容をお伝えする。24日配信予定の【後編】をお楽しみに。
■TVアニメ『学園ハンサム』
・公式サイト:
http://penet.co.jp/animehandsome/
・公式Twitter:
@animehandsome
・放送情報
TOKYO MX 毎週月曜日深夜25時~
BSフジ 毎週月曜日深夜25時~
・ニコニコチャンネル、dアニメストア、GYAO!、U-NEXT、ビデオマーケット、Amazonプライムビデオ、ビリビリ、クランチロールにて動画配信中
■『学園ハンサム』オフィシャルサイト
http://ykfm.web.fc2.com/
(C)TOHOKU PENET K.K.