
歌舞伎と人気コミックとが融合したスーパー歌舞伎II『ワンピース』。衝撃的なビジュアルと演出で、観る者を圧倒する。
海賊王を目指す麦わらのルフィが全身白塗り姿で現われ、ゾロ、ナミ、サンジ、ウソップたちと乗り込んだ海賊船はまるで七福神の乗った宝船みたい。累計発行部数が3億4000万部を越える大ベストセラーコミック『ONE PIECE』を舞台化したスーパー歌舞伎II『ワンピース』はかなりの衝撃度がある。序盤、麦わら一味が勢ぞろいして客席に向かって見得を切るシーンは、正直いって吹き出しそうになった。マダムタッソーの蝋人形ばりにオリジナルとは似ていないのだが、この“まるで似てない”感は決して嫌いではない。市川猿之助主演&演出によって2015年の東京から始まり、大阪、福岡で上演された同演目を2時間に凝縮編集した“シネマ歌舞伎”として10月22日(土)より全国の映画館で上映が始まる。
今回のスーパー歌舞伎II『ワンピース』は、原作の「頂上戦争編」(51巻~60巻)をいっきに見せるという大掛かりな趣向。気になる配役は市川猿之助がルフィとシャンクス、それに女帝ボア・ハンコックの3役。女性キャラクターのナミとニコ・ロビンには市川春猿と市川笑也の人気女形を、大海賊団を率いる白ひげに市川右近、そしてルフィの兄・エースには歌舞伎界外部から、俳優の福士誠治を起用している。スーパー歌舞伎ではおなじみの宙づりあり、最新のプロジェクションマッピングを活かした舞台演出もあり、2時間という上映時間があれよあれよと過ぎていく。

スーパー歌舞伎名物の宙づりもあります。サーフボードで空を舞うルフィの勇姿。お客さん、どーですか!?
海軍に捕らえられた兄・エースをルフィが救出に向かうというのが「頂上戦争編」のストーリーラインだが、麦わら一味がシャボンディ諸島で顔みせする第一幕につづく、海底監獄インペルダウンを舞台にした第二幕が異様な盛り上がりを見せる。公開処刑が迫るエースを救い出さんとルフィは監獄内に潜入し、旧知のボン・クレー(坂東巳之助)と再会。監獄署長のマゼラン(市川男女蔵)の毒液攻撃にルフィは倒れるも、監獄の奥深くにあるニューカマーランドへ逃げ込むことで辛うじて一命を取り留める。イワンコフ(浅野和之)が治めるニューカマーランドは監獄内にあるとは思えない夢の楽園で、映画『ロッキー・ホラー・ショー』(75年)みたいなLGBTたちが集う華やかな宴の真っ最中。この世から虐げられし者たちが、ここニューカマーランドでは生き生きと輝いている。
おかまのボン・クレーはルフィのような強靭な精神力は持っていない、とても人間くさいキャラクターだ。ピンチに陥るとルフィを見捨てて逃げ出してしまうボン・クレーだったが、理想郷ニューカマーランドに辿り着いたことでようやく自分の生きる場所を見つける。第二幕の主役の座は、完全にボン・クレーのものだ。自分のことを「友達」と呼んでくれたルフィのために、自分の中の弱い心を懸命に抑え、体を張る姿がサイコーにかっこいい。しかもキャスト表を見直して、ボン・クレーを演じた坂東巳之助はゾロも演じており、サンジ役の中村隼人も第二幕に登場する革命家イナズマとの二役だと気づき、カンドーがさらに倍増。いつしかスーパー歌舞伎の面白さに、どっぷりハマってしまう。

第二幕ではボン・クレー役の坂東巳之助とイナズマ役の中村隼人が大活躍。若手の2人は原作&アニメ版をかなり研究した。
スーパー歌舞伎の成り立ちをひも解いてみると、戦後の歌舞伎界が伝統芸能化していることを“歌舞伎界の異端児”先代・市川猿之助(現・市川猿翁)は憂い、歌舞伎本来の野性味を取り戻した新作舞台を企画。そうして1986年から始まったのが、現代語による歌舞伎界のニューウェーブ「スーパー歌舞伎」だった。先代・猿之助の宙づりで有名になった「スーパー歌舞伎」は、梅原猛原作『ヤマトタケル』をはじめ、スケールの大きさと格調の高さで知られたが、市川亀治郎あらため四代目市川猿之助が受け継いだ「スーパー歌舞伎II(セカンド)」の第2弾『ワンピース』には、歌舞伎を観たことのない世代も原作を読んでいない層も気軽に楽しめる大衆性が加わっている。世間からはみ出した者たちが自由を求めて共に旅をする『ONE PIECE』は、もともと歌舞伎向けの題材だったようだ。
人気コミックの実写化は日本の映画界のみならずハリウッドでも主流となっているが、話題作のキャストが発表される度に「原作とイメージが違う」「キャラの年齢設定と俳優の実年齢が離れている」と公開前から叩かれることが多い。でもスーパー歌舞伎版『ワンピース』を観ていると、原作キャラとキャストの外見が似ているかどうかはさほど重要な問題ではないように思えてくる。原作の世界観がきちんと踏襲されているかどうかを重視するファンもいるが、世界観をいくら忠実に再現しても、それだけでは物語は動き出さない。その点、今回の『ワンピース』の出演者たちは、新しい世界への憧れと失敗を恐れない冒険心を備えたロマンチスト兼チャレンジャーぞろいだ。キャラクターの再現率や世界観の忠実なコピーよりも、もっともっと大事なものが『ワンピース』の舞台には隠されている。大秘宝を探し求めるルフィたちの姿が、新しい歌舞伎界を担う市川猿之助たちと重なり合う。
(文=長野辰次)

スーパー歌舞伎II『ワンピース』
原作/尾田栄一郎 脚本/横内健介 演出/市川猿之助、横内健介 楽曲提供/北川悠仁(ゆず)
出演/市川猿之助、市川右近、坂東巳之助、中村隼人、市川春猿、市川弘太郎、坂東竹三郎、市川笑三郎、市川猿弥、市川笑也、市川男女蔵、市川門之助、福士誠治、嘉島典俊、浅野和之
配給/松竹 10月22日(土)より東劇・新宿ピカデリーほか全国公開
(c)尾田栄一郎/集英社・スーパー歌舞伎II『ワンピース』パートナーズ
http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/onepiece