
油簍村に並ぶ一戸建て住宅
中国東部の山東省にある臨沂市の郊外にある小さな村・油簍には、2階建ての家が36棟もあり、マンションも4棟ある。これだけでも農村としてはかなり珍しいが、それだけではない。BMWやベンツ、マセラティなどの高級車も並んでいる。このあたりでは年収20数万元(約400万円)の世帯など当たり前。この金額は、農民にしてはかなり高額。上海の一般的なホワイトカラーの年収よりも高いのは当然として、日本人の男性労働者の年収のボリュームゾーン(300~400万円台)に迫っているのだ(国税庁「平成26年民間給与実態統計調査結果」より)。
いったい、彼らの収入はどこから来ているのか? 山東省のテレビ局のニュースが伝えたところによると、それは彼らが作る「煎餅(ジェンビン)」にあった。

熱い鉄板の上で、あっという間に作り上げられていく。たまに食べるぶんにはおいしい
煎餅といっても日本の煎餅とはまったく違ったもので、煎餅というよりもクレープに近く、中国ではよく食べられている朝食のひとつである。一般的に朝食は外で買って食べることが多く、中国一の大都会・上海でも、朝方になると街角のあちこちで煎餅を作って売っている屋台を見ることができる。
丸い鉄板の上に小麦粉を溶いたものを薄く敷いて焼き、生卵や青ネギのみじん切り、油条(中国式揚げパン)などを乗せ、クレープのように巻き上げて半分に切ったら、その上にソースを塗って完成。注文してから2分ほどで出来上がる。ひとつ4~5元(100円弱)。それをビニール袋などに入れて、歩きながら食べたり、会社に着いてから食べたりするのが一般的だ。
さて臨沂市であるが、ここは『三国志』に出てくる諸葛孔明の出身地としてよく知られているのだが、実はこの煎餅の発祥地ともされている。その臨沂市にある油簍村の農民たちが、上海に出て地元名物の煎餅を作って売り、大儲けしているというわけだ。

これはソーセージ入りの豪華版
一説には、上海全体にある煎餅の屋台のうちの9割は、油簍村出身の農民が経営しているのだという。しかもその中には、不動産価格が高騰している上海ですでに家を買った人が10人以上もいるのだという。

狭い店舗で開業でき、設備も簡単なものなので、コストは安い
煎餅売りは、それほど儲かる商売なのか? ひとつ5元の煎餅の材料費は約1元。一家で3つの屋台を持っている家族などは、1日に600個は売り上げ、利益は1カ月で、7万2,000元(約137万円)、1年だと86万4,000元(約1,640万円)。そこから3つの屋台の毎月の家賃計1万元を引いても、年収は約75万元(1,425万円)にもなる。一家全体の年収が1,400万円以上というのは、高収入の人が多い上海でさえかなりのものである。
あまり清潔とはいえない屋台で、粗末な服を着て煎餅を作っている出稼ぎ農民。ところが実は、彼らから煎餅を買っているホワイトカラーたちよりも、ずっと金持ちだったというわけだ。人は見かけによらぬもの。中国の出稼ぎ農民たちも、なかなか侮れない。
(文=佐久間賢三)