
北京で起こったエスカレーター事故の現場。通勤ラッシュ時だったら被害はさらに大きくなっていたと予想されている
7月26日、湖北省荊州市のデパートでエスカレーターの踏み板が突然落下し、30歳の女性が中に巻き込まれて死亡するという事件が発生。“吃人電梯(食人エスカレーター)”と話題になり、中国全土を震撼させた。
デパートの6階から7階に上がるエスカレーターに乗っていた母子が、7階に着いてエスカレーターから降りようとしたところ、下の踏み板が突然落下し、母親の半身が落下。抱きかかえていた子どもはなんとか無傷で床の向こう側に押し出したが、母親の体はそのままのみ込まれるように穴の中に沈んでいってしまった。母親は4時間後に救出されたが、すでに亡くなっていた。

踏み板が外れ、母親が下に落ちそうになった瞬間。手前で見ていた女性職員たちは、なすすべもなく見ているだけだった
防犯カメラが捉えていた衝撃の映像は、中国のみならず日本でも大きく報道された。
同じ防犯カメラは、事故発生の数分前、デパートの女性職員2人が同じ場所で危うく下に落ちそうになる映像もとらえており、異常が確認されていたことが明らかになっている。
しかし彼女たちは、エスカレーターを緊急停止することもなく、被害に遭った母子がエレベーターを上ってきてしまった。彼女たちは母子に向かって「ここは危ないですよ」と声をかけたが、何が危ないのか知る由もない母親は子どもを抱きかかえてエレベーターから降りてきて、事故が発生した。
異常に気づいた時点でエスカレーターを止めていれば、この惨劇は避けられていたわけだが、この女性職員たちは、エスカレーターに緊急停止ボタンなどというものが存在することすら知らなかったという。
この事故の翌日には、広西チワン族自治区梧州市のデパートで、1歳の男の子がエスカレーターに左腕を巻き込まれて大ケガを負うという事故も起こっている。こちらはエスカレーターの故障が原因ではなかったが、連日の大惨事に市民たちは恐怖し、中には怖くてエスカレーターに乗れず、階段を使う人も増えているという。
中国では過去にも、エスカレーターの故障による大きな事故が何度か起きている。

広西チワン族自治区梧州市のデパートで起こった事故。子どもが親と離れて一人でいる時に起こった事故だという
2010年12月には、広東省深セン市の地下鉄駅構内にある上りエスカレーターが、突然逆行を始めて下に向けて動きだし、乗っていた24人がケガをするという事故が発生。翌年7月には、北京で同じくエスカレーターが突然逆行し、この時には1人が死亡、30人が重軽傷を負っている。
荊州市での事故を受け、国家質量監督検験検疫総局が7月28日に発表したところによると、今年6月末の時点で、全国で検査されたエレベーター・エスカレーター236万基のうち、11万基以上で安全上の問題が発見され、そのうちの2.6万基以上はいまだに修理もされずにそのまま使われている状態だという。さらに、去年1年間でエレベーター・エスカレーターの事故が全国で49件発生し、37人が死亡。死亡した37人のうち、18人は作業員や管理人で、残りの19人が利用者だったという。

2014年9月に、福建省アモイ市で起きたエレベーター事故。男性が乗り込もうとするとドアが閉まらずそのまま上に動きだし、男性は天井とエレベーターの床の間に挟まれて死亡した
都市化が進む中国ではエレベーターとエスカレーターの数が急激に上昇しており、それに伴い修理・補修・点検の人員が不足しているため、点検や補修がおざなりになったり、定期的な点検すらされていないところも数多くあるという。荊州市での事故も、補修後のボルトの締め忘れが原因ではないかとみられている。
中国では、健康のためというより、命のために階段を使ったほうがよさそうだ……。
(文=佐久間賢三)