
7月31日に発売された『AVビジネスの衝撃』(小学館)。AV業界の栄枯盛衰を描き出し、驚愕の新事実を提示する迫真のルポルタージュだ。
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企画AV女優のインタビュー集『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)や『ワタミ・渡邉美樹 日本を崩壊させるブラックモンスター』 (コア新書)、『崩壊する介護現場』(ベスト新書)などの著書を持つノンフィクション作家の中村淳彦。この度、新刊『
AVビジネスの衝撃』(小学館新書)を7月31日に上梓した。彼が社会を見る目は冷徹で、社会の底辺であえぐ取材対象を常識とは別の角度で浮き上がらせている。AV業界、介護業界、ブラック企業を結ぶキーワード・“ポエム問題”を語るインタビュー後編だ。
――新刊『AVビジネスの衝撃』でもAV業界の崩壊には触れていましたが、AV業界と介護業界が似たような崩壊をしているとは?
中村 新自由主義的な変革が結果的に失敗していることです。そもそもAV業界はレンタル派が主流で、80年代から90年代前半は非常に利益率の高いビジネスでした。ビデオ倫理協会という既得権益が業界を牛耳っていたのですが、93年にビデオ安売王がセルビデオ店をチェーン化し、さらにソフト・オン・デマンドが入ってきた。セルAVの登場は実質的な規制緩和だった。参入障壁を下がったわけです。さらにソフト・オン・デマンドは市場の寡占率を高めるために値下げをした。既得権益が壊れたことによって競争が激しくなり、商品価格が下がるデフレが起こって、ユーザー本位主義になってクオリティーアップの要求が無限になった。その激しいデフレがともなう競争ですべてが破壊されて、優秀な人材も他の業種に流出し、誰も儲からなくなった。最終的にはみんながみんな負けて、大きな資本に寡占化されたのが今です。
――なるほど。確かに客側には安くAVが手に入るという一時的なメリットはありますが、業界は疲弊しますね。
中村 この状況を介護業界に当てはめ、簡単に説明すると、レンタルAVが社会福祉法人でセルAVが営利法人です。介護というのはそもそも国や行政が取り仕切っていました。団塊の世代が後期高齢者となって本格的な超高齢化社会に突入する2025年問題があって、その高齢者だらけの社会を想定して、国から業者、個人まで様々な思惑を抱きながら動いているわけです。2025年に高齢者の数が増えすぎて、もう行政では手におえないとなって生まれたのが、民間に介護を委託する介護保険制度です。介護保険制度によって介護施設の参入障壁は下がり、どんどん民間(営利法人)が入った。そして物件先行で新しい施設が建ちすぎて、人材が追いつかなくなった。誰でも採用したことによって、介護の質は下がり、最終的には質の低下どころか普通の人だったら狂うくらいに荒れ果ててしまった。そこで儲けられなくなった困る介護上層部や経営者が、慌ててポエムマネジメントを始めてブラック介護施設だらけというのが今です。AVのように疲弊した、みたいな領域を超えてしまっている。異常な事態ですね。
■国家レベルの敗残者が介護業界に流れる
――中村さんが介護を始められたのも、介護保険制度という規制緩和があったからなんですね。
中村 そうです。僕は7年間運営したので素人ではないですが、介護をなにも知らないエロライターが介護施設を運営するっておそろしいことですよ。今思えば、ありえない。AV女優たちを精神的に操るAV業界のポエム的な体質に辟易して、エロ本が崩壊したり美咲が自殺したりで諦めて、2008年に介護業界に異業種参入した。でも、そこはAV業界など比較にならない、とんでもないポエム社会だった。自分が雇用されている介護職員だったら3日で逃げますが、僕は代表取締役なので逃げようがなかった。そこで我慢に我慢に我慢に我慢を重ねて、ときに精神的におかしくなり、死のうかなとまで追い詰められたこともありながら、ようやく介護の会社を潰して介護から逃げることに成功したのが今です。今みたいな平穏な気持ちがあったのは、AVポエム以前なので90年代後半以来ですね。
――ポエムによって死を考えるまで追い詰められる、ということにピンときません。
中村 介護や保育には自己顕示欲と名誉欲の強い、ものすごく危険な人物たちが集まります。彼らは稼ぎまくって裕福な暮らしをして、常に人々に尊敬されて、毎日チヤホヤされるみたいな欲望がとにかく強い。逆にAV業界は基本的には自分を底辺と自覚して、一攫千金を狙うみたいな意識の人が多い。身の程を知っているので、悪い人でも憎めない。介護や保育には“自分は日本の救世主”と信じ込んでいる自己愛性人格障害のような業界上層部、経営者が大勢います。危険な介護ポエムを象徴するのは、毎年開催されている『介護甲子園』ですかね。
――『介護甲子園』はどんなイベントで、どんな雰囲気ですか?
■介護甲子園とは?
中村 日比谷公会堂の壇上に介護職員が登壇して、「介護で日本を元気に」、「感謝、感激、感動」とか、「感動の物語をシェアしよう」とか、「スイッチオン、スイッチオン」とか絶叫させるんです。みんな洗脳されている状態なので、泣きながら叫んでいます。観客も洗脳されたがっている介護関係者で、みんな感動して泣いちゃうんです。介護甲子園は関係を調べると主催はブラック系の介護フランチャイズ業者で、自己啓発セミナー関係者みたいな連中が群がっている。感動を煽ってモチベーションをあげて、長時間労働に導いたり、経営者ならばフランチャイズ業者に導かれたり、みたいな悲惨なことになる。ブラックの神様であるワタミの渡邉美樹氏をさらに先鋭化させたような連中です。昔はあれだけ嫌悪していたAV監督の女優の精神を操るみたいな演出は、彼らを経験した後だと可愛く感じる。

画像は、Vinoth Chandar/The Beauty of Old Age Flickr CC BY 2.0
――このまま介護業界が進んでいくと恐ろしいことになりそうですね。
中村 実際に高齢者は日々増えて、人材不足は限度を超えたことになっているので、もう、戻りようがない。介護業界の恐ろしさは底なしで、『ルポ 中年童貞』(幻冬舎新書)にまとめたような社会と女性に排除された中年童貞問題もある。また、意識高い系の若者がどんどん取り込まれているポエム系ブラック企業の存在も危険です。大学卒業時点で500万~800万円という巨額の奨学金という名の有利子負債を背負わされた若者が、現実を見つめるのはツライから、美辞麗句を垂れ流すブラック介護企業に取り込まれたりする。
――この10数年間、就職難は継続しているし。
中村 世代格差や貧困で厳しい現実の中、思考停止している若者はポエムを信じる。なので、就職はポエム系ブラック企業で、労働基準法を逸脱した長時間労働で介護をさせられたりしている。本人が気づかないうちに何重もの搾取と洗脳、もうその若者は人生立ち直りようがないですよ。生涯“夢、やりがい、熱い想い、スイッチオン”って実態のないポエムを浴びて思考停止しているしかない、といった現実がある。やっぱり、若者が潰されるのはキツすぎる。介護を軸に考えると、社会の問題は山積み。ひとつだけ言っておきたいのは、これから社会に羽ばたく若者は介護業界だけには関わってはダメ。これから新自由主義が導入されておかしくなるだろう保育も同じかな。国にお金がないし、日本の社会保障はもうどうにもならない。介護や保育現場は行き場のない中年童貞に任せて、将来のある若者はちゃんと壊れてない世界を探したほうがいい。
中村氏の語る「ブラック企業(業界)のポエム化問題」は週刊誌やTV番組でも取り上げられ、話題をさらっている。介護業界以外にも居酒屋などのサービス業、運送業、製造業、エステなどすでにポエム化している業界は多数あり、あなたの働く場所にもしのびよってきているのかもしれない。
社会の底辺へ鋭く切り込む中村淳彦の次回作はどこへ向かうのか。世の中にはびこるポエムに惑わされずに待つことにしよう。
(取材・文=松本祐貴)
■中村淳彦(なかむら あつひこ)
ノンフィクション作家。企画女優に取材した『名前のない女たち』シリーズは累計25万部以上の売上げを誇る。08年から介護の会社を経営していたが14年に廃業。『崩壊する介護現場』(ベスト新書)、『ルポ中年童貞』(幻冬舎新書)など著書多数。
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https://twitter.com/atu_nakamura
■松本祐貴(まつもと ゆうき
1977年大阪府生まれ。フリー編集者&ライター。雑誌記者、出版社勤務を経て、雑誌、ムックなどに寄稿する。テーマは旅、サブカル、趣味系が多い。
・ブログ~世界一周〜旅の柄:
http://tabinogara.blogspot.jp/