
撮影:萩原雄太

撮影:萩原雄太
夏のパリは、世界中からの観光客でにぎわいをみせる。ルーブル美術館やエッフェル塔、そして凱旋門など、華やかなパリを象徴する観光施設が、様々な人種・国籍の人々が入り乱れている一方で、モンパルナス近くにある「Catacombes de Paris(カタコンブ・ド・パリ)」という施設は、日本人にはあまり知られていないスポットかもしれない。「ダンフェール=ロシュロー駅」を降りて徒歩数分、その小さな建物は、地下20メートルにつくられた納骨堂への入り口だった。ここには、600万に及ぶ人々の骨が納められているのだ。

撮影:萩原雄太
ローマ時代からの長い歴史を有するパリでは、18世紀になると市内に遺体を埋葬するための墓地がなくなり、衛生環境が悪化してしまう。そのため、それまでにつくられた墓を掘り返し、遺骨を採石場として穴を掘られた地下道に集める計画が進行された。そうして生み出された奇妙な空間が、この「カタコンブ・ド・パリ」なのだ。

撮影:萩原雄太
5ユーロ(約680円)の入場料を支払って、地下深くまで続く狭い螺旋階段を降りて行くと、そこには人がひとり通るのがやっとの薄暗い地下道が広がっている。真夏でも気温はおよそ14度。天井や壁からは地下水が染み出し、空間を満たすひんやりとした空気はここが異世界への入り口であることを強く意識させる。地下道の各所には、石に彫られた祭壇や、坑夫のための井戸などが設置されており、第二次大戦中には、レジスタンスの隠れ家としても利用されていたという。外の喧騒とは全く異なったこの地下道を歩いているだけで、パリの華やかな日常とはかけはなれた不思議な感覚を味わうことができる。

撮影:萩原雄太
そして、地下道を歩くこと20分。来場者たちは、ついにお待ちかねのカタコンブの中心地へと辿り着く。盗難防止と保存のために、遺骨には絶対に触らないことを厳命され、いざ納骨堂の中へと歩みを進めていく……。

撮影:萩原雄太

撮影:萩原雄太
そして、眼に飛び込んできたのは、高さおよそ1.5〜2メートルにまで積み上げられた「骨の壁」だった。頭蓋骨や大腿骨が整然と積み上げられたその骨の壁には、ただただ驚きを禁じ得ない。「600万体」と言葉にすれば簡単だが、この骨の壁が地下道沿いに数百メートルにわたって続くさまには圧倒され、言葉を失ってしまうだろう。

撮影:萩原雄太

撮影:萩原雄太
ただし、そこは決して「異様」で「おどろおどろしい」場所ではない。向きを揃えられ、整然とデザインされた壁。さらには、頭蓋骨でハートマークが描かれたり、ワイン樽のような形に設えられていたりと、人々が「遊びこごろ」をもってこの納骨堂をつくったことがかいま見え、思わず微笑まずにはいられない。そのためか、そこにあるものが本物の人骨であることすらも忘れてしまいそうになるほどだ。けれども、もちろん、ここは死者たちが永遠の眠りについている場所。時折目に飛び込んでくる、祭壇や十字架からは、死者に対する敬虔な気持ちもまた感じることができる。

撮影:萩原雄太

撮影:萩原雄太
1.7キロに及んで続いた地下道は、地上へと続く螺旋階段で終わりを迎える。地上に出ると、そこには、地下の世界とはうってかわって夏のヨーロッパらしいからっとした空気と、パリのデコラティブな街並みが広がっていた。「花の都」と褒め称えられ、世界中の人々が憧れを抱くパリ。しかし、その地面の下には、無数の死者たちが眠りにつく広大な異世界が広がっているのだ。この夏、現地を訪れる予定のある読者は、ぜひ足を運んでみてはいかがだろう。
(文・写真=萩原雄太)