
日本ではPG12での公開となる『チャッピー』。スラム街で生きるロボット・チャッピーの体験学習は日本のティーンたちの目にどう映る?
パッと見、ロボットのチャッピーはあまりかわいくない。元々、廃棄処分になっていたロボットに人工知能ソフトをインストールしたもので、生まれて間もないのに中古感が漂う。『機動警察パトレイバー』のイングラムみたいにウサ耳型センサーがぴょこんと出ているけれど、表情は乏しい。ボディにはセンスの悪い落書きがあちこちに施してある。正直なところ、チャッピーはドラマの主人公としては感情移入しづらいキャラクターだ。でも、そんなチャッピーが自分に残されているバッテリー(=寿命)があと5日間で切れると知って、叫ぶ。「ボクは死にたくない!」と。ロボットの悲痛な叫びに、観ている我々人間の心の中で何かがカチッと動き始める。映画『チャッピー』は人工知能が搭載された一体のロボットの生存権をめぐるSFドラマであり、同時に新しい家族が誕生する過程を追った新感覚のホームドラマでもある。
脚本&監督は、『第9地区』(09)で衝撃的なデビューを飾った南アフリカ出身のニール・ブロムカンプ。『第9地区』はアパルトヘイト問題を人間とエイリアンの関係に置き換えたアイデアが秀逸だった。『チャッピー』も治安の悪さで知られる南アフリカの首都ヨハネスブルグを舞台に、ロボットのチャッピーの目を通して現代社会を鋭く洞察する。時代設定は2016年とすぐそこ。明日、起きてもおかしくない出来事が描かれている。
人間の創造主が誰なのかは曖昧だが、チャッピーの創造主(メーカー)ははっきりしている。兵器製造を手掛ける大企業トテラバール社に勤めるインド系の若い科学者ディオン(デーヴ・バデル)が生みの親だ。ディオンはヨハネスブルグでもさらに犯罪率の高いスラム街をパトロールするロボット警官チームの開発者。死を恐れずに犯罪に立ち向かい、汚職に手を染める心配のないロボット警官は、人材不足に悩む警察庁に大喜びで迎え入れられた。ミッシェル社長(シガニー・ウィーヴァー)に褒められ、ディオンは鼻高々。次は警官ロボットに人工知能を搭載することで、より高度な人間のパートナーにしようとディオンは考える。だが、ミッシェル社長は「ロボットに知能は不必要」と却下。そこでディオンは会社に無断で廃棄ロボットに人工知能をこっそりセットしようとする。

ギャングに育てられたチャッピーは、首から金ネックレスをじゃらじゃら掛けた不良ロボットと化してしまう。更生させるのは難しそう。
そんなとき、警官ロボットの戦闘能力の高さに目を付けたギャングのニンジャ&ヨーランディが、ディオンと廃棄ロボットを拉致。ニンジャたちが立ち会う中、人工知能を搭載したチャッピーが誕生する。天馬博士によって作り出された鉄腕アトムが心優しいお茶の水博士によって育てられたように、チャッピーはディオンの手を離れて、ギャング団のアジトで育てられることに。赤ちゃん状態のチャッピーを、女ギャングのヨーランディが目一杯かわいがる。ヨーランディは自分の肉親に求めていた愛情を、代わりに自分が母親になることでチャッピーに注ぐ。一方、強盗稼業をなりわいとするニンジャは、チャッピーに武器の使い方を習得させる。生みの親であるディオンは“ロボット三原則”に基づいて「人間を銃で撃ってはいけない」とチャッピーに教えるが、育ての親となるニンジャはストリートで生きていくためにはタフさが必要だと力説する。「お前のバッテリーはあと5日間しかもたない。代わりのボディを手に入れるために、お前にはやらなくちゃいけないことがある」と。自分が生きることと、モラルを守ることはどちらが大切か? 生まれて間もないチャッピーは、難しい命題をその真新しい頭脳で考えなくてはいけなかった。
人工知能は搭載されているものの、頭の中はまだ真っ白なチャッピーが、ニンジャ&ヨーランディ(南アフリカで人気の夫婦ラッパー)たちと暮らすことでどのように育っていくかが本作の見どころ。モーションキャプチャーを使ってチャッピーを演じたのは、ブロムカンプ作品の常連俳優シャールト・コプリー。チャッピーの好奇心に満ちた幼年期、親の言うことにいちいち「なんで?」「どーして?」と質問で返す少年期、自分は何のために生まれてきたのかに大いに悩む思春期……と繊細に演じ分ける。そしてチャッピーの成長に従い、ニンジャ&ヨーランディも大きく変わっていく。裏社会で生きていくための集団だった彼らだが、チャッピーの世話を焼き、生活を共にするうちに関係性が次第に変容していく。ヨーランディはチャッピーに愛情を注ぐことで母性が芽生え、荒くれもののニンジャでさえ懸命に自分の真似をするチャッピーを見ているうちに父性に目覚めることになる。ただのワルの集まりだったのが、チャッピーを中心にした“家族”という関係性が生じていく。いくつもの配線が繋がってチャッピーが動くように、ニンジャ&ヨーランディもチャッピーとの関係性を重ねることで“家族”として起動することになる。
ロボットながら自意識を持ったチャッピーは、やがて人間社会で迫害されるはめに。中でもディオンとライバル関係にある科学者のヴィンセント(ヒュー・ジャックマン)は重装備ドローンを操作して、チャッピーをこの世から抹消しようとする。ミッシェル社長も人工知能を搭載したロボットは危険だと考えている。だが迫害されることで、チャッピーとニンジャ&ヨーランディはより家族の繋がりを濃くしていく。この輪にディオンも加わり、これまでに見たことのない新しい家族像が生まれる。そして、最初は全然かわいくないと思っていたチャッピーに、すっかり夢中になっている自分がいることに気づく。

科学者のヴィンセント(ヒュー・ジャックマン)はロボットが知能を持つことに大反対。ミッシェル社長にチャッピーの危険性を訴える。
機械が意識を持つようになった人間社会はどうなるのだろうか。人工知能型OSと人間との恋愛を描いた『her/世界でひとつの彼女』(14)のラストは思いもしなかった展開が待っていた。『ターミネーター』シリーズは自我を持つコンピューターによって人類が支配されてしまう暗い未来を予測している。ちなみに、コピーロボットの開発で知られるロボット工学者の石黒浩博士は「ロボットは人間の心を写す鏡である」と語っている。その言葉に従えば、ニンジャもヨーランディも、そしてディオン、さらにはヴィンセントも、チャッピーの中にいるもうひとりの自分に気づいたということらしい。ロボットの登場によって人間社会の在り方も、人間個人の意識も大きく変わっていくことを『チャッピー』は予言している。
(文=長野辰次)

『チャッピー』
監督/ニール・ブロムカンプ 出演/シャールト・コプリー、デーヴ・パテル、ニンジャ、ヨーランディ・ヴィッサー、ホセ・パブロ・カンティージョ、ヒュー・ジャックマン、シガニー・ウィーヴァー、ブランドン・オーレット 配給/ソニー・ピクチャーズ PG12 5月23日(土)より公開
(C) Chappie -Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
http://www.chappie-movie.jp