中国南部の都市・広東省広州市に、通称「腐敗レストラン」と呼ばれる店がある。といっても、腐ったものを出すわけではない。かつては官僚にしか扉を開かず、酒池肉林や黒い交際の舞台となったとされる高級飲食店だ。 ところが、習近平政権が「虎もハエも叩く」として展開する反腐敗運動により、それまでの得意客だった官僚たちも利用を手控えざるを得なくなった。そこで最近、一般客の利用も認めるようになったという。 お得なランチタイムも設けられ、庶民にも手が届く価格設定だというので、筆者も潜入してみた。 店の名前は「Li Chateu(茘雅図)」。市内中心部にある4ツ星ホテル、広州マリオット・ホテル天河と同じ建物にある。しかし店へはホテルの玄関脇にある、独立した隠し扉のような入口からアクセスする。ハイソサエティーな客層。安い食堂でよく見る、「カーッ、ペッ!」と魚の骨を床に吐き出すような者は誰一人いない。
現地在住の日本人によると、このレストランが一般開放されたのは、去年の6月頃のこと。それまでは固く閉ざされていた扉が開かれ、店の看板が出ていたのだという。 扉をくぐり、地下へと続く階段を進む。すでに十分「秘密の場所」といった感じである。階段を下りきると、そこにはモノトーンベースのインテリアに間接照明を多用した重厚な雰囲気が漂っていた。中国の飲食店にありがちな、古びた油のにおいや喧騒とは無縁である……。店の入口。看板こそ建てられているが、今でも目立たない。
モデルのような美人案内係の誘導で席に通される。その後、メニューを持ってきたウェイトレスは「ニーハオ。ようこそいらっしゃいました」と、深々と一礼した。これほどのサービスは、この国ではなかなかお目にかかれない。 周囲のテーブルでは、身なりのいい人々が優雅な所作で食事をしていた。自分が浮いているような気がして、心なしか緊張してくる。 注文したのは「仔羊のパッパルデッレ」。中国のフレンチやイタリアンでは、「本物喰ったことないだろ!」と言いたくなる料理が出てくることも多いが、この店は違っていた。 ラム肉はふんわりと柔らかく、臭みもない。パスタの茹で加減も完璧だ。普段、ランチで舌が肥えていそうな青山OLに食べさせても恥ずかしくない一品だった。 今回はランチタイムであったため、2,800円(サラダ、デザート、ドリンク付き)ほどの会計で済んだが、ディナーのメニューを見ると、メインの価格帯は5,000円前後。さらにワインリストには、1~5万円といったボトルが列挙されていた。かつてはこの長卓で、「黒い交際」が夜な夜な繰り広げられたのだろうか……。
こんなところで毎日食事していたら、庶民の暮らしぶりなど分かるはずもないだろう。 中国在住フリーライターの吉井透氏によると、「飲食店のほかにも、ホテルの特別室やスパ、スポーツジムなど、かつては党幹部専用の施設が多数あった。反腐敗運動が本格化して以降は、やはり一般開放されたり、閉鎖されたりしている」という。 店を出る前、馬にまたがった肥満体型の武将のオブジェが目に入った。それはまるで、人民にのしかかって私腹を肥やす、汚職官僚を象徴しているかのようだった。![]()
仔羊のパッパルデッレと、サラダ、デザートで約2,800円也。ランチタイムとはいえ、それなりの値段だ。
馬にまたがる太った武将。このほかにも、店内には高そうな壺やオブジェが多数鎮座していた。









