
左から、Ba.Cho.小島 和也、Vo.Gu.清水 依与吏、Dr.栗原 寿。
【リアルサウンドより】
〈雪が綺麗と笑うのは君がいい/でも寒いねって嬉しそうなのも/転びそうになって掴んだ手のその先で〉
女優・広瀬すずが白銀のゲレンデで、恋の予感がする甘酸っぱい青春の一コマを演じる「JR SKISKI」のCMに、ハッとするような美しいメロディと、シンプルながら印象深い歌詞で彩りを添えるのが、back numberの新曲「ヒロイン」だ。
2人の男友達を同時に意識してしまった広瀬すずの「運命の赤い糸が2本あったら、どうすればいいんだろう?」というナレーションに対し、back numberの歌詞は男性目線での心象風景を歌っていて、登場人物たちの心が交差する様を鮮やかに描き出している。同CMのシチュエーションや、その瑞々しい言葉に心惹かれるリスナーは少なくないだろう。
本稿では、現在人気急上昇中のback numberの“歌詞”に注目し、なぜ彼らが人々に支持されるのかを探ってみたい。
“片思い”楽曲における、具体的な場面設定
back numberの曲の多くは“恋愛”をテーマとしていて、その心象風景をおもに一人称で丁寧に描いているのが特徴だ。また、多くの場合は恋の楽しさや喜びを歌うのではなく、片思いや失恋など、叶わぬ思いを等身大の歌詞で綴っている楽曲が多い。
たとえば、片思いを描いた前出の「ヒロイン」では、以下のようなフレーズが耳に残る。
〈君の毎日に僕は似合わないかな/白い空から雪が落ちた/
別にいいさと吐き出したため息が/少し残って寂しそうに消えた〉
思いを寄せる相手への素直な感情を、冬の情景とともに描くことで、より切なさを際立たせているのが印象的だ。また、同じく片思いを描いた「高嶺の花子さん」という楽曲では、そうした切なさをユーモアとともに描くことに成功している。
〈君の恋人になる人は/モデルみたいな人なんだろう/
そいつはきっと君よりも年上で/焼けた肌がよく似合う/洋楽好きな人だ〉
「高嶺の花子さん」は「ヒロイン」とは対照的に、夏の片思いを描いている作品で、ユニークな表現が際立っている。一方、「恋」という楽曲では、次の一節がback numberの歌詞の特徴を端的に表しているといえそうだ。
〈ぼんやりと君を眺めていたんだ/校舎の窓から/やっぱりかわいいなって/
友達と笑い合う君の姿に/見とれる事ももうできなくなっちゃうな〉
上記は楽曲の冒頭の一節で、ここを読むだけで学生生活の終わりが間近で、ずっと片思いをしてきた相手のことを歌っているということが聞き手に伝わる。back numberの歌詞は、上記の3曲からもわかるように、一曲ごとの場面設定がしっかりとしていて、歌詞を追うと背景のストーリーが立ち上がってくるような作りになっているのだ。
2000年代以降の日本のロックシーンでは、ご存知のように、一人称で心象風景を描くバンドが主流となってきた。back numberもまた、そうした流れを受け継ぐバンドだといえるだろう。ただし、多くのバンドが歌詞において、抽象的な言葉を重ねることでリスナーに行間の意味を想像させる手法をとるのに対し、back numberはより具体性の高い情景描写を行い、まるで映画や短編小説のように、映像的に一つの世界を描いているのが特徴的だ。
こうした情景描写を追求した歌詞は、阿久悠から松本隆にいたる1980年代以前の歌謡曲やニューミュージックの詞世界に通じるものがある。また、その登場人物がときに情けなかったり、かっこ悪かったりするのも独特で、そうした部分も素直に、しかし執拗にならない程度の絶妙なさじ加減で描いているからこそ、多くの人々の共感を呼んでいるのではないだろうか。
失恋を描いた楽曲群に見られる繊細な心理描写
back numberにとって“片思い”と同じくらい重要なモチーフが“失恋”だ。興味深いのが「幸せ」という楽曲で、女性の視点から描いた歌詞となっている。
〈私が聞きたかったのは/終電の時間でも好きな人の悪口でもなくて/
せめて今日のために切った髪に気付いて/似合ってるよって言ってほしかった〉
思いを寄せる相手に恋人がいることがわかっていながら、それでもなお恋心を抱いてしまう女性の繊細な心に寄り添った歌詞で、こうした機微を描けるのはボーカル・清水依与吏の強みと言えるだろう。また、たとえ失恋を歌っていても、それをただ悲しいだけの出来事として捉えるのではなく、肯定的に描いているのも特徴だ。「思い出せなくなるその日まで」では、次のような一節にそれが表れているといえよう。
〈たとえばあなたといた日々を/記憶のすべてを消し去る事ができたとして/
もうそれは私ではないと思う/幸せひとつを分け合っていたのだから〉
失恋の悲しみもまた、大切な感情として受け止めているのがわかる歌詞で、そこにはback numberの楽曲すべてに通底している美意識が感じられるだろう。「チェックのワンピース」では、失恋を経てなお前向きであろうとする姿勢が、より具体的な言葉で綴られている。
〈これからチェックのワンピースを/どこかで見つける度に/あぁ君を思い出すのかな/嫌だな 嫌だな/それでもいつかまた出会えたら/僕ならもう大丈夫だと言えるように/君のいない明日を光らせよう〉
こうしてback numberの失恋ソングを読むと、情景の描写などにとどめて余韻をもたらす歌詞というより、具体的な心理描写にまで踏み込んでいて、曲中で描かれるストーリーを完結させるような歌詞となっていることもわかる。また、楽曲そのものもドラマチックな展開となっていて、昨今のバンドでは珍しいほどストーリー性を持った作りとなっている。そうした曲の展開に合わせた歌詞は、ともすればエモーショナルになりすぎる傾向もあるが、back numberの場合はメロディラインの秀逸さで、それを自然なポップスとして聴かせることができている。そのバランス感覚も、優れた一面といえそうだ。
恋にまつわる切なさや悲しみを、等身大の言葉で具体的に綴り、人々の共感を呼ぶ作品を生み出し続けているback number。そのストーリー性が高い歌詞世界は、抽象的な表現がスタンダードとなっている昨今のJ-POPシーンだからこそ、人々に支持されているのかもしれない。
(文=編集部)
■リリース情報
『ヒロイン』
発売:2015 年1 月21 日(水)
初回限定盤(CD+DVD):¥1,500(税抜)
DVD「ヒロイン」MV、love stories tour 2014~横浜ラブストーリー2~ダイジェストを収録
通常盤(CD):¥1,000(税抜)
2015年春のライブハウスツアー「アーバンライブツアー2015」チケット先行シリアルナンバー封入
〈収録曲〉
1. ヒロイン
2.アーバンライフ
3.アップルパイ
+各曲のinstrumental 収録
back number公式サイト