
撮影=後藤秀二
それぞれにR-1決勝出場経験があり、コンビとしても「あたりまえ体操」で満を持してのブレークを果たしたCOWCOW。笑う人を選ばないユニバーサルなネタは、インドネシアなど海外でも高い人気を誇る。このたびCOWCOW善しが、大好きなおばあとの物語『ハイハイからバイバイまで―田島のおばあちゃんとぼくのヘンテコな二人暮らし』(ワニブックス)を上梓。トークでもテッパンのおばあネタに隠された、祖母と孫のおかしくもほろ苦い、小さな愛情物語を訊いた。
――『ハイハイからバイバイまで』は、本当に突然ぶわっ……とくるので、電車の中で読むのは気を付けたほうがいい本ですね。
COWCOW善し(以下、善し) それはよく言ってもらえます。“自分のおばあちゃんを思い出す”と。もともと僕の人生で「本を書く」なんて予定は全然なかったので(笑)、そう言ってもらえるのはすごくうれしいです。
――本を書くきっかけは、なんだったんですか?
善し 読売新聞で、小さいコラムを書かせてもらっていたんです。それをワニブックスの方が読んでくださって、「本にしませんか?」とお話をいただきました。そのコラム自体も、実は全然書く気はなくて。だって僕、そういうの得意じゃないんですもん。ただ、書くならおばあの話がいいとは思っていました。芸人とのトークでもね、テッパントークといったらなんですけど、よくおばあの話をしていたんですよ。「おばあって変だな」って気づき始めてからですけど。それにしてもまぁ、調子乗ってますよ、本を出すなんて。
――執筆する中で、どんなところが大変でしたか?
善し 皆さんもそうだと思うんですけど、おばあちゃんとの記憶なんて限られてるじゃないですか。僕の中でも、おばあとの話は3~4ネタぐらいやったんです。いつも舞台なんかで話しているネタを書いた後が大変でしたね。
――どうやって乗り越えたんですか?
善し おばあの家があった田島(大阪市生野区田島)に何度も足を運んでは、思い出したことをメモに取りながら……という感じで書きました。行くと記憶が蘇るんですよ。そもそも、おばあとの暮らしに「事件」なんてほぼほぼないのでね。この本の中にも、奇想天外なストーリーなんて全然ないでしょ(笑)。ただの日常ですもん。
――でも描写はすごく詳細で、たとえばねずみとりのネバネバに引っかかったおばあの靴下のピンク色とか。そこがグッときます。

善し ポイントポイントで妙に覚えているんですよ(笑)。でも、おばあが危篤やって言われた夜にバニラアイスを食べさせた話も、自分の中ではずっとなんでもない話でした。親戚が集まって、その中で僕が――当時はなかなかおばあに会えなかったので、僕が一晩付き添うということになって。「バニラアイスが食べたい」というのも、おばあはよく言うてたことだから。もちろんセンチメンタルな気分でしたけど、よくよく考えたら、その夜から1年半も生きてるんですよ。なんでやろ? っていう疑問が後から湧いてきた(笑)。その時だったら素通りする思い出も、今思い返せば……っていうのが結構あります。今になって、その時の気持ちを分析しているというか。
――大人になって、あらためて「おとん」や「おばあ」の気持ちが分かってきたということでしょうか。
善し 自分が親になって、感じ方が変わったことも、もちろんあります。ただ小さいときにね、ワガママなことを言う子だった一方で、どこか冷静に見ているようなところもあった。大人が言うことをね、冷静に考えて蓄積していたと思うんです。それを少しずつ思い出していったというか。
――周りの方々は、この本に対してどんな反応でしたか?
善し いろいろな種類のエピソードが入っているんですけど、人によって好きなところや、感じたことがバラバラなのが面白いですね。“自分のおばあちゃんを思い出した”というのが一般的な読み方だと思うんですけど、年配の人はきっと感じ方が違うだろうし、小さい子だったらどう思うかな……っていうのは、聞きたいところですね。
――今回の本では、イラストや写真も善しさんが担当されているんですよね。この表紙のおばあは……似てらっしゃいます?
善し これはすごい似てます。僕のおばあのイメージは、これなんですよ。僕が小学校のときのおばあちゃん。その後、さらに老いていくんですけど、頭の中にあるのはいつもこれ。すごく好きなおばあなんですけど、どっかね、なんか変だなっていうのは、この小学生の時点で感じているんです。さらに言えば、この田島っていう街にもね、感じてる。変やぞっていうのは(笑)。
――「田島」も「おばあ」も、芸人としての善しさんに大きな影響を与えた存在ですか?
善し そうですね。芸人になってから、僕は「優しい」とか「とろい」とか言われてきましたけど、それってまさにおばあです。おばあとの生活では、せかされるということがほとんどなかった。ここにも書きましたけど、銭湯行ったら何時間も帰ってこない子ですよ(笑)。漫才のテンポがゆっくりなのも、おばあから来てるんだと思ってます。
――ギラギラとかガツガツとかとは無縁な。

善し ギラギラガツガツせんとアカンとも思うんですけど(笑)。ただ本当に僕の単なるワガママを、いつも受け止めてくれていたんで。お寿司の話とかね、なんで僕はあんなことを言ってしまったんだろうって、ずっとずっと後悔してる記憶なんですよ。あんなに優しいおばあにって。
――選ぶのが難しいとは思いますが、善しさんが特に思い入れのあるエピソードはどれですか?
善し 僕としては、やっぱり“ちょっと変なおばあ”の記憶がつづられている前半部ですね。この本のタイトル『ハイハイからバイバイまで』って、確かにハイハイしている小さい頃からっていう意味もあるんですけど、それだけじゃなくて「おばあちゃんとハイハイ」という不思議なエピソードも少し絡んでいるんです。この話は、僕の記憶の中でもSF的なエピソードなんですよ。いつかどこかで解明してほしい。
――これはぜひ読者の方にも読んでいただいて、「?」を共有してもらいたいところですね。でも、思い返せばありました。うちの近所にも「ハイハイ」。
善し 大人たちは一体ここで何をしているのかという疑問と、おばあはなんのためにここに来ているのかという疑問と、あと僕はせっかくおばあの家に遊びにきて好きなテレビも見放題なのに、なんでこんなことに時間使ってんねんという疑問ですね。もう訳が分からない。
――一方で、後半のおばあの話はちょっと切ない。
善し 後半は、僕が大人になってきて「おばあ何してくれてんねん!」ってぶつかり合ったエピソードですね。おばあはずっとおばあだけど、僕はどんどん大人になる。理由もなくイライラして、それをおばあにぶつけて、そんな自分にまたイラ立ってっていう。
――おばあがお亡くなりになったのは……
善し 12年前ですかね。
――では、「あたりまえ体操」で全国的にブレークした姿を見ることはなかったんですね。
善し そうですね。でも、僕としては芸人としての姿よりも、結婚して子どもが生まれた今の家族の姿を見せたいです。結婚したのも、おばあが亡くなったのが大きかったんです。家族を求めるじゃないですけど、そういうタイミングだったと思う。おばあが死んで「あぁちゃんとしな」っていう気持ちはありました。
――「ちゃんとしな」は、おばあに言われていたことですか?
善し ずっとですよ。だって僕、全然ちゃんとしてないんですもん(笑)。だからおばあが死んで、初めて独り立ちしたんだと思います。
――善しさんは、これからどんな芸人さんを目指されますか?
善し ずっと同じことをする。ブレずにいたいです。ネタを作って、時々テレビに出させてもらって、そのペースを崩さずに。おばあといる時間が長かったので、会場におじいちゃんおばちゃんがいると、どうしても気になっちゃうんですよ。この人たち、ちゃんと楽しめてるのかなって。だからご老人でも理解できる、楽しめるネタをっていうのは、いつもどっか頭にありますね。

――インドネシアでのブレークも、まさにそうですね。ユニバーサルな面白さ。
善し よく分からないことを自信ありげにやるというのは、僕の中ではあまりない。やっぱり、分かりやすく皆さんに伝えたいと思っています。あたりまえ体操のブレークも、皆さんに知ってもらえたのが、たまたまあれやったんだという感じなんです。これがもっと僕も若くてあのネタでブレークしていたらしんどいでしょうけど、自分らの中では「これで、そんなになんの?」というのが正直なところです。
――世間って、分からないものですね(笑)。
善し それやったら、もっと早くやっとけばよかった(笑)。なので、あたりまえ体操が売れても廃れても、特にどうとは思いません。「あぁ、そこに引っかかってくれたんか」って。出版物もそうですよね。自分の本が店に並んだら本当に感動しますし、おばあの話が本屋に置いてんのやって客観的な目で見たりもするんですけど、でも大ベストセラーになってくれとは、あまり思わないかもしれない。ワニブックスさんの前では言えないですけど(笑)。だけど印刷した分は、きっちり誰かの手に届いてほしい。一生かかっても売り歩こうかなと思ってます。だって、もうこの表紙とか、いい紙使いすぎてへんですか?
――そんな謙虚な……ぜひ第二弾もお願いします。
善し いやいや、それはいいです。でも、本当に刷った分はなんとかせんと。本にも書いた芸人になるきっかけもそうですけど、この本も、本当に人生はどこでどういうふうになるか分かりませんね。
――これから何かチャレンジしてみたいことはありますか?
善し 本も出さしてもらったのに、まだですか!?
――そう言わず、何か……。
善し う~ん(しばし無言)……いつか、自分の劇場を持ちたいという夢はずっとあります。本多劇場みたいな。
――演劇もいいですね。善しさんが脚本を書いて。
善し いやいやいや、そういうやましい気持ちはないですよ。ただ大きな劇場を作って、満たされたい。お菓子の家を作りたいっていうのと、大して変わらないのかも。お菓子の家は「食べたい」から作るんじゃないでしょ。ただ劇場、自分の劇場を持ちたいという。
――おばあの家で作っていたプラモデルと同じじゃないですか!!
(文=西澤千央)