
『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)
言論・表現の自由が制限される中国において、中国本土から自国を批判するという行為はまさに命がけである。中国共産党の反感を買えば、逮捕されることもありうる。だが、それを漫画という手法で実践した人物がいる。彼の名は孫向文。彼の2冊目の著作となる『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)が出版された。
昨年出版された『中国のヤバい正体』(同)は中国のタブーについて赤裸々に描かれたコミックとして話題になり、浙江省杭州市在住のいち青年だった孫氏は一躍時の人となった。しかし、同時に彼は恐怖心も募らせることになった。自らも言論弾圧される当事者になってしまったことを、あらためて意識せざるを得なかったからだ。
そんな彼が、出版に合わせて来日しているというので、話を聞くことにした。待ち合わせ場所は、JR秋葉原駅の電気街口。孫氏は、ニット帽とカツラ、マスクにサングラスという怪しげな風体で現れた。外出する際は、いつもこのような変装しているという。ここ東京では、いつでもどこでも中国人に出くわす。そうした人々の中に、共産党のスパイが潜んでいるかもわからないからだ。今回の著書の中では、そんな過剰な警戒心を持たざるを得ない孫氏の苦悩も描かれている。
「まず、中国人の店員がいる中華料理店には絶対に入れませんよ」

外出時は変装が欠かせないという孫向文氏
マスクをしたまま、そう苦笑する孫氏。実は、彼は現在、中国本土と日本とを行き来する生活を送っている。どちらかに拠点を置いてしまえば、いずれ自分の身元がバレてしまう。それを防ぐため、日本国内の協力者とも連携しているのだ。それでも、入出国のたびに「拘束されてしまうのではないか」という恐怖は拭えないという。
実は、筆者が孫氏に会うのは今回が2回目。前回会った時は「真の目標は、日本で萌え漫画家としてデビューすること」だと語っていた孫氏だが、前作のヒットで“中国の真実の告発者”として注目を浴びる中、自身を取り巻く環境や、心境の変化が何かあったのではないか?
「これまで漫画を持ち込んでも対応が冷たかった出版社が、違う編集部とはいえ、一転して親切に接してくれるようになりました。高級レストランで接待してくれることもありましたし……。でも、自分の描きたい作品は変わっていません。そちらは、まだ相手にしてもらえないので、頑張ろうと思っています」
もう一つの変化が、中国批判本を通じて深まった日本人との人脈だ。今回の著書の中で孫氏は、政治的な集会に出かけた際のエピソードを描いている。そこで孫氏は、中国の後進性を嘲笑するような発言者には違和感を覚えながらも、同時に正当な批判には共感を記している。そうした人々とTwitterで交流する機会も増え、フォロワー数は増える一方だ。けれども、不満はあるという。
「フォロワー数が増え、発言がリツイートされることも多くなったんですが、だからといって本が突然売れるわけではないですから……」
さて、日本滞在中の孫氏が漫画を描く傍ら熱中しているのが、プラモデル製作。それも、零戦が一番好きなのだという。取材後、共にプラモデルを扱う店舗をめぐったのだが、孫氏の零戦に対する愛は本物だ。かといって、孫氏が中国人にとっての売国奴的な志向を持っているのではない。
中国でも、大戦中の日本軍兵器のプラモデルは人気のある商品だという。そして、公式には公開されていない映画『永遠の0』も、人気作になっているというのだ。
「あの作品で主人公は“必ず帰ってくる”と約束するでしょう。あのような約束をするという考え方は、中国人にはないものです。だから、そこに多くの人が感動しているんです」
この後も、店舗をめぐりながらのプラモデル談義は1時間あまりにも及んだ。その中で、タミヤをはじめとする日本製プラモデルをリスペクトし続ける孫氏。日本の文化を愛してやまない彼が、自身が本当に描きたい作品を世に出す日は近いだろう。
(取材・文=昼間たかし)