前回の連載で、北朝鮮版少女時代ともいえる「モランボン楽団」について紹介したところ、いくつかのメディアから問い合わせがあった。モランボン楽団については、時折地上波のテレビ番組で一部を紹介しているが、ネットを中心に北朝鮮歌謡(NK-POP)の認知度が徐々に高まっていることを実感している。
なかなか見聞きする機会のないNK-POPだが、YouTubeなどにはたくさんの動画がアップされており、おおよその代表曲を知ることが可能だ。その中でも、「神曲」と誉れ高いナンバーが「攻撃戦だ!」(正確な邦題は「攻撃戦の勢いで」)。まずはリンク先(
https://www.YouTube.com/watch?v=f2EUG11Fo18)の映像を見てほしい。
流し目とドヤ顔で、歌い出しのサビでは拳を握りながら「白頭の稲妻のように攻撃!」と熱唱するのは、ポチョンボ電子楽団のユン・ヘヨン同志。アニソン風のシンプルなメロディーとノリの良さから、新大久保ネイキッドロフトで開催されるNK-POPイベントでも大人気のナンバーである。
また、間奏のギターソロにも注目してほしい。セミアコで見事なライトハンド奏法を披露しているギタリストは、カン・ピョンヒ同志(カン・リョンヒという説もある)。この映像の楽団(ポチョンボ電子楽団)はすでに解散しているが、彼女はその後継楽団であり、前回紹介したモランボン楽団のギタリストでもある。2つの楽団にわたって彼女がギタリストの地位を保っていることからも、その実力の高さがうかがえる。
ギターについて明るくない筆者だが、エレキギターからクラシックギターまで自由自在に操り、派手なギターソロから堅実なバッキングまでこなすカン・ピョンヒ同志は、相当な実力者と見た。というわけで、彼女に敬意を払う意味で「主体のジミ・ヘンドリックス」と勝手に呼んでいる。
ご存じない方のために説明しておくと、「主体(チュチェ)」とは、北朝鮮の政治思想「主体思想」のことであるが、簡単に言ってしまえば、宗教のようなものだ。

さて、そんな魅惑のNK-POPだが、それを超越してスゴイのが日本のカラオケである。通信カラオケを代表するジョイサウンドで「攻撃戦だ!」を検索してみたら、なんと「入曲交渉中」だった(現在は確認できず)。果たして、誰とどのように入曲交渉しているのかは不明だが、北朝鮮の歌までリストアップするイルボン(日本)のカラオケ、恐るべし。
それにしても、拉致問題や核・ミサイル問題で政治的に対立し、なおかつネガティブなイメージが強い北朝鮮が創り出す歌を、「まずは聞いてみよう」「歌ってみてもいいんじゃないか」と受け入れようとする、素晴らしき日本の懐の深さ! 素直に感動しました、ハイ。
(文=高英起)
●こう・よんぎ
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」東京支局長。北朝鮮朝鮮問題を中心にフリー・ジャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオ等でコメンテーターも務める。主な著作『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 』(宝島社)。ブログ「高英起の無慈悲なブログ」<http://choson.blog.jp/>