
『キス我慢選手権 THE MOVIE2』でヒロインに抜擢された上原亜衣。彼女は劇団ひとりを狂わせる魔性の女か、それとも運命の恋人か?
主演俳優のみならず、共演者も脚本家もカメラマンも、そして監督ですら結末を知らずに物語が進むという壮大な実験映画『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』(13)が帰ってきた。『キス我慢選手権』にはこれまで何度も裏切られてきた。テレビ番組『ゴッドタン』(テレビ東京)の人気企画だった『キス我慢選手権』が映画化されると聞いたときは、「テレビだから面白いのに、映画化する意味があるのか」といぶかしんだが、完全に裏切られた。劇団ひとりが24時間をアドリブで演じ通すという驚異のノンストップムービーとして、映画館を爆笑と感動の渦に巻き込んだのだ。そして前作のヒットを受けて登場したのが、『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ』。「さすがに前作以上に面白いものは無理だろう」と予測していたら、またしても見事に裏切られた。劇団ひとりのアドリブも、共演陣やスタッフの対応もさらなる進化を遂げ、前作以上に面白い作品に仕上がっているではないか。
今さら説明するまでもないが、『キス我慢選手権』は深夜番組『ゴッドタン』の企画のひとつであり、お笑い芸人たちがセクシーアイドルたちのキスの誘惑にどれだけ耐えられるかを競い合うシンプルな内容だった。企画を盛り上げるためにドラマ的なシチュエーションを設けたところ、劇団ひとりが人格交替したかのような尋常ならざるアドリブ能力を発揮。美女たちの甘いキスをかわすために次々とキザな台詞(=痩せ我慢)を連発した。ゼロ年代の名作『SRサイタマノラッパー』(09)でヒロインを演じるなど長回しになればなるほど魅力を発揮するみひろが劇団ひとりのアドリブに対応し、伝説級の名場面の数々が生まれた。どれだけキスを我慢できるかという当初のコンセプトから大きく逸脱し、男と女の見栄と本音が激しくせめぎあい、そしてドラマならではの娯楽性とドキュメンタリー的なリアルさを兼ねそろえた奇跡的な映画へと羽ばたいていった。だが、『キス我慢選手権 THE MOVIE2』には劇団ひとりの潜在能力を存分に引き出してみせたミューズ・みひろはもういない。一抹の寂しさ、喪失感が漂う。それでも、劇団ひとりは新しいステージへと単身で挑む。
前作の劇団ひとりは、自分が何者であるかを知らない『ボーン・アイデンティティー』(02)のジェイソン・ボーンを思わせる凄腕のスナイパー役だった。アドリブで演じるうちに自分の正体に気づき、巨大な組織を相手に戦うというハードボイルドタッチの内容だった。今回はTVシリーズで人気を博していた青春学園ドラマという設定で始まる。メインキャストが一新された『キス我慢選手権 THE MOVIE2』の共演女優は、2011年にAVデビューして、たちまち売れっ子になった上原亜衣。清純そうなルックスながら、大胆プレイで男性ファンのハートと局部を鷲づかみしている。豊かなバストから母性愛がほとばしる白石茉莉奈、アイドル並みのキュートな容姿を誇る小島みなみも出演。前作のみひろ、葵つかさ、紗倉まなも強力だったが、今回もAV界のトップ女優をきっちりと押さえている。前作越えを狙う、スタッフの本気度が感じられるキャスティングだ。

保健室にほんわかしたフェロモンを充満させる白石先生(白石茉莉奈)。物語の序盤は明るくエッチな学園コメディーとして展開する。
例によって撮影内容をまったく知らされずに現場に放り込まれた劇団ひとりこと川島省吾は、学生服を着ての登場。学園ものは劇団ひとりの得意ジャンルだ。学校中の生徒たちみんなが、省吾に声を掛けてくる。どうやら省吾は勉強もでき、スポーツも万能な学園きっての人気者らしい。「先輩、遊びに連れてって」「省吾、今度の試合もよろしくな」と次々と声を掛けてくる共演者たちに、爽やかな笑顔で応える省吾。本当に脚本を渡されていないことが信じられないほど、映画の世界に溶け込んでみせる。そんな省吾に甘い罠を仕掛けるのは白衣の下に柔肌がチラつく保健室の白石先生(白石茉莉奈)と高校生らしからぬセクシーな衣装で誘惑するみなみ先輩(小島みなみ)。この序盤のピンチを劇団ひとりは童貞キャラで乗り切る。童貞らしい、どうでもいい理屈を並べたてて、キスの間合いをギリギリ寸止めで逃げ切る劇団ひとり。海外ドラマに出てきそうなノー天気な人気者キャラから、一転してモジモジした童貞キャラにスイッチング。まさに劇団ひとりの独壇場である。
今回の劇団ひとりはアドリブに追われるだけでなく、劇団ひとり抜きでリハーサルを重ねている共演陣に逆襲を仕掛けるのも大きな見どころ。『ゴッドタン』のもうひとつの人気企画『芸人マジ歌選手権』でおなじみのマキタスポーツを相手に、劇団ひとりはアドリブ勝負を挑む。物語の中盤、廃工場に集まった省吾たちは景気づけのために思い出の歌を歌い出す。ところがこの歌は劇団ひとりがその場でとっさに考えた即興の歌。「えっ!?」と戸惑いの表情を浮かべながらマキタは必死で食らいついていく。一発撮りならではの緊張感が生み出す爆笑シーンだ。そして今回、劇団ひとりが暴走しすぎて物語から脱線しないようにナビゲートする役割を担っているのは同級生役の安井順平。お笑い好きな方なら覚えているだろう。まだ若手芸人だった劇団ひとりが「スープレックス」という名でコンビをやっていた頃、「アクシャン」としてコントをやっていたのが彼だ。スープレックスやアクシャンはよくお笑いライブで名前を連ねていた。安井は2007年以降、劇団イキウメの一員として舞台を中心に活動している。2人は何年ぶりの邂逅だろうか。映画の本番中にいきなり旧友と再会し、驚きながらも安井のリードに従って物語の流れに乗っていく省吾。パラレルワールドで懐かしい友達が別人になって現われたような、そんな不思議な感慨がドラマの中に広がっていく。
本作の最大のハイライトは、ヒロインである上原亜衣と省吾とが2人っきりで過ごす夕暮れのプールサイドでのシーンだ。『キャリー』(13)のクロエ・グレース・モレッツばりの特殊能力を持っているため、亜衣は幼い頃からずっと心を閉ざして生きてきた。陽の当たらない人生を歩んできた亜衣にとって、学園の人気者である省吾は羨ましい存在だった。放課後の誰もいないプールサイドで、亜衣はプールの水面を見つめながら「心から笑ったことが一度もない」とこぼす。亜衣の心情に感応したかのように小雨が降り始めた。雨に濡れながら自分の少年時代を振り返る省吾。子どもの頃はいじめられっ子で、それが嫌で必死で勉強やスポーツに励み、人気者になったのだと。生まれつきの人気者ではなく、人気者であることを懸命に演じているだけなのだと。

平和な学園があっという間にディストピアに。あのセクシーだったみなみ先輩(小島みなみ)はゲリラ兵に身を投じていた。一体何が起きた?
「みんなヘラヘラ笑っていると思っていたら、お門違いだぜ。みんな無理してでも笑っているのさ。でも、無理して笑っているうちに、本当におかしくなってくるんだよ」
そんな名台詞が省吾の口から即興でこぼれ落ちていく。省吾の言葉に促され、笑ってみせる亜衣。でも、まだ表情がぎこちない。すぐさま、「固いな」とツッコミを入れる省吾。思わず、亜衣ははにかんだ笑顔を浮かべる。この瞬間、スクリーンを観ていた観客は誰もがこのヒロインに恋をしてしまう。いつの間にか雨も止み、プールサイドに夜の帳が降りてきた。でも、亜衣の心には小さな明るい灯りが確かにともされていた。
物語はこの後、SFアクションムービーとして怒濤の展開を見せていく。『悪の教典』(12)でサイコパス教師を怪演した伊藤英明、謎のシステムを管理する研究員たち(入江雅人、戸次重幸)らが絡み、時空を越えたスケールの大きな物語へと転じる。予測不能な状況を懸命にクリアしていく省吾。プールサイドで将来の夢を語り合った後、離ればなれになった亜衣ともう一度逢うために。
「生物は遺伝子によって利用される乗り物に過ぎない」という学説がもてはやされたことがあった。だが、省吾はこの学説を真っ向から否定してみせる。人間の一生を決めるのは遺伝子ではない。アドリブの積み重ねこそが、その人の人生なのだ。さらに言うならば、アドリブとは単なる思い付きや口からのでまかせではない。お笑い芸人として、あらゆるメディアの中で常に鍛え抜いてきた劇団ひとりだからこそ、自在に繰り出すことができる必殺技なのだ。そして演じることに集中している劇団ひとりは、ほぼトランス状態だ。演じるということは、フィクショナリーな行為ではなく、潜在意識下のもうひとつの人生を生きるということでもある。
本気モードになった省吾は、物語のクライマックスで亜衣の名前を全力で叫ぶ。もはや省吾の前では、脚本家が用意した筋書きも、『キス我慢選手権』のルールも役に立たなかった。誰もが予想しなかった驚きのエンディングが訪れる。そして、ラストシーンを見届けた観客はあることに気づく。キャラクターとは物語に支配されている従属物ではないということを。キャラクターこそが物語を動かしているのだということを。言い換えれば、人間は遺伝子やシステムに支配されているのではないということだ。遺伝子やシステムに支配されているという我々の思い込みを、劇団ひとりは熱いキスで解き放ってみせる。世界を根底から変えてしまうような、甘く情熱的なキスがここにある。
(文=長野辰次)
『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ』
監督/佐久間宣行 脚本/森ハヤシ、佐久間宣行 構成/オークラ 音楽/岩崎太整 主題歌/森山直太朗「五線譜を飛行機にして」 出演/川島省吾(劇団ひとり)、おぎやはぎ、バナナマン、福士誠治、中尾明慶、柄本時生、安井順平、上原亜衣、小島みなみ、白石茉莉奈、松丸友紀(テレビ東京アナウンサー)、三四郎、東京03、深水元基、マキタスポーツ、入江雅人、戸次重幸、近藤芳正、伊藤英明 配給/東宝映像事業部 PG12 10月17日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
(c)2014「キス我慢選手権 THE MOVIE2」製作委員会
http://www.god-tongue.com