
PHOTO BY Masayo
【リアルサウンドより】
2014年10月2日、「大森靖子メジャーデビューシングル『きゅるきゅる』発売記念2DAYS!『☆2日間で超楽しい地獄をつくる方法☆』」の初日公演が東京キネマ倶楽部で開催された。
会場に着いてまず驚かされたのが、フロアの前方が女性ファンで埋まっている光景だった。この夏の大森靖子は、メジャー・デビュー・シングル「きゅるきゅる」の2014年9月18日のリリースに向けて、夏フェスでのパフォーマンスで話題を起こしながらも、一方で表現力の高さをしっかりと観客に印象付け、マスメディアにも積極的に露出。結果的に「きゅるきゅる」は、オリコン週間シングルランキングの20位にランクイン、タワーレコード全店総合シングルチャートではなんと4位を記録した。1年前に想像もできなかった状況だ。前述した女性ファンの多さも、そうした活動の成果なのだろう。
加地等の歌が会場に流され、ステージにはピンクの装飾が吊られている。そして異様な存在感を放つのが、性器をモチーフにした巨大なハートマーク。上部には「処女膜再生」と書かれていた。
10月2日の初日公演は、大森靖子の弾き語りと大森靖子バンド編成によるステージだとアナウンスされていた。バンドのメンバーは、直枝政広(カーネーション)、畠山健嗣(H Mountains)、tatsu、奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)、久下恵生。直枝政広がプロデュースした2013年のアルバム『絶対少女』のリリース後にツアーをした、いわゆる「絶対少女バンド」だ。
開演と同時に、直枝政広のうなるようなエレキ・ギターに導かれてフリーフォームなセッションが始まり、そこから「きゅるきゅる」へ。リボンをした新衣装の大森靖子は、ステージに現れるなりiPhoneでファンを撮影したり、自撮りをしたりする。続く「少女3号」は『絶対少女』の収録曲。大森靖子もアコースティック・ギターを抱えて歌い、メジャー・デビュー以前と現在がひとつのバンドのグルーヴで接続された。そしてファンに拍手する間も与えずに「新宿」へ。大森靖子はモニタースピーカーに足をかけ、スカートをめくり上げて太もももあらわにしながら歌う。床に寝転がったかと思うと、一段高いステージへ上り、吊るされているくす玉の紐を引く。すると落ちてきたのは「私は悪くない」と書かれた垂れ幕だった。
そして『絶対少女』というアルバムを象徴する楽曲である「絶対彼女」へ。2013年の大森靖子は、少女たちを肯定するため『絶対少女』というアルバムを制作した。そして2014年の大森靖子は、他者に否定されるリスクを背負ってでも世間へ出て行こうとしているのだ。振り付けが加えられ、現在の大森靖子のものとしてアップデートされている。ステージに立つそんな大森靖子の姿に静かに感動した。
「エンドレスダンス」では、バンドの繊細なプレイや直枝政広のコーラスを聴かせ、一旦バンドは退場。シームレスに大森靖子の弾き語りへ進行していった。

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弾き語りに関しては、関係者に配布されたセットリストにも一切曲名の記載がなかった。大森靖子がその場で決めているのだろう。彼女は会場の波長を正確に読み取り、完全に会場の空気を自分のものとしてコントロールしていた。
最初に弾き語りで何を歌うのだろう? そう思っていると「ここは君の本現場です」と歌い出した。いきなり未CD化の「ノスタルジックJ-POP」だ。そして弾き語りが続き、「PINK」での絶叫の後、アコースティック・ギターの弦の響きも鳴り止まないうちに、大森靖子はiPhoneを手にした。自撮りだろうか? いや、それは突然の文章の朗読であった。ここまでの過程を大森靖子ならではの言葉で語った後に、メジャー・デビュー・アルバム『洗脳(※正式なタイトルは未定)』の2014年12月3日発売が告げられた。
弾き語りパートで特に印象的だったのは、『絶対少女』収録曲である「ミッドナイト清純異性交遊」だった。通常はオケで歌われることが多いし、今日の絶対少女バンドで歌うにもふさわしいはずの楽曲だ。しかし、それをあえて大森靖子は弾き語りで歌い、彼女の中でも特にキャッチーとされる「ミッドナイト清純異性交遊」からメランコリックな面を引き出して見せた。かと思うと、曲中でまた突然の告知だ。2015年4月26日に中野サンプラザでワンマンライヴをするという。「ネタバレしないようにすげーがんばってました」とのこと。そんな流れも含めて、今夜の「ミッドナイト清純異性交遊」は大森靖子の真骨頂を感じさせるものだった。
バンドが再登場したパートでは、本編最後の「音楽を捨てよ、そして音楽へ」に圧倒された。大森靖子が囁くように「音楽は魔法ではない」と繰り返しながら始まり、演奏はジャジーなアレンジに。そしてファンにも「音楽は魔法ではない」と合唱させながら、大森靖子はフロアの柵の上に立ち、ファンの頭を撫でながら、そのまま柵の上で絶唱する。そして柵から崩れ落ちてファンにリフトされ、今度は柵の上に座りながら、バンドのメンバー紹介をした。ほとんど聴き取れないような絶叫で。そして楽曲の終わりとともに、大森靖子はステージの床に倒れた。
アンコールは、一段高いステージでの大森靖子によるキーボードの弾き語りとともに始まった。最初に歌われた「The End of Summer」は、カーネーションのトリビュート・アルバム『なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?』で大森靖子がカヴァーしていた楽曲だ。バンドもまた登場し、3曲を演奏。ときにノイジーな音も鳴らされる激しい演奏とファンの合唱による「あたし天使の勘忍袋」で幕を閉じた。
2回目のアンコールは、大森靖子がぬいぐるみのナナちゃん(ヤリマンバンギャという設定)とともに登場。インディーズ時代から撮影を担当してきたスタッフの二宮ユーキにマイクを渡して、突然会場にいる交際中の女性にプロポーズをさせる展開となった(終演後に確認したところ無事OKをもらえたとのこと!)。さらに「お茶碗」では、歌詞を忘れたからと二宮ユーキにも歌わせて、結果的にふたりでデュエットすることに。大森靖子は「内輪ノリと言われる」と笑っていたが、晴れの大舞台でこういう気負いのない一面を見せてしまう姿もまた大森靖子が大森靖子たる所以なのだ。最後の最後となった「さようなら」は、モニタースピーカーに座りながらアカペラで歌った。しかも、ファンのひとりひとりと目を合わせながら歌うのだ。そこには、会場が大きくなろうと聴き手と一対一の関係であろうとする大森靖子の姿勢が如実に表れていた。
これからも大森靖子という「個」によるメインシーンへの挑戦は続くはずだ。いや、むしろこれからが正念場だろう。
10月3日の公演2日目は、バンドが変わり大森靖子&THEピンクトカレフが登場する。もし当日券がアナウンスされ、まだあなたが大森靖子を見ようかどうか迷っているのなら、必ず見たほうがいい。大森靖子は、あなたの予想を裏切るステージを平然と見せてくれるはずなのだから。
■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。
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■リリース情報
2014年12月3日(水)発売
NEW ALBUM 「洗脳(※タイトル正式表記未定)」
[CD ONLY]AVCD-93074 ¥2,800(本体価格)+税
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