きのこ帝国『ロンググッドバイ』(UK.PROJECT)
【リアルサウンドより】
レコード会社やレーベルに頼らずとも、ライブでの活動はもちろん、ネットなどをうまく使えば多くの人に自分の音楽を聴いてもらえる現代。情報も流行も音楽も与えられるものではなく、リスナーが選ぶ時代となっていて、その取捨選択の自由度はバンドの音楽性の多様化にも繋がっている。
特にインディーズ・シーンにおいては、ヒットチャートを席巻するようなポピュラティーを追求するのではなく、オリジナリティーを突出させたバンドも多い。そのどちらが正解でもないが、「何が出てくるか解らない」期待感は、インディーズ・バンドの魅力の一つだ。現在のシーンを引っかき回してくれそうな独創性があり、かつ実力派のバンドたちに注目してみたい。
きのこ帝国
耳の早いギターロック好きに注目されてきたバンド。シューゲイザーやポスト・ロックの流れを汲んだオルタナティブ・ロック。淡々としながらも、どこか神々しさを感じる佐藤のボーカルと、狂気さえ漂うギターが鮮烈。轟音や爆音という言葉だけでは形容できないサウンドは、ふと聴き入ってしまうもので、時にハッとさせられる。実に不思議なバンドだ。
空きっ腹に酒
今のシーンにおいて、変わったバンド名は珍しいわけでもなく、逆に突っ込んだら負けだとさえ思うのだが、その音楽を聞けば「狙っているわけじゃないのかも」と考えてしまう。楽曲ごとに印象が異なり、つかみどころのなく、バンドを表すのに適した言葉が見つからない。強いていうならばヒップ・ホップ調のボーカルと、心地良いカッティングギター、やけにグルーヴィーなリズム隊にただならぬモノを感じるわけだが、90年代のミクスチャーでもゼロ年代のオルタナティブ・ロックでもない。「空きっ腹に酒」というバンド特有の音楽性を持っており、その名称と同じようにとても“変わっている”のだ。
バックドロップシンデレラ
VIDEO バックドロップシンデレラ「台湾フォーチュン」
一聴してキワモノバンド?と思いきや、聴けば聴くほどパンクやハードコア、メタルをミックスして昇華し、オリジナルのものにしていることがわかる。自らの音楽性を「“ウンザウンザ”と呼ばれる祝祭感溢れる東ヨーロッパ民族的リズム」と、多くの人が首を傾げそうな言葉で説明しているが、何故か「ああ、東欧民謡ね」と妙に納得させられてしまう。得体の知れない中毒性とともに、気が付くと深みにハマっているタイプ。
ビレッジマンズストア
ガレージロック、R&B、ブルース、パンクに歌謡曲的なユーモアを融合した名古屋発の5人組。ソウルフル剥出しなボーカルとキレッキレの演奏が男臭いロック。パフォーマンス、キャラ立ち含めて申し分ない“熱苦しさ”が特徴のバンドだ。
八十八ヶ所巡礼
奇妙なバンド名、形容し難い音楽性、インパクトのあるビジュアル、そして何よりも圧倒的な演奏力で不気味な存在感を放っているバンド。目立ったメディア露出もなく、クチコミとライブ活動のみでカルト的な人気を誇り、聴く者を恍惚状態に誘う魅力がある。
感覚ピエロ
2013年7月に大阪で結成、活動開始とともに自主レーベルを立ち上げ、完全セルフプロデュースでじわじわと注目を浴びている新進気鋭のバンド。結成から約1年とは思えない演奏力と風格。奇を衒ったものからダンサブルなものまで悠々とこなしてしまう余裕にセンスの高さを感じる。
VIDEO 感覚ピエロ「Japanese - Pop - Music」
「Japanese-Pop-Music」はスタイリッシュにまとめ上げられたポップミュージックという印象の楽曲だが、歌詞の内容は商業音楽を赤裸々に嘲笑う風刺。近年、こうした皮肉めいたことを歌うアーティストも少なくなり、場合によっては“イタさ”を感じることもあるが、それをポップミュージックに落とし込んでいる手腕は痛快だ。そしてこれほどまでにクオリティの高い楽曲とMVを制作しながらも、音源の配信はもちろん、流通すらしていない。音源の販売はライブ会場かオフィシャルサイトの通販のみという強気な姿勢に、インディーズからメジャーへの宣戦布告が読み取れる。
winnie
VIDEO winnie「crash and burn」
ioriの持つVギターのポルカドット柄がバンドのシンボルになっている、男女ツインボーカルの4人組。エモーショナルロックに分類される音楽ではあるが、疾走感ある楽曲ながらも譜割を大きめにとる優美なメロディーが印象的。時折見せるメタルなギターがサウンドに拡がりをもたらし、綿密なアンサンブルの要となっている。そして何よりもウィスパー気味の男女ボーカルの混ざり合いに淡い美しさが漂う。パンキッシュな攻撃性と、包み込むようなポップさを併せ持つ、独自のバランス感覚を持った実力派。
アンドロメルト
VIDEO アンドロメルト「レスキューインフェルノ」
インディーズながら、送ったデモをきっかけに「佐久間正英プロデュース」となり、予想外の広がりを見せているバンド。(参考記事:
注目のインディーズバンド・アンドロメルトが語る、佐久間正英の「素材ありき」プロデュース術 )。野太くも儚い青木凛の歌声と、爆音とエフェクトを巧みに使い分けるギター、駆け巡る電子音が融合。女性オルタナロックの“居そうで居なかった感”は、王道とも進化系とも捉えられそうだ。
puff noide
一度聴いたら忘れられなくなる、榎園稔三の感情を叩きつけるような歌が印象的。真っすぐな歌詞とストレートなバンドサウンドに心を揺さぶられる。言葉で説明するよりも、ただ音と、その叫びを感じて欲しいバンドである。
ストロベリーソングオーケストラ
VIDEO ストロベリーソングオーケストラ「臓物にジグソウ」
通称「苺楽團」と呼ばれる彼らは、バンドと劇団を融合させたパフォーマンス集団。寺山修司、江戸川乱歩や夢野久作といった怪奇・奇譚ミステリーの世界を体現し、白塗り・昭和アングラな徹底したコンセプトと、高い演奏力で観客を魅了する。座長であり、怨歌担当(ボーカル)の鬼才・宮悪戦車(ミヤアク センシャ)に、ジャズ・シンガーの顔を持つ月影美歌(ツキカゲミカ)と異鏡朱音(イキョウアカネ)という二人の歌姫が脇を固める。メタルギターとピアノの旋律、演劇を交えたライブパフォーマンスはまさに、“世にも奇妙な見世物小屋”といったところである。
Liquid
VIDEO Liquid「Indigo Harbor」Digest Movie
ギター、ウッドベース、ドラムの3人組。編成を見れば、ルーツ・ミュージックを彷彿とさせるが、彼らが奏でるのは「古着屋でかかるような音楽」。ブルースでもあり、70年代のクラシック・ロックでもあり、固定的なジャンルというよりも雰囲気重視のセッションを織り交ぜたライブスタイルを重視している。結成は2003年、他アーティストサポートなどの個人活動も盛んに行なっており、そのキャリアとスキルに裏付けされた演奏力は本物。「ロック好きな男たちが自由気ままにやりたい音楽をやっている」バンドだ。
AJYSYTZ(アイシッツ)
VIDEO Ajysytz「I know you, you know me.」
音楽レーベルの在り方を問いただすような独自の美学で注目を浴びるKilk Recordsから。和製ビョークの異名を持つ、五阿弥瑠奈率いる5人組バンド。実力と技術に裏付けされた変幻自在な歌声と、生楽器と電子音の混ざったサウンドが、幻想的なノスタルジアを感じさせる。「日本人離れしたサウンド」と安易な言葉では片づけられない世界がそこにはある。英詞と日本語詞のコントラストも美しい。
ここにあげたバンドたちは言わば普遍的な「ポピュラリティー」とは少し離れたところにある音楽であり、クラシック音楽のような守るべき様式美があるわけでもない。しかし、その自由な音楽性の中には、ロックやポップスを進化させる可能性があるのかもしれない。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。
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