
左、CHEEBOW氏。右、濱野智史氏。
【リアルサウンドより】
TwitterやUstreamなどを使った企画講座などを行っている「ツブヤ大学」のイベントとして『濱野智史&CHEEBOW、楽曲ミーティングなう! #PIP』が、8月8日に渋谷「The SAD cafe STUDIO」にて開催された。
同イベントは、気鋭の批評家/情報環境研究者でありながら、重度のアイドルヲタクとしても知られる濱野智史氏が、自身がプロデュースするアイドルグループプロジェクト「PIP(Platonics Idol Platform)」のオリジナル曲作成を、週末音楽家のCHEEBOW氏に依頼、そのミーティングの模様を公開するというもの。
本業はiPhoneなどiOS系のアプリ開発者で、じつは音楽的なバックボーンがほとんどゼロにも関わらず、「愛乙女★DOLL」などの人気曲を手がけてきたCHEEBOW氏は、どのようにしてアイドル楽曲を制作しているのか。そしてPIPの初オリジナル曲はどのような仕上がりを目指すのか。
コンセプト設計やサウンドの調整、作詞の方法論まで、アイドル楽曲制作ならではのプロセスについて語り合うとともに、PIP楽曲の方向性を探った。
CHEEBOW「ライブアイドルの楽曲は、必ずしも多くの人の共感を得る必要はない」
濱野:作曲のオファーを受けた際、まずどういうことを考えますか?
C:始めはやっぱり「どんな曲にするか」を考えるんですけど、その時に「そのアイドルに今どんな曲が求められているのか」「どんな曲を歌ったら新しいファンを呼び込めるのか」ということを意識して、そこから「ファンの人達が何を欲しているのか」というところまで掘り下げて考えます。実際に制作に入ると、曲を作って、歌詞を書いて、アレンジを考えて、ミックスして、マスタリングするという流れになります。今はネットで配信するので、ネット用マスタリングなんて工程もあります。僕はこのマスタリングという工程があまり得意ではないので、外注に出したりしていますね。濱野さんがプロデュースするアイドルの場合は、ライブ活動が主軸ですから、ライブでより盛り上がるチューニングをしなければいけません。だから、曲を作った後もできるだけライブに足を運んでいます。
濱野:だからCHEEBOWさんはよくライブ会場で見かけるんですね。らぶ☆けんの現場とかで「よく来てるなー」って思っていました。
C:会場に行って、ファンの盛り上がりや音を確認するんです。そうすると「ここはもう少し間奏を長めに取った方が良いな」といったことがわかります。
濱野:なるほど。では、具体的なアイドルソングの作り方についても教えてください。
C:例えば、5人組の女性アイドルグループで、メンバーはほぼ高校生だったとします。それで「夏の終わり頃に披露したい」というオファーが6月くらいに来たとしますね。夏の楽しさと、終わってしまう寂しさが両方欲しい、みたいな内容で。そこでまず「彼女たちにとっての『夏』って何だ?」と考えるのですが、そのキーワードは一般的に出てくる「夏休み」「プール」「天体観測」とかではないんですね。彼女たちにとっての夏をリアルに考えると、アイドルフェスであり、ライブであり、握手会などのイベントだと思うんです。なので基本的に僕はここを原点としてライブアイドルの曲を考えることが多いです。彼女たちの夏の寂しさって、ライブの日々が終わってしまう寂しさとか、来年もこんな風にいられるかわからない寂しさとか、そういうことも含んでいると思うので。
濱野:すごい! 俺が今、書いてる歌詞と全く同じ発想です(笑)。たぶん、今のアイデアをそのまま使うことになるんじゃないかな。
C:なぜこういう風に考えるのかというと、ライブアイドルに限って言えば、曲が共有されるのはアイドルとファンの間だけで、普通にテレビを見たり、CD屋でCDを買ってくれるリスナーが聴くわけではない。だから、必ずしも多くの人の共感を得る必要もないんですね。アイドルが多くの人に「見つかる」手前までは、僕はこの手法は大いにアリだと思っています。そういうわけでコンセプトは決定です。「夏のライブでのファンとの思い出」「野外ライブでファンのサイリウムがきれいだった」といった感じですね。それに「でも来年もここにいられるのかな」みたいな寂しさも込めると。アイドルの子たちはみんな「夏の夕暮れのサイリウムは本当に綺麗で嬉しい」って言ってますからね。
濱野「ライブアイドルの歌詞に複雑な言葉は入らない」

当日はPIPのメンバーによるパフォーマンスも行われた。
濱野:CHEEBOWさんは実際、ヲタ並みにアイドルの子たちとコミュニケーションして、彼女たちの心情に寄り添っていますよね。
C:ちょっと気持ち悪いかもしれませんが、あの子達のブログやツイッターもチェックしています。それは曲を作った後ですね。また次に作る可能性があるので、読んでないとわからないんですよ。ライブも観に行きますし、そのときにフィードバックを得ます。それから今回は多分やりませんけど、メンバー全員にアンケートをしたりもします。具体的には、好きなものを3つに絞って挙げてもらったりしていますね。それと、一番重要なのは「嫌いな言葉」で、それはなるべく使わないであげるか、それをプラスにするような歌詞にするようにしています。「嬉しかったこと」「悔しかったこと」などの質問は、そのまま歌詞に入れやすいですね。
濱野:なるほど。ただ、ライブアイドルってやっぱり歌下手じゃないですか。踊りながら歌ってるからどうしたってマイクずれちゃったりもするし。だからすごく複雑な言葉は入らないですよね?
C:踊りの難易度が年々上がってるし、それで歌うのはなかなか難しいと思うので、歌詞は複雑にならないようにしますね。その分、それまでの彼女たちが発表している音源をたくさん聴いて、今までにやっていない種類の音がないかとか、「ここはもっと突っ込んだ方がいいんじゃないか」みたいなところを音楽的に考えて、色を出します。例えば、ロックっぽい曲が多いなら、シンセが多めのテクノポップ的なアプローチをしてみたり。でも、基本的にファンは今までの曲が好きなんですね。同じような曲ばかりだと、やっぱり飽きるので「新しい曲が欲しい」とは言うんだけど、変わってほしくない気持ちもある。そこをどうやって変えていくかっていうと「予想を裏切って、期待を裏切らない」ということが大事なんじゃないかと。元のイメージをなるべく崩さないようにしながら、ファンの人達が知らなかった彼女たちの表情を見せてあげたいと思っています。
濱野:すごいですね。CHEEBOWさん、自分でアイドルグループを作ったほうがいいんじゃないですか?
C:僕は運営ができないんですよ。「次にこんな曲が来るだろう」っていう予定調和はなるべく断ち切りたいタイプなので、かわいい曲が2曲続いたらすごくセクシーな曲を入れてみたり、「次は違うことやるだろうな」って思われている感じなら、あえてまたかわいい曲にしたりします。ファンの思った通りにはやらないので、運営はダメでしょうね(笑)。ただ、僕の曲は先ほど言ったようなスタンスで作っているので、その時はイマイチな反応でも、1年くらい経ってから再評価されたりすることがよくあります。
CHEEBOW「アイドル自身のことを書いているのに、一般的な物語として受け止められる感じを目指す」

8月8日は濱野氏の誕生日でもあった。
濱野:CHEEBOWさんが作った、愛乙女★DOLLの「キミはストーム」という曲は、わりとゆっくりした曲で最初は人気がなかったですね。
C:そうなんです。テンポが遅いからか、ライブのセットリストにもあんまり入らなかったけど、あるときにメンバーの都築かなという子がブログで「『キミはストーム』は実はすごくエモいんだ」というようなことを書いたんです。そうしたらいきなり人気が出て、わりとよくセットリストに入るようになりました。ファンの人達も「けっこう好き」と言ってくれています。
濱野:では、実際にPIPの曲はどんな感じになるのでしょうか?
C:Aメロでは楽しかった夏のエピソード、Bメロはその中での寂しさを匂わせて、サビで楽しかった夏を振り返って盛り上がる。サビとは違うメロディDメロ(Cメロとも言います)では、来年のことを思って少し悲しい感じにして、これをメロディとアレンジで表現していこうと思います。この時点ではまだ歌詞はないです。作詞は今回、濱野さんにしていただきます。歌詞がないので当然メロディもふわっとしたもので、雰囲気程度です。そこに言葉を入れていくんですけど、具体的過ぎるのも何なので、一般化させつつ薄めたりもします。アイドル自身のことを書いているのに、一般的な物語として受け止められる感じですね。実際、48グループの講演曲には、ズバリ日にちが入っていたりとか、具体的な言葉が多いじゃないですか。あれは48グループの講演はお客さんとメンバーが密接だからでしょうね。ただ、シングルカットされる曲はもっと遠いところまで飛ばさなきゃいけないから、具体的な言葉は使っていません。濱野さんはどっち側を狙いますか?
濱野:僕自身、AKB48にハマった理由の一つは歌詞です。まさにアイドルのことも歌っているしファンのことも歌っているし、辞めたメンバーのことも歌っている。かつ一般的な詞として聴ける。その方がいろいろな人の琴線に引っかかりますよね。たしかに彼女たちのことをそのまま、というよりはもう少し一般的な形にしたいです。
CHEEBOW「発注する側がノッてなかったら、制作側もノれない」

誕生日ケーキを囲み、来場者が写真撮影をする一幕も。
C:すると、彼女たち自身を表現しつつ、言葉を柔らかくしていく、ということが僕らの作詞のコンセプトになりますね。では、実際に曲を聴いていただきたいと思います。
(会場に曲が流れる)
濱野:このエモさというか、サビのメロディを聴いて、もう歌詞が浮かぶ自信があります(笑)。
C:全部打ち込みで作ったものなので、これにギターなり色々な音が入ってくると思います。
濱野:はい、もうこれでOKです(笑)。音楽詳しいわけじゃないから、「メロディのここ直してください」とか言うことはないので。俺、まだ何もやってないのに、何で嬉しく思うんだろう? 素晴らしいです。ありがとうございます。
C:こういう感じで、1コーラス作って、OKが出たらアレンジして、という感じですね。今回はノッてて全部できちゃいましたけど。
濱野:作曲を頼むこと自体が初めてでしたけど、ノリノリで喋って、1週間後にノリノリの良い曲が返ってくるって楽しすぎますね。
C:それはありますね。発注する側がノッてなかったら、制作側もノれないというか。「何でもいいから曲くれ」と言われるとすごく困ります。でも今回は濱野さんがしっかりイメージを持っていらっしゃったので、楽しく作れました。
(構成=編集部)
ツブヤ大学公式サイト
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