
撮影=梅木麗子
『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』や『踊る!さんま御殿!!』など数多くの人気バラエティに企画段階から携わり、現在視聴率で独走する日本テレビの屋台骨を長らく支え続けてきた“ガースー”こと菅賢治プロデューサー。会社からの慰留を断り、今年フリーとして活動を始めた彼が最初に手掛けた仕事は、テレビマンとしての知恵や経験を余すことなく詰め込んだ異色のビジネス書『笑う仕事術』(ワニブックスPLUS新書)だった。フリーになったことで見えてくるテレビの、バラエティの現状は? 来るべき未来の姿は? テレビを愛するがゆえのビターな提言も含めて、たっぷり話を伺った。
――菅さんの『笑う仕事術』を含め、今テレビマンの書く仕事術や企画論が人気を集めています。
菅賢治氏(以下、菅) 僕、それが不思議なんですよ。テレビなんか誰も見ないと言われている中で、今テレビ屋に何か聞いて役に立つのかなって思うんですよ。僕らがやっていることが世の中の役に立つとはこれっぽっちも思ってないですけど、テレビマンとして30年以上やっていたことが何かのヒントになるんだったら、という感じですね。“テレビって、いい加減に作っているんだろう”って思われているところを、ネタばらししちゃいけないんですけど。
――本当は真剣に真面目に作っているっていうことを。
菅 そう。テキトーにヘラヘラやってて楽しそうでいいよな、でいいんですよ。テレビは。だって、苦労が見えるとうんざりするじゃないですか。
――2014年の上半期は、ゴールデン(午後7~10時)、プライム(午後7~11時)、全日帯(午前6~翌午前0時)のすべてで全局視聴率1位になるなど、日本テレビは安定して強いですね。
菅 日本テレビには6~7人のド天才がいるんですよ、今ね。これだけの人間がそろってるって、すごいなって思いますよ。僕らが初めてフジテレビさんから四冠を奪取したときに、『エンタの神様』をやった五味一男がいて、『世界まる見え!テレビ特捜部』をやった吉川圭三がいて、『進め!電波少年』の土屋敏男がいて、『伊東家の食卓』の雨宮秀彦がいて、そういう連中がこれだけ集まるってすごいよね、とはよく周りから言われていました。だけど、今はもっとすごい。ぶっちぎりなのも、当たり前じゃないですか? だけどね、テレビって商店街だから。
――商店街、ですか?
菅 そう。だから一つの局がぶっちぎりになっても、ダメなんですよ。いろんなお店があるから、テレビという商店街にみなさん足を運ぶんです。
――日本テレビが突出した理由は、どういうところにあると思われますか?
菅 まず、オリジナリティじゃないですか? ほかの真似ではないということ。『ガキ(の使いやあらへんで)』なんか、ホント真似しようがない。僕が企画書を書いた『踊る!さんま御殿!!』にしたって、司会者一人にゲスト12人という形態なんて、それまでどこにもなかった。ゴールデン番組でトークしかやらないっていうのもなかったですしね。
――当時、東京ではほとんど知られていなかったダウンタウンで企画を立てるなど、菅さんの考えるオリジナリティの源流には直感や勘があるのだと思うのですが。
菅 そんなものはないですよ。僕はすごい人のそばにいたい、それを生で見たい。ダウンタウンに関しては、ツッチー(土屋敏男)が二人の漫才のVHSを貸してくれたのが始まり。衝撃を受けました。なんじゃこの人たちは……と。それでツッチーと二人でダウンタウンに会いに行って、そこからです。二人の漫才を生で見るための番組を作ろうと生まれたのが『ガキ』でした。

――菅さんは、もともとミュージシャンを目指されていたと本の中でも触れられていますが、自分の中で方向転換はすんなりいったと思いますか?
菅 全然ですよ。テレビは、いつ辞めてやろうかと思っていました。大学も放送学科でしたけど、プロの仕事を教わるものでもないから、いつも失敗して怒られてばかり。ワイドショー番組のD卓に座っているときにも、急に大きな事件が飛び込んできて、台本が一切チャラになってしまったのに、ディレクターである僕が何も指示ができなかったことがありました。でも、その時番組を担当していた加藤光夫プロデューサーの一言でしょうね、今までやってこられたのは。青ざめながら謝る僕に、加藤さんは「生放送のテレビ面白いだろ?」って言ったんですよ。あぁこんな人がいる世界だったら、俺はここで一生生きてやろうと思った。心のどこかでずっと加藤さんに褒められたいっていう、それだけでした。いつもけちょんけちょんだから、たまに「あれ面白かった」って言われると、すっごいうれしかった。僕やヘイポー(齋藤敏豪プロデューサー)は、特にくそみそに言われてましたからね。
――でも、その時は怒られなかったんですね。
菅 普通だったら「バカヤロウ! 辞めちまえ!」ですよ。そう言われて当然くらいのことをしてしまいましたし。あの時は、僕の器ではどうにもならなかった。台本がすべて白紙になるって、経験したことありませんでしたから。だけど、あれで度胸がついたのかもしれない。台本なんて、しょせんいらないものなんだって。それから何年も、僕とヘイポーで生放送やりました。大事件が飛び込んでくるたびに、台本は白紙になる。それをむしろ楽しめるくらいになりましたよ。
――「楽しむ」ということに関していえば、本の中の「仕事は遊びだ」という考え方もまた衝撃的でした。「仕事と遊びを混同するな」と教えられて育ってきた世代にとっては。
菅 真面目にふざけることだと思うんですよ。たとえばこういうインタビューでも、ごく普通の日常を書いても誰も喜ばないですよね。非日常とか、現実離れしてることがあるから面白いわけで。そう考えると、それはもう遊び。仕事という概念の捉え方なのかもしれない。仕事だからイヤなこともガマンしなきゃいけない、真面目にやらなきゃいけない。でも、僕に言わせたらそれは仕事じゃない。遊びだからみんなではしゃごうよ。僕らは正しく「はしゃぐもの」を作るわけですから。それをしかめっつらしながら作ったって仕方ないでしょ。だから、会議はだいたい爆笑ですよ。みんなで、できっこないことを真剣に話し合う。
――会議も長い時間はやらないと。
菅 ヘイポーが1時間もたないから(笑)。ヘイポーとは30年以上の付き合いですけど、本当に一貫してるんです。あいつがテレビに入ったきっかけは、「楽して金もうけて、ちやほやされて、アイドルと結婚したい」。これには確固たるものがある。一切ブレない。最近ヘイポーが「俺2~3日前に気づいたんだけど……アイドルとは結婚できねぇんだよ」って。それに60になって気づくとは(笑)。
――それが真剣だから面白いんですよね。
菅 そう。僕たちは、ふざけたことを考えたりトークしたりするわけでしょ。それは真剣にやらないとつまらない。昔アイドルだったタレントさんが離婚したとしますよね。誰かが「○○さん離婚したんだってね~」って言ったら、それはもうフリ。飲みながら「どうする、お前?」「どうするって……まずは、かみさんに事情話して離婚しなきゃいけないし」っていうのを、本当アホみたいに真剣にしゃべるんです。「そんなことあるわけないじゃん」なんて言ったら身もふたもない。真剣にしゃべってるからこそ、「お前んとこの夫婦関係って、実はそうだったの?」とかバレたり、面白い。
――すごい会話(笑)。
菅 テーマは、なんでもいいんですよ。その当事者に自分がなる。自分が身ギレイになったらアイドルと結婚できる、という大前提でしゃべる。そうするとね、自分でもびっくりするようなフレーズが、自分の口から出てきたりするんです。「あ、俺こんなこと考えてたんだな」っていう、そういう発見も楽しい。
――それが、今まで見たことのない企画につながったりすると。
菅 番組も、特にお笑い番組なら、真剣にふざけることが大事です。そこをチャラくふざけちゃうと、方向性を見失う。
――この本の中でも「昔は視聴者がちゃんとテレビを見下してくれていた」と書かれていて、だからこそ制作側も真剣にふざけることができたのだと思いますが、菅さんは現在のテレビバラエティはどういう状況に置かれていると思いますか?
菅 「視聴者って、今こういうのが好きなんだよね」というような思い上がりも甚だしい、お前に視聴者の何が分かるんだ、みたいな作り方を続けていくと視聴者に舐められますよね。視聴者ってそんなにバカじゃないから、「こういうの好きでしょ?」ってやられると、「うるせえよ」「お前ごときに決められたくないよ」ってなっちゃう。かつては「見下してくれていた」からこそ、腹くくっていろいろなことができたんです。今は何やってもごちゃごちゃ言われます。だけど、そこにすり寄っていっても、何も新しいものは生まれないんじゃないですか? 僕は、テレビという媒体がぶっちぎりでナンバーワンだという事実は、今もこれから先も変わらないと思う。一度に1000万人以上の人が見る媒体なんて、ほかにない。ただ、テレビのすごさは箱としては変わらないけど、内容をいかにその箱に見合ったものにしていくかですよね。今そのソフトがつまらないって言われてるわけだから。そういう責任は、僕を含めて全テレビ屋にあると思う。
――フリーになり、たとえばBeeTVのような新しい媒体でも仕事をされるようになって、テレビはどういう方向に進んでいると感じていますか?
菅 今後はスマートテレビが主流になるんじゃないですか。これからは、チャンネルを自分で選ぶ時代になると思います。僕もひかりTVに入ってますけど、やっぱり見ちゃいますもん。民放とか地上波とか見なくなってるもんな……これはいかんなと思いますが(笑)。別に、スマートテレビがバカみたいに面白いわけじゃないんですよ。ただ、地上波ではできないようなことをやってるなとは思う。BeeTVをやりたかったのは、そういう理由もあります。太田君(爆笑問題)と上田君(くりぃむしちゅー)の二人っきりで番組やるとか(『太田と上田』)、関根さん親子もそれまで二人で出ることはなかった(『発掘!ブレイクネタ 芸人!芸人!!芸人!!!』)から、そういうのがやれるっていうのはBeeTVならではかもしれない。
――テレビがそうやってどんどん自由になっていく中で、かえって視聴者、特に若者たちのエネルギーが一つに集中しにくくなっている側面もあるのかなと思います。菅さんも本の終盤に「若者は健全に世間を恨むべき」ということを書かれていましたが、「健全に世間を恨む」とは具体的にどういうことでしょうか?
菅 もちろん法に触れるようなことではなくて、ある程度世間には恨みを持っていたほうがいいと思います。「俺が今パッとしないのは世間のせいだ。よし、見返してやろう」って、それがモチベーションになればいい。もともとテレビって、そうだったんですよ。映画会社受けて落ちた人たちが来たり、ミュージシャン崩れの人がいたり。逆さ言葉なんて、ミュージシャン用語ですからね。そういう吹きだまりの中で世間に対してすねているところが、テレビのエネルギーだったんですよ。何かを恨んでないと、面白いものは作れないと思うんですよ。
――今の若者も十分厳しい状態に置かれていると思いますが、世間を恨む前に、そういうもんだとあきらめてしまうような気がします。もっと恨んでいいんですね。
菅 健康的に恨めばいいんです。ソーシャルメディアの悪いところって、とりあえず発信はできるじゃないですか。言いたいことは言える。それは別に誰に対して言っているわけじゃないし、その発言に対して責任を求められることもない。でもテレビっていうのは、クレジットが流れる以上、自己責任です。変なことしたら、あっという間に干されますし。だからこそ、みんな腹くくって作ってます。チマチマ隠れながら自分の意見を言うなら、自分の職業において発信してほしい。世間に対する恨みのエネルギーを、そっちに使ってほしいと思うんです。“当事者”として。
――外野からのヤジだけでなく、視聴者ももっと“当事者”として積極的にテレビに関われれば、もっとテレビを楽しめるようになれるのかもしれません。
菅 今テレビがごちゃごちゃ言われる最大の理由は、視聴者とルールの“握り”ができてないことなんですよ。「この番組の楽しみ方はこう」っていうのを視聴者と握ってないから、トラブルになる。『絶対に笑ってはいけない』なんて、一件もクレーム来ないですよ。なんなら「ダウンタウンももう年なので、今年からあまりひっぱたかないようにします」ってするほうが、クレームが来るでしょう。一番エラいダウンタウンが一番ひっぱたかれてるから成立してるんです。だから、いじめに見えるわけがない。50過ぎて、昔だったら大師匠って言われる人たちが、アザできるほどひっぱたかれるわけでしょう。そりゃ痛快ですよ。ヒット番組、長寿番組は、ちゃんと視聴者と握れている。“握り”ができれば、番組は勝手に成長してくれます。
――過去のヒット作の焼き直しに頼るなど、いろいろと苦戦を強いられているフジテレビは、そうした視聴者との“握り”が弱くなっていると考えられますか?
菅 たとえば“焼き直し”に関していうと、視聴率が悪くなって終わった番組を焼き直しして一体誰が見るんですか? っていうことです。テレビも60年以上やっていて、オリジナルが難しくなってはきてると思いますけど、でも新しいものは絶対にあるはず。とにかくバラエティは、やっぱりフジテレビがナンバーワンなんですよ。そしてナンバーワンでなきゃいけないんです。テレビがシャッター通りにならないためにも。
(取材・文=西澤千央)