
大阪・福岡・東京と弾丸ツアーを敢行したダグ・ライマン監督(画面左)、トム・クルーズ、プロデューサーのアーウィン・ストフ。「最高の映画をつくろう」が合い言葉だった。
桜坂洋原作、トム・クルーズ主演のSF超大作『オール・ユー・ニード・イズ・キル』が7月4日(金)の日本公開を前に、世界興収が2億4,000万ドルを越える好調ぶりを見せている。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の面白さをごく簡単に説明するなら、スピルバーグ監督の戦争大作『プライベート・ライアン』(98)をSFに置き換えたような壮絶な戦闘シーンと、タイムループものの傑作『時をかける少女』を思わせる切ないラブロマンスが掛け合わされているということ。いわば、日本のポップカルチャー的要素とハリウッドスタイルが融合した、新感覚のSFアクション映画なのだ。ギタイと呼ばれる異星人に侵略されている近未来の地球が舞台。熾烈さを極める戦場でタイムループ能力を身に付けた兵士が何度も何度も殺されながら、ヒロインとの出会いと別れを繰り返すというシュールかつブラックユーモアに溢れた作品となっている。
殺されまくる主人公・ケイジを演じたトム・クルーズのへたれ具合、エミリー・ブラントの颯爽とした女戦士ぶり、パワードスーツ(強化スーツ)のリアリティーに目が奪われる本作だが、メガホンをとったダグ・ライマン監督もハリウッドで注目の存在だ。わずか2万ドルの予算で取り上げたコメディ映画『スウィンガーズ』(96)やケイティ・ホームズ主演の『go』(99)などのインディペンデント作品を足がかりに、マット・デイモン主演の『ボーン・アイデンティティー』(02)の成功で一躍ハリウッドのヒットメーカーに。『Mr.&Mrs.スミス』(05)などのアクションコメディを大ヒットさせる一方、イラク戦争をめぐるブッシュ政権の陰謀を告発した実録サスペンス『フェア・ゲーム』(10)といった骨太な作品も手掛けている。ハリウッドの王道を歩みながらも、どこかインディペンデント臭を感じさせるクリエイターなのだ。ダグ・ライマン監督にハリウッドで成功する秘訣を聞いてみた。
──『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の製作費は1億7,800万ドルだそうですね。2万ドルの予算で『スウィンガー』を撮っていた頃は、自分が将来トム・クルーズ主演のSF超大作を撮ることを想像していました?
ダグ そうだね、確かに『オール・ユー・ニード・イズ・キル』はかつての自分には想像もできないような予算を投じているよね(笑)。でも僕は子どもの頃から、ちょっと知的で、かつキャラクターが物語を動かすアクションものを撮りたいとずっと思っていたんだ。それに近未来の戦争を描いた大作映画ではあるけれど、実はとてもパーソナルな物語、たったひとりの人物を描いた作品でもあるんだ。『スウィンガーズ』以来、主演俳優といちばん親密に作品内容やキャラクターについて語り合った作品でもあるんだ。トム・クルーズは大スターだけれども、脚本づくりから美術デザインの打ち合わせまで全部参加して、いろんなアイデアを出してくれた。「今までなかった最高の映画をつくるにはどうすればいいか」を、トムと常に話し合って完成させた作品なんだ。

異星人と繰り広げられる過酷な戦場に放り込まれたケイジ(トム・クルーズ)。強化スーツを使いこなす余裕もなく瞬殺されてしまう。
──ハリウッド超大作だけど、インディペンデント精神が込められているということですね。
ダグ そういうことだね。トムは僕とは違う世界の住人だと思っていたんだけど、今回はいい作品をつくるためにお互いをリスペクトし合うことで、素晴しいコラボレーションになったと思うよ。今回、トムからはいろいろと学んだ。彼は脚本づくりの段階から、「このシーンのこの台詞は、日本語字幕になったときどうなる?」なんて尋ねてくるんだ。翻訳されることでユーモア感覚がうまく伝わるのか、字幕に目がいって大事な瞬間を見逃さないかといった細部まで、彼はすごく気を配っていたんだ。僕も映画を撮っている際に「僕の友人はこのシーンを観てどう思うかな?」とよく考えるけど、僕の頭に浮かんでいる友人の数は10人程度。その10人を楽しませるために、僕は映画をこれまで作ってきたわけなんだ(笑)。でもトムは違った。トムは1億人以上いる日本人のことを常に意識しながら映画を作っていたんだ。これは僕にはまったくなかった発想。彼との共同作業は大変な刺激になったよ。
■メジャースタジオの上から目線な態度はスルーせよ
──トム・クルーズがメジャー中のメジャーである理由を、間近で知ったわけですね。インディペンデント出身監督の多くはメジャーシーンで自分らしさを失いがちですが、ダグ・ライマン監督は『ボーン・アイデンティティー』を大ヒットさせて以降、確固たる道を歩んでいる。ダグ監督がハリウッドでサバイバルできている秘訣を教えてください。
ダグ ハリウッドで生き残る秘訣……、僕の場合で言えば「メジャースタジオを恐れない」ということかな。僕は『スウィンガーズ』みたいな変わったインディペンデント映画を撮るのが本当に大好きなんだ。だから、メジャースタジオが「あーだこーだ」と口を挟んでくることを気にしない。メジャースタジオの上から目線な態度は、いつもスルーしているよ(笑)。そんなの物づくりの現場には必要ないからね。僕はメジャースタジオを恐れない。だから、彼らは僕をコントロールできないってわけさ(笑)。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は僕がこれまでやったこともないような超大作だけれども、『スウィンガーズ』を撮っていた頃と同じような情熱とディテールへのこだわりをとても大事にした作品だよ。
──出資者の顔色をうかがっていては、面白い作品は作れないということですね?
ダグ メジャーのスタジオシステムに呑み込まれるな、ということだね。彼らは「オリジナリティーの強い作品を愛している」と言う一方で、オリジナリティーの強すぎる企画を恐れているんだ。だから本当にオリジナリティーのある作品をハリウッドで作ろうとするなら、メジャースタジオを恐れることのない監督を起用せよってことだよね。今回はワーナー・ブラザーズ作品になるわけだけど、メジャースタジオの中にあって、ワーナーは数多くのインディペンデント系の映画監督たちを起用してきたと思うよ。アルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』(13)や、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』(08)や『インセプション』(10)もワーナー作品だしね。

いつものように撮影現場でカメラを回すダグ・ライマン監督。メジャー大作でも、気分はインディペンデント監督なのだ。
──『ゴジラ』など過去のヒット作のリメイクやアメコミの映画化などが最近のハリウッドでは顕著ですが、オリジナリティーのある企画があまりに少ないんじゃないですか?
ダグ 知名度のあるリメイクものや人気アメコミの映画化は、実際問題としてお客さんが入っているからね。お客さんが集まる企画を映画にするというのはメジャースタジオの昔からの変わらないスタンスだよ。でも、確かにもっともっと新鮮みのあるオリジナル作品に挑むべきだろうね。
■映画はセカンドチャンスが許される夢の世界
──今回の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は日本のライトノベルが原作。パワードスーツもいっぱい出てきます。トム・クルーズは大の親日家で有名ですが、ダグ監督の目には日本のポップカルチャーはどのように映っているんですか?
ダグ 日本のポップカルチャーは僕も大好きだよ。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のようなユニークな物語がいっぱいあると感じている。アニメ版『時をかける少女』(06)もそのひとつだよね。今回は『時をかける少女』をはじめ、日本のポップカルチャーの影響をかなり強く受けながら作ったんだ。それに日本のSFファンが、ハリウッド映画にはパワードスーツが活躍する実写作品があまりないことを不満に思っていることも充分理解しているつもりだよ(笑)。だから今回の作品は、日本のポップカルチャーと共に育った日本の若者たちがハリウッドに望んでいるものを映画にしたんだ。
──タイムループしている限りは主人公のケイジは何度でも生き返り、またヒロインに逢うことができる。でも、ケイジは最終的にはタイムループの輪から脱することを決意する。これは「慣れ親しんだ現状と決別し、新しい環境に挑もう」というダグ監督からのメッセージが込められている?
ダグ そうだね。原作は桜坂洋さんが書いたものだけれども、これは僕自身のとてもパーソナルな物語でもあるんだ。もちろん、僕にはケイジみたいなタイムループする特殊能力はない。けれども、一度撮影したシーンが気に入らなければ、気に入るテイクが撮れるまで何度も繰り返す。それでも、まだ気に入らなければ編集段階で手を加える。そうやって、自分が納得できる作品を作り上げていくことができる。いわば、映画の世界はセカンドチャンスが許される夢の世界なんだ。まぁ、それは作品の世界の中だけであって、撮影所を出ていけば実際の人生は一回限りであることを思い知るわけなんだけどね(笑)。でも、新しい作品に取り掛かる度に「今までにない最高の作品にしよう」と思っている。そんな僕自身の姿が投影されていると思うよ。
──最後にもうひとつ。エミリー・ブラントが基地内で汗だくになってプッシュアップしている姿がめちゃめちゃ印象に残ります。あの姿はダグ監督の会心のショットではないでしょうか?
ダグ 僕は強くて美しい女性が大好き(笑)。そんな僕のこだわりが出ているショットだね。実は、あのシーンは最初からあったものじゃなかった。撮影していたロンドンで、みんなと一緒に和食レストランで食事をしたんだ。そのとき、たまたまヨガの話題になったんだけど、エミリーはレストランの中で突然ヨガのポーズを実演し始めたんだ(笑)。エミリーはヨガに精通していて、びっくりするようなヨガのポーズをいろいろと披露してくれた。とても優雅でパワーが漲ったポージングだったんだ。その姿は、すごくオリエンタル風だったし、日本の文化に通じるものを感じたんだ。それで彼女がプッシュアップしているポージングを劇中にも取り入れたというわけさ。ストーリー以外にも様々なジャパニーズテイストを散りばめているから、そこらへんもじっくり楽しんでほしいな。

戦場で目覚ましい活躍を見せるリタ(エミリー・ブラント)。なぜか、彼女だけはケイジにタイムループ能力があることを見抜いていた。
──これからもインディペンデント精神溢れる作品をつくり続けてください。
ダグ もちろん、そのつもりさ。ハリウッドに居座って、これまでなかったようなユニークな作品をつくり続けていくつもりだよ(笑)。
(取材・構成=長野辰次)
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』
原作/桜坂洋 監督/ダグ・ライマン 出演/トム・クルーズ、エミリー・ブラント、ビル・パクストン、ブレンダン・グリーソン、ジョナス・アームストロング、トニー・ウェイ、キック・ガリー、フランツ・ドラメー、ドランゴミール・ムルジッチ、シャーロット・ライリー 配給/ワーナー・ブラザーズ映画 7月4日(金)より全国ロードショー
http://wwws.warnerbros.co.jp/edgeoftomorrow
●ダグ・ライマン
1965年米国NY出身。『アイアンマン』シリーズや『アベンジャーズ』の製作総指揮で知られるジョン・ファブローが主演した『スウィンガーズ』(96)でのコメディセンスが高く評価された。ケイティ・ホームズ主演の『go』(99)を経て、製作総指揮も兼任した『ボーン・アイデンティティー』(02)が大ヒット。ブラット・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが共演した『Mr.&Mrs.スミス』(05)、ヘイデン・クリステン主演の『ジャンパー』(08)なども手掛けた。ナオミ・ワッツ主演の『フェア・ゲーム』(10)は、ブッシュ政権が「フセイン政権は大量破壊兵器を保有している」とイラク戦争を正当化したのは情報操作であることを告発した実録サスペンスで、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞で「表現の自由賞」を受賞している。