
田舎で暮らすパーカー家に伝わる“伝統料理”を題材にしたR18映画『肉』。みんなが同じ料理を食することで、家族の絆を固めている。
降雨のシーンは映画の中で“浄化”を意味する。米国・ニューヨーク州郊外にある小さな田舎町を舞台にしたR18映画『肉』は、冒頭で延々と雨が降り続ける。よほど浄化されなくてはならない深い罪がこの町には隠されているらしい。この町では昔から行方不明者が後を絶たない。残された家族の悲しみが豪雨となって降り続けているかのようだ。氾濫した川は土砂を押し流し、深く埋められていた白骨死体が発見される。死体を調べてみると、人為的に解体され、しかも茹でられていることが分かった。静かなこの町には食人鬼がいる……! そして、この町は身を潜めて暮らす食人鬼にとって格好の狩猟場だったのだ。
子どもの頃に昔話『かちかち山』を読んで、おじいさんが“ばばぁ汁”を「おいしい、おいしい」と飲むくだりに衝撃を受けた人は少なくないだろう。楳図かずおの人気コミック『漂流教室』でクラス委員の大友くんが死んだ仲間を丸焼きにして食べるシーンはトラウマ級のインパクトがあった。人間が人間を食べる“カニバリズム”は、現代人が最も忌み嫌うタブー中のタブーだ。それゆえ、文学や映画の題材としてたびたび取り上げられてきた。武田泰淳原作の『ひかりごけ』(92)やイーサン・ホーク主演作『生きてこそ』(93)は実在の事件を再現し、人間の脳みそをソテーする『ハンニバル』(01)は大ヒットした。それこそホラー映画には多数の食人鬼が登場してきたが、トランスフォーマー配給の『肉』(原題『We Are What We Are』)が興味深いのは、カニバリズムを土着信仰や食文化の側面からアプローチしている点にある。

母親が亡くなり、パーカー家の伝統行事を受け継ぐことになったアイリスとローズ。幼い頃は当たり前だと思っていた習慣が姉妹を苦しめる。
降り続ける豪雨の中、昔ながらの質素で慎ましい生活を送っているパーカー家のエマ夫人が不意に亡くなる。地元の医師は亡くなる直前のエマの手足がパーキンソン病の患者のように震えていたこと、またエマの死体を検死したところ、脳が部分的に萎縮していたことを知る。ニューギニアの奥地で暮らす食人族が狂牛病によく似た症状を患っていたのによく似ている。一体、パーカー家の人々はどんな食生活を送っているのだろうか。
母親のエマを失い、パーカー家の子どもたちは動揺していた。パーカー家では毎年この時期に断食を行ない、断食明けには家族そろって晩餐を囲むことになっている。晩餐用の料理は、これまでずっとエマが用意してきた。厳格な父親フランク(ビル・セイジ)は、うら若い美人姉妹アイリス(アンビル・チルダース)とローズ(ジュリア・ガーナー)に、エマに代わって晩餐の準備をするように命じる。地下室に繋がれた“生け贄”を屠殺し、食肉として調理しなくてはならないという、少女たちにとっては過酷すぎるパーカー家の伝統儀式だった。
パーカー家の人々が人肉を食するようになったのは、アメリカが独立して間もない18世紀後半にまで遡る。新大陸に移り住んだものの、未開の土地でパーカー家の先祖たちは食べる物に困り、餓死寸前だった。森へ出掛けた叔父が戻らず、そして体が衰弱していた母も姿を消した。代わりに新鮮な肉がそこには残されていた。こうしてパーカー家は苦難の時代を生き延び、その後は身内以外から生け贄を探し出して現在に至っている。パーカー家にとって食人行為は、一族の繁栄と家族の絆を確かめ合う大切な儀式だったのだ。父親に逆らうこともできず、まだ幼い弟もいるため家から逃げ出すこともできず、アイリスとローズは初代パーカーが書き残した秘伝のレシピを参考に人肉料理に取り掛かる。

次女ローズを演じたジュリア・ガーナー。「ホラー映画は苦手だけど、この作品はシリアスな家族の繋がりを描いたユニークな作品」と語る。
過酷すぎる宿命を背負ったパーカー家の長女アイリスを熱演したのは、『ザ・マスター』(12)で新興宗教の教祖一家の娘役を演じたアンビル・チルダーズ。アンビルは「モルモン教の家庭で育ち、子どもの頃の境遇によく似ていたわ。とても厳しい家で、家族の団結は強かったけれど、友達はできなかった」と自身の少女時代を振り返っている。次女ローズを演じたのは、カルト集団による洗脳の恐怖を描いた『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(11)で女優デビューを果たしたジュリア・ガーナー。青白い顔が『ビートルジュース』(88)の頃のウィノナ・ライダー、『アダムス・ファミリー』(91)のクリスチーナ・リッチーを彷彿させる美少女だ。本作への出演を「チャレンジが好きだし、こういう変わった役をやるのは刺激的だった。怖いといえば、すべて怖かった(笑)。でもある意味、そのためにこの仕事を選んだようなものだから。怖いと思うからこそ、エキサイトしてチャレンジしたくなるのよ」と話す。これからの飛躍が期待できそうな逸材である。近代文明を拒絶した生活を送るアーミッシュを世間に知らしめた『刑事ジョン・ブック 目撃者』(85)のケリー・マクギリスが隣人役なのも興味深い。
厳粛なる儀式としてのカニバリズムを描いた本作を観ていると、キリスト教における“聖体拝領”を思い浮かべずにはいられない。カトリック信者たちが分かち合うパンはイエス・キリストの肉を、ワインはキリストの血を意味している。愛する者と一心同体化したいという願いがそこには込められている。アイリスとローズもまた、家を出ていく前に最後の晩餐を開くことを決意する。最後の晩餐の席で注がれるワインは、かつてなく濃厚で生温かい。生きていく覚悟と狂気が隠し味となったパーカー家最高のディナーが始まろうとしていた。
(文=長野辰次)
『肉』
脚本/ニック・ダミチ、ジム・ミックル 監督/ジム・ミックル 出演/ビル・セイジ、アンビル・チルダーズ、ジュリア・ガーナー、ジャック・ゴア、ケリー・マクギリス
配給/トランスフォーマー R18+ 5月10日(土)より新宿武蔵野館にてレイトショーほか全国順次公開 ※新宿武蔵野館では手軽に楽しめる「肉食割引」「超人割引」を実施!
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